部門間の壁が企業成長を阻む理由
実は、部門間の壁は「共通KPIの設計」と「データ連携の仕組み」を整備することで解消でき、特にマーケティングと営業の連携ではMA/SFAのデータ連携設定まで実装することが成功の鍵となります。
「マーケティングと営業の連携がうまくいかない」「部門間で情報共有が滞っている」——こうした課題を抱えるBtoB企業は少なくありません。HR総研が2025年に実施した調査によると、社内コミュニケーションに課題を感じている企業のうち、「部門間」に問題があると回答した割合は65%で最多となっています。次いで「経営層と社員」が61%、「部署内のメンバー同士」が43%という結果でした。
この記事で分かること
- 部門間の壁が生まれる構造的な原因
- 共通KPI設計による部門連携の改善方法
- MA/SFAのデータ連携で情報の断絶を解消する方法
- 自社で使える実装チェックリスト
部門間の壁(セクショナリズム) とは、部門ごとに目標・評価・情報・システムが分断され、全社最適より自部門最適が優先されている状態を指します。この状態が続くと、同調査が示すように「迅速な情報共有ができない」(62%)、「目指す方向への認識の統一ができない」(52%)、「部門間・事業所間の連携がうまくいかない」(52%)といった業務障害が発生します。
これらの問題は、単なる「コミュニケーション不足」では片付けられません。仕組みの整備によって解決できる構造的な課題なのです。
部門間の壁が生まれる構造的原因
部門間の壁を「人間関係の問題」と捉えて放置してしまうケースが多く見られますが、これは誤りです。実際には、KPI設計の分断やデータの非連携といった「仕組みの問題」が根本原因であり、構造的に解決できます。
IPA(情報処理推進機構)の「DX動向2025」によると、日本企業の9割以上が「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」に取り組んでいるにもかかわらず、成果創出割合は36.4%にとどまっています。この1,535社を対象とした調査は、「取り組んでいる」だけでは成果が出ないことを示しています。
また、BtoB UI/UX白書2025(n=1,078)では、構造的課題として「専門人材不足」38.6%に次いで「部門間連携の困難さ」が37.3%を占めています。これは人間関係ではなく、組織構造そのものに問題があることを示唆しています。
部門間の壁が生まれる主な原因は以下の3つです。
- KPI設計の分断: 各部門が異なる指標を追い、全社最適ではなく部分最適に陥る
- データの非連携: ツールがサイロ化し、情報が部門間で共有されない
- 評価軸の違い: 部門ごとに評価基準が異なり、協力するインセンティブがない
これらは「仲良くしよう」という掛け声では解決しません。仕組みとして整備する必要があります。
KPI設計の分断がもたらす対立構造
マーケティングと営業でKPIが異なることが、部門間の壁の根本原因となっているケースが多く見られます。典型的なのは、マーケティングが「リード数」を追い、営業が「受注金額」だけを追う状態です。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で一定条件を満たした見込み顧客であり、営業へパスする前段階のリードを指します。一方、SQL(Sales Qualified Lead) は、営業が商談可能と判断した見込み顧客で、MQLから営業に引き渡された後の段階です。
2025年版のBtoB企業経営者調査(調査対象は限定的)によると、リードの質について「理想通りに獲得できていない」と回答した経営者は48.6%にのぼり、2024年比で+7.6ポイント悪化しています。この数字は、マーケティングと営業の間でリードの「質」に関する認識のズレが拡大していることを示しています。
マーケティングは「たくさんリードを獲得した」と評価される一方、営業は「使えないリードばかり渡される」と不満を持つ——この構造が対立を生み出します。
データが繋がらないことによる情報の断絶
MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)が連携していない状態は、情報の断絶を引き起こします。
具体的には以下のような問題が発生します。
- リードがWebサイトでどのページを見たか、どの資料をダウンロードしたかといった行動履歴が営業に伝わらない
- 営業の商談結果(受注・失注・保留)がマーケティングにフィードバックされない
- 失注理由のデータが蓄積されず、リードの質を改善できない
ツールを導入していても、データが繋がっていなければ「高機能な孤島」が複数存在するだけです。部門間連携には、データの双方向同期が不可欠です。
共通KPI設計で部門間の目標を揃える
部門間の壁を解消する第一のアプローチは、共通KPIの設計です。マーケティングと営業が同じ指標を追うことで、対立ではなく協力のインセンティブが生まれます。
商談化率とは、獲得したリードのうち商談に進んだ割合を指します。BtoB調査レポート2025(n=330、広告経由リード限定)によると、広告経由リードの商談化率は「11〜20%」がボリュームゾーンで、15%前後が標準的な目標値とされています。ただし、これは業種・商材単価・営業体制により大きく変動するため、あくまで目安として捉えてください。
CPA(Cost Per Acquisition) は、リード1件あたりの獲得コストです。BtoBでは5,000〜10,000円が相場感とされていますが、こちらも業種により変動します。
共通KPIとして「商談化率」を設定することで、マーケティングはリードの「量」だけでなく「質」を意識するようになり、営業は「使えるリード」を獲得するためのフィードバックを行うようになります。
マーケと営業が共有すべき指標の設計方法
共通KPI設計の基本は「売上目標からの逆算」です。以下のステップで設計します。
- 売上目標を設定: 例えば年間売上1億円
- 必要受注件数を算出: 平均受注単価が500万円なら、20件の受注が必要
- 必要商談数を算出: 受注率が25%なら、80件の商談が必要
- 必要リード数を算出: 商談化率が15%なら、約533件のリードが必要
(例)月額50万円の広告費で運用した場合
- CPA 8,000円として、月間約62件のリード獲得
- 商談化率15%で、月間約9件の商談創出
- 年間で約108件の商談、受注率25%で約27件の受注見込み ※実際の成果は業種・単価・運用体制により大きく変動します
2025年のBtoBマーケ担当者調査(n=326)によると、BtoB企業のリード獲得単価(CPA)は「5,000〜10,000円未満」が目標・実績ともに最多レンジで21.2〜21.8%を占めています。ただし、業種・商材により大きく変動するため、自社の実績を基準にしてください。
もう一つ重要なのは、失注理由の分類をマーケティングと営業で事前に合意しておくことです。「予算がない」「タイミングが合わない」「競合に負けた」「ニーズがなかった」など、分類を統一しておくことで、責任のなすりつけ合いを防ぎ、改善につなげられます。
データ連携の仕組みでリード情報を可視化する
部門間の壁を解消する第二のアプローチは、データ連携の仕組みづくりです。SmartHRの2025年調査によると、DX推進における部門連携を76%が「重要」と回答しており、仕組みとしてのデータ連携が重視されていることがわかります。
MA⇔CRM/SFAの双方向連携を実装する際、キーとなるデータ項目は以下の通りです。
- リードID: 各システムで共通のIDを持たせる
- 企業ID: 同一企業の複数リードを紐付ける
- メールアドレス: 名寄せの基準として使用
- リードステータス: MQL→SQL→商談中→受注/失注の遷移を同期
- 行動履歴: Webサイト訪問、資料ダウンロード、メール開封など
これらのデータが双方向で同期されることで、マーケティングは「どのリードが商談に進んだか」を把握でき、営業は「このリードがどのような関心を持っているか」を理解した上でアプローチできます。
営業がデータを入力する仕組みの設計
データ連携を機能させるには、営業がSFA/CRMにデータを入力する必要があります。しかし「入力が面倒」という現場の抵抗は根強いものです。この抵抗を減らすための設計ポイントがあります。
必須項目を最小限にする
入力項目が多いほど、入力率は下がります。商談ステージ、予想金額、次回アクション日など、本当に必要な項目に絞り込みます。
商談ステージ更新をKPIに紐づける
「入力しないと評価されない」設計にすることで、入力のインセンティブを作ります。商談ステージが更新されていない案件は、パイプライン会議でフォロー対象にするなど、運用ルールも合わせて設計します。
入力の手間を減らす工夫
- 選択式の項目を増やし、自由記述を減らす
- モバイルからも入力できる環境を整える
- 定期的にデータクレンジングを行い、重複や古いデータを削除する
部門間連携を改善する実装チェックリスト
以下は、自社で部門間連携を改善するためのチェックリストです。「Yes」が少ない項目から優先的に取り組むことをお勧めします。
【チェックリスト】部門間連携を改善するための実装チェックリスト
- マーケティングと営業で共通のKPIを設定している
- 商談化率を定期的に計測している
- リードの定義(MQL/SQL)が明文化されている
- 失注理由の分類がマーケと営業で統一されている
- MAとSFA/CRMがデータ連携している
- リードIDまたはメールアドレスで名寄せができている
- リードの行動履歴を営業が確認できる
- 商談結果がマーケティングにフィードバックされている
- SFA/CRMの必須入力項目を最小限に絞っている
- 商談ステージの更新が営業のKPIに紐づいている
- 週次または月次で部門横断のパイプライン会議を実施している
- リードの質に関するフィードバックの仕組みがある
- 共通KPIのダッシュボードを両部門が閲覧できる
- データ入力のルールが明文化され、周知されている
- 定期的にデータクレンジングを実施している
部門間の壁は仕組みで解消できる
部門間の壁は、「人間関係の問題」ではなく「仕組みの問題」として捉えることで、構造的に解決できます。
本記事で解説した通り、部門間の壁を解消するには「共通KPIの設計」と「データ連携の仕組み」の整備が不可欠です。特にマーケティングと営業の連携においては、MA/SFAのデータ連携設定まで実装することが成功の鍵となります。
IPAのDX動向2025が示すように、組織横断の取り組みは9割以上の企業が実施していますが、成果創出は36.4%にとどまっています。「取り組んでいる」だけでは不十分であり、KPI設計とデータ連携という仕組みまで整備して初めて成果につながります。
最初のアクションとしては、各部門のKPIを棚卸しし、共通で追うべき指標を特定することから始めてみてください。コミュニケーションを増やす前に、まず仕組みを整えること——それが部門間の壁を解消する最も確実なアプローチです。
