営業戦略を立案しても成果につながらない原因
先に答えを言うと、事業部長が営業戦略で成果を出すには、戦略立案のフレームワークを理解するだけでなく、MA/SFAデータを活用した効果測定と、戦略を組織全体で実行・改善するPDCA運用の仕組みを整備することが重要です。
営業戦略とは、市場・顧客課題を分析し、営業リソースを効率的に活用して売上目標を達成するための中長期的な方向性・計画を指します。
多くの事業部長が、営業戦略の立案に時間を割いていながら、期待した成果につながらないという課題を抱えています。2025年のバイヤー600名を対象とした調査によると、BtoB商材の購買プロセスにおいて、営業面談前に85%の企業が候補選定を完了しているという結果が報告されています。つまり、顧客は営業担当者と接触する前に、すでに情報収集と比較検討を終えている状態なのです。
また、BtoB企業の新規顧客開拓について2025年3月の調査(回答498名)では、7割が重要視するものの成果が出ていないという結果が示されています。課題の上位は営業スキル不足(36.3%)、差別化(33.3%)、営業リスト精度(21.5%)となっています(自己申告ベースの調査で、成果ギャップの定量精度には限界があります)。
これらのデータが示すのは、戦略を立案するだけでは不十分であり、データを活用した効果測定と改善の仕組みが必要であるということです。
この記事で分かること
- 営業戦略と営業戦術の違いと、代表的なフレームワーク
- 営業戦略を立案する具体的なステップと市場・顧客分析の方法
- MA/SFAデータを活用した戦略の効果測定とPDCA運用
- 戦略を組織全体に浸透させる仕組みと実行体制の構築方法
営業戦略の基礎知識|戦略と戦術の違い
営業戦略と営業戦術の違いを明確に理解することが、成果を出す営業組織の第一歩です。
営業戦略は、市場・顧客課題を分析し、営業リソースを効率的に活用して売上目標を達成するための中長期的な方向性・計画です。一方、営業戦術とは、戦略を実現するための短期的・具体的な手法やアクションを指します。戦略は全体設計、戦術は実行手法という関係にあります。
戦術だけを追いかけて成果が出ないケースは少なくありません。たとえば、「テレアポの件数を増やす」「展示会に出展する」といった施策を個別に実行しても、それがどのような戦略に基づいているのかが不明確であれば、効果測定も改善もできません。戦略があってこそ、戦術の優先順位と効果を判断できるのです。
The ModelとABMの位置づけ
代表的な営業フレームワークとして「The Model」と「ABM」があります。
The Modelとは、認知→興味関心→商談→契約のファネルでマーケティングと営業を分業・連携させる営業モデルです。リードの獲得から育成、商談化、成約までを役割分担し、各フェーズのKPIを設定して管理する手法です。
ABM(Account-Based Marketing) とは、特定の企業(アカウント)を対象に深耕する戦略で、高額取引やエンタープライズ向けに有効とされています。
2025年の調査によると、高額取引(1,000万円以上)では購買プロセスが複雑化・長期化し、関与人数が増加する傾向(グループ購買傾向)があります。また、購買後半フェーズでは「営業による説明・提案」が最重要情報源とされています。このことから、高額取引ではABMを活用した深耕型の戦略が有効であることがわかります。
自社の商材・ターゲット・取引単価に応じて、The ModelとABMを使い分ける、または組み合わせるという判断が重要です。
営業戦略立案のステップと市場・顧客分析
営業戦略の立案は、市場・顧客分析から始まり、ターゲティング、アプローチ方法、目標設定へと進みます。
戦略立案のステップを整理すると以下の通りです。
- 市場分析: 市場規模、競合状況、業界トレンドを把握する
- 顧客分析: 顧客の課題、購買プロセス、意思決定者を特定する
- ターゲティング: 優先すべき顧客層とセグメントを決定する
- バリュープロポジション: 自社がターゲットに提供する価値を明確化する
- 目標設定: 売上目標、商談数、成約率などのKPIを設定する
- 実行計画: 具体的なアクションと担当・スケジュールを決める
前述の調査で示されたように、高額取引では購買プロセス後半の「営業による説明・提案」が最重要情報源となります。このことを踏まえ、顧客の購買プロセスのどの段階で、どのような価値を提供するかを設計することが重要です。
ターゲティングと優先順位の設計
限られた営業リソースを効率的に配分するために、ターゲティングと優先順位の設計が欠かせません。
前述の調査では、新規顧客開拓で成果が出ない課題の上位に「営業リスト精度(21.5%)」が挙げられています。ターゲティングが曖昧なまま戦術を実行しても、商談化率・成約率の改善は期待できません。
ターゲティングを設計する際のポイントは以下の通りです。
- 理想顧客像(ICP)の定義: 業種、企業規模、課題、予算、意思決定者の特性などを明確にする
- 優先順位の設定: 成約確度、案件単価、リードタイムなどの観点でセグメントを優先順位付けする
- リストの精度向上: MA/SFAのデータを活用し、過去の成約データからターゲット精度を継続的に改善する
MA/SFAデータを活用した営業戦略の効果測定
戦略の効果を測定し、継続的に改善するためには、MA/SFAのデータを活用した仕組みが不可欠です。
SSOT(Single Source of Truth) とは、顧客データを一元管理し、組織全体で信頼できる唯一の情報源として活用する考え方です。営業・マーケティング・カスタマーサクセスが同じデータを参照することで、一貫した顧客対応と正確な効果測定が可能になります。
ある企業では、MA/SFAデータ活用によりインバウンド商談数が2年以内に大幅に増加した事例が報告されています(個社環境に依存するため、同様の成果を保証するものではありません)。このような成果を出すためには、データの収集・分析・活用のサイクルを回す仕組みが必要です。
【フロー図】営業戦略PDCAフロー
flowchart TD
A[Plan: 戦略立案] --> B[Do: 施策実行]
B --> C[Check: データ収集・分析]
C --> D[Act: 改善・修正]
D --> A
A1[市場・顧客分析] --> A
A2[ターゲティング設計] --> A
A3[KPI設定] --> A
B1[営業活動の実行] --> B
B2[MA/SFAへのデータ入力] --> B
C1[商談化率・成約率の測定] --> C
C2[ボトルネックの特定] --> C
D1[戦術の見直し] --> D
D2[ターゲットの再設計] --> D
戦略KPIの設計と測定方法
営業戦略の効果を測定するためには、適切なKPIを設計し、定期的にモニタリングする必要があります。
主要なKPIの例は以下の通りです。
- リード獲得数: マーケティング施策で獲得した見込み顧客数
- 商談化率: リードから商談に至った割合
- 成約率: 商談から受注に至った割合
- 平均商談期間: 商談開始から成約までの平均期間
- 平均案件単価: 成約案件の平均金額
- 顧客獲得コスト(CAC): 顧客1社を獲得するために要したコスト
KPIは戦略と紐づけて設計することが重要です。たとえば「高額案件の成約率を向上させる」という戦略目標があれば、高額案件に絞った成約率をKPIとして設定し、施策の効果を測定します。
戦略を組織に浸透させる仕組みと実行体制
戦略を立案しただけでは成果は出ません。組織全体で実行し、継続的に改善する仕組みが必要です。
営業戦略を立案して組織に説明すれば自動的に実行されると考え、戦略の効果測定や現場へのフィードバックを設計しないまま運用するケースがありますが、この考え方は誤りです。このような進め方では、戦略が形骸化し、成果につながりません。
前述の調査で「営業スキル不足(36.3%)」が課題として挙げられていることを踏まえると、戦略の浸透と同時に、営業担当者のスキル向上・育成も体制に組み込む必要があります。
【チェックリスト】営業戦略立案・実行チェックリスト
- 市場規模・競合状況・業界トレンドを分析した
- ターゲット顧客の課題・購買プロセス・意思決定者を特定した
- 理想顧客像(ICP)を定義した
- ターゲットセグメントの優先順位を設定した
- 自社のバリュープロポジションを明確化した
- 売上目標・商談数・成約率などのKPIを設定した
- KPIの測定方法とモニタリング頻度を決めた
- 具体的な施策とアクションプランを策定した
- 担当者と期限を明確にした
- 営業担当者への戦略説明と研修を実施した
- MA/SFAへのデータ入力ルールを設定した
- 週次・月次のレビュー会議体を設計した
- 現場からの改善提案を吸い上げる仕組みを整備した
- 戦略の見直し・更新サイクルを決めた
- 成功事例・失敗事例のナレッジ共有の場を設けた
PDCA運用と現場へのフィードバック
戦略の形骸化を防ぐためには、定期的なPDCA運用と現場へのフィードバックが不可欠です。
週次レビュー: 商談進捗、アクション実行状況、短期的な課題を確認
月次レビュー: KPIの達成状況、ボトルネックの分析、戦術の見直しを実施
四半期レビュー: 戦略自体の妥当性を検証し、必要に応じて戦略の修正を行う
現場から戦略への改善提案を吸い上げる仕組みも重要です。営業担当者は顧客と直接接しているため、市場の変化や顧客ニーズの変化を最も早く察知できます。週次レビューの中で現場の声を集め、戦略にフィードバックする仕組みを設計しましょう。
まとめ|営業戦略はMA/SFAデータ活用とPDCA運用で成果を出す
本記事では、事業部長のための営業戦略の立案から実行・改善までを解説しました。
本記事の要点
- 営業戦略は中長期の方向性・全体設計、営業戦術は短期の実行手法であり、戦略なくして戦術の効果は測定できない
- 高額取引では購買プロセスが複雑化し、営業提案が最重要情報源となるため、ABM的な深耕戦略が有効
- ターゲティングの精度を高めることが、商談化率・成約率の改善につながる
- MA/SFAデータを一元管理(SSOT)し、KPIを定期的にモニタリングすることで効果測定が可能になる
- 戦略の形骸化を防ぐには、週次・月次のレビュー会議と現場からのフィードバックの仕組みが必要
次のステップとして、本記事のチェックリストを活用し、自社の営業戦略の現状を診断してみてください。どの項目ができていて、どの項目に課題があるかを把握することで、優先的に取り組むべきポイントが明確になります。
改めて強調すると、事業部長が営業戦略で成果を出すには、戦略立案のフレームワークを理解するだけでなく、MA/SFAデータを活用した効果測定と、戦略を組織全体で実行・改善するPDCA運用の仕組みを整備することが重要です。
