営業パス設計が求められる背景と本記事の目的
営業パス設計とは何か。営業パス設計は、商談フェーズの設計だけでなく、マーケティングからのリード引き渡し基準やSFA連携までを含む部門横断の設計を専門家と共に構築することで、受注率向上と属人化脱却につながります。
BtoB購買行動は大きく変化しています。ワンマーケティング調査(2025年、バイヤー600名対象)によると、85%の購買担当者が営業との初回面談前に候補を絞り込んでいることが分かっています(「ほぼ決まっている」29%、「いくつかの候補に絞り込み」56%)。つまり、営業担当者が商談に入る前の段階で、すでに勝負が決まっているケースが多いのです。
一方、IDEATECH調査(2025年)では、38.5%の企業が「営業プロセスが属人化している」と回答しています(企業の自己申告データのため回答バイアスの可能性あり)。優秀な営業担当者の手法が組織に共有されず、個人の経験と勘に依存した営業活動が続いている状況です。
この2つの課題—購買プロセスの変化と営業の属人化—を解決するためには、商談フェーズだけでなく、マーケティングやインサイドセールスからの引き渡し基準を含めた部門横断の営業パス設計が求められます。
この記事で分かること
- 営業パス設計の定義とカスタマーパスとの違い
- 営業パス設計でよくある失敗パターンとその回避方法
- MA/SFA連携を含む部門横断の営業パス設計フレームワーク
- 商談フェーズ別のアクション定義と運用ルール
営業パス設計とは何か|カスタマーパスとの違い
営業パス設計とは、顧客の意思決定プロセスに沿って、営業活動のアクションと判断基準を体系化することです。リード獲得から受注までの各フェーズで、誰が・何を・どの条件で行うかを明確にします。
カスタマーパス(商談パス) とは、顧客が製品・サービス購入に至る意思決定プロセスを顧客目線で言語化したフレームワークです。顧客がどのような課題を認識し、どのように情報を収集し、どのような基準で比較検討するかを整理します。
一方、カスタマージャーニーマップは、ターゲットペルソナが課題認識から意思決定に至る道筋を時系列で整理した図です。顧客の行動だけでなく、感情や思考の変化も含めて可視化します。
営業パス設計は、これらの顧客理解をベースに、営業側の具体的なアクションと判断基準を設計するものです。カスタマーパスが「顧客が何をするか」を描くのに対し、営業パス設計は「営業が何をすべきか」を定義する点で補完関係にあります。
営業パス設計の目的と期待効果
営業パス設計の主な目的は、属人的な営業活動を標準化し、組織全体の営業力を底上げすることです。
IDEATECH調査(2025年)によると、営業活動の見える化導入により期待される効果として、「効率化」55.7%、「商談質向上」44.3%、「顧客興味可視化」42.0%が挙げられています。
| 期待効果 | 回答割合 |
|---|---|
| 効率化 | 55.7% |
| 商談質向上 | 44.3% |
| 顧客興味可視化 | 42.0% |
営業パスを設計することで、以下のような効果が期待できます。
- 再現性の向上: 成功パターンを言語化し、組織で共有できる
- 引き継ぎの円滑化: 担当変更時も顧客情報とフェーズが明確
- ボトルネックの特定: どのフェーズで停滞しているかが可視化される
- 育成の効率化: 新人営業が早期に戦力化できる
営業パス設計でよくある失敗パターン
営業パス設計を自社で進めようとするが、商談フェーズの定義にとどまり、マーケティングやインサイドセールスからの引き渡し基準が曖昧なまま、結局属人的な営業に戻ってしまう—これがよくある失敗パターンです。
IDEATECH調査(2025年)によると、紹介依存企業では新規開拓の61.5%が「ほぼ手動」で行われており、KPI未設定も59.0%に上ります。デジタルを活用した見える化が進んでいない企業では、営業パス設計を試みても形骸化しやすい傾向があります。
失敗パターンの典型例を挙げます。
失敗例1: 商談フェーズを定義したが運用されない
SFAに商談フェーズを設定したものの、移行条件が曖昧で、営業担当者が感覚でフェーズを更新してしまう。結果として、パイプライン管理の精度が低下し、売上予測が外れる。
失敗例2: リード引き渡し基準がないまま運用
マーケティングからインサイドセールスへ、インサイドセールスからフィールドセールスへの引き渡し基準が不明確。「温まっていないリード」が営業に渡され、営業の不満が蓄積する。
失敗例3: 一度作って放置
営業パスを設計したものの、市場環境や商材の変化に合わせて見直しをしない。設計時と現状が乖離し、形骸化する。
商談フェーズだけの設計が属人化を招く理由
商談フェーズの設計だけでは属人化を防げない理由は、営業パスの入り口—つまりリードの引き渡し基準—が曖昧だからです。
SQL(Sales Qualified Lead) とは、営業がアプローチすべきと判断された、一定の基準を満たしたリードのことです。このSQL基準が明確でないと、インサイドセールス担当者の経験則でリード判断がばらつき、フィールドセールスに渡るリードの品質に差が生じます。
具体的には以下の問題が発生します。
- ISの判断基準がバラバラで、FSに渡るリード品質が不安定
- FSが「このリードは質が低い」と感じ、フォローを後回しにする
- リードの放置が増え、せっかくの商談機会を逃す
- 結果として、優秀な営業担当者だけが成果を出す属人的な状態が続く
商談フェーズの設計と同時に、リード引き渡し基準の設計が不可欠です。
部門横断で設計する営業パスの全体像
営業パス設計は、マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールスという一連の流れを、一気通貫で設計することが重要です。
前述の通り、85%の購買担当者が営業との初回面談前に候補を絞り込んでいます。この事実は、非対面フェーズ(マーケティング施策やインサイドセールスの対応)の設計が、商談の勝敗を左右することを示しています。
IS(インサイドセールス)/FS(フィールドセールス)分業とは、ISがリード精査・ナーチャリングを担当し、FSが商談以降を担当する営業体制です。この分業体制を前提に、各フェーズの引き渡し基準を明確にすることが、部門横断の営業パス設計の要です。
ただし、IS/FS分業体制は企業規模や業種によって適合性が異なります。従業員数が少ない企業では、1人が複数の役割を担うケースもあるため、自社の状況に合わせた設計が必要です。
【チェックリスト】営業パス設計チェックリスト(MA/SFA連携対応)
- ターゲット顧客のカスタマーパス(購買プロセス)を言語化している
- マーケティングからISへのリード引き渡し基準(MQL基準)を定義している
- ISからFSへのリード引き渡し基準(SQL基準)を定義している
- SQL基準に「課題認識」「予算」「決裁者」「導入時期」の要素を含めている
- 商談フェーズを5〜7段階で定義している
- 各フェーズの移行条件(上昇ルール)を明文化している
- フェーズダウンの条件(下降ルール)を明文化している
- 案件除外の条件(除外ルール)を明文化している
- MAツールでリード行動履歴を取得できる状態にしている
- SFAで商談フェーズと活動履歴を記録できる状態にしている
- MA/SFA間のデータ連携が設定されている
- リードスコアリングの基準を設定している
- 営業パスの見直しサイクル(四半期・半期など)を決めている
- パス設計の責任者を明確にしている
- 営業担当者へのパス運用トレーニングを実施している
MA/SFA連携によるリード引き渡し基準の設計
MA/SFA連携によるリード引き渡し基準の設計では、リードの行動履歴とスコアリングを活用して、客観的な引き渡し条件を設定します。
マイクロコンバージョンとは、最終コンバージョン(商談予約等)前の段階的なコンバージョンポイント(資料請求、ホワイトペーパーDL等)のことです。いきなり商談予約を求めるのではなく、マイクロコンバージョンを段階的に設計することで、リードの温度感を測定できます。
リード引き渡し基準の設計例を示します。
MQL基準(マーケティング→IS)の例:
- 資料請求またはセミナー参加
- 企業規模が従業員50名以上
- 過去30日以内にWebサイトを3回以上訪問
- スコアが50点以上
SQL基準(IS→FS)の例:
- 課題・ニーズが明確に言語化されている
- 予算感が確認できている
- 意思決定者または影響者との接点がある
- 導入検討時期が6ヶ月以内
- ISとの面談(電話・Web)を1回以上実施
これらの基準を明文化し、MA/SFAに設定することで、担当者の経験則に依存しない引き渡しが可能になります。
商談フェーズの設計方法と運用ルール
商談フェーズの設計では、顧客の意思決定プロセスに対応する形で、フェーズを5〜7段階に分けることが一般的です。
前述のIDEATECH調査でも、見える化により「商談質向上」44.3%の効果が期待されています。商談フェーズを適切に設計し、各フェーズの移行条件を明確にすることで、パイプライン管理の精度が向上します。
フェーズ設計では、以下の3種類のルールを定義することがポイントです。
- 上昇ルール: 次のフェーズに進む条件
- 下降ルール: 前のフェーズに戻す条件
- 除外ルール: パイプラインから除外する条件
【比較表】商談フェーズ別アクション定義表
| フェーズ | 定義 | 営業アクション | 移行条件(上昇ルール) |
|---|---|---|---|
| 1. 初回接点 | ISからFSへ引き渡し直後 | 顧客課題のヒアリング、自社サービス概要説明 | 顧客の課題と自社サービスの適合性を確認 |
| 2. ニーズ確認 | 課題と要件が明確化 | 詳細ヒアリング、要件整理 | 顧客が具体的な要件を言語化、予算感を確認 |
| 3. 提案準備 | 提案書作成中 | 提案書作成、社内レビュー | 提案書が完成し、プレゼン日程が確定 |
| 4. 提案実施 | 提案プレゼン完了 | プレゼン実施、質疑応答 | 顧客から具体的なフィードバックを取得 |
| 5. 交渉中 | 条件交渉中 | 価格・条件の調整、契約書準備 | 契約条件の合意、決裁プロセス開始 |
| 6. 受注確定 | 契約締結 | 契約書締結、導入準備開始 | 契約書の署名完了 |
下降ルールの例:
- 提案後30日以上進展がない → ニーズ確認フェーズに戻す
- 決裁者が変更になった → 交渉中から提案準備に戻す
除外ルールの例:
- 予算が確保できないことが確定 → 除外(将来リードとして保管)
- 競合に決定 → 除外(失注分析を実施)
- 担当者と連絡が取れない状態が60日以上継続 → 除外
フェーズごとのアクション定義と判断基準
各フェーズで営業が取るべきアクションと、フェーズ移行の判断基準を具体化することで、フェーズの形骸化を防ぎます。
重要なのは、フェーズ移行の判断基準を「顧客の行動」に紐づけることです。「営業がプレゼンした」ではなく「顧客から具体的なフィードバックを取得した」というように、顧客側のアクションを条件にすることで、客観的な判断が可能になります。
フェーズの形骸化を防ぐためのポイントは以下の通りです。
- フェーズ移行時に、移行理由をSFAに記録することをルール化する
- 週次または隔週で、マネージャーがパイプラインレビューを実施する
- 長期停滞案件(同一フェーズに30日以上)を定期的に洗い出し、対策を検討する
- 四半期ごとにフェーズ定義と移行条件を見直す
まとめ|営業パス設計で属人化を脱却し受注率を高める
本記事では、営業パス設計の全体像と、MA/SFA連携を含む部門横断の設計方法を解説しました。
38.5%の企業が「営業プロセスが属人化している」と回答している現状で、自社もこの中に入っていないか確認することが重要です。商談フェーズの設計だけでなく、マーケティングやインサイドセールスからのリード引き渡し基準を含めた一気通貫の設計が、属人化脱却の鍵となります。
営業パス設計のポイントを整理します。
- カスタマーパス(顧客の購買プロセス)を理解した上で、営業側のアクションを設計する
- MQL基準・SQL基準を明文化し、リード引き渡しの品質を安定させる
- 商談フェーズは上昇・下降・除外の3種類のルールを定義する
- MA/SFA連携でリード行動履歴を可視化し、客観的な判断基準を設ける
- 設計後も定期的に見直しサイクルを回す
営業パス設計は、商談フェーズの設計だけでなく、マーケティングからのリード引き渡し基準やSFA連携までを含む部門横断の設計を専門家と共に構築することで、受注率向上と属人化脱却につながります。自社だけで進めようとして形骸化するリスクを避けるためにも、外部の専門家の知見を活用することを検討してみてください。
