拡大期における営業組織の課題と本記事の目的
営業組織を拡大したいが、属人化が解消されず、営業プロセスが標準化できないという課題を解決したいなら、拡大期の営業組織は、営業プロセス標準化だけでなく、MA/SFA連携を前提とした実装設計と営業BPRを組み込むことで、属人化を防ぎながらスケーラビリティを実現できます。
BtoB企業、特に従業員50-300名規模の成長企業では、営業組織の拡大期に直面する課題が深刻化しています。BtoB中小企業の新規開拓では、「紹介」への依存が60.7%に達しており、全体の42.0%が「ほぼ手動営業」という状況です。さらに紹介を主力とする企業では、手動営業の割合が61.5%まで上昇しています。加えて、BtoB中小企業ではKPI未設定が59.0%にのぼり、これが属人化と再現性不足の大きな要因となっています。
このような状況の中、多くの企業が「営業プロセスを標準化すれば拡大期の課題が解決する」と考えがちです。しかし、営業プロセス標準化だけに注力し、MA/SFA連携設計や営業BPRを後回しにすると、結局ツールが活用されず、属人化が残り、営業組織がスケールしないパターンに陥ります。
この記事で分かること
- 拡大期営業組織の3つの典型的な課題(属人化・標準化不足・スケーラビリティ欠如)
- 営業プロセス標準化の基本ステップとKPI設計の方法
- MA/SFA連携を前提としたスケーラビリティ設計の実践的アプローチ
- 営業BPRと実装・運用の具体的な進め方
- 拡大期営業組織構築で避けるべき失敗パターンと成功の鍵
拡大期営業組織の課題:属人化・標準化不足・スケーラビリティの欠如
拡大期営業組織の最大の課題は、属人化・標準化不足・スケーラビリティの欠如という3つの問題が相互に影響し合い、組織の成長を妨げることです。
属人化とは、営業プロセスが個人のスキルや人脈に依存し、標準化・再現性が低い状態を指します。スケーラビリティとは、営業組織の拡大に応じて、効率を維持しながら売上を増やせる拡張性のことです。
BtoB企業の新規開拓では、営業スキル不足が36.3%、リスト精度不足が21.5%と上位課題に挙がっています。また、新規開拓を重視する企業は7割に達する一方で、実際に達成できているのは4割程度にとどまっています。この達成率の低さは、属人化と標準化不足が組織のスケーラビリティを阻害していることを示しています。
【比較表】拡大期営業の課題とソリューション比較
| 課題 | 原因 | 従来のアプローチ | 推奨アプローチ |
|---|---|---|---|
| 属人化 | 紹介依存60.7%、手動営業42.0% | 営業マニュアル作成のみ | MA/SFA連携+リードスコアリング自動化 |
| 標準化不足 | KPI未設定59.0% | 営業プロセス文書化のみ | KPI設定+データ可視化+PDCA |
| スケーラビリティ欠如 | 営業スキル不足36.3%、リスト精度不足21.5% | 人員増強のみ | レベニュー統合モデル+営業BPR |
| データ連携不足 | 営業・マーケ間の情報分断 | 会議で情報共有 | SSOT(データ一元管理)構築 |
属人化が進む典型的なパターン
紹介営業への依存は、それ自体が悪いわけではありません。しかし、紹介依存60.7%という高い割合と、手動営業率61.5%(紹介主力企業)がセットになると、属人化リスクが著しく高まります。
属人化が進む典型的なパターンは以下の通りです。個人の人脈やスキルに依存した営業スタイルでは、その人が退職すれば顧客との関係も失われ、営業ノウハウも組織に蓄積されません。また、手動営業中心の体制では、営業プロセスがブラックボックス化し、どのアプローチが効果的だったのか、どこに改善の余地があるのかが見えにくくなります。
営業プロセスの標準化不足とKPI未設定の問題
KPI未設定が59.0%という数値は、多くのBtoB中小企業が営業成果の測定・可視化に課題を抱えていることを示しています。KPIが設定されていない状態では、営業活動の効果測定ができず、どのプロセスが機能しているか、どこに改善の余地があるかを客観的に判断することができません。
この結果、営業組織全体としての成長戦略を描くことが困難になり、属人化の解消も進みません。KPIの可視化がなければ、営業担当者個々の「感覚」や「経験」に頼らざるを得ず、再現性のある営業プロセスを構築することは不可能です。
営業組織のスケーラビリティを阻む要因
営業スキル不足36.3%、リスト精度不足21.5%という課題は、営業組織のスケーラビリティを直接的に阻害します。営業スキルが属人化している状態では、新しいメンバーを採用しても即戦力化が難しく、組織拡大のスピードが鈍化します。
また、リストの精度が低いと、営業担当者は見込みの薄い顧客に時間を割くことになり、組織全体の生産性が低下します。インテントデータ(顧客の購買意図を示す行動データ)を活用してリスト精度を向上させることで、属人的な「勘」から脱却し、行動データ駆動の営業へ転換することが可能です。
営業プロセス標準化の基本ステップとKPI設計
営業プロセス標準化の基本は、見込み客発掘からアフターフォローまでの5ステップを可視化し、各ステップでKPIを設定することです。しかし、営業プロセスを標準化すれば課題が解決するという考え方は誤りです。MA/SFA連携設計や営業BPRを後回しにすると、ツールが活用されず、属人化が残り、営業組織がスケールしません。
BtoB企業の購買プロセスでは、営業面談前に85%の企業が候補ベンダーを独自選定済みという調査結果があります。この事実は、営業プロセスの設計において、初期段階のデジタル接点(WebサイトやMA)を強化することの重要性を示しています。「出口から優先」でプロセスを設計し、85%の企業が事前に選定を済ませている現実に対応する必要があります。
営業プロセス標準化の基本ステップ
営業プロセス標準化の基本5ステップは、次の通りです:
- 見込み客発掘(リードジェネレーション):Webサイト、MA、広告などを通じて潜在顧客との接点を作る
- アプローチ(リードナーチャリング):メール、電話、セミナーなどで関係を構築し、購買意欲を高める
- 商談(ヒアリング・提案):顧客の課題をヒアリングし、ソリューションを提案する
- クロージング(契約締結):契約条件を調整し、受注につなげる
- アフターフォロー(顧客維持・拡販):既存顧客の満足度を高め、継続契約やアップセルを実現する
これらのステップをExcelなどで可視化し、現場へのヒアリングを通じて各ステップの課題や改善点を洗い出すことから始めます。初期段階では高額なツールを導入する必要はなく、無料で利用できるツールや既存のスプレッドシートでも十分にスタートできます。
KPI設計と営業成果の可視化
KPI未設定が59.0%という業界相場を踏まえると、まず基本的なKPIから設定することが重要です。主要なKPIとしては、商談生成率(リードから商談への転換率)、クロージング率(商談から受注への転換率)、平均受注単価、商談サイクル(初回接触から受注までの期間)などが挙げられます。
KPI設計のポイントは、各ステップで測定可能な指標を設定し、定期的にデータを確認してPDCAサイクルを回すことです。ただし、KPIの設定は企業規模や業種により最適な指標が異なるため、自社の状況に応じて柔軟に調整する必要があります。
MA/SFA連携を前提とした営業組織のスケーラビリティ設計
MA/SFA連携を前提とした営業組織のスケーラビリティ設計では、SSOT(Single Source of Truth)によるデータ一元管理と、レベニュー統合モデルによる組織体制構築が鍵となります。
SSOT(Single Source of Truth) とは、MA/SFA連携によるデータ一元管理のことで、営業・マーケティング間で唯一の正確な情報源を持つ仕組みを指します。レベニュー統合モデルとは、営業・マーケティングを分業化しMA/SFA連携(SSOT)で統合する組織体制です。
BtoB-EC化率は令和6年度の調査で40.3%に達し、EDI標準化の進展により対面営業からデジタル仕組み化への加速が見られます。このデジタルシフトの波に乗り遅れないためには、営業プロセスのデジタル対応が不可欠です。
また、法人向けサブスク提供企業の77%が既存ビジネスからの移行により成長しており、大企業をターゲットとする企業の割合は2023年の11%から2025年には25%へ上昇しています。このエンタープライズシフト(成長フェーズで大企業をターゲットとする営業戦略への移行)に対応するためにも、MA/SFA連携によるスケーラブルな体制構築が求められます。
SSOT(Single Source of Truth)とMA/SFA連携
MA(マーケティングオートメーション)とSFA(セールスフォースオートメーション)を連携させることで、マーケティング活動で得られたリード情報や行動データが、営業活動にシームレスに引き継がれます。これにより、営業担当者は顧客の関心度合いや過去の接触履歴を把握した上でアプローチでき、効率的な営業活動が可能になります。
SSOTを実現するためには、MA/SFAツールの選定段階から、データ連携の設計を考慮する必要があります。ただし、特定のツールに過度に依存することは避け、自社の業務フローに合ったツールを公平に比較検討することが重要です。
レベニュー統合モデルによる組織設計
レベニュー統合モデルでは、マーケティング部門がリード獲得・育成を担当し、営業部門が商談・クロージングを担当するという分業体制を構築します。しかし、分業するだけでは効果が出ません。MA/SFA連携によりデータを統合し、マーケティングと営業が同じ指標(レベニュー目標)に向かって協働する体制が必要です。
法人向けサブスク企業の成長事例を見ると、77%が既存ビジネスからの移行で成長しており、エンタープライズシフトは25%にとどまっています。つまり、中小企業向けの既存事業を強化することも有効な成長戦略であり、レベニュー統合モデルは高額取引の多人数購買(部門横断での意思決定)への対応にも効果的です。
デジタル化とBtoB-EC化の最新トレンド
BtoB-EC化率が40.3%に達したことで、FAX/電話受注からECへの移行が中小企業でも標準化されつつあります。対面営業を前提としない非接触型の営業プロセスが増加しており、営業組織もこのデジタルトレンドに対応する必要があります。
デジタル化の加速により、営業活動の多くがオンラインで完結するようになり、営業担当者の役割も変化しています。単なる商品説明ではなく、顧客の課題を深く理解し、ソリューションを提案するコンサルティング型の営業スタイルが求められるようになっています。
営業BPRと実装・運用の実践的アプローチ
営業BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、既存の営業プロセスを根本から見直し、再設計することです。ツールを導入するだけでは営業組織の変革は実現しません。現場へのヒアリングを通じてプロセス改善を進め、ツール導入後も継続的に運用を見直すことが本質です。
「SFA導入=標準化完了」という考え方は誤解です。実際の導入事例では、ツール導入後、半年程度の現場不満期間を経て、ようやく定着するケースが多く見られます。ツール導入だけでなく、プロセス改善と組織の意識変革がセットで必要です。
【チェックリスト】拡大期営業組織構築チェックリスト
- 現場ヒアリングを実施し、現状の営業プロセスを可視化した
- 営業プロセスの基本5ステップ(発掘→アプローチ→商談→クロージング→アフターフォロー)を定義した
- 各ステップでのKPI(商談生成率、クロージング率等)を設定した
- KPI未設定59.0%という業界相場を踏まえ、まず基本KPIから導入した
- MA/SFAツールの選定基準を明確化し、複数ツールを公平に比較した
- MA/SFA連携によるSSOT(データ一元管理)の設計を完了した
- リードスコアリングの自動化設計を行い、営業優先順位を明確化した
- インテントデータ活用によるリスト精度向上の仕組みを検討した
- レベニュー統合モデル(営業・マーケ分業+MA/SFA連携)の組織体制を設計した
- 営業・マーケティング間のデータ連携フローを定義した
- 営業BPRの実施計画を策定し、プロセス改善の優先順位を決定した
- ツール導入後の定着期間(半年程度)を考慮した計画を立てた
- 現場の不満や抵抗を解消するためのフォロー体制を構築した
- KPIの定期的なレビュー会議(週次/月次)を設定した
- 営業スキル不足36.3%という課題に対し、育成プログラムを用意した
- リスト精度不足21.5%という課題に対し、リード管理の改善策を実施した
- 紹介依存60.7%の現状を踏まえ、紹介を活かしつつデジタル化を進める戦略を策定した
- 手動営業42.0%の現状から、段階的な自動化計画を立てた
- 85%が面談前に選定済みという購買プロセスを踏まえ、初期段階のデジタル接点を強化した
- BtoB-EC化率40.3%のトレンドを踏まえ、非対面営業プロセスを整備した
現場ヒアリングとプロセス改善の進め方
営業BPRの第一歩は、現場へのヒアリングです。営業担当者が実際にどのようなプロセスで営業活動を行っているか、どこに課題を感じているか、どのツールが使いにくいかなど、現場の声を丁寧に聞き取ります。
ヒアリングの結果をもとに、既存プロセスのボトルネックを特定し、改善策を検討します。初期段階では、Excelなどの無料ツールでプロセスを可視化し、現場と共有しながら改善を進めることが効果的です。高額なツールを導入する前に、まずは現場と一緒にプロセスを作り上げることで、ツール導入後の定着率が大きく向上します。
MA/SFA実装とデータ連携の設計
MA/SFA連携の実装では、データ連携の設計が最も重要です。マーケティング活動で得られたリード情報(資料ダウンロード、Webサイト閲覧履歴、メール開封履歴など)が、SFAに自動的に連携され、営業担当者がリアルタイムで確認できる仕組みを構築します。
また、リードスコアリング(見込み顧客の行動データに基づいて購買意欲を数値化し、営業優先順位を自動判定する手法)を設定することで、営業担当者は「今、最もアプローチすべき顧客」を一目で把握できます。これにより、営業活動の効率が大幅に向上し、属人化の解消にもつながります。
拡大期営業組織構築のポイントと次のアクション
拡大期の営業組織は、営業プロセス標準化だけでなく、MA/SFA連携を前提とした実装設計と営業BPRを組み込むことで、属人化を防ぎながらスケーラビリティを実現できます。
本記事で解説した主要なポイントを整理します。第一に、拡大期営業組織の課題は、属人化・標準化不足・スケーラビリティ欠如の3つが相互に影響し合っていることです。紹介依存60.7%、手動営業42.0%、KPI未設定59.0%という現状を踏まえ、営業プロセスの可視化とKPI設定から始めることが重要です。
第二に、営業プロセス標準化だけでは不十分であり、MA/SFA連携による SSOT(データ一元管理)とレベニュー統合モデルによる組織体制構築が不可欠です。85%の企業が面談前に選定済みという購買プロセスの現実を踏まえ、初期段階のデジタル接点を強化する必要があります。
第三に、ツール導入後のプロセス改善と現場の定着支援が本質です。SFA導入だけで標準化が完了するわけではなく、半年程度の定着期間を見込み、現場の不満や抵抗を解消しながら運用を改善することが成功の鍵となります。
次のアクションとして、まずは現場へのヒアリングを実施し、現状の営業プロセスを可視化してください。その上で、基本的なKPI(商談生成率、クロージング率等)を設定し、営業成果を測定できる体制を整えます。そして、MA/SFA連携によるデータ一元管理の設計を進め、レベニュー統合モデルによる組織体制を構築していきます。
属人化とスケーラビリティの課題は、一朝一夕には解決しません。しかし、営業プロセス標準化、MA/SFA連携、営業BPRを段階的に実装していくことで、拡大期の営業組織を持続的に成長させることが可能です。企業規模や業種により最適なアプローチは異なるため、自社の状況に応じて柔軟に戦略を調整しながら、スケーラブルな営業組織の構築を進めてください。
