SaaS分業体制を導入しても成果が出ない企業の共通点
SaaS企業の分業体制は、THE MODEL型の役割分担を理解した上で、部門間のデータ連携(MA/SFA)と運用ルール(SLA)を整備することで、セクショナリズムを防ぎ成果を出せる——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
国内SaaS市場は2024年1.4兆円から2028年には2兆円(約1.5倍)に拡大する見込みとされています(IDC Japan調査をOne Capital「Japan SaaS Insights 2025」が引用)。市場拡大に伴い、多くのSaaS企業がTHE MODEL型の分業体制を導入していますが、成果が出ている企業とそうでない企業の差が広がっています。
ARR(Annual Recurring Revenue) は、年間経常収益を指し、サブスクリプションビジネスの成長指標として重要です。ARR300億円超の上位SaaS企業は年率25%以上の成長を維持している一方、中位以下では10%未満の成長にとどまる企業も出始めています(上場SaaS企業ARR分析2025)。この二極化の背景には、分業体制の「質」の差があると考えられます。
THE MODELとは、マーケ→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの分業で、SaaSのLTV最大化と再現性の高い成長を狙うモデルです。しかし、分業体制を導入しただけでは成果につながりません。
この記事で分かること
- THE MODEL型分業体制の各部門役割とKPI設計
- 分業体制のメリットと導入効果(事例ベース)
- 分業体制が形骸化する原因と対策
- MA/SFAデータ連携と運用ルール(SLA)設計の実践方法
- 分業体制の運用チェックリスト
THE MODEL型分業体制とは|各部門の役割とKPI設計
THE MODEL型分業体制は、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの4部門が連携し、リードの獲得から受注、継続利用までを一貫して管理するモデルです。各部門が専門領域に集中することで、効率的な営業活動と再現性の高い成長を実現することを目指します。
ただし、各部門の役割とKPIを明確にしておかなければ、部門間の対立やリードの滞留が発生しやすくなります。以下に、各部門の役割とKPIの目安を比較表として整理します。
【比較表】THE MODEL型分業の各部門役割・KPI比較表
| 部門 | 役割 | 主なKPI | 次部門への引き継ぎ条件 |
|---|---|---|---|
| マーケティング | リード獲得・認知拡大 | リード獲得数、MQL数、CPL | スコアリング条件を満たしたMQL |
| インサイドセールス(IS) | MQLのヒアリング・商談化 | 架電数、商談化数、MQL→SQL転換率 | BANT条件を満たしたSQL |
| フィールドセールス(FS) | 商談・クロージング | 商談数、受注数、SQL→受注率 | 受注・契約締結完了 |
| カスタマーサクセス(CS) | オンボーディング・継続支援 | NRR、解約率、アップセル額 | - |
※KPIの数値目安は商材単価・営業スタイルにより大きく変動するため、自社データでの検証が必要です。
マーケティング・インサイドセールスの役割
マーケティング部門は、見込み顧客(リード)の獲得と認知拡大を担当します。広告、コンテンツマーケティング、ウェビナー、展示会などの施策を通じてリードを獲得し、一定の条件を満たしたリードをMQLとしてインサイドセールスに引き渡します。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング施策で獲得し、一定の条件を満たした見込み顧客を指します。スコアリング(行動履歴や属性によるポイント付与)で基準を超えたリードがMQLとなります。
インサイドセールス(IS)は、MQLに対して電話やメールでヒアリングを行い、商談化の見込みがあるリードをSQL(Sales Qualified Lead) として営業に引き渡します。SQLとは、インサイドセールスがヒアリング・スコアリングし、商談化条件を満たすと判定された見込み顧客です。
国内BtoB SaaSでは、MQL→SQL転換率は10〜30%程度が業界の目安とされています(各社事例・業界レポート横断)。ただし、この数値は商材単価や営業スタイルにより大きく変動するため、自社データでの検証が不可欠です。
フィールドセールス・カスタマーサクセスの役割
フィールドセールス(FS)は、SQLに対して商談を行い、クロージング(受注獲得)を担当します。SQL→受注率は20〜40%程度を目標値として設定するケースが多いとされています(各社インタビュー・事例ベース)。
カスタマーサクセス(CS)は、受注後のオンボーディング、活用支援、継続利用の促進を担当します。NRR(Net Revenue Retention) は、既存顧客からの売上維持率を指し、解約・ダウングレード・アップセルを含めた正味の売上継続率です。SaaS企業にとってNRRの向上は成長の重要な鍵となります。
分業体制のメリットと導入効果|事例ベースで見る成果
分業体制を適切に導入・運用することで、営業効率の向上や商談数の増加といった効果が期待できます。ただし、効果の大きさは企業の状況や運用体制により異なります。
国内SaaS市場は2024年度2兆218億円、対前年度比116.7%成長という調査結果があります(富士キメラ総研)。市場拡大に伴い、分業体制を整備する企業が増加しています。
分業体制のメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 専門性の向上: 各部門が専門領域に集中することで、スキルの深化と効率化が進む
- 再現性の確保: 属人的な営業スタイルから脱却し、組織として成果を再現できる
- ボトルネックの可視化: ファネルの各ステージでKPIを計測することで、課題箇所を特定しやすくなる
ベンダー事例ベースでは、インサイドセールス+フィールドセールス分業により、フィールドセールス1人あたりの月間商談数が約1.5〜2倍になった事例が報告されています(各社導入事例集)。ただし、この数値は公的統計ではなく、成功事例のみが抽出されやすいバイアスがある点に注意が必要です。効果は企業の状況、商材、運用体制により大きく異なります。
分業体制が形骸化する原因|サイロ化とKPI最適化の罠
分業体制が形骸化する最大の原因は、各部門がサイロ化して自部門のKPIだけを追い、リードの引き継ぎルールやデータ連携が曖昧なまま運用されることです。この考え方では分業の効果を発揮できません。
よくある失敗パターンとして、以下のようなケースがあります。
- マーケティングはMQL数を達成しても、そのリードが商談化するかを検証しない
- インサイドセールスは架電数・アポ数を追うが、受注に結びつくSQLの質を見ていない
- フィールドセールスは「マーケからのリードの質が悪い」と主張し、部門間対立が生じる
- 各部門がMAとSFAを別々に運用し、データが分断される
THE MODEL型の分業体制を導入しても、各部門がサイロ化してKPIだけを追い、リードの引き継ぎルールやデータ連携が曖昧なまま運用した結果、部門間の対立が生じ成果が出ない——このパターンは誤りであり、分業の効果を発揮できません。
また、「MAスコアが高い=商談化しやすい」とは限りません。スコアリングの設計が実際の受注データと検証されていなければ、スコアの意味がなくなります。
部門間でデータが分断されるパターン
MA/SFAデータが連携されていない場合、以下のような問題が発生します。
- MQLからSQLへの転換率、SQLから受注への転換率が正確に計測できない
- どのマーケティング施策が受注に貢献したかが不明
- スコアリングの精度を検証・改善するフィードバックループがない
結果として、各部門が自部門KPIだけを最適化し、全体としては非効率な状態が続きます。これが「分業体制を導入したのに成果が出ない」原因の多くを占めています。
MA/SFAデータ連携と運用ルール(SLA)設計で分業を機能させる
分業体制を機能させるためには、MA/SFAデータ連携と部門間SLA(サービスレベルアグリーメント)の設計が不可欠です。MQL/SAL/SQL/受注の共通定義をMA・SFA双方で統一し、双方向同期を設計することで、ファネル全体を一気通貫で計測できるようになります。
以下に、分業体制の運用チェックリストを提供します。
【チェックリスト】分業体制の運用チェックリスト(MA/SFA連携・SLA設計)
- MQLの定義を明文化している(スコアリング条件、属性条件など)
- SQLの定義を明文化している(BANT条件、商談化基準など)
- MQL定義・SQL定義がMA・SFA双方に設定されている
- MAからSFAへのリード情報自動連携が設定されている
- SFAからMAへの商談結果フィードバックが設定されている
- MQL→SQL転換率を定期的に計測している
- SQL→受注率を定期的に計測している
- 施策別の受注貢献度を分析できる仕組みがある
- ISからFSへのリード引き継ぎ条件が明確である
- ISからFSへの引き継ぎSLA(対応期限など)が設定されている
- マーケ→IS→FS間で定期的なフィードバックMTGを実施している
- スコアリングの精度を受注データで検証・改善している
- 商談不成立時の失注理由がSFAに記録されている
- 失注理由をマーケ施策・ターゲティングにフィードバックしている
MQL→SQL→受注を一気通貫で計測する仕組み
MAとSFAを連携し「MQL→SQL→受注」を一気通貫で計測することで、分業体制の形骸化を防げます。具体的には、以下の設計が重要です。
- 共通ID管理: MAとSFAでリードを一意に識別できるIDを統一する
- ステージ定義の標準化: MQL、SAL(Sales Accepted Lead)、SQL、受注、失注などのステージをツール間で統一する
- 双方向同期: MAからSFAへのリード情報連携だけでなく、SFAからMAへの商談結果連携も設計する
部門間SLAの設計ポイント
SLA(サービスレベルアグリーメント)とは、部門間でのリード引き継ぎの条件・タイミング・責任範囲を明確にする取り決めです。
- 引き継ぎ条件: どのような条件を満たしたリードを引き渡すか(例: BANT条件を満たすSQL)
- 対応期限: 引き継ぎを受けた側がいつまでに対応するか(例: 24時間以内に初回コンタクト)
- フィードバック義務: 商談結果や失注理由を前工程に共有する責任
SLAを設計し運用することで、「リードを渡しても対応されない」「質が悪いリードばかり来る」といった部門間の不満を解消し、全体最適の視点で分業体制を機能させることができます。
まとめ|SaaS分業体制成功のカギはデータ連携と運用設計
本記事では、SaaS企業における分業体制の基本概念から、形骸化の原因と対策、MA/SFAデータ連携と運用ルール設計まで解説しました。
要点を整理すると、以下のとおりです。
- THE MODEL型分業体制は、マーケ→IS→FS→CSの4部門連携でLTV最大化を狙うモデル
- MQL→SQL転換率は10〜30%程度、SQL→受注率は20〜40%程度が業界の目安(自社検証が必要)
- 分業体制導入だけでは成果が出ない——データ連携と運用ルール整備が不可欠
- 各部門がサイロ化してKPIだけを追う状態では、分業の効果を発揮できない
- MA/SFAデータ連携とSLA設計で、ファネル全体を一気通貫で計測・改善する
ARR300億円超の上位SaaS企業が年率25%以上の成長を維持する一方、中位以下では10%未満にとどまる企業も出始めています。この二極化の中で、分業体制の「質」が成長を左右する要因となっています。
SaaS企業の分業体制は、THE MODEL型の役割分担を理解した上で、部門間のデータ連携(MA/SFA)と運用ルール(SLA)を整備することで、セクショナリズムを防ぎ成果を出せます。まずは本記事のチェックリストを活用し、自社の分業体制の現状を点検してみてください。
