新規顧客が定着せずに解約してしまう...オンボーディングの課題
B2B SaaS企業を運営していると、「せっかく契約してくれた顧客が、数ヶ月で解約してしまう」「初期段階でサービスを使いこなせず、定着しない」といった課題に直面することがあります。
サブスクリプション型のSaaSビジネスでは、契約後の初期段階で顧客がサービスを使いこなせるかどうかが、継続率に大きく影響します。そこで重要になるのが「オンボーディング」です。
オンボーディングとは、サービス利用開始後、ユーザーが早く機能や使い方に慣れるためにサポートするプロセスです。適切なオンボーディングを実施することで、初期解約を防ぎ、LTV(顧客生涯価値)を最大化できます。
この記事では、カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの重要性と、具体的なプロセス設計(ゴール設定、マイルストーン、タッチポイント等)、成功指標、タッチモデル別の戦略、ツール活用について解説します。
この記事のポイント:
- オンボーディング未完了のユーザーはサービス定着の見込みが低く、初期解約リスクが高い
- オンボーディングのKPIは「解約率」「アップセル/クロスセル率」「オンボーディング完了率」が重要
- タッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)を顧客セグメントに応じて使い分けることが効率的
- オンボーディングツールは4タイプあり、自社の課題に合わせて選定することが重要
- 適切なオンボーディングにより顧客満足度向上と解約率低減という直接的な効果が得られる
カスタマーサクセスでオンボーディングが重要な理由
(1) サブスクリプション型SaaSにおける初期解約リスク
SaaSビジネスでは、月額・年額のサブスクリプションモデルが主流です。顧客は必要な時に必要なだけサービスを利用し、不要になればいつでも解約できます。
そのため、契約直後の初期段階で顧客がサービスを使いこなせるかどうかが、継続率に大きく影響します。サービス購入後、顧客が早くサービスを使いこなせるようになるためにサポートする取り組みが、オンボーディングです。
サブスクリプション型SaaSでは、継続利用を促進するオンボーディングが特に重要になります。
(2) オンボーディング未完了がもたらす影響
オンボーディング未完了のユーザーは、サービス定着の見込みが低いというデータがあります(Ninout調査)。顧客の熱量が高いうちに迅速な導入支援を行わないと、以下のような問題が発生します。
オンボーディング未実施のリスク:
- 顧客がサービスの使い方を理解できず、利用頻度が低下
- 初期段階で「使いにくい」「効果が出ない」と判断され、早期解約
- サポート問い合わせが増加し、CS担当者の負担が増大
- 顧客満足度が低下し、ネガティブな口コミが拡散
これらのリスクを回避するため、導入直後から円滑に利用できるようサポートすることが必要です。
(3) LTV最大化への道筋(リテンション向上・チャーン防止)
オンボーディングは、リテンション(顧客維持)向上、解約率低減を目指し、最終的にLTV(Life Time Value / 顧客生涯価値)を最大化することが目的です(CXin調査)。
オンボーディングによる効果:
- 初期定着率が向上し、継続利用が促進される
- 顧客がサービスの価値を早期に実感し、満足度が向上
- 解約率(チャーン)が低下し、長期的な収益が安定
- 顧客ロイヤルティが向上し、アップセル・クロスセルの機会が増加
適切なオンボーディング実施により、顧客満足度向上と初期段階の解約率低減という直接的な効果が得られます(SALES ROBOTICS調査)。
オンボーディングの基礎知識
(1) オンボーディングとは(定義と目的)
オンボーディングとは、サービス・商品を利用し始めたユーザーに対して、いち早く使い方や機能に慣れてもらうためにサポートするプロセスです(Fullstar調査)。
新規ユーザーが自立してサービスを活用できる状態に導くことが目標であり、長期的な顧客関係構築の基盤となります。
オンボーディングの目的:
- 顧客が早期にサービスを使いこなせるよう支援
- 初期段階での解約を防ぎ、継続利用を促進
- 顧客の成功体験を創出し、満足度を向上
- LTVを最大化し、長期的な収益を安定化
(2) オンボーディングの範囲(導入支援から自立まで)
オンボーディングは、契約直後の初期設定から、顧客が自立してサービスを活用できる状態になるまでの一連のプロセスを指します。
オンボーディングの主なステップ:
- 初期設定支援: アカウント作成、初期設定、データ連携等のサポート
- 機能紹介・トレーニング: サービスの主要機能の使い方をレクチャー
- マイルストーン達成支援: 初回の成功体験(例: 初めてのレポート作成、初回の自動化設定)を支援
- 定期的なフォローアップ: 利用状況を確認し、課題があれば解決策を提案
- 自立確認: 顧客が独力でサービスを活用できる状態になったことを確認
このプロセスを通じて、顧客が「このサービスは自分の課題を解決してくれる」と実感できるよう導きます。
(3) 主要KPI(解約率、アップセル/クロスセル率、完了率)
オンボーディングの成果を測定するための主要KPIは以下の通りです(Fullstar調査)。
主要KPI:
- 解約率(チャーン): オンボーディング完了顧客と未完了顧客の解約率を比較
- アップセル/クロスセル率: オンボーディング完了後の上位プラン移行率・関連サービス購入率
- オンボーディング完了率: オンボーディングプロセスを完了したユーザーの割合
これらのKPIを定期的にモニタリングし、導入前後で比較することで、オンボーディングの効果を定量的に評価できます。
オンボーディングプロセスの設計と実施手順
(1) ゴール設定(顧客の成功定義を明確化)
オンボーディングを設計する際、まず「顧客の成功」を明確に定義することが重要です。
成功定義の例:
- MAツールの場合: 初回のメール配信キャンペーンを実施し、リードを獲得できた状態
- SFA/CRMツールの場合: 営業担当者が案件管理を開始し、初回の商談登録が完了した状態
- プロジェクト管理ツールの場合: チーム全員がタスクを登録し、進捗管理を開始した状態
顧客の業種・規模・課題に応じて、最適な成功定義を設定します。
(2) スケジュール作成(マイルストーンとタッチポイント)
オンボーディングのスケジュールは、顧客が無理なく進められるよう、適切なマイルストーン(中間目標)とタッチポイント(接点)を設定します。
スケジュール例(30日間オンボーディング):
- 1日目: 初回ログイン、アカウント設定完了
- 3日目: 主要機能のチュートリアル完了
- 7日目: 初回の成功体験(例: 初めてのレポート作成)
- 14日目: 応用機能の活用開始
- 30日目: オンボーディング完了確認、次のステップ提示
各マイルストーンで顧客と接点を持ち(メール、オンライン面談、アプリ内通知等)、進捗を確認します。
(3) 実施と効果測定(PDCAサイクル)
オンボーディングは一度設計したら終わりではなく、PDCAサイクルで継続的に改善することが重要です。
PDCAサイクル:
- Plan(計画): オンボーディングプロセスを設計し、KPIを設定
- Do(実施): 顧客に対してオンボーディングを実施
- Check(評価): KPI(解約率、完了率等)を測定し、課題を抽出
- Act(改善): 課題に応じてプロセスを改善(例: マイルストーンの見直し、タッチポイントの追加)
このサイクルを繰り返すことで、オンボーディングの成功率を徐々に向上させることができます。
タッチモデル別オンボーディング戦略
(1) ハイタッチ(高単価・大口顧客向け個別サポート)
ハイタッチとは、**高単価・大口顧客に対する手厚い個別サポート(1対1の対応)**です。
ハイタッチの特徴:
- 専任のカスタマーサクセスマネージャー(CSM)が担当
- 定期的なオンライン面談・訪問でヒアリング
- カスタマイズされたトレーニング・導入支援
- 顧客の業務フローに合わせた設定代行
適用対象: 年間契約金額が数百万円以上の大企業・エンタープライズ顧客
(2) ロータッチ(中規模顧客向けグループ支援)
ロータッチとは、**中規模顧客に対する適度なサポート(セミナー、グループ支援等)**です。
ロータッチの特徴:
- グループセミナー・ウェビナーでまとめてトレーニング
- 定期的なメール・チャットでのフォローアップ
- コミュニティ・ユーザー会で顧客同士の交流を促進
- 個別対応は必要に応じて実施
適用対象: 年間契約金額が数十万円程度の中小企業・中堅企業
(3) テックタッチ(小規模・多数顧客向け自動化支援)
テックタッチとは、**小規模・多数の顧客に対する自動化されたサポート(ツール、FAQ等)**です。
テックタッチの特徴:
- アプリ内ガイド・チュートリアルで自己学習を促進
- 自動配信メールでマイルストーンごとにリマインド
- FAQやヘルプセンターで自己解決を支援
- 人的サポートは最小限(緊急時のみ)
適用対象: 年間契約金額が数万円以下の小規模企業・個人事業主
タッチモデルを顧客セグメントに応じて使い分けることで、効率的なオンボーディングが可能になります。
オンボーディングツールの選定と活用
(1) オンボーディングツールの4タイプ
オンボーディングツールは、大きく4タイプに分類されます(ASPIC調査)。
4タイプ:
- 利活用促進型: 自社のSaaSを利用しているユーザーの利活用促進をはかるツール(アプリ内ガイド、チュートリアル等)
- CS業務効率化型: カスタマーサクセス業務を効率化するツール(ヘルススコア管理、タスク管理等)
- サイトナビゲーション改善型: Webサイト・アプリのUI/UX改善を支援するツール(ノーコードで導線改善)
- FAQ作成・整理型: FAQ・ヘルプセンターを構築・整理するツール(自己解決率向上)
自社の課題に応じて、最適なタイプのツールを選定することが重要です。
(2) 主要ツールの機能比較(利活用促進、CS業務効率化等)
オンボーディングツールを選定する際、以下の機能を比較することが推奨されます。
比較ポイント:
- アプリ内ガイド機能: サービス内でチュートリアルを表示し、顧客の自己学習を促進
- デジタルトレーニング自動化: 新規顧客へのデジタルトレーニングが自動化され、既存社員の教育工数を削減(Fullstar調査)
- ヘルススコア管理: 顧客の利用状況をスコア化し、オンボーディング進捗を可視化
- 自動配信メール: マイルストーンごとにリマインドメールを自動配信
- 分析・レポート機能: オンボーディング完了率、解約率等のKPIをダッシュボードで可視化
複数のツールを比較し、無料トライアルで実際に試してから導入を決定するのが推奨されます。
(3) ツール導入時の注意点(自動化と人的フォローのバランス)
オンボーディングツールは便利ですが、ツール導入だけで満足し、実際の顧客フォローが不足するリスクがあります。
注意点:
- 自動化と人的フォローのバランス: テックタッチでも、重要なマイルストーンでは人的フォローを実施
- ツールありきにならない: ツールはあくまで手段。顧客の成功を第一に考える
- 効果測定を怠らない: ツール導入後のKPI(解約率、完了率等)を定期的に測定し、ROIを確認
ツールを活用しつつ、顧客との関係構築を大切にすることが重要です。
※ツールの仕様や料金は更新される可能性があるため、最新情報は各社公式サイトをご確認ください。(この記事は2024年11月時点の情報です)
まとめ:オンボーディング成功のための実践ポイント
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングは、初期解約を防ぎ、LTVを最大化するための重要な施策です。適切なオンボーディングを実施することで、顧客満足度向上と解約率低減という直接的な効果が得られます。
この記事のポイントを振り返ると:
- オンボーディング未完了のユーザーはサービス定着の見込みが低く、初期解約リスクが高い
- オンボーディングのKPIは「解約率」「アップセル/クロスセル率」「オンボーディング完了率」
- タッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)を顧客セグメントに応じて使い分ける
- オンボーディングツールは4タイプあり、自社の課題に合わせて選定
- PDCAサイクルで継続的に改善することが重要
次のアクション:
- 自社の顧客セグメントを整理し、最適なタッチモデルを設計する
- オンボーディングのゴール(顧客の成功定義)を明確にする
- マイルストーンとタッチポイントを含むスケジュールを作成する
- オンボーディング完了率・解約率を測定し、現状を把握する
- オンボーディングツールの無料トライアルで実際に操作性を試す
自社に合ったオンボーディング戦略で、顧客の定着率を高め、ビジネスの成長を加速させましょう。
