CRMを使いこなせない企業が増えている背景
CRMを使いこなせない状態は、原因を特定し、段階的な改善ステップを実行することで解決できます。これが本記事の結論です。
CRM(Customer Relationship Management) とは、顧客情報を一元管理し、顧客との関係構築・維持を支援するシステムです。CRMの導入企業は年々増加しており、矢野経済研究所の調査によると、CRM/SFAのクラウド基盤利用率は2020年の16.1%から2022年に32.1%へと約2倍に増加しています。
しかし、導入率の増加と活用度は別の問題です。グローバル調査では、IT導入プロジェクトの約70%が期待した成果を得られていないという報告があります。また、業界では「CRM導入の失敗率は約6割」とも言われています(ただし、失敗の定義は調査により異なるため、あくまで参考値です)。
「CRMを導入したが現場に定着しない」「データが入力されない」「活用できていないと感じるが、何を改善すればいいかわからない」という課題を抱えている方は少なくありません。
この記事で分かること
- CRMを使いこなせない主な原因と失敗パターン
- CRM活用状況の自己診断チェックリスト
- CRM活用レベル別の課題と改善アクション
- CRMを段階的に活用するための具体的なステップ
CRMを使いこなせない主な原因
CRMが活用されない根本的な原因は、「運用設計の問題」「データ入力の問題」「活用方法の問題」の3つに整理できます。
2025年の調査によると、リード獲得の課題として「顧客とのコミュニケーションができていない」が26.9%を占めています。CRMは本来、顧客とのコミュニケーションを改善するためのツールですが、そのCRM自体が活用できていないケースが多いのです。
データ入力カバレッジとは、CRM/SFAへのデータ入力率のことで、活用度を測る重要指標の一つです。この数値が低いままでは、CRMに蓄積されたデータの信頼性が担保できず、活用も進みません。
運用設計の問題|目的・ルールが曖昧なまま導入している
「何のためにCRMを使うのか」が曖昧な状態での導入が、活用が進まない最大の原因です。
具体的には以下のような状態が見られます。
- CRM導入の目的が「他社も導入しているから」「営業DXの流れだから」という曖昧なもの
- 入力ルール(何を、いつ、誰が入力するか)が決まっていない
- 入力したデータをどの場面で活用するかが明確でない
- 成果を測るKPIが設定されていない
このような状態では、CRMは「とりあえず入力するもの」になり、現場にとって負担でしかなくなります。
データ入力の問題|現場の入力負荷とメリット不足
データが入力されない・不完全な理由は、現場の入力負荷とメリット不足にあります。
よくある問題として以下が挙げられます。
- 入力項目が多すぎて、1件の入力に時間がかかる
- 名刺管理やメール、カレンダーと連携しておらず、二重入力が発生している
- 入力しても「会議で数字を確認するだけ」で、自分の仕事が楽にならない
- 入力内容がフィードバックされず、「入力しても意味がない」と感じる
「入力して当たり前」という発想から、「入力したくなる仕組み」への転換が必要です。入力することで現場にとってのメリット(次のアクションが明確になる、重複作業が減るなど)を設計しなければ、定着は難しいでしょう。
CRM活用の失敗パターンと対策
CRMを使いこなせない原因を「現場のやる気不足」「ツールの問題」と単純化して、運用設計やデータ入力の仕組み化を後回しにするのは誤りです。この考え方では、いつまでも活用が進まない状態に陥ります。
IT導入プロジェクトの約70%が期待した成果を得られていないというデータが示すように、問題はツールではなく運用設計にあることが多いのです。CRM導入の失敗率が約6割とも言われる要因として、「導入がゴール化している」「戦略不足」が挙げられています。
失敗パターン1: 導入がゴールになっている
CRMを導入すること自体が目的化し、「導入後に何をするか」が設計されていないケースです。結果として、現場は「なぜ入力するのか」がわからないまま、形だけの運用が続きます。
→ 対策: 導入前に「CRMで何を実現したいか」「どのKPIを改善したいか」を明確にし、関係者と合意する。
失敗パターン2: 現場不在で導入を進めている
経営層・管理職だけで導入を決定し、現場のヒアリングやトライアル期間が不十分なケースです。結果として、現場の業務フローに合わず、「使いにくいツール」という印象だけが残ります。
→ 対策: 現場の代表者をプロジェクトメンバーに入れ、実際の業務フローに基づいた項目設計を行う。
失敗パターン3: 入力率だけを追っている
入力率を上げることが目的化し、入力内容の質や活用方法をマネジメントしていないケースです。入力率が上がっても、そのデータを使った意思決定や行動改善につながらなければ意味がありません。
→ 対策: 入力データを活用したレポートやダッシュボードを設計し、「入力したデータがこう活かされている」を可視化する。
CRM活用状況の診断と改善アクション
CRMを使いこなすには、まず自社の活用状況を正確に把握することが重要です。以下のチェックリストを活用して、現状を診断してください。
【チェックリスト】CRM活用状況の自己診断チェックリスト
- CRM導入の目的(何を実現したいか)が明文化されている
- CRMで測定するKPI(受注率、商談化率など)が設定されている
- 入力ルール(何を、いつ、誰が入力するか)が定義されている
- 入力項目は必要最小限に絞られている
- 名刺管理・メール・カレンダーなど他ツールと連携している
- 二重入力が発生していない
- 入力率(データ入力カバレッジ)を定期的に測定している
- 入力されたデータを活用したレポート・ダッシュボードがある
- 営業会議で「数字確認」だけでなく「次のアクション」を議論している
- 現場が「CRMを使って仕事が楽になった」と感じている
- CRM活用の成果(KPIの改善)を定期的に振り返っている
- 入力ルールや項目は定期的に見直している
- MA/SFAとCRMが連携されている
- 顧客の行動履歴(メール開封、Web訪問など)がCRMに反映されている
- CRM活用の責任者が明確に決まっている
CRM活用レベル別の課題と改善アクション
自己診断の結果に基づき、自社のCRM活用レベルを把握し、レベルに応じた改善アクションを実行しましょう。
【比較表】CRM活用レベル別の課題と改善アクション
| 活用レベル | 状態の特徴 | 主な課題 | 改善アクション |
|---|---|---|---|
| 初期(入力定着前) | 入力率が低い、データが不完全 | 入力負荷が高い、現場メリットが見えない | 入力項目の削減、入力メリットの可視化、ミニマム運用から開始 |
| 発展(データ蓄積中) | 入力は定着したがデータ活用が進まない | レポートがない、会議で数字確認のみ | ダッシュボード設計、次のアクション検討の仕組み化 |
| 定着(活用・成果創出) | データ活用が進み成果が出ている | さらなる改善余地の発見、属人化防止 | MA/SFA連携、プロセス改善のPDCA、ナレッジ共有 |
| 最適化(継続改善) | 定着しKPIが継続的に改善している | 新たな活用領域の開拓 | 部門横断データ連携、AI活用、顧客体験向上 |
CRMを使いこなすための具体的なステップ
CRM活用を段階的に進めるには、以下のステップで取り組むことが有効です。
2025年の調査では、BtoB経営者の約半数がリードの「質」に課題を感じており、2024年比で7.6ポイント悪化しています。CRMを使いこなすことで、リードの質向上にもつなげることが期待できます。
ステップ1: 目的・KPIの明確化
「何のためにCRMを使うのか」という目的と、それを測るKPIを明確にします。目的が曖昧なまま入力率だけを追っても、現場の負担が増えるだけで成果にはつながりません。
ステップ2: 入力項目の最適化と運用ルール設計
入力項目はKPIに直結するものだけに絞り込みます。「何かをプラスする場合は何かをマイナスする」という原則で、CRM導入と同時に他の業務を削減することも検討しましょう。
ステップ3: MA/SFA連携によるデータ活用促進
MA(Marketing Automation) とは、マーケティング活動を自動化するツールで、リードナーチャリング(見込み顧客を育成し、購買意欲を高めていく手法)やスコアリングが主機能です。SFA(Sales Force Automation) は、営業活動の効率化・自動化を支援するシステムで、案件管理・活動履歴管理が主機能です。
これらをCRMと連携することで、データ入力の負荷軽減と活用促進を同時に実現できます。
MA/SFA連携によるCRM活用促進
MA/SFAとCRMを連携することで、リード情報の自動連携やデータ入力負荷の軽減が期待できます。
Nexal調査(2023年5月時点)によると、MA導入率は全企業平均で1.5%、上場企業に限ると14.6%です。MA導入はまだ進んでいませんが、CRMとの連携が有効であることは多くの事例で示されています。
MAからCRMへの連携例:
- Webサイトの閲覧履歴・ダウンロード情報を自動でCRMに反映
- メールの開封・クリック情報を顧客データに紐付け
- スコアリング結果に基づいた「ホットリード」を営業に通知
CRMからMAへの連携例:
- 商談ステージに応じたメール配信の自動化
- 受注・失注情報に基づいたスコアリングルールの最適化
- 顧客セグメントに応じたナーチャリングシナリオの設計
まとめ|CRMを使いこなすために今日からできること
本記事では、CRMを使いこなせない原因と、段階的な改善方法を解説しました。
ポイントの整理
- CRMが活用されない原因は「運用設計の問題」「データ入力の問題」「活用方法の問題」の3つ
- 「現場のやる気不足」「ツールの問題」と単純化せず、仕組みの問題として捉える
- 自己診断チェックリストで自社の活用状況を把握し、レベルに応じた改善アクションを実行する
- 目的・KPIの明確化→入力項目の最適化→MA/SFA連携の順で段階的に進める
まずは本記事で紹介したチェックリストを活用し、自社のCRM活用状況を確認してみてください。「入力項目の見直し」「現場へのメリット共有」など、小さな改善から始めることをおすすめします。
CRMを使いこなせない状態は、原因を特定し、段階的な改善ステップを実行することで解決できます。
