BtoBでオムニチャネルが求められる背景と課題
BtoBビジネスにおいて、最も重要なのはチャネルの数を増やすことではなく、MA/SFAを軸にした顧客データの統合とマーケ・営業・インサイドセールスの連携設計です。複数のチャネルを持ちながらもデータが分断され、一貫した顧客体験を提供できていない企業は少なくありません。
日本のBtoB-EC市場規模は514兆4,069億円(2024年)で、前年比+10.6%の成長を記録しています。EC化率も43.1%(2024年)と前年から+3.1ポイント上昇しており、BtoB取引のデジタルシフトが加速していることがわかります。ただし、EC化率43.1%は裏を返せば約6割の取引が依然としてオフラインで行われていることも意味します。
この記事で分かること
- オムニチャネル・マルチチャネル・クロスチャネルの違い
- BtoBで活用される主要チャネルの役割と使い分け
- チャネルを増やすだけでは成果が出ない理由
- MA/SFAを軸にしたオムニチャネル設計の考え方
- 導入前に確認すべきチェックポイント
オムニチャネルとは|マルチチャネル・クロスチャネルとの違い
オムニチャネルとは、オンライン・オフラインのあらゆる顧客接点を統合し、一貫した顧客体験を提供する戦略です。この定義を正しく理解することが、BtoBにおけるチャネル戦略の第一歩となります。
マルチチャネルは、複数のチャネルを個別に運用する形態です。Webサイト、メール、電話、対面営業など複数の接点を持っていても、チャネル間でデータ連携が行われていない状態を指します。BtoB-ECを導入しただけの状態は、マルチチャネルであってオムニチャネルではありません。
クロスチャネルは、複数チャネル間で一部のデータ連携が行われている段階です。たとえばWebサイトでの問い合わせ履歴がCRMに連携されている状態ですが、統合度はまだ限定的です。
オムニチャネルでは、すべてのチャネルで顧客データが統合され、どのチャネルから接触しても一貫した体験を提供できます。OMO(Online Merges with Offline) という概念も注目されており、オンラインとオフラインを融合させたシームレスな顧客体験の実現を目指す考え方です。
BtoBにおけるチャネルの種類と役割
BtoBで活用される主要チャネルには、それぞれ適した役割があります。チャネルごとの特性を理解し、顧客の購買段階や取引内容に応じて使い分けることが重要です。
【比較表】BtoBチャネル種類別役割比較表
| チャネル | 主な役割 | 適した場面 | 取得できるデータ |
|---|---|---|---|
| Webサイト | 情報提供・リード獲得 | 認知〜興味段階 | 閲覧履歴・資料DL・問い合わせ |
| メール | ナーチャリング・関係維持 | 興味〜検討段階 | 開封率・クリック・返信 |
| 電話(IS) | アポイント獲得・ヒアリング | 検討〜商談段階 | 通話内容・反応・次回アクション |
| 対面営業 | 提案・クロージング | 商談〜契約段階 | 商談内容・意思決定者情報 |
| ECサイト | 定型品・補充発注の受注 | 既存顧客のリピート | 購買履歴・発注頻度・単価 |
| カスタマーポータル | 契約情報・サポート提供 | 契約後の顧客対応 | 利用状況・サポート履歴 |
| チャット | 即時対応・簡易問い合わせ | 全段階の補助 | 問い合わせ内容・対応履歴 |
BtoBオムニチャネルでよくある失敗パターン
BtoBオムニチャネルで最も多い失敗は、チャネルを増やせば顧客接点が増えて成果が出ると考え、データ連携や部門間連携を後回しにしてしまうケースです。この考え方は誤りです。
チャネルを増やすこと自体は難しくありません。しかし、チャネルごとに顧客情報が分断されると、「Webで問い合わせた内容を電話で再度説明させられる」「営業担当が変わると過去のやり取りが引き継がれない」といった一貫性のないコミュニケーションが発生します。結果として顧客体験を損ない、かえって信頼を失うことになります。
BtoB-EC市場の成長率+10.6%は、BtoC-EC市場の成長率+5.15%を上回っています。BtoB側のチャネル変革スピードが加速している中で、チャネル間で顧客データ連携を行っているBtoB企業は3〜4割程度に留まるとされています。多くの企業がチャネルは増やしたものの、オムニチャネルには至っていないのが現状です。
MA/SFAを軸にしたBtoBオムニチャネル設計
BtoBオムニチャネル設計の基盤となるのは、MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)を軸にした顧客データの統合です。これにより、マーケ・営業・インサイドセールスの各部門が同じ顧客情報を参照しながら活動できるようになります。
顧客マスタ(企業・拠点・担当者)を営業/EC/EDIで共通化することが基本要件です。価格・在庫・契約条件もチャネル横断で一貫させる必要があります。顧客がECサイトで見た価格と、営業担当が提示する価格が異なっていては、オムニチャネルとは言えません。
EC化率とは、全取引額のうちEC(電子商取引)が占める割合を指します。BtoBでは43.1%(2024年)となっていますが、業種や取引形態によって大きく異なります。すべての取引をEC化する必要はなく、取引内容に応じたチャネル設計が重要です。
マーケ・営業・ISの連携設計
部門間の連携設計では、各チャネルの役割分担を明確にすることが重要です。少額・定型品・補充発注はECに寄せ、営業は大型案件・新規提案に集中させるといった設計が有効です。
注意すべきは「ECに流すと営業の評価が下がる」という構造を避けることです。営業担当のKPIにEC経由売上を含めるなど、チャネル間で利益相反が起きない設計が必要です。導入初期から営業・カスタマーサクセスなど社内ユーザーを巻き込み、現場の声を反映させることも成功の鍵となります。
BtoBオムニチャネル導入前チェックポイント
オムニチャネル導入を検討する際は、以下のチェックリストで自社の準備状況を確認してください。すべてが完璧である必要はありませんが、主要な項目がクリアできていないと導入後に問題が発生する可能性があります。
【チェックリスト】BtoBオムニチャネル導入前チェックリスト
- 顧客マスタ(企業・拠点・担当者)が一元管理されている
- MA(マーケティングオートメーション)を導入済み、または導入計画がある
- SFA(営業支援システム)を導入済み、または導入計画がある
- MAとSFAのデータ連携ができている、または連携設計がある
- 顧客IDが全チャネルで統一されている
- 価格・在庫・契約条件がチャネル横断で一貫している
- マーケ・営業・ISの役割分担が明確になっている
- チャネル間で利益相反が起きないKPI設計になっている
- ECに流す取引と営業が対応する取引の基準が決まっている
- 顧客対応履歴が部門間で共有できる仕組みがある
- 導入・運用を推進する担当者がアサインされている
- 営業・CSなど現場担当者が導入に関与している
- データ連携のための技術的な検討が完了している
- 既存システムとの統合方針が決まっている
- 導入後の運用ルールが策定されている
まとめ|BtoBオムニチャネル成功のカギ
BtoBにおけるオムニチャネル戦略は、単にチャネルを増やすことではありません。記事の要点を整理します。
- オムニチャネルの本質: すべての顧客接点でデータを統合し、一貫した体験を提供すること
- マルチチャネルとの違い: BtoB-ECを導入しただけではマルチチャネルであり、オムニチャネルではない
- 失敗パターン: チャネルを増やすだけでデータ連携・部門間連携を後回しにすると、顧客体験を損なう
- 設計の軸: MA/SFAを中心とした顧客データ統合と、マーケ・営業・ISの連携設計
- 導入前の確認: チェックリストで自社の準備状況を把握し、課題を洗い出す
BtoBにおけるオムニチャネル戦略の成否は、チャネルの数を増やすことではなく、MA/SFAを軸にした顧客データの統合とマーケ・営業・インサイドセールスの連携設計にあります。この基盤があって初めて、一貫した顧客体験を提供できるようになります。まずは導入前チェックリストを活用し、自社の現状を把握することから始めてみてください。
