カスタマーサクセスを始めたいけれど、何から手をつければいいかわからない...
B2B SaaS企業のカスタマーサクセスマネージャーやCS立ち上げ担当者の多くが、カスタマーサクセス組織の構築に課題を感じています。「何から始めればいいのかわからない」「既存のCS活動を体系化したい」「成果を出すための具体的なステップが知りたい」といった悩みは珍しくありません。
この記事では、カスタマーサクセスの導入から成果創出までの実践ステップを、顧客ライフサイクルに沿って解説します。
この記事のポイント:
- カスタマーサクセス導入は、目的設定→カスタマージャーニーマップ作成→組織体制構築→KPI設定の4ステップで進める
- 顧客ライフサイクルは5つのフェーズ(検討・評価→成約→オンボーディング→アダプション→契約更新/チャーン)で構成
- タッチモデルを構築した企業の44.3%が効果を実感(2024年調査)
- カスタマーサクセスに取り組む企業の61.0%が効果を実感、57.4%が売上向上を報告
- オンボーディングが最も重要な最初のステップ(SmartHRは99.5%のサービス継続率を達成)
1. カスタマーサクセスの重要性
カスタマーサクセスは、SaaS・サブスクリプション型ビジネスにおいて不可欠な取り組みとなっています。その背景と効果を確認しておきましょう。
(1) カスタマーサクセスの認知度と導入状況
2024年の調査によると、カスタマーサクセスの認知度は全体で40%を超え、SaaS/サブスク事業者では80%超に達しています。多くのB2B企業がカスタマーサクセスの重要性を認識し、取り組みを進めている状況です。
認知度が高まっている背景:
- サブスクリプションモデルの普及
- 既存顧客からの売上(リテンション・エクスパンション)の重要性
- 顧客獲得コスト(CAC)の上昇
(2) 取り組み効果の実績
同調査では、カスタマーサクセスに取り組む企業の61.0%が効果を実感しており、過去3年で最高を記録しています。
具体的な成果(2024年調査):
- 新規顧客数・新規売上増加: 60%超の企業が報告
- 売上向上: 57.4%の企業が報告
- 営業利益率改善: 52.9%の企業が報告
また、カスタマーサクセス職への転職者の60%超が給与アップを達成しており、市場でのニーズの高まりが見られます。
2. カスタマーサクセスの基礎知識
実践に入る前に、カスタマーサクセスの基本概念を確認しておきましょう。
(1) カスタマーサクセスの定義と目的
カスタマーサクセスとは、顧客が自社の製品・サービスを利用して成功体験を得られるよう、能動的に支援する取り組みです。
主な目的:
- 継続利用(リテンション)の促進
- LTV(顧客生涯価値)の最大化
- 顧客満足度の向上
- アップセル・クロスセルの実現
- チャーン(解約)の防止
(2) カスタマーサポートとの違い(能動的 vs 受動的)
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、目的もアプローチも異なります。
カスタマーサクセス:
- アプローチ: 能動的(プロアクティブ)
- 目的: 顧客の成功支援、契約更新・拡販
- 対象: 主に契約後〜更新まで
- 指標: 継続率、NRR、NPS、LTV
カスタマーサポート:
- アプローチ: 受動的(リアクティブ)
- 目的: 課題解決、問い合わせ対応
- 対象: 問い合わせ発生時
- 指標: 応答時間、解決率、顧客満足度
両者は対立するものではなく、補完関係にあります。カスタマーサポートの対応品質がカスタマーサクセスの成果に影響することも多いです。
(3) カスタマーライフサイクル5つのフェーズ
顧客との関係は、以下の5つのフェーズで構成されます。
- 検討・評価フェーズ: 顧客が製品・サービスを検討する段階
- 成約フェーズ: 契約が成立する段階
- オンボーディングフェーズ: 利用開始、価値理解を促進する段階
- アダプションフェーズ: 製品を使いこなし、定着する段階
- 契約更新/エクスパンション(またはチャーン)フェーズ: 更新・拡販、または解約の段階
カスタマーサクセスの主な活動領域は、3〜5のフェーズです。各フェーズで適切な施策を実行することで、解約を防ぎ、契約更新・拡販につなげます。
3. カスタマーサクセス導入の4つのステップ
カスタマーサクセスを導入する際は、以下の4つのステップで進めるのが効果的です。
(1) ステップ1:目的・目標設定
最初に、なぜカスタマーサクセスに取り組むのかを明確にします。目的を曖昧にしたまま始めると、効果が出にくくなります。
目的の例:
- 継続利用の促進(解約率の低減)
- LTVの最大化
- 顧客満足度の向上
- アップセル・クロスセルの増加
- 顧客からのリファラル獲得
目的を社内で認識合わせすることが、成功の第一歩です。
(2) ステップ2:カスタマージャーニーマップ作成
カスタマージャーニーマップは、顧客が製品・サービスと接点を持つプロセスを可視化したマップです。これを作成することで、顧客理解を深め、適切な施策を設計できます。
作成のポイント:
- 顧客の事業環境やニーズ・課題を理解する
- 各フェーズでの顧客の行動・感情・課題を整理する
- タッチポイント(接点)を明確にする
- 各フェーズで必要なアクションを定義する
カスタマージャーニーマップを作成せずに進めると、顧客理解が不十分になり、適切な施策を考えられないリスクがあります。
(3) ステップ3:組織体制構築
目的とジャーニーマップが明確になったら、組織体制を構築します。
組織構築のパターン:
- 営業部門直下配置: 営業とのシームレスな連携を重視
- サービス部門直下配置: サポートとの連携を重視
- CCO(最高顧客責任者)配置: 経営直轄で全社横断的に統括
組織規模別の体制例:
- 小規模(〜30名): 営業やサポートが兼任、または専任1-2名
- 中規模(30〜100名): 専任チーム3-5名、マネージャー1名
- 大規模(100名〜): 専任チーム10名以上、CSM・オペレーション・データ分析の分業
(4) ステップ4:KPI設定
目標を達成するためのKPI(重要業績評価指標)を設定します。
主要なKPI:
- 利用継続率(リテンション率): 既存顧客のうち、継続した顧客の割合
- 解約率(チャーン率): 解約した顧客の割合
- NRR(売上継続率): 既存顧客からの売上の前年比
- アップセル・クロスセル率: 追加購入した顧客の割合
- NPS(顧客推奨度): 顧客がサービスを他者に推奨する可能性
- LTV(顧客生涯価値): 1人の顧客がもたらす生涯利益
まずは利用継続率と解約率から始め、段階的に指標を追加していくのが現実的です。
4. 顧客ライフサイクル別の実践手法
導入の4ステップが完了したら、顧客ライフサイクルに沿った実践に移ります。
(1) オンボーディング(初期設定支援、価値理解促進)
オンボーディングは、カスタマーサクセスで最も重要な最初のステップです。この段階で顧客が製品の価値を理解できなければ、その後のアダプションやエクスパンションにつながりません。
オンボーディングの主な活動:
- 初期設定の支援
- 使い方のトレーニング
- 成功のマイルストーン設定
- 早期の価値実感(クイックウィン)の創出
成功事例として、SmartHRは4ステップのオンボーディングプログラムを構築し、99.5%のサービス継続率を達成しています。
(2) アダプション(活用促進、定着支援)
アダプションフェーズでは、顧客が製品を使いこなし、業務に定着させることを支援します。
アダプションの主な活動:
- 利用状況のモニタリング
- 活用事例の共有
- 追加機能の提案
- ベストプラクティスの提供
- ヘルススコアによる健全性評価
このフェーズでは、顧客が「使っているだけ」ではなく「成果を出している」状態を目指します。
(3) エクスパンション(アップセル・クロスセル機会の創出)
エクスパンションフェーズでは、顧客がサービスに価値を感じ、利用を拡大する段階です。
エクスパンションの主な活動:
- アップセル(上位プランへの移行)提案
- クロスセル(関連サービスの追加)提案
- 利用部門の拡大支援
- 追加ユーザーの導入支援
- 成功事例としての紹介・推薦依頼
重要なのは、売り込みではなく、顧客の成功に寄り添った提案をすることです。
5. 組織体制とタッチモデル構築
カスタマーサクセスの効果を最大化するには、タッチモデルの構築が重要です。
(1) タッチモデルの重要性
2024年の調査によると、タッチモデルを構築した企業の44.3%が効果を実感しているのに対し、未構築企業の41.8%が効果を感じていないと回答しています。
タッチモデルとは、顧客セグメントごとに最適なコミュニケーション方法(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)を定義したモデルです。
(2) ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの使い分け
顧客の規模や契約金額に応じて、コミュニケーション方法を使い分けます。
ハイタッチ:
- 対象: 高額顧客、エンタープライズ顧客
- 方法: 1対1の手厚いサポート、専任CSM配置
- コスト: 高
ロータッチ:
- 対象: 中規模顧客
- 方法: 1対多のグループサポート、ウェビナー、定例ミーティング
- コスト: 中
テックタッチ:
- 対象: 小規模顧客、セルフサービス志向の顧客
- 方法: 自動化、メール配信、FAQサイト、チュートリアル
- コスト: 低
(3) 顧客セグメント別の最適なコミュニケーション設計
タッチモデルを設計する際のポイントは以下の通りです。
設計のポイント:
- 顧客の契約金額・規模でセグメント分け
- 各セグメントで必要なサポートレベルを定義
- リソースの配分を最適化
- 自動化できる部分はテックタッチで効率化
- 重要顧客にはハイタッチでリソースを集中
すべての顧客に同じ対応をするのではなく、メリハリをつけることが重要です。
6. 成功事例と成果創出のポイント
実際の成功事例から、成果創出のポイントを学びましょう。
(1) SmartHRの成功事例(99.5%のサービス継続率)
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」は、4ステップのオンボーディングプログラムを構築し、99.5%という高いサービス継続率を達成しています。
成功のポイント:
- 明確なオンボーディングステップの設計
- 顧客の成功を定義(初期設定完了、最初の給与計算完了など)
- 専任CSMによる伴走支援
- ヘルススコアによる早期アラート
(2) VOC活用の重要性(Mercariの月次ミーティング)
VOC(Voice of Customer:顧客の声)を活用することも、成果創出の重要な要素です。
メルカリでは、月次でVOCミーティングを経営陣と実施し、顧客からのフィードバックを製品開発やサービス改善に反映しています。
VOC活用のポイント:
- 定期的な顧客フィードバックの収集
- 経営陣との共有・議論
- 製品開発・サービス改善への反映
- 顧客への還元(改善のお知らせ)
(3) 継続的な改善と成果測定
カスタマーサクセスは、一度設計したら終わりではなく、継続的な改善が必要です。
改善のサイクル:
- KPIのモニタリング(月次・四半期)
- 施策の効果検証
- 顧客フィードバックの分析
- プロセスの改善
- 組織・体制の見直し
PDCAサイクルを回し続けることで、カスタマーサクセスの成果は向上していきます。
まとめ:顧客の成功に寄り添い、継続的に改善を続けよう
カスタマーサクセスの導入は、目的設定→カスタマージャーニーマップ作成→組織体制構築→KPI設定の4つのステップで進めます。その上で、オンボーディング→アダプション→エクスパンションという顧客ライフサイクルに沿った実践を行います。
次のアクション:
- カスタマーサクセスに取り組む目的を明確にする
- カスタマージャーニーマップを作成し、顧客理解を深める
- 組織規模に応じた体制を構築する
- 利用継続率・解約率からKPIを設定する
- タッチモデルを構築し、効果を最大化する
カスタマーサクセスの効果は、業種・ビジネスモデル・顧客層により異なります。成功事例をそのまま適用するのではなく、自社の状況に合わせてカスタマイズしながら、継続的に改善を続けていきましょう。
※この記事は2025年1月時点の情報です。調査データは時間経過により変化する可能性があります。
よくある質問:
Q: カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは? A: カスタマーサクセスは能動的に顧客の成功を支援し、契約更新・拡販を目指します。カスタマーサポートは受動的に問い合わせに対応し、課題解決を目指します。両者は補完関係にあり、どちらも重要です。
Q: 何から始めればいいですか? A: まずカスタマージャーニーマップを作成し、顧客の事業環境やニーズ・課題を理解することが第一歩です。その後、目的設定、組織体制構築、KPI設定と進めます。目的を明確にせずに始めると効果が出にくいため、なぜ取り組むのかを社内で認識合わせすることが重要です。
Q: タッチモデル構築は必須ですか? A: 必須ではありませんが、2024年の調査によると、タッチモデルを構築した企業の44.3%が効果を実感しているのに対し、未構築企業の41.8%が効果を感じていないと回答しています。効果を最大化するためには、タッチモデルの構築が推奨されます。
