パイプライン管理が「導入しただけ」で終わる問題
実は、営業パイプライン管理は、概念を理解するだけでなく、SFA/CRMの設定・運用フロー・入力ルールまで実装設計することで、売上予測の精度向上とボトルネック改善のサイクルが回せるようになります。
この記事で分かること
- パイプライン管理の基本概念と重要用語
- パイプライン管理を実践するメリット
- パイプライン管理が形骸化する原因と対策一覧
- SFAを活用したパイプライン管理の実践チェックリスト
多くのBtoB企業がSFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)を導入しています。HubSpot Japanの「日本の営業に関する意識・実態調査2025」によると、従業員数51〜5,000名の企業を対象とした調査でCRMソフトウェア導入率は37.2%に達しています(2024年時点)。
しかし、パイプライン管理の概念やメリットを理解してSFAを導入したものの、入力ルールや運用フローが設計されていないため、データが蓄積されず結局Excelでの管理に逆戻りする企業は少なくありません。または、SFAに入力はされるが分析・改善アクションに繋がらず形骸化するケースも多くあります。これは「よくある失敗パターン」です。
IDEATECHの2025年調査(BtoB営業対象)では、属人化に悩む営業が38.5%いるという結果が出ています(自己申告ベースの調査)。パイプライン管理が機能していれば解消できるはずの属人化が、依然として課題になっているのが現状です。
本記事では、パイプライン管理の基本概念だけでなく、「形骸化パターンと対策」「SFA活用チェックリスト」を含む実装視点での解説を行います。
パイプライン管理とは?基本概念と重要用語
パイプライン管理とは、営業プロセス(リード獲得から受注まで)を細分化したフェーズで可視化・数値化し、各ステージのデータを分析・改善するマネジメント手法です。売上予測の精度向上やボトルネック発見に活用されます。
パイプライン管理を理解するうえで重要な用語を整理します。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得・育成され、営業へ引き渡す基準を満たしたリードを指します。Webサイトからの問い合わせや資料ダウンロードなど、マーケティング部門が「営業にフォローしてほしい」と判断したリードです。
SQL(Sales Qualified Lead) とは、営業がフォロー対象として認定し、商談化の可能性が高いリードです。MQLから営業が実際にアプローチし、商談の見込みがあると判断されたものがSQLとなります。
SFA(Sales Force Automation) とは、営業活動の自動化・効率化を支援するシステムです。顧客情報・商談進捗・活動履歴を一元管理し、パイプライン管理の基盤となります。
パイプラインの主要フェーズ
一般的なパイプラインは、以下のようなフェーズで構成されます。
- リード獲得
- MQL(マーケティング認定リード)
- SQL(営業認定リード)
- 商談
- 提案
- 交渉
- 受注
ただし、フェーズの定義は企業によって異なります。自社の営業プロセスに合わせて、各フェーズの定義と進捗基準を明確にすることが重要です。
パイプライン管理のメリット
パイプライン管理を実践することで、売上予測の精度向上、ボトルネックの発見、営業活動の可視化といったメリットが得られます。
Mail Marketing Labの2025年調査(紹介主力企業対象)によると、新規開拓KPI未設定の企業が59.0%、新規開拓を「ほぼ手動」で行う企業が61.5%という結果が出ています。パイプライン管理を導入することで、こうした「KPI不在」「手動管理」の状態から脱却できる可能性があります。
また、2025年のグローバル調査では、84%のB2B営業担当者がノルマ未達、営業プロセスの86%が停滞しているという結果も報告されています。ただし、これはグローバルデータのため、日本市場への直接適用には注意が必要です。日本の商習慣や長期関係重視の文化を考慮すると、数値は異なる可能性があります。
売上予測の精度向上
パイプラインデータを活用することで、売上予測の精度向上が期待できます。
基本的な考え方は、各フェーズの案件数に転換率を掛け合わせて、将来の受注見込みを算出するというものです。フェーズごとのデータが正確に蓄積されていれば、より精度の高い売上予測が可能になります。
ただし、予測精度はデータの質に依存します。入力が徹底されていない、フェーズの定義が曖昧といった状態では、予測の精度も低くなります。
ボトルネックの発見と改善
パイプライン管理では、フェーズ間の転換率を分析することで、どこに課題があるかを特定できます。
転換率が低いフェーズがボトルネックです。例えば「提案→交渉」の転換率が低い場合、提案内容の見直しや価格設定の改善が必要かもしれません。「SQL→商談」の転換率が低い場合は、リードの質やアプローチ方法に課題がある可能性があります。
ボトルネックを特定し、改善施策を実行し、効果を測定するサイクルを回すことで、営業プロセス全体の改善が進みます。
パイプライン管理が形骸化する原因と対策
パイプライン管理が「概念を理解しただけ」で終わり、実際には機能していないケースが多くあります。形骸化の主な原因と対策を以下に整理します。
バイヤーイネーブルメントとは、購買者が意思決定を進めやすいように、必要な情報やツールを提供し購買体験を支援する手法です。マツリカの「Japan Sales Report 2022-Buying Study」によると、承認プロセスサポート不足で購買中止が2.7倍になるという調査結果が報告されています。パイプライン管理だけでなく、顧客の購買プロセス支援も重要な視点です。
【比較表】パイプライン管理の形骸化パターンと対策一覧
| 形骸化パターン | 発生原因 | 対策 |
|---|---|---|
| データ入力が徹底されない | 入力項目が多すぎる、入力タイミングが不明確 | 入力項目を必要最小限に絞る、入力タイミングを明確化する |
| フェーズ定義が曖昧 | 進捗基準が文書化されていない、担当者により判断が異なる | フェーズ定義と進捗基準を文書化し共有する |
| 分析・改善に使われない | レポートを見る習慣がない、改善アクションに繋がらない | 週次レビューを設定し、データに基づく改善を習慣化する |
| 結局Excelに戻る | SFAの操作が複雑、リアルタイム性がない | SFAの設定を見直す、モバイル対応を活用する |
| 営業担当者の抵抗 | 入力の負担が増える、メリットが見えない | 入力負担の軽減、成果への貢献を可視化する |
| マネージャーが活用しない | ダッシュボードが設定されていない、見方が分からない | ダッシュボードを整備し、活用方法を研修する |
SFAを導入したが入力が徹底されずExcelに逆戻りする、入力はされるが分析・改善アクションに繋がらず形骸化するという状態では、パイプライン管理の効果は得られません。上記の表を参考に、自社の状況を点検してください。
入力が定着しない問題への対応
データ入力が徹底されない問題は、多くの企業で共通の課題です。以下の対策が有効とされています。
入力項目の絞り込み: 必須項目を本当に必要なものだけに限定します。項目が多すぎると入力の負担が増え、定着しにくくなります。
入力タイミングの明確化: 「商談後すぐに入力する」「日報代わりに毎日入力する」など、具体的なタイミングを決めて運用ルール化します。
モバイル対応の活用: 外出先でも入力できる環境を整えることで、入力のハードルを下げられます。
入力のメリットを可視化: 入力したデータが実際に活用されている(売上予測に使われている、ボトルネック発見に役立っている)ことを営業担当者にフィードバックします。
SFAを活用したパイプライン管理の実践
SFA/CRMを活用してパイプライン管理を機能させるためには、ツールの導入だけでなく、運用設計が重要です。
参考データとして、矢野経済研究所の2018年調査(日本国内528社対象)では、CRM/SFA導入率は33.8%(2012年の22.5%から増加)でした。ただし、2018年の調査のため、2025年現在のCRM導入率とは乖離がある可能性があります。
また、DX Drive 2025レポートでは、エンタープライズ企業でパイプライン規模が5〜6倍拡大した事例が報告されています。ただし、これは単一レポートの事例のため、一般化には注意が必要です。
以下のチェックリストを活用して、自社のSFA活用状況を点検してください。
【チェックリスト】パイプライン管理SFA活用チェックリスト
- パイプラインのフェーズ定義が明確になっている
- 各フェーズの進捗基準が文書化されている
- 必須入力項目が必要最小限に絞られている
- 入力タイミングのルールが決まっている
- 入力ルールが全営業担当者に周知されている
- 週次でパイプラインレビューを実施している
- ダッシュボードで主要KPIが可視化されている
- フェーズ間の転換率を定期的に確認している
- ボトルネックに対する改善アクションを実行している
- 改善施策の効果を追跡している
- 営業担当者が入力のメリットを理解している
- マネージャーがデータに基づいてコーチングしている
- 売上予測にパイプラインデータを活用している
- 予測と実績の差異を分析している
- 定期的に運用ルールを見直している
上記のチェック項目で「できていない」ものがあれば、そこが改善のポイントです。
週次レビューと改善サイクルの設計
パイプラインデータを継続的な改善につなげるには、週次レビューの設計が重要です。
週次レビューの内容
- パイプライン全体の案件数・金額の確認
- 各フェーズの転換率の確認
- 停滞している案件の洗い出し
- ボトルネックの特定と改善アクションの決定
改善サイクル
- 週次レビューでデータを確認
- ボトルネックを特定
- 改善アクションを決定・実行
- 翌週以降で効果を確認
ダッシュボードでリアルタイムKPIを確認できる環境を整えることで、問題の早期発見と迅速な対応が可能になります。
まとめ:パイプライン管理は「実装設計」で機能する
本記事では、営業パイプライン管理の基本概念から、形骸化を防ぐための実践的なポイントまでを解説しました。
パイプライン管理を機能させるためのポイントは以下の3点です。
- フェーズ定義と入力ルールの明確化: 曖昧な定義のまま運用を始めると形骸化しやすい
- 週次レビューの習慣化: データを見て終わりではなく、改善アクションにつなげる
- 形骸化パターンへの対策: 本記事で紹介した対策表と照合し、自社の課題を特定する
SFAを導入したが入力が徹底されずExcelに逆戻りする、入力はされるが分析・改善アクションに繋がらず形骸化するという状態では、パイプライン管理の効果は得られません。
繰り返しになりますが、営業パイプライン管理は、概念を理解するだけでなく、SFA/CRMの設定・運用フロー・入力ルールまで実装設計することで、売上予測の精度向上とボトルネック改善のサイクルが回せるようになります。本記事で紹介したチェックリストと形骸化パターン対策表を活用して、自社のパイプライン管理を見直してください。
