カスタマーサクセスの組織立ち上げを検討しているが、何から始めればいいか分からない
B2B SaaS企業の経営層・CS責任者の多くが、カスタマーサクセスの重要性を認識しつつも、「カスタマーサポートとの違いは?」「どんなKPIを設定すればいい?」「組織体制はどう作る?」といった疑問を抱えています。
この記事では、カスタマーサクセスの定義から役割、KPI設定、組織構築、導入ステップまで、実務担当者が知っておくべきポイントを解説します。
この記事のポイント:
- カスタマーサクセスは、顧客が成功体験を得られるよう能動的に支援する職種・活動
- 2024年時点で認知度は8割超、SaaS/サブスク事業者の85.3%が専門組織を設立済み
- カスタマーサポート(受動的・問題対処)とカスタマーサクセス(能動的・成功支援)は役割が異なる
- 主要KPIは解約率・継続率・LTV・NRR・NPS・CSAT
- タッチモデル(顧客セグメント別の接触方法)を構築することで、44.3%の企業が効果を実感
1. カスタマーサクセスとは:定義と注目される背景
(1) カスタマーサクセスの定義:顧客の成功体験を能動的に支援
カスタマーサクセスとは、顧客が自社サービスで成功体験を得られるよう能動的に支援する職種・活動です。顧客が製品を「使っている」だけでなく、「成果を出している」状態を目指し、解約率を下げ、LTV(顧客生涯価値)を最大化することが目的です。
主な特徴:
- 顧客の成功を先回りして支援する「能動的」なアプローチ
- 問題が起きる前に予防的に介入
- 顧客のビジネス目標達成をサポート
(2) 注目される背景:認知度8割超、SaaS/サブスク事業者の85.3%が組織設立済み(2024年)
カスタマーサクセスが注目される背景には、以下のような要因があります:
市場の成熟:
- 2024年時点でカスタマーサクセスの認知度は8割を超え、SaaS/サブスクリプション事業者の85.3%が専門組織を設立済み
- 66.7%(前年比3.7ポイント増)が成果を実感しており、市場が成熟しつつある
サブスクリプションモデルの普及:
- SaaS・サブスクリプションビジネスでは、新規獲得よりも既存顧客の維持・拡大が重要
- 解約率を下げることが、収益安定化の鍵
顧客の成功と自社の成長の一致:
- 顧客が成功すれば、継続利用・アップセル・クロスセルにつながる
- 顧客の成功を支援することが、自社の成長戦略となる
これらの変化により、カスタマーサクセスは多くのSaaS・サブスクリプション企業で必須の機能となっています。
(3) 目的:LTV最大化・解約率低下・アップセル・クロスセル
カスタマーサクセスの主な目的は、以下の通りです:
LTV(顧客生涯価値)の最大化:
- 1人の顧客が取引期間全体を通じて企業にもたらす利益を最大化
- 継続利用期間を延ばし、単価を上げることで実現
解約率(チャーンレート)の低下:
- 解約を防ぎ、継続率を向上
- 顧客のヘルススコアを監視し、解約リスクの高い顧客に早期介入
アップセル・クロスセル:
- 既存顧客に上位プラン・追加機能を提案(アップセル)
- 関連する別製品・サービスを提案(クロスセル)
これらの目的を達成することで、企業の収益安定化と成長加速が実現します。
2. カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
(1) アプローチの違い:能動的 vs 受動的
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの最大の違いは、アプローチの違いです:
カスタマーサクセス(能動的):
- 顧客の成功を先回りして支援
- 問題が起きる前に予防的に介入
- 顧客のビジネス目標達成をサポート
カスタマーサポート(受動的):
- 顧客からの問い合わせに対応
- 問題が発生してから解決
- 製品の正常動作を保証
簡潔に言えば、カスタマーサクセスは「コーチ役」、カスタマーサポートは「救急隊役」という違いがあります。
(2) 役割の違い:コーチ(成果保証) vs 救急隊(正常動作保証)
それぞれの役割を詳しく見てみましょう:
カスタマーサクセスの役割:
- 顧客の成功(ビジネス目標達成)を保証
- オンボーディング、利用促進、解約防止、アップセル・クロスセル
- 顧客の成果を最大化するための戦略的支援
カスタマーサポートの役割:
- 製品の正常動作を保証
- 問い合わせ対応、技術的トラブルシューティング、操作方法の説明
- 顧客の問題を解決し、信頼を維持
両方とも重要な役割であり、連携させることで顧客体験が向上します。
(3) KPIの違い:継続率・アップセル vs 対応回数・返信時間
KPIも大きく異なります:
カスタマーサクセスのKPI:
- 継続率、解約率、LTV、NRR(売上継続率)
- アップセル率、クロスセル率
- NPS(顧客推奨度)、ヘルススコア
カスタマーサポートのKPI:
- 対応回数、返信時間、解決率
- 初回解決率、顧客満足度(CSAT)
カスタマーサクセスは「成果」、カスタマーサポートは「対応品質」を重視します。
3. カスタマーサクセスの役割と業務内容
(1) オンボーディング:新規顧客の初期導入支援
オンボーディングは、新規顧客がサービスを使い始める初期段階で、基本的な使い方を習得し価値を実感できるよう支援するプロセスです。
主な業務:
- 初期設定のサポート
- 基本機能のトレーニング
- ユースケースの提案
- 初期目標の設定と達成支援
重要性:
- オンボーディングの成否が、その後の継続率に大きく影響
- 初期段階で価値を実感できなければ、早期解約のリスクが高まる
(2) 利用促進:活用度向上・定着化支援
利用促進では、顧客がサービスを継続的に活用し、成果を出せるよう支援します。
主な業務:
- 活用度の低い機能の利用促進
- ベストプラクティスの共有
- 定期的なチェックイン(利用状況の確認と改善提案)
- ユーザー向けトレーニング・ウェビナーの開催
重要性:
- 活用度が高い顧客ほど、継続率が高くアップセルの可能性も高い
- 定着化支援により、顧客のビジネス成果を最大化
(3) 解約防止:ヘルススコア監視・早期介入
解約防止では、ヘルススコアを監視し、解約リスクの高い顧客に早期介入します。
主な業務:
- ヘルススコアの監視(ログイン頻度、機能利用状況、サポート問い合わせ頻度など)
- 解約リスクの高い顧客の特定
- 早期介入(課題のヒアリング、改善提案、追加支援)
重要性:
- 問題が深刻化する前に介入することで、解約を防げる
- 解約防止は、新規獲得よりもコストが低い
(4) アップセル・クロスセル:上位プラン提案・関連サービス提案
アップセル・クロスセルでは、既存顧客に上位プラン・追加機能や関連サービスを提案します。
主な業務:
- 顧客のビジネス成長に応じた上位プラン提案(アップセル)
- 関連する別製品・サービスの提案(クロスセル)
- ROI(投資対効果)の提示
重要性:
- 既存顧客からの売上拡大により、LTVが最大化される
- 新規獲得よりも成約率が高く、効率的な成長が可能
4. KPI設定と効果測定の14指標
(1) 主要KPI:解約率・継続率・LTV・NRR・アップセル率・クロスセル率
カスタマーサクセスの主要KPIには、以下のようなものがあります:
解約率(チャーンレート):
- 一定期間内に解約した顧客の割合
- 低いほど良い(目標: 月次1-3%、年次10-20%)
継続率(リテンションレート):
- 一定期間後も継続している顧客の割合
- 高いほど良い(目標: 月次97%以上、年次80%以上)
LTV(顧客生涯価値):
- 1人の顧客が取引期間全体を通じて企業にもたらす利益の総額
- 高いほど良い
NRR(Net Revenue Retention / 売上継続率):
- 既存顧客からの売上維持率(アップセル・クロスセルを含む)
- 100%以上が理想(成長している証拠)
アップセル率・クロスセル率:
- 既存顧客のうち、上位プランや関連サービスを購入した割合
- 高いほど良い
(2) 顧客満足度指標:NPS・CSAT・ヘルススコア
顧客満足度を測る指標も重要です:
NPS(Net Promoter Score / 顧客推奨度):
- 顧客がサービスを他者に推奨する度合いを測る指標
- スコアが高いほど良い(0〜10点で評価、9-10点が推奨者)
CSAT(Customer Satisfaction / 顧客満足度):
- サービスに対する顧客の満足度を測る指標
- スコアが高いほど良い(通常は1-5点や1-10点で評価)
ヘルススコア:
- 顧客の「健康状態」を示す総合指標
- ログイン頻度、機能利用状況、サポート問い合わせ頻度などから算出
- スコアが低い顧客は解約リスクが高い
(3) 活動指標:オンボーディング完了率・アクティブユーザー率・問い合わせ件数
活動指標により、カスタマーサクセスの活動効果を測定します:
オンボーディング完了率:
- 新規顧客のうち、オンボーディングを完了した割合
- 高いほど良い(目標: 80%以上)
アクティブユーザー率:
- 定期的にサービスを利用しているユーザーの割合
- 高いほど良い
問い合わせ件数:
- サポートへの問い合わせ件数
- 少ないほど良い(顧客が自力で問題を解決できている証拠)
(4) KPI設定のポイント:自社の業界・サービスに適切な指標を選ぶ
KPI設定では、以下のポイントが重要です:
自社の業界・サービスに適した指標を選ぶ:
- 業界や商品により重要な指標が異なる
- 自社のビジネスモデルに合ったKPIを設定
KGI(最終目標)との整合性:
- KPIが自社のKGI(売上、利益など)達成に直結しているか確認
- 良い数値でもKGI達成につながらなければ意味がない
定量・定性両面から測定:
- 数値だけでなく、顧客の声(定性データ)も収集
- 両方を組み合わせることで、真の顧客満足度が把握できる
これらのポイントを押さえることで、効果的なKPI設定が可能になります。
5. 組織構築とタッチモデル設計
(1) タッチモデルとは:顧客セグメント別の接触方法設計
タッチモデルとは、顧客セグメント(価値・規模等)に応じた接触方法を設計するフレームワークです。すべての顧客に同じレベルのサポートを提供するのではなく、顧客の価値に応じてリソースを最適配分します。
タッチモデルの重要性:
- 2024年の調査で、タッチモデルを構築している企業の44.3%が効果を実感
- 構築していない企業の41.8%は効果を感じていない
(2) 3つのタッチ:ハイタッチ(高価値)・ロータッチ(中価値)・テックタッチ(低価値・自動化)
タッチモデルは、以下の3層に分類されます:
ハイタッチ(High Touch):
- 高価値顧客(ARRが高い、戦略的に重要など)
- 1人のCSMが10-30社を担当
- 手厚い支援(定期ミーティング、専任サポート、カスタマイズ提案)
ロータッチ(Low Touch):
- 中価値顧客
- 1人のCSMが50-100社を担当
- 標準的な支援(定期メール、ウェビナー、グループトレーニング)
テックタッチ(Tech Touch):
- 低価値顧客(ARRが低い、小規模など)
- 自動化ツールで数千社対応
- 自動化支援(メール自動配信、セルフサービスポータル、チャットボット)
これらを組み合わせることで、限られたリソースで最大の効果を実現します。
(3) 組織構築の3K課題:人材育成・採用、業務改善、顧客分析
カスタマーサクセス組織の構築では、以下の3K課題に直面します:
人材育成・採用:
- カスタマーサクセスに適した人材の採用が難しい
- 既存社員の育成にも時間とコストがかかる
業務改善:
- 業務プロセスの標準化と効率化が必要
- 属人化を避け、再現性のある仕組みを構築
顧客分析:
- 顧客データの収集・分析体制の整備
- ヘルススコアの設計と運用
これらの課題を解決するには、経営層のコミットメントとリソース投資が不可欠です。
(4) カスタマーサクセスツールの活用:4タイプから選択
カスタマーサクセスツールは、以下の4タイプがあります:
①コミュニティ構築ツール:
- 顧客同士の交流を促進
- ベストプラクティスの共有
②顧客状態把握ツール:
- ヘルススコアの可視化
- 解約リスクの早期発見
- 代表例: Gainsight、Service Cloud
③利用ガイドツール:
- チュートリアル、ウォークスルーの提供
- セルフサービス化の支援
④問い合わせ効率化ツール:
- チャットボット、FAQシステム
- サポート業務の自動化
- 代表例: Helpfeel
料金相場:
- 従量課金: 月額3,000円〜9,800円/ユーザー
- 固定費用: 月額12,800円〜100,000円
顧客数や課題に応じて、適切なツールを選択することが重要です。
6. まとめ:カスタマーサクセス成功のポイント
カスタマーサクセスは、顧客が自社サービスで成功体験を得られるよう能動的に支援する職種・活動です。2024年時点で認知度は8割を超え、SaaS/サブスク事業者の85.3%が専門組織を設立済みです。
成功のポイント:
- カスタマーサポート(受動的・問題対処)とカスタマーサクセス(能動的・成功支援)の役割を明確に分け、連携させる
- 主要KPI(解約率・継続率・LTV・NRR・NPS・CSAT)を設定し、定量的に活動成果を測定する
- タッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)を構築し、顧客セグメント別に最適な支援を提供する
- 3K課題(人材育成・採用、業務改善、顧客分析)に取り組み、組織体制を整備する
- カスタマーサクセスツールを活用し、業務効率化とデータ駆動型の支援を実現する
次のアクション:
- 自社の顧客セグメントを整理し、タッチモデルを設計する
- 主要KPI(解約率、継続率、LTV、NRR)を設定し、現状を測定する
- まずは1-2名でカスタマーサクセス専任担当を置き、小規模に始める
- オンボーディングプロセスを標準化し、初期定着率を向上させる
- 顧客50-100社を超えたらツール導入を検討し、業務効率化を図る
カスタマーサクセスは、中長期的な取り組みが必要ですが、成功すれば解約率低下・LTV最大化・アップセル促進により、企業の持続的な成長が実現します。顧客の成功を支援することで、自社の成功も加速させましょう。
※この記事は2024年11月時点の情報です。市場動向やツールの仕様は今後変化する可能性があるため、最新情報は各種調査レポートや公式サイトをご確認ください。
