個別対応営業がうまくいかない企業に共通する課題
意外かもしれませんが、営業における個別対応は、担当者の属人的なスキルに依存するのではなく、MA/SFAデータを活用した仕組み化を行い、戦略から実装まで一貫して対応できる専門家の支援を受けることで、再現性のある成果につながります。
この記事で分かること
- 個別対応営業の定義と従来型営業との違い
- 顧客セグメント別のアプローチ方法と比較表
- MA/SFAデータを活用した個別対応の仕組み化手法
- 個別対応営業の実践チェックリスト
- 属人化から脱却するための具体的なステップ
個別対応営業とは、顧客ごとのニーズや購買行動をデータ分析に基づきパーソナライズしたアプローチを行う営業手法です。BtoBバイヤーの77%がカスタマージャーニー上でセグメント別アプローチを重視しているという調査結果もあり、画一的な営業アプローチでは顧客の期待に応えられなくなっています。
しかし、多くの企業では個別対応営業を実践しようとしても、うまくいかないケースが少なくありません。「SFA/CRMにデータはあるが、個別対応に活かせていない」「属人的な対応になっており再現性がない」といった課題を抱えている企業が多いのが実情です。本記事では、こうした課題を解決するための具体的な方法を解説します。
個別対応営業とは|定義と従来型営業との違い
個別対応営業は、顧客一人ひとりのニーズや状況に合わせてアプローチを変える営業手法であり、画一的な営業とは根本的に異なります。ここでは、税務用語の「個別対応方式」との混同を避けるため、営業手法としての個別対応を明確に定義します。
従来の画一的営業では、全ての顧客に同じ資料、同じトークスクリプト、同じ提案内容でアプローチしていました。一方、個別対応営業では、顧客の業種・企業規模・役職・購買行動などのデータに基づき、それぞれに最適化されたアプローチを行います。
STP分析とは、市場をセグメンテーション(細分化)し、ターゲティング(標的選定)し、ポジショニング(差別化)するマーケティング分析手法です。個別対応営業の基盤となる考え方であり、まず市場を適切にセグメント化することから始まります。
個別対応営業と従来型営業の主な違いは以下の通りです。
| 観点 | 従来型営業 | 個別対応営業 |
|---|---|---|
| アプローチ | 画一的 | 顧客ごとに最適化 |
| 判断基準 | 営業担当者の感覚 | データに基づく分析 |
| 資料・提案 | 汎用的なもの | 顧客課題に合わせてカスタマイズ |
| 再現性 | 低い(属人化しやすい) | 高い(仕組み化により横展開可能) |
| ツール活用 | 限定的 | MA/SFA/CRMを連携活用 |
ABMとの関係性
ABM(アカウントベースマーケティング) とは、高価値な特定企業(アカウント)に対して、マーケティングと営業が連携して個別最適化したアプローチを行う手法です。個別対応営業の考え方を戦略的に発展させたものと位置づけられます。
ABMでは、全ての顧客に均等にリソースを割くのではなく、高価値セグメントに集中することで営業生産性の向上を図ります。リードベース(画一的なアプローチ)からABM(高価値セグメント特化)へのシフトは、BtoB営業における大きなトレンドとなっています。
個別対応営業とABMは別の概念ですが、「顧客に合わせたアプローチ」という点で共通しています。ABMは特に高価値アカウントに対する個別対応を徹底するアプローチであり、個別対応営業の上位概念と捉えることもできます。
顧客セグメント別のアプローチ方法
顧客セグメントを適切に設計し、各セグメントに合わせたアプローチを行うことが、個別対応営業の成功には不可欠です。BtoBバイヤーの77%がカスタマージャーニー上でセグメント別アプローチを重視しているという調査結果からも、セグメント設計の重要性が分かります。
セグメントの分け方には、主に以下の軸があります。
- 業種別: 製造業、IT・ソフトウェア、金融・保険、建設・不動産など
- 企業規模別: 大企業、中堅企業、中小企業、スタートアップ
- 役職別: 経営層、部門責任者、現場担当者
- 購買行動別: 情報収集段階、比較検討段階、購買決定段階
セグメント設計においては、自社の商材やターゲット市場の特性に合わせて、どの軸を優先するかを決める必要があります。
【比較表】顧客セグメント別アプローチ方法
| セグメント軸 | セグメント | 特徴 | アプローチ方法 | 訴求ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 業種別 | 製造業 | 品質・コスト・納期を重視 | 具体的な導入事例と数値効果を提示 | 生産性向上、コスト削減 |
| 業種別 | IT・ソフトウェア | 技術的な理解度が高い | 技術仕様や連携機能を詳細に説明 | 技術的優位性、拡張性 |
| 業種別 | 金融・保険 | コンプライアンス・セキュリティ重視 | 認証取得状況やセキュリティ体制を説明 | リスク低減、規制対応 |
| 業種別 | 建設・不動産 | 現場での実用性を重視 | モバイル対応や操作性をデモで説明 | 現場効率化、情報共有 |
| 企業規模別 | 大企業 | 稟議プロセスが複雑 | 複数部門へのアプローチ、ROI資料を準備 | 全社導入のメリット、他部門連携 |
| 企業規模別 | 中堅企業 | 費用対効果を重視 | 段階的な導入プランを提案 | 投資回収期間、スケーラビリティ |
| 企業規模別 | 中小企業 | 導入・運用の手軽さを重視 | シンプルな機能と低コストをアピール | 即効性、サポート体制 |
| 役職別 | 経営層 | 経営課題への貢献を重視 | 経営指標への影響を説明 | 売上向上、競争力強化 |
| 役職別 | 部門責任者 | 部門目標の達成を重視 | 部門KPIへの貢献を具体的に説明 | 業務効率化、チーム生産性 |
| 役職別 | 現場担当者 | 日常業務の改善を重視 | 操作性やサポートを丁寧に説明 | 作業時間短縮、ストレス軽減 |
| 購買段階別 | 情報収集段階 | 課題認識が曖昧な場合も多い | 課題整理を支援するコンテンツを提供 | 課題の明確化、解決の方向性 |
| 購買段階別 | 比較検討段階 | 複数の選択肢を検討中 | 競合との差別化ポイントを明確に説明 | 自社の強み、導入実績 |
| 購買段階別 | 購買決定段階 | 最終的な意思決定を控えている | 導入後のサポート体制や成功事例を説明 | リスク低減、成功の確実性 |
この比較表を参考に、自社のターゲット顧客がどのセグメントに該当するかを整理し、それぞれに適したアプローチ方法を検討することをお勧めします。
MA/SFAデータを活用した個別対応の仕組み化
個別対応営業を属人化させず、組織として再現性のある形で実践するためには、MA/SFAデータの活用による仕組み化が必要です。SFA/CRMを導入しただけでは属人化は解消されず、運用設計とプロセス標準化がセットで必要になります。
よくある失敗パターンとして、顧客データをSFA/CRMに蓄積するだけで活用せず、個別対応を「営業担当者の感覚」に任せきりにしてしまい、成功パターンの横展開ができないまま属人化してしまうケースがあります。データを蓄積することと、データを活用することは全く別の話です。この失敗パターンに陥っている企業は、データ活用の観点から運用を見直す必要があります。
ある導入事例では、CRM・MA・ERPとSFAを連携させることで、新規問い合わせへの対応率が約140%向上し、営業1人あたりの新規契約獲得率が約4.2倍に拡大したという報告があります(ただし、これは特定企業の事例であり、業界平均ではありません)。
SSOT(Single Source of Truth) とは、MA/SFA/CRMのデータを一元管理し、全部門が同じデータを参照できる状態を指します。このSSOTの実現が、仕組み化された個別対応営業の基盤となります。
営業DXとは、デジタル技術を活用して営業プロセスを変革し、属人化解消と生産性向上を図る取り組みです。個別対応営業の仕組み化は、営業DXの重要な一要素と位置づけられます。
データ連携で実現できること
MA/SFA連携により、以下のようなことが実現可能になります。
リード情報の自動受け渡し
MAで獲得・育成したリード情報をSFAにシームレスに引き渡すことで、マーケティングから営業まで一貫した顧客体験を提供できます。リードのWeb行動履歴やメール反応履歴がSFAに連携されていれば、営業担当者は顧客の関心事項を把握した上でアプローチできます。
顧客データの一元管理
CRMとSFAを連携させることで、ファーストコンタクトから現在に至る顧客データを一元管理できます。過去の商談履歴、問い合わせ履歴、購買履歴などが統合されていれば、担当者が変わっても一貫した対応が可能になります。
機会損失の削減
データ連携により、リードの取りこぼしや対応漏れを防止できます。MAでスコアリングされたホットリードが自動的にSFAに連携され、営業担当者にアラートが飛ぶ仕組みを構築すれば、タイムリーなアプローチが可能になります。
ただし、MAやSFAを導入しただけでは効果は出ません。運用設計とプロセス標準化がセットで必要であり、どのデータをどのように連携させるか、連携されたデータをどう活用するかを明確にした上で運用する必要があります。
個別対応営業の実践手順とチェックリスト
個別対応営業を実践するためには、データ収集→セグメント設計→アプローチ設計→実行→改善のサイクルを回すことが重要です。このサイクルを属人化させず、組織として回していくための手順を解説します。
Step 1: 顧客データの収集・整備
まず、個別対応の基盤となる顧客データを収集・整備します。SFA/CRMに蓄積されている既存データの棚卸しを行い、不足しているデータ項目を洗い出します。Web行動データ、メール反応データ、商談履歴、購買履歴など、個別対応に必要なデータを特定します。
Step 2: セグメント設計
収集したデータに基づき、顧客セグメントを設計します。前述の業種別・企業規模別・役職別・購買行動別などの軸を参考に、自社に適したセグメント設計を行います。セグメントは細かすぎると運用が煩雑になり、粗すぎると個別対応の効果が薄れるため、バランスが重要です。
Step 3: アプローチ設計
各セグメントに対するアプローチ方法を設計します。訴求ポイント、使用する資料、トークスクリプトなどをセグメントごとに準備します。これを個人の裁量に任せるのではなく、組織としてテンプレート化しておくことが属人化防止につながります。
Step 4: 実行とナレッジ共有
設計したアプローチを実行し、その結果をSFA/CRMに記録します。成功事例・失敗事例を組織内で共有し、ナレッジとして蓄積していくことが重要です。定期的なミーティングやナレッジベースの活用により、属人化を防ぎながら組織全体のレベルアップを図ります。
Step 5: 改善サイクル
実行結果を分析し、セグメント設計やアプローチ方法を継続的に改善します。どのセグメントで成果が出ているか、どのアプローチが効果的かをデータで検証し、PDCAサイクルを回していきます。
【チェックリスト】個別対応営業の実践確認項目
- 顧客データがSFA/CRMに一元管理されている
- 顧客の業種・企業規模・役職などの基本属性が入力されている
- Web行動履歴やメール反応履歴が取得できる状態になっている
- 商談履歴・問い合わせ履歴が記録されている
- 顧客セグメントの定義が明文化されている
- セグメント分類の基準が組織内で統一されている
- セグメントごとの訴求ポイントが整理されている
- セグメントごとの資料・テンプレートが準備されている
- セグメントごとのトークスクリプトが作成されている
- MAとSFAのデータ連携が設定されている
- リードスコアリングの基準が定義されている
- ホットリードの引き渡しルールが明確になっている
- 営業活動の結果がSFA/CRMに記録される運用になっている
- 成功事例・失敗事例を共有する仕組みがある
- 定期的にアプローチ方法を見直す場が設けられている
- セグメント別の成果指標(商談化率・受注率など)を計測している
- 計測結果に基づいてアプローチ方法を改善している
- 新しい担当者でも個別対応ができる引き継ぎ資料がある
- 個別対応営業の目的・方針が組織内で共有されている
- 経営層が個別対応営業の推進をサポートしている
このチェックリストで自社の現状を確認し、未達成の項目から優先的に取り組むことをお勧めします。
まとめ:仕組み化された個別対応で再現性のある成果を
本記事では、個別対応営業の定義から、顧客セグメント別のアプローチ方法、MA/SFAデータを活用した仕組み化の方法、そして実践のためのチェックリストまでを解説しました。
改めて強調したいのは、BtoBバイヤーの77%がカスタマージャーニー上でセグメント別アプローチを重視しているという事実です。画一的な営業アプローチでは、顧客の期待に応えることが難しくなっています。
一方で、個別対応を「営業担当者の感覚」に任せきりにしてしまうと、属人化が進み、成功パターンの横展開ができなくなります。ある導入事例では、CRM・MA・ERPとSFAを連携させることで、新規問い合わせへの対応率が約140%向上し、営業1人あたりの新規契約獲得率が約4.2倍に拡大したという報告があります(特定企業の事例であり、業界平均ではありません)。この事例が示すように、データ連携と仕組み化により、大きな成果向上が期待できます。
営業における個別対応は、担当者の属人的なスキルに依存するのではなく、MA/SFAデータを活用した仕組み化を行い、戦略から実装まで一貫して対応できる専門家の支援を受けることで、再現性のある成果につながります。
まずは本記事で紹介したチェックリストを活用して、自社の現状を確認することから始めてみてください。データ活用の仕組み化により、属人化から脱却し、組織として再現性のある個別対応営業を実現できるはずです。
