SaaS組織設計|縦割り化を防ぐTHE MODELとRevOps実践法

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2026/1/1912分で読めます

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SaaS企業の成長において、組織設計は避けて通れない課題だ。THE MODELを導入したものの、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの部門間連携がうまくいかず、「縦割り化」が進んでしまうケースは珍しくない。

Gartnerの予測によると、2026年には高成長SaaS企業の75%がRevOps(レベニューオペレーション)を採用する見込みとされている(グローバルデータのため、日本市場への直接適用には検証が必要)。この数字が示すのは、単なる分業体制の構築だけでは不十分であり、部門横断でのデータ連携と業務プロセス設計が不可欠だということだ。

本記事では、SaaS組織設計の基本から、フェーズ別の最適な体制、そしてサイロ化を防ぐための具体的な施策までを解説する。

SaaS組織設計で「縦割り化」が起きる背景と課題

SaaS企業が成長フェーズに入ると、多くの企業がTHE MODELを参考に分業体制を構築する。マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが商談化し、フィールドセールスがクロージングし、カスタマーサクセスが継続利用を支援するという流れだ。

しかし、この分業体制を「形だけ」導入してしまうと、各部門がそれぞれのKPIだけを追いかけ、部門間の連携が希薄になる。マーケティングはリード数だけを追い、インサイドセールスは商談数だけを追い、フィールドセールスは受注数だけを追う。結果として、リードの質が低下したり、商談情報が引き継がれなかったり、顧客の声が営業やマーケに届かなかったりする。

この「縦割りサイロ化」は、SaaS組織が陥りやすい典型的な失敗パターンだ。部門を分けること自体が目的化し、本来の目的である「顧客への価値提供」と「収益の最大化」が見失われてしまう。

こうした課題を解決するアプローチとして注目されているのがRevOps(レベニューオペレーション)だ。RevOpsは、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスを横断してデータを統合し、収益全体を軸としたKPIを設定する考え方である。前述のGartner予測が示すように、グローバルではRevOps採用が急速に進んでいる。

THE MODELとレベニュー組織の基本|役割と連携の仕組み

THE MODELは、セールスフォース・ドットコムで体系化された営業プロセスのフレームワークだ。日本では福田康隆氏の著書によって広く知られるようになり、多くのSaaS企業が採用している。

THE MODELの基本構造は、営業プロセスを4つの機能に分業化し、各段階で定量的なKPIを設定することにある。

マーケティングは、リード獲得を担う。Webサイト、セミナー、広告、コンテンツマーケティングなどを通じて見込み顧客を集め、MQL(Marketing Qualified Lead)として営業部門に引き渡す。MQLとは、マーケティング部門が「営業対応に値する」と判断したリードのことだ。

インサイドセールス(IS) は、MQLに対して電話やメールでアプローチし、ニーズの確認と商談化を行う。商談化したリードはSQL(Sales Qualified Lead)としてフィールドセールスに引き渡される。SQLとは、インサイドセールスが「具体的な商談として進められる」と判断したリードだ。

フィールドセールス(FS) は、SQLに対して対面またはオンラインで商談を進め、クロージングを担う。提案、見積もり、契約締結までを責任範囲とする。

カスタマーサクセス(CS) は、契約後の顧客対応を担う。オンボーディング支援、活用促進、解約防止(リテンション)、そしてアップセル・クロスセルの機会創出までを担当する。

マーケティング・IS・FS・CSの役割分担

これら4部門の連携において重要なのが、SLA(Service Level Agreement)の設計だ。SLAとは、部門間で取り交わす「引き渡し条件」と「対応基準」のことである。

例えば、マーケティングからインサイドセールスへの引き渡しでは、「MQLの定義」を明確にする必要がある。どのような行動をとったリードをMQLとするのか、スコアリングの基準は何か、引き渡し後の対応期限は何時間以内か、といった取り決めだ。

同様に、インサイドセールスからフィールドセールスへの引き渡しでは、「SQLの定義」と「商談情報の引き継ぎ項目」を明確にする。BANT(Budget、Authority、Needs、Timeline)の確認状況、競合情報、顧客の課題感などを標準化されたフォーマットで引き継ぐことで、商談の質を担保する。

このSLA設計が曖昧なまま分業体制を構築すると、部門間の摩擦が生じやすい。「マーケが送ってくるリードの質が低い」「インサイドセールスの商談化率が悪い」といった相互批判が起こり、縦割り化が加速する。

事業フェーズ別の最適な組織体制|スタートアップ期から成熟期まで

SaaS組織の最適な体制は、事業フェーズによって大きく異なる。スタートアップ期に大企業の組織体制を真似ても機能しないし、逆に成長期に創業期の体制を維持し続けると成長のボトルネックになる。

以下に、フェーズ別の組織体制の特徴を整理する。

フェーズ 従業員規模目安 組織構成 主要KPI 優先課題
シード期 〜10名 創業者が営業兼任、専任営業1〜2名 MRR、顧客獲得数 PMF検証、初期顧客獲得
アーリー期 10〜30名 マーケ・セールス分離開始、CS萌芽 MRR成長率、解約率 リード獲得の仕組み化、CS立ち上げ
グロース期 30〜100名 THE MODEL型4部門体制 各段階の転換率、LTV 部門間連携、採用・育成
スケール期 100名〜 RevOps導入、専門チーム細分化 NRR、営業効率指標 データ統合、組織間最適化

ある企業の事例では、THE MODEL型の分業化を導入した結果、商談化率が約2倍に向上したという報告がある(個別企業事例のため、一般化には注意が必要)。これは、インサイドセールスが商談化に集中できるようになったこと、MQL/SQLの定義を明確化したことが要因として挙げられている。

フェーズ移行時の注意点

フェーズ移行時に最もよくある失敗は、「人数を増やせば解決する」という思い込みだ。インサイドセールスの生産性が低いからといって人数を増やしても、プロセスが整備されていなければ同じ問題が拡大するだけだ。

重要なのは、人員追加の前にプロセス設計を行うことである。具体的には以下の点を確認すべきだ。

  • リードの流入経路と質のばらつきは把握できているか
  • MQL/SQLの定義は明文化され、全員が理解しているか
  • 部門間の引き渡しルールは運用されているか
  • 各段階のボトルネックはデータで可視化されているか

これらが整備されていない状態で人員を追加しても、「属人的なやり方」が複製されるだけで、組織としてのスケーラビリティは向上しない。

形だけの分業化が失敗する理由|サイロ化を防ぐデータ連携設計

THE MODELを「形だけ」導入して失敗するケースの多くは、データ連携の設計が後回しにされているのが原因だ。部門を分け、役職を作り、KPIを設定しても、各部門が別々のツールで別々のデータを管理していては、組織全体での最適化はできない。

例えば、マーケティングがMAツールでリード管理を行い、営業がSFAで商談管理を行い、カスタマーサクセスが独自のスプレッドシートで顧客対応を記録しているケースは珍しくない。この状態では、「このリードはどの施策から来て、どんな商談を経て、現在どのような利用状況にあるのか」という一気通貫の顧客理解ができない。

RevOps(レベニューオペレーション)の考え方は、この問題に対する解答だ。RevOpsでは、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスのデータを統合し、収益全体を軸としたKPI設計を行う。各部門の部分最適ではなく、顧客ライフサイクル全体での最適化を目指す。

ある企業では、MA/SFA一体型のツールを導入した結果、営業報告書の作成時間が半減したという事例がある(ベンダー提供事例のため、成功バイアスがある可能性に注意)。これは単なる業務効率化だけでなく、営業がデータ入力に費やす時間を顧客対応に振り向けられるようになったという意味でもある。

MA/SFA連携と部門間SLAの設計

ツール連携を成功させるためには、「ツールを導入すればデータ連携が実現する」という誤解を捨てる必要がある。ツールはあくまで器であり、その中に何をどう入れるかは人間が設計しなければならない。

具体的には、以下の設計が必要だ。

データ項目の標準化:リード情報として何を記録するのか、商談情報として何を引き継ぐのか、顧客情報として何を蓄積するのかを標準化する。部門ごとに「あれば便利」という項目を追加し続けると、データ入力の負荷が上がり、結局入力されなくなる。必須項目を絞り込み、確実に運用できる設計にすることが重要だ。

SLAの運用ルール化:部門間のSLAは、作って終わりではなく運用して初めて意味を持つ。週次または月次でSLAの遵守状況をレビューし、問題があれば改善策を議論する場を設ける。SLAを「絵に描いた餅」にしないための仕組みが必要だ。

責任範囲の明確化:データの入力責任、更新責任、品質管理責任を明確にする。「誰かがやるだろう」という曖昧さを排除し、各データ項目にオーナーを設定する。

スケーラブルなSaaS組織構築のチェックリスト

ここまでの内容を踏まえ、フェーズ移行に対応できるスケーラブルな組織基盤を構築するためのチェックリストを提示する。自社の状況と照らし合わせ、未整備の項目から優先的に着手してほしい。

SaaS組織構築チェックリスト

  • 部門役割の明文化:マーケティング・IS・FS・CSそれぞれの責任範囲と権限が文書化されているか
  • MQL定義の設定:どのような行動・属性のリードをMQLとするか、基準が明確か
  • SQL定義の設定:商談化の判断基準(BANT等)が明確で、全員が理解しているか
  • 部門間SLAの策定:リード引き渡しの条件、対応期限、引き継ぎ項目が取り決められているか
  • SLA運用の仕組み化:SLA遵守状況を定期的にレビューする場が設けられているか
  • MA/SFA連携の実装:マーケティングと営業のデータが連携され、一気通貫で追跡できるか
  • データ項目の標準化:リード・商談・顧客情報の記録項目が標準化されているか
  • KPIダッシュボードの整備:各段階の転換率がリアルタイムで可視化されているか
  • CS組織の構築:カスタマーサクセスの専任担当またはチームが存在するか
  • 解約分析の仕組み化:解約理由を収集・分析し、プロダクトや営業にフィードバックする仕組みがあるか

カスタマーサクセス組織の立ち上げポイント

チェックリストの中でも、特にCS組織の構築は多くの企業で後回しにされがちだ。新規獲得に注力するあまり、既存顧客のケアが疎かになるケースは少なくない。

しかし、SaaSビジネスにおいてCSの重要性は極めて高い。ある企業では、カスタマーサクセス起点のアプローチにより、アップセル率が3倍に向上したという事例がある(個別事例のため、一般化には注意が必要)。既存顧客からの追加収益は、新規獲得よりも効率が良いことが多い。

CS組織立ち上げのポイントは以下の通りだ。

オンボーディングの標準化:契約直後の顧客体験を設計し、初期の成功体験を提供する。ここでつまずくと、その後の活用度が低迷し、解約リスクが高まる。

ヘルススコアの設計:ログイン頻度、機能利用状況、問い合わせ内容などから顧客の健康状態を可視化する。問題が顕在化する前に予兆を捉え、プロアクティブにアプローチできる体制を整える。

アップセル/クロスセルの仕組み化:顧客の利用状況と課題を把握し、適切なタイミングで追加提案を行う。CSがただの「サポート部門」ではなく「収益貢献部門」として機能するための設計が必要だ。

まとめ|フレームワークから仕組み化へ、SaaS組織の成長基盤を築く

SaaS組織づくりにおいて、THE MODELのようなフレームワークは有用な参照点となる。しかし、フレームワークを「形だけ」導入しても、縦割りのサイロ化が進むだけだ。

本記事で述べてきた通り、SaaS組織設計で重要なのは以下の点である。

  • 部門分業の前に、MQL/SQL定義とSLAを設計する
  • 事業フェーズに応じた組織体制を選択し、移行時にはプロセス整備を先行させる
  • MA/SFA連携によるデータ統合で、顧客ライフサイクル全体を可視化する
  • CS組織を収益貢献部門として位置づけ、解約防止とアップセルの仕組みを構築する

Gartnerの予測では、2026年には高成長SaaS企業の75%がRevOpsを採用する見込みとされている。この流れは、「分業」から「統合」へ、「部門最適」から「全体最適」へという方向性を示している。

まずは本記事のチェックリストを活用し、自社の組織基盤の現状を診断してほしい。未整備の項目が多いほど、成長フェーズにおけるボトルネックになるリスクが高い。フレームワークを参照しつつ、自社の状況に合わせた「仕組み化」を進めることが、スケーラブルなSaaS組織構築への道筋となる。

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よくある質問

Q1THE MODELとは何ですか?

A1THE MODELとは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4段階に営業プロセスを分業化し、各段階でKPIを設定するフレームワークです。セールスフォース・ドットコムで体系化され、日本では福田康隆氏の著書によって広く知られるようになりました。SaaS企業で広く採用されていますが、形だけの導入では縦割りサイロ化を招くリスクがあるため、部門間のSLA設計とデータ連携が重要です。

Q2RevOpsとは何ですか?

A2RevOps(レベニューオペレーション)とは、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの部門を横断してデータを統合し、収益全体を軸としたKPIを設定する組織運営手法です。各部門の部分最適ではなく、顧客ライフサイクル全体での最適化を目指します。Gartner予測によると、2026年には高成長SaaS企業の75%がRevOpsを採用する見込みです(グローバル予測のため、日本市場への直接適用には検証が必要)。

Q3SaaS組織でよくある失敗パターンは?

A3最もよくある失敗パターンは、THE MODELを形だけ導入して分業体制を作るが、部門間のデータ連携や業務プロセス設計が後回しになり、縦割りのサイロ化が進んでしまうケースです。各部門が自部門のKPIだけを追いかけ、リードの質低下や商談情報の引き継ぎ不備が発生します。ツール導入だけでなく、MQL/SQL定義の明確化、SLA設計と運用ルールの整備が重要です。

Q4カスタマーサクセス組織を立ち上げるメリットは?

A4カスタマーサクセス組織を構築することで、既存顧客のリテンション向上とアップセル・クロスセルによる収益拡大が期待できます。SaaS企業の事例では、カスタマーサクセス起点のアプローチによりアップセル率が向上した報告があります。オンボーディングの標準化、ヘルススコアによる予兆管理、アップセル/クロスセルの仕組み化がポイントです。新規獲得よりも効率の良い収益源となり得ます。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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