なぜ営業とマーケティング部門は対立するのか
営業・マーケの対立は、MA/SFA連携とデータ基盤整備で部門間のデータ・プロセスを統合すれば解消できます。
従業員50-300名規模のBtoB企業では、営業とマーケティング部門の連携不全が深刻な課題となっています。2025年の調査によれば、BtoB営業担当者の47.0%がマーケティング提供リードの品質に不満を抱えており、その理由として「導入時期が不明確なリードが多い」(45.9%)が挙げられています。この対立は、単なるコミュニケーション不足や部門間の文化の違いではなく、データ連携・業務プロセスの構造的な問題であることが明らかになってきました。
この記事で分かること
- 営業とマーケティングが対立する構造的な理由と評価指標のズレ
- 両部門の典型的な不満パターンと、その背景にあるリソース課題
- MA/SFA連携がもたらす具体的なビジネスインパクトと投資対効果
- データ基盤整備の実践的なアプローチと実装フロー
- 連携診断チェックリストを活用した現状把握の方法
この記事では、営業・マーケの対立を「文化の違い」「精神論」ではなく「データ連携・業務プロセスの問題」として捉え、MA/SFA連携とデータ基盤整備による解決策を提示します。
営業とマーケティングが対立する構造的な理由
営業とマーケティングの対立の根本原因は、「量と質の評価指標の相違」にあります。マーケティング部門は「リード獲得数」を重視し、営業部門は「商談の質」を優先する構造的なズレが、部門間の衝突を生み出しています。
2025年の調査データによれば、マーケティング施策の投資対効果として受注金額まで追っている企業は全体の30.2%に留まっています。これは、約85%の企業がコスト意識を高めつつも、最終成果の測定体制が整備されていない現状を示しています。評価指標が共通化されていないため、マーケティング側は「リード数を増やした」と成果をアピールする一方で、営業側は「商談化しないリードばかり」と不満を募らせることになります。
MA(Marketing Automation) とは、マーケティング活動を自動化し、リード獲得・育成・スコアリングを効率化するツールです。またSFA(Sales Force Automation) は、営業活動を自動化・可視化し、商談管理・顧客情報管理・売上予測を支援するツールです。これらのツールが導入されていても、連携が不十分な場合は対立の解消にはつながりません。
日本企業の場合、欧米企業とは異なる組織構造的な特徴があります。日本企業の営業部門は「営業」「営業企画」「営業推進」が統合された形態をとることが多く、構造的には営業・マーケ間の対立を緩和しやすい環境にあります。しかし、リード品質やリソース格差による不満は依然として存在しており、欧米型の「セールスとマーケティングの戦争」とは異なる形で対立が生じています。
ここで重要なのは、営業とマーケの対立は文化や性格の違いだから仕方ない、という諦めや、コミュニケーション強化や精神論だけで解決しようとすることは誤りであるという点です。対立の本質は、データ連携とプロセスの問題であり、仕組みを整備することで解消可能です。
マーケティングと営業の評価指標のズレ
マーケティングは「量」、営業は「質」を重視する構造が、評価指標のズレを生み出しています。2025年版BtoB経営者調査では、リード獲得の課題として「質」に約半数が注目しており、2024年比で+7.6pt増加しています。これは、BtoB企業のマーケティングが「量」から「質」へのシフトを進めている最新トレンドを示しています。
リードスコアリングとは、見込み客の行動・属性に基づき購買可能性を数値化し、優先順位をつける仕組みです。部門間でリードスコアリングの基準を共有することが、評価指標のズレを解消する第一歩となります。営業とマーケが同じ基準で「良いリード」を定義できれば、マーケは営業が求める質のリードを優先的に提供でき、営業はマーケの施策を正当に評価できるようになります。
データ連携の不足が生む情報の分断
MA/SFAが導入されていても、連携不足で情報が分断されている企業は少なくありません。前述の通り、マーケティング施策の投資対効果として受注金額まで追っている企業は30.2%に留まっており、大多数の企業が「リード獲得」と「受注」の間のプロセスを可視化できていない状況です。
Single Source of Truthとは、顧客データを一元管理し、営業・マーケ間で唯一の正確な情報源を構築する概念です。データが部門ごとに分散していると、マーケは「誰がどのリードにアプローチしているか」を把握できず、営業は「リードがどのコンテンツに反応したか」を確認できません。この情報の非対称性が、双方の不満を増幅させる要因となっています。
両部門の典型的な不満と対立パターン
営業側とマーケティング側それぞれの典型的な不満を具体化すると、両部門が抱える課題の構造が見えてきます。2025年の調査では、営業担当者の47.0%(「全く満足していない」9.8%+「あまり満足していない」37.2%)がマーケティング提供リードの品質に不満を持っており、一方でマーケティング側も「人手不足・体制が整っていない」(34.3%)、「予算が少ない」(26.1%)という構造的な課題に直面しています。
以下のチェックリストで、自社の営業・マーケ連携の現状を診断してみましょう。
【チェックリスト】営業・マーケ連携診断チェックリスト
- リード定義が営業・マーケ間で明文化され、共有されている
- リードの「導入時期」「予算」「決裁権」などの情報が明記されている
- リードスコアリングの基準が両部門で合意されている
- MA/SFAが連携され、顧客データが一元管理されている
- 営業がMAの閲覧履歴(メール開封、資料DL等)を確認できる
- マーケが商談状況・受注結果をリアルタイムで確認できる
- 部門間で共通のKPI(リード→商談化率、商談→受注率等)が設定されている
- 受注金額までの投資対効果を測定する体制がある
- リードの引き渡しプロセス(SLA)が明確に定義されている
- 営業からマーケへのフィードバック(リード品質、対応状況等)が定期的に行われている
- マーケ施策の計画段階で営業の意見が反映される仕組みがある
- 両部門の定例会議が開催され、課題共有と改善策の検討が行われている
- データクレンジング(重複除去、ID統合)が定期的に実施されている
- オンライン/オフラインのデータが統合され、顧客行動が横断的に可視化されている
- マーケティング予算と人員リソースが適切に確保されている
チェック項目が10個以上であれば良好、5-9個は改善の余地あり、4個以下は早急な対策が必要な状態と言えます。
営業側の典型的な不満
営業がマーケティングに対して抱く不満は、主に以下のパターンに集約されます。
営業側の不満トップ3:
- 導入時期が不明確なリードが多い(45.9%):「いつ導入を検討しているのか」が分からず、アプローチのタイミングを逃すケースが多い
- マーケ側の調査不足:企業規模、業種、予算感などの基本情報が不足しており、初回コンタクトで確認作業に時間を取られる
- 薄いアポ:「とりあえず話を聞きたい」レベルの見込み客が多く、商談化率が低い
これらの不満は、マーケティング側がリード獲得数を優先するあまり、リードの質(商談化の可能性)を十分に評価できていないことに起因しています。営業は限られた時間で成果を出す必要があるため、質の低いリードへの対応は「余計な仕事が増える」と感じられます。
マーケティング側の典型的な課題
マーケティング側が抱える構造的な課題は、リソースの制約に集約されます。2025年の調査によれば、BtoBマーケティングの主要課題は「人手不足・体制が整っていない」(34.3%)、「予算が少ない」(26.1%)となっています。
マーケティング部門は、リード獲得施策の企画・実行、コンテンツ作成、データ分析、ツール運用など多岐にわたる業務を担当していますが、人員と予算が不足している企業が多いのが実情です。この状況下で、営業から「リードの質を上げろ」と要求されても、調査やスコアリングに十分な時間を割けないというジレンマに陥ります。
また、マーケティング施策を営業に「押し売り」してしまうメカニズムも対立を生む要因となっています。営業のニーズを十分に理解せずに施策を展開すると、「自分の顧客に余計なメールを送らないでほしい」「SFA導入で余計な仕事が増える」といった反発を招きます。
営業・マーケ連携がもたらすビジネスインパクト
営業・マーケの連携改善は、業務効率化と売上向上の両面で具体的な成果をもたらします。MA/SFA連携によるデータ一元化で、業務時間3割以上削減、コンバージョン率10-20%向上が標準的な成果指標とされています。ただし、これらは成功事例の集計であり、企業規模や業種により変動する点に注意が必要です。
富士通クラウドテクノロジーズでは、MA導入により資料作成時間を3割以上削減し、商談ロスの防止を実現しています。また、エレコムではインサイドセールス+MA導入で顧客一元管理を実現し、Web反響が10倍増加した事例が報告されています。これらの成功事例は、連携改善が単なる効率化にとどまらず、ビジネス成果に直結することを示しています。
インサイドセールスとは、電話・メール等で非対面で見込み客を育成・商談化する営業手法です。またリードナーチャリングは、見込み客に段階的に情報提供し、購買意欲を高めて商談化へ導く育成活動を指します。これらの手法をMA/SFAと組み合わせることで、リードから受注までのプロセスを効率化できます。
ただし、投資対効果を正しく評価するためには、初期投資やリスクも考慮する必要があります。MA/SFAツールの年額は数百万円規模が一般的であり、導入失敗のリスクも存在します。ROIは1-2年で回収可能とされていますが、これは適切な運用体制が整っている場合の目安であり、全ての企業で保証されるものではありません。
業務効率化の効果
MA/SFA連携による業務時間削減の効果は、複数の事例で確認されています。データ一元化で業務時間3割以上削減、コンバージョン率10-20%向上が標準的な成果指標として報告されています。富士通クラウドテクノロジーズの事例では、MA導入により資料作成時間を3割以上削減しています。
データクレンジングとは、顧客データの重複除去・ID統合を行い、データ品質を向上させるプロセスです。データクレンジングを実施することで、同一顧客の重複登録や古い情報の混在を防ぎ、営業が正確なデータに基づいてアプローチできるようになります。
これらの数値は「目安」「標準的な成果指標」として捉えるべきであり、全ての企業で同じ成果が得られるわけではありません。業種、企業規模、既存の業務プロセスによって効果は大きく変動します。
商談化率・売上への影響
連携改善は、最終的な商談化率や売上・ROIにも影響を与えます。エレコムの事例では、インサイドセールス+MA導入で顧客一元管理を実現し、Web反響が10倍増加しています。また、2025年の調査では、新規開拓の目標達成率は平均41.2%(重要視69.6%に対し)となっており、営業リスト精度不足が課題として指摘されています。
データドリブン事例の平均成果として、顧客満足度20%向上、リピート率15%増加、広告ROI25%改善という数値が報告されています。ただし、これらは成功事例の集計であり、業界全体を代表しない可能性がある点に注意が必要です。
導入前の状況、投資額、運用体制などの前提条件が明示されていない事例も多く、自社に適用する際は慎重な検討が求められます。成功事例は企業自社発表を含むため、失敗バイアスや前提条件の不明確さがあることを認識しておくべきです。
MA/SFA連携による具体的な解決策
MA/SFA連携によるデータ基盤整備は、営業・マーケの対立を解消する具体的なアプローチです。データ一元化で業務時間3割以上削減、コンバージョン率10-20%向上が標準的な成果指標とされており、適切な実装により両部門の課題を同時に解決できます。
以下のフロー図は、MA/SFA連携の実装ステップを示しています。
【フロー図】MA/SFA連携フロー図
flowchart TD
A[ステップ1: ツール選定・連携] --> B[ステップ2: データクレンジング]
B --> C[ステップ3: KPI共通化]
C --> D[ステップ4: 組織共有]
D --> E[ステップ5: 継続改善]
A1[CRM/MA, SFAをAPI統合] --> A
A2[Web行動・メール反応を自動同期] --> A
B1[重複除去・ID統合] --> B
B2[オンライン/オフライン横断可視化] --> B
C1[リードスコアリング共有] --> C
C2[営業がMA閲覧履歴確認] --> C
D1[ダッシュボード構築] --> D
D2[ROI分析] --> D
E1[売上データ統合] --> E
E2[インテリジェンス組織化] --> E
実装の各ステップ:
- ツール選定・連携:CRM/MA(例: HubSpot, Marketo)とSFA(例: Salesforce)をAPIで統合し、Web行動・メール反応を自動同期する
- データクレンジング:重複除去・ID統合でオンライン/オフライン横断可視化を実現する
- KPI共通化:リードスコアリングを共有し、営業がMA閲覧履歴を確認できる体制を構築する
- 組織共有:マーケティング・営業・CS間でダッシュボードを構築し、ROI分析を行う
- 継続改善:売上データを統合し、インテリジェンス組織化を進める
このアプローチでは、特定ツールの推奨は避け、一般的な実装方法を示しています。自社の状況に応じて、既存ツールの活用や段階的な導入を検討することが重要です。
リード定義の共有とスコアリング
営業・マーケ間でリード定義を共有し、評価基準を統一することが、連携改善の第一歩となります。営業のリード不満理由トップは「導入時期が不明確なリードが多い」(45.9%)であり、リード定義を営業・マーケ間で共有し、導入時期・受注確度を明記することで不満の大幅な低減が期待できます。
リードスコアリングの仕組みを活用すると、見込み客の行動・属性に基づき購買可能性を数値化し、優先順位をつけることができます。例えば、「料金ページを3回以上閲覧」「事例資料をダウンロード」「問い合わせフォームに到達」といった行動にスコアを付与し、一定のスコアを超えたリードを「ホットリード」として営業に引き渡すルールを設定します。
部門間でリードスコアリングの基準を共有することで、マーケは「営業が求める質のリード」を優先的に提供でき、営業は「どのリードに優先的にアプローチすべきか」を明確に判断できるようになります。
データ基盤の整備とAPI連携
MA/SFAのAPI連携とデータクレンジングは、Single Source of Truthを実現するための技術的なアプローチです。API統合によりWeb行動・メール反応を自動同期し、営業がMA閲覧履歴を確認できる体制を構築します。また、データクレンジング(重複除去・ID統合)によりオンライン/オフライン横断可視化を実現し、データ品質を向上させます。
Single Source of Truthを実現するためには、顧客データを一元管理し、営業・マーケ間で唯一の正確な情報源を構築することが不可欠です。例えば、見込み客がWebサイトでホワイトペーパーをダウンロードした情報がリアルタイムでSFAに反映され、営業が「このタイミングでフォローアップすべき」と判断できる仕組みを構築します。
このような技術的アプローチは、MA/SFA設定からフルスクラッチ開発まで実装できる技術力を持つパートナーと協働することで、単なる戦略提案ではなく「動くもの」を前提とした実装が可能になります。既存ツールのカスタマイズや、独自要件に応じた開発にも対応できる体制が重要です。
部門間KPIの共通化
評価指標を共通化し、営業・マーケが同じゴールを目指す体制を構築することが、対立解消の鍵となります。部門間KPIを共通化し、リードスコアリングを共有することで評価指標のズレを解消できます。
現状では、マーケティング施策の投資対効果として受注金額まで追っている企業は全体の30.2%に留まっています。最終成果(受注金額、ROI)までの測定体制を構築することで、マーケティング施策の真の価値を可視化し、両部門が「受注」という共通ゴールに向かって協働できるようになります。
具体的には、「リード→商談化率」「商談→受注率」「受注金額」「LTV(顧客生涯価値)」といったKPIを両部門で共有し、定期的にレビューする仕組みを構築します。これにより、マーケは「どの施策が受注につながっているか」を把握でき、営業は「マーケ施策の価値」を正当に評価できるようになります。
まとめ:データ基盤整備で営業・マーケの対立を解消する
営業・マーケの対立は、MA/SFA連携とデータ基盤整備で部門間のデータ・プロセスを統合すれば解消できます。この記事で解説した通り、対立の根本原因は「文化の違い」や「性格の問題」ではなく、評価指標のズレとデータ連携の不足という構造的な問題にあります。
記事の要点:
- 営業とマーケの対立は「リード獲得数」を追うマーケと「商談の質」を重視する営業の評価指標のズレが原因
- BtoB営業担当者の47.0%がマーケ提供リードの品質に不満を持ち、マーケ側も人手不足・予算不足に直面している
- MA/SFA連携により業務時間3割削減、CV率10-20%向上が期待できるが、成功には適切な実装と運用体制が不可欠
- リード定義の共有、データクレンジング、KPI共通化により、部門間の情報格差と評価のズレを解消できる
- データ基盤整備は一度きりの施策ではなく、継続的な改善プロセスとして取り組むべき
次のアクション:
まずは本文中の「営業・マーケ連携診断チェックリスト」で現状を把握しましょう。チェック項目が少ない場合は、リード定義の共有やデータ連携の改善から着手することをお勧めします。人手不足や予算不足の企業でも、現状のツールでできる範囲でのデータ連携改善から始め、段階的に拡大していくアプローチが有効です。
現在のBtoB市場では、「営業 vs マーケ」という対立構造ではなく、「営業+マーケ+カスタマーサクセス」の三者協働が求められる時代へと移行しています。データ基盤整備を起点として、部門の壁を越えた協働体制を構築することが、持続的な成長の鍵となります。
