「体制図だけ」のSaaS営業組織が機能しない理由
SaaS営業組織は、The Model型の分業体制だけでなく、MA/SFA連携によるリード引き渡しルールとKPI連動の仕組みまで設計することで、部門間連携が機能し成果につながります——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
The Model型営業組織とは、SaaS企業で採用されるデータ駆動型・反復改善型の営業モデルです。マーケ・IS・FS・CSの分業体制とKPI管理が特徴ですが、多くの企業が「体制図」を参考に組織を作っただけで、部門間連携がうまくいかない課題を抱えています。
日本SaaS市場は成長を続けています。Research Nesterの報告によると、日本SaaS市場規模は2025年に122億米ドル、2026年に138億米ドル、2035年には381億米ドルに達し、2026年から2035年のCAGR(年平均成長率)は13.5%と予測されています。この成長市場で成果を出すには、単なる組織図の整備ではなく、データ連携まで含めた設計が求められます。
この記事で分かること
- SaaS営業組織の基本構造とThe Model型の特徴
- マーケ・IS・FS・CSの役割分担とKPI設計
- 部門間連携を機能させるSLAと引き渡しルールの設計方法
- MA/SFA連携によるファネル全体の可視化と改善サイクル
- 企業規模・フェーズに応じた組織設計のポイント
SaaS営業組織の基本構造とThe Model型の特徴
SaaS営業組織の成功には、分業体制と各部門の連携設計が不可欠です。
高成長SaaS企業(2024年)の機能別配分を見ると、セールスが55%、ポストセールス(CS)が23%を占めています。ポストセールスとは、成約後の顧客対応を担う部門で、カスタマーサクセス(CS)やサポートを含み、解約防止・拡大に貢献します。
一方、日本企業のマーケティング組織は発展途上の段階にあります。HubSpotの調査によると、日本のマーケティング部門設置率は11.7%、CMO設置率は8-11%と報告されています(ただし、サンプル調査ベースのため全体傾向を示すものではありません)。SaaS企業においても、マーケティング機能の強化が課題となっているケースが多いといえます。
ARR(Annual Recurring Revenue) は、年次経常収益を意味し、MRR×12で算出されます。サブスクリプション型ビジネスの成長指標として重視され、SaaS営業組織のKPI設計においても中心的な役割を果たします。
マーケ・IS・FS・CSの役割分担
The Model型営業組織では、マーケティング(マーケ)、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)の4部門が分業して連携します。
MQL/SQLは、部門間のリード引き渡し基準として活用される指標です。MQL(Marketing Qualified Lead) はマーケ基準を通過したリード、SQL(Sales Qualified Lead) は営業基準を通過したリードを指します。
各部門の役割は以下のとおりです。
- マーケティング: リード獲得・育成を担当。Webコンテンツ、広告、セミナー等を通じてMQLを創出
- インサイドセールス: 電話・メール等でMQLを精査し、商談化可能なSQLへ昇格させる
- フィールドセールス: 商談・提案・クロージングを担当し、受注を獲得
- カスタマーサクセス: 成約後の顧客支援、オンボーディング、解約防止、アップセルを担当
部門間連携を機能させるKPI設計と引き渡しルール
部門間連携を機能させるには、各部門のKPIを明確にし、SLAで引き渡しルールを設計することが重要です。
The Model型の「体制図」を参考に組織を作るが、MA/SFAによるデータ連携やリード引き渡しルールを設計しないまま運用を始めると、「リードの質が悪い」「営業がフォローしない」という責任の押し付け合いが発生します。この考え方は誤りであり、避けるべき失敗パターンです。
SLA(Service Level Agreement) とは、部門間のリード引き渡し基準や対応期限を合意した取り決めです。マーケ・営業連携の要となり、責任範囲を明確にすることで、部門間の衝突を防ぎます。
【比較表】SaaS営業組織 役割・KPI対応表
| 部門 | 主な役割 | 代表的なKPI | MA/SFAでの管理ポイント |
|---|---|---|---|
| マーケティング | リード獲得・育成 | MQL数、CPA、CVR | MAでスコアリング、ナーチャリング管理 |
| インサイドセールス | リード精査・商談化 | 架電数、アポ獲得率、SQL数 | SFAでコール履歴・次回アクション管理 |
| フィールドセールス | 商談・受注獲得 | 商談数、成約率、受注金額 | SFAでパイプライン・商談進捗管理 |
| カスタマーサクセス | 継続支援・拡大 | 解約率、NPS、アップセル率 | SFAで顧客利用状況・更新タイミング管理 |
MQL/SQLの定義とSLA設計のポイント
リード引き渡しを円滑に機能させるには、MQL/SAL/SQL/受注の定義を部門間で統一することが重要です。
SLA設計のポイントは以下のとおりです。
- MQLの定義を明確化: どの条件を満たしたリードをMQLとするか(スコア閾値、行動条件等)
- SQLへの昇格基準: BANT(予算・決裁権・ニーズ・導入時期)等の基準を設定
- 対応期限の設定: MQL引き渡し後、何時間以内にISがコールするか等を明文化
- フィードバックループ: SQLが不適切だった場合の差し戻しルールを設計
MA/SFA連携によるデータ運用と成果計測
MA/SFA連携により、ファネル全体を可視化し、部門横断でPDCAを回すことが可能になります。
国内SaaS企業の成功事例を見ると、ラクスは2024年度売上高489億4,000万円、ARR 434億6,800万円(2025年3月)、成長率27.33%で国内SaaS売上1位を達成しています。また、Sansanは2024年度売上高432億2,000万円、ARR 332億7,000万円、成長率27%超で国内SaaS売上2位です。これらの高成長SaaS企業は、データドリブンな営業組織運営を実践しています。
MA/SFA未連携の状態では、MQL→SQL転換率の正確な計測が不可能になり、マーケ施策の貢献度が不明瞭になるリスクがあります。
ファネル全体のKPI連動と改善サイクル
部門横断でPDCAを回すためには、MQL→SQL転換率を一気通貫で計測することが重要です。
改善サイクルの具体的な進め方は以下のとおりです。
- データ統合: MA/SFAを連携し、リードのファネル進捗を一元管理
- KPI計測: 各ステージの転換率(MQL→SQL、SQL→商談、商談→受注)を計測
- ボトルネック特定: 転換率が低いステージを特定し、原因を分析
- 施策実行: 改善施策を実行し、効果を検証
- フィードバック: 結果を部門間で共有し、次のサイクルに反映
SaaS営業組織の立ち上げ・拡大期の体制設計
企業規模・フェーズに応じて、最適な組織設計は異なります。
前述のとおり、高成長SaaS企業(2024年)の機能別配分はセールス55%、ポストセールス(CS)23%が目安となります。ただし、立ち上げ期と拡大期では、優先すべき体制が異なります。
【チェックリスト】SaaS営業組織設計チェックリスト
- The Model型の4部門(マーケ・IS・FS・CS)の役割を定義している
- 各部門のKPIを設定している
- MQLの定義と基準を明文化している
- SQLの定義と基準を明文化している
- MQL→SQLの引き渡しSLAを設計している
- SQL→商談の引き渡しSLAを設計している
- MA/SFAの連携設計を完了している
- リードのスコアリング基準を設定している
- ファネル全体の転換率を計測できる環境がある
- 部門間の定例ミーティング(週次推奨)を設定している
- リードのフィードバックループを設計している
- ARR目標と各部門KPIの連動を設計している
- CSの解約防止KPIを設定している
- アップセル・クロスセルのKPIを設定している
- 組織拡大のロードマップを策定している
段階的な組織拡大のロードマップ
立ち上げ期から成長期への組織拡大は、段階的に進めることが推奨されます。
企業規模によって最適な体制は異なりますが、一般的な進め方は以下のとおりです。
- 立ち上げ期(〜50名規模): 少人数で複数役割を兼務。マーケとISを兼任、FSとCSを兼任するケースも多い
- 成長期(50〜200名規模): 各部門の専任化を進める。特にISとCSの専任配置が成長のドライバーになる
- 拡大期(200名〜): 各部門のマネージャー配置、チーム分割(業界別・規模別等)を進める
まとめ:成果につながるSaaS営業組織の設計ポイント
本記事では、SaaS営業組織の設計において押さえるべきポイントを解説しました。
要点のまとめ
- The Model型営業組織は、マーケ・IS・FS・CSの分業体制とKPI管理が特徴
- 高成長SaaS企業の機能別配分はセールス55%、ポストセールス(CS)23%が目安
- 部門間連携を機能させるには、SLAでMQL/SQLの定義と引き渡しルールを明文化する
- MA/SFA連携により、ファネル全体の転換率を計測しPDCAを回す
- 企業規模・フェーズに応じて、段階的に組織を拡大する
本記事のチェックリストを活用し、自社のSaaS営業組織の現状を診断してください。不足している項目があれば、優先順位をつけて整備することで、部門間連携が機能する組織づくりを進められます。
SaaS営業組織は、The Model型の分業体制だけでなく、MA/SFA連携によるリード引き渡しルールとKPI連動の仕組みまで設計することで、部門間連携が機能し成果につながります。体制図の整備で終わらせず、データ連携まで含めた設計を進めてください。
