カスタマーサクセスKPI完全ガイド:設定方法と改善施策を解説
「カスタマーサクセスでどのKPIを設定すべきか分からない」「解約率が高くて悩んでいる」と感じるB2B SaaS企業の担当者は少なくありません。適切なKPI設定と改善施策は、カスタマーサクセスの成功に不可欠です。
この記事のポイント:
- カスタマーサクセスKPIは成果指標と先行指標をバランスよく組み合わせることが重要
- 2025年調査では効果実感層は継続率(41.3%)、解約率(33.0%)、契約更新率(32.6%)を上位KPIに設定
- ヘルススコアを基盤にKPIを設定することで、解約予測や継続率改善につながる
- チャーンレートの目安は中小企業で月間3〜7%、大企業で月間0.5〜1%
- KPIは設定するだけでなく、評価・改善サイクルを回すことが成功の鍵
1. カスタマーサクセスKPIとは
(1) KPIの役割と重要性
KPI(Key Performance Indicator)は、目標達成度を測る重要業績評価指標です。カスタマーサクセスにおけるKPIは、顧客満足度向上・解約率低減・収益最大化などの目標に対する進捗を可視化し、改善アクションの優先順位を決定する役割を果たします。
(2) 成果指標と先行指標の違い
カスタマーサクセスKPIは、大きく2つに分類されます:
- 成果指標: 最終的な結果を示す指標(解約率、継続率、MRR、LTV、NPS等)
- 先行指標: 成果に先行して変化する指標(オンボーディング完了率、ヘルススコア、アクティブユーザー数等)
成果指標だけでは問題が顕在化してからしか対処できませんが、先行指標を組み合わせることで早期検知・予防が可能になります。
(3) 2025年市場調査からみる効果実感層の傾向
バーチャレクス社の2025年カスタマーサクセス日本市場動向調査によると、効果実感層では以下のKPIが上位に設定されています:
- 継続率: 41.3%
- 解約率: 33.0%
- 契約更新率: 32.6%
また、効果実感層はヘルススコア(ログイン率、ユーザー数など)を活用し、それを基盤としてKPIを設定する傾向が明らかになっています。
2. カスタマーサクセスの主要KPI12選
(1) チャーンレート(カスタマーチャーン・レベニューチャーン)
チャーンレートは、一定期間内に失った顧客の割合(解約率)です。2種類の測定方法があります:
- カスタマーチャーン: 解約者数 ÷ 総顧客数 × 100
- レベニューチャーン: 失った売上額 ÷ 総売上額 × 100
健全なビジネスの目安は、中小企業で月間3〜7%、大企業で月間0.5〜1%とされています。
(2) リテンションレート(継続率・契約更新率)
リテンションレートは、一定期間内に継続利用している顧客の割合です。チャーンレートの逆の指標で、高ければ高いほど健全な状態と言えます。
(3) MRR(月次経常収益)
MRRは、サブスクリプション型ビジネスの月次売上を表す指標です。新規顧客からのMRR、既存顧客からのアップセル・ダウングレード、解約による減少分を集計し、全体の収益トレンドを把握します。
(4) NPS(顧客推奨度)
NPSは、0〜10点の11段階評価で顧客ロイヤルティを数値化する指標です。9-10点を推奨者、7-8点を中立者、0-6点を批判者とし、(推奨者% - 批判者%)で算出します。
(5) LTV(顧客生涯価値)
LTVは、顧客がサービスの契約から解約するまでの期間にもたらす収益の総額です。以下の式で計算できます:
- LTV = 平均購入金額 × 平均購入回数 × 平均継続年数
- または、LTV = 顧客あたりの平均月間収益 × 平均継続年数
(6) オンボーディング完了率
オンボーディング完了率は、新規顧客が初期設定から主要機能の利用開始までのプロセスを完了した割合です。完了基準を明確に定義し、達成率を測定します。チャーンレート低減の最重要施策です。
(7) アクティブユーザー数
アクティブユーザー数は、サービスを定期的に利用しているユーザーの数です。DAU(日次アクティブユーザー)、WAU(週次)、MAU(月次)などで測定します。
(8) アップセル率・クロスセル率
アップセル率は既存顧客が上位プランや追加機能を購入した割合、クロスセル率は関連する別商品・サービスを購入した割合です。収益最大化のための重要指標です。
3. ヘルススコアとKPIの連動
(1) ヘルススコアの定義と役割
ヘルススコアは、顧客の健全性を数値化した指標です。ログイン頻度、機能利用率、サポート問い合わせ数などから算出し、解約リスクを早期検知する役割を果たします。
(2) 設計の5ステップ(目的設定→指標選定→重み付け→スコアリング→運用改善)
ヘルススコア設計は以下の5ステップで進めます:
- 目的設定: 解約予測、アップセル対象抽出など
- 指標選定: ログイン頻度、機能利用率、サポート問い合わせ数など
- 重み付け: 各指標の重要度を設定
- スコアリング: 総合スコアを算出
- 運用改善: 定期的に評価し改善
(3) KPIとヘルススコアの連動による先行検知
2025年調査では、効果実感層はヘルススコアを活用し、それを基盤としてKPIを設定する傾向が明らかになっています。ヘルススコアとKPIを連動させることで、先行指標で問題を早期検知し、解約前に改善アクションを実施できます。
4. KPI設定の手順とポイント
(1) 組織の目標に合わせたKPI選定
カスタマーサクセス組織の現在のフェーズ(オンボーディング→定着→拡大)に応じて、優先KPIを3〜5個に絞ります。全てを追うと重要指標に悪影響を与える可能性があるため、バランスが重要です。
(2) セグメント別KPI設定
顧客属性(企業規模、業種等)や行動データ(利用頻度、機能利用状況等)でセグメント分けし、セグメントごとにKPIを設定することで、より実効性の高い施策が可能になります。
(3) 目標値の設定基準(業界平均値の参考)
目標値設定時は、業界平均値を参考にしつつ、自社のサービス形態や成長ステージに応じて調整します。ただし、業種やサービス形態により適切なKPIが異なるため、他社の数値をそのまま適用すると失敗する可能性があります。
(4) KPIが多すぎる場合の絞り込み方
KPIが多すぎる場合は、以下の基準で絞り込みます:
- 組織の最優先目標に直結するKPI
- 早期検知・予防できる先行指標
- 改善アクションが明確なKPI
5. チャーンレート改善の具体的施策
(1) オンボーディング強化
新規顧客の初期設定から主要機能の利用開始までのサポートを強化します。未完了顧客には個別フォローや研修プログラムを提供し、オンボーディング完了率を向上させます。
(2) 利用頻度低下の早期検知
ヘルススコアやアクティブユーザー数を監視し、利用頻度が低下した顧客を早期検知します。検知後は個別コンタクトやアカウントレビューで課題をヒアリングし、改善提案を行います。
(3) プロダクト品質改善
顧客フィードバックやNPSスコアを分析し、プロダクト品質の改善に活かします。バグ修正や機能改善を優先的に実施し、顧客満足度を向上させます。
(4) サポート体制の強化
問い合わせ対応の迅速化、FAQの充実、オンラインコミュニティの構築などで、顧客が自己解決できる環境を整えます。
(5) 改善事例(CS組織で1カ月3%改善)
ある企業では、CS組織を立ち上げてから1カ月でチャーンレートが3%改善した事例が報告されています。オンボーディング強化とヘルススコアによる早期検知が主な要因とされています。
6. まとめ:評価・改善サイクルの確立
カスタマーサクセスKPIは、成果指標と先行指標をバランスよく組み合わせ、ヘルススコアを基盤に設定することが重要です。2025年調査では、効果実感層は継続率・解約率・契約更新率を上位KPIとし、ヘルススコアを活用してKPIを運用しています。
次のアクション:
- 組織の現在フェーズ(オンボーディング→定着→拡大)に応じて優先KPIを3〜5個に絞る
- ヘルススコアを設計し、KPIと連動させる(目的設定→指標選定→重み付け→スコアリング→運用改善)
- セグメント別にKPIを設定し、実効性を高める
- 定期的に評価・改善サイクルを回す
- チャーンレート改善施策(オンボーディング強化、利用頻度低下検知等)を実施
KPIは設定するだけでなく、継続的な評価・改善サイクルを回すことで、カスタマーサクセスの成果を最大化しましょう。
