LTV(顧客生涯価値)とは?計算方法・改善施策・活用事例を解説

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/17

なぜLTVが重要なのか

B2B SaaS企業のマーケティング担当者やCS担当者の方々から、「新規顧客獲得にコストがかかりすぎて赤字」「既存顧客の解約率が高く収益が安定しない」という課題をよく耳にします。こうした課題の根本には、顧客1人あたりがもたらす価値(LTV)と、顧客獲得にかかるコスト(CAC)のバランスが取れていないという問題があります。

LTV(Life Time Value / 顧客生涯価値)は、1人の顧客が取引開始から終了までにもたらす利益の総額を示す指標です。新規顧客獲得は既存顧客維持の5倍のコストがかかると言われており(1:5の法則)、既存顧客のLTV向上が効率的なビジネス成長の鍵となります。

この記事では、B2B SaaS企業におけるLTVの計算方法、LTV/CAC比率による投資判断、具体的な改善施策を解説します。

この記事のポイント:

  • LTVは1人の顧客が生涯にわたってもたらす利益の総額を示す指標
  • 基本計算式は「平均購入額 × 購入頻度 × 顧客寿命」(サブスク型は月間収益 ÷ チャーンレートで簡易計算可能)
  • LTV/CAC比率は3以上が健全な目安(1以下は赤字、3以上で持続可能)
  • LTV向上施策は購入単価・頻度向上、継続利用促進、顧客維持コスト削減の3つの軸
  • 新規顧客獲得は既存維持の5倍コストがかかるため、既存顧客のLTV向上が効率的

LTVの基礎知識と計算方法

(1) LTV(顧客生涯価値)とは何か

LTV(Life Time Value)は、1人の顧客が取引開始から終了までにもたらす利益の総額を示す指標です。「顧客生涯価値」とも呼ばれます。

LTVを把握することで、以下のような意思決定が可能になります:

マーケティング投資の判断:

  • 顧客獲得にいくらまで投資できるかを判断
  • LTVが高い顧客セグメントを優先的にターゲティング

事業の健全性評価:

  • LTVとCAC(顧客獲得コスト)の比率で事業の持続可能性を評価
  • ユニットエコノミクス(LTV/CAC比率)が3以上なら健全とされる

顧客戦略の最適化:

  • 解約率(チャーンレート)低減、購入単価向上、購入頻度向上のいずれに注力すべきかを判断

(2) 基本計算式:平均購入額×頻度×顧客寿命

LTVの基本的な計算式は以下の通りです:

基本計算式:

LTV = 平均購入額 × 購入頻度 × 顧客寿命

各要素の定義:

  • 平均購入額: 顧客1人あたりの1回の平均取引金額
  • 購入頻度: 1年間に顧客が購入する平均回数
  • 顧客寿命: 顧客が取引を継続する平均期間(年)

計算例(B2C EC):

  • 平均購入額: 5,000円
  • 購入頻度: 年4回
  • 顧客寿命: 3年
  • LTV = 5,000円 × 4回 × 3年 = 60,000円

この計算式は、トランザクション型(都度購入)のビジネスに適しています。

(3) サブスクリプション型ビジネスの計算方法

サブスクリプション型ビジネス(SaaSなど)では、月間収益とチャーンレート(解約率)を使った計算方法が一般的です。

サブスク型の簡易計算式:

LTV = 月間収益(ARPU) ÷ チャーンレート

各要素の定義:

  • ARPU(Average Revenue Per User): 1ユーザーあたりの月間平均収益
  • チャーンレート: 月次の解約率(例: 5% = 0.05)

計算例(SaaS):

  • ARPU: 10,000円/月
  • チャーンレート: 3%(0.03)
  • LTV = 10,000円 ÷ 0.03 = 333,333円

チャーンレートが低いほどLTVは高くなります。そのため、SaaS企業では解約率の低減が最重要課題となることが多いです。

注意点: チャーンレートの正確な把握が不可欠です。不正確なチャーンレートを使うと、LTV計算が無意味になります。過去6ヶ月〜1年のデータを元に算出することが推奨されます。

LTV/CAC比率とユニットエコノミクス

(1) CACとは何か

CAC(Customer Acquisition Cost / 顧客獲得コスト)は、新規顧客を1人獲得するためにかかるマーケティング・営業コストの総額です。

CAC計算式:

CAC = (マーケティング費用 + 営業費用) ÷ 新規獲得顧客数

計算例:

  • マーケティング費用: 300万円/月
  • 営業費用: 200万円/月
  • 新規獲得顧客数: 50人/月
  • CAC = (300万円 + 200万円) ÷ 50人 = 10万円/人

CACを正確に把握することで、LTVとの比率を評価し、事業の持続可能性を判断できます。

(2) LTV/CAC比率の目安(3以上が健全)

LTV/CAC比率(ユニットエコノミクス)は、ビジネスの効率性を測る重要な指標です。

LTV/CAC比率の目安:

1以下(赤字):

  • 顧客獲得コストが回収できず、ビジネスとして成立していない
  • 早急な改善が必要

1〜3(要改善):

  • 黒字だが効率が低い
  • LTV向上またはCAC削減の施策が必要

3以上(健全):

  • 持続可能なビジネスモデル
  • 投資拡大のタイミング

5以上(投資不足の可能性):

  • 成長機会を逃している可能性
  • マーケティング投資を増やす余地がある

Baremetricsのレポートによると、SaaS企業の多くは3以上を目指していますが、業界やビジネスモデルによって適切な比率は異なります。自社に合った目標設定が重要です。

(3) 投資判断への活用

LTV/CAC比率は、マーケティング投資の意思決定に活用できます。

活用例:

比率が3以上の場合:

  • マーケティング予算を増やして新規顧客獲得を加速
  • 広告チャネルの拡大やセールス体制の強化

比率が1〜3の場合:

  • LTV向上施策に注力(解約率低減、アップセル・クロスセル)
  • CAC削減施策(マーケティング効率化、営業プロセス改善)

比率が1以下の場合:

  • 緊急的なコスト削減または価格見直し
  • ビジネスモデルの根本的な見直しが必要な可能性

ユニットエコノミクスを定期的にモニタリングし、投資判断の基準として活用することが推奨されます。

LTV向上の具体的施策

(1) 購入単価・購入頻度の向上

LTV向上には、購入単価と購入頻度を高める施策が有効です。

購入単価向上の施策:

アップセル:

  • より高額なプランへの移行を促す
  • 機能追加オプションの提案
  • 例: Basic → Professional → Enterprise

クロスセル:

  • 関連製品・サービスの追加販売
  • 例: MAツール + CRMツール、分析ツール追加

バンドル提供:

  • 複数サービスをセットで提供し、単価を向上
  • セット割引で購入を促進

購入頻度向上の施策:

リマインド施策:

  • 定期的な利用促進メール
  • 利用状況のレポート配信

ロイヤルティプログラム:

  • 継続利用でポイント付与
  • 長期契約者向けの特典提供

使い方提案:

  • ユースケース別の活用方法紹介
  • ウェビナーやオンボーディング支援

(2) 継続利用促進とチャーンレート低減

サブスクリプション型ビジネスでは、チャーンレート(解約率)の低減が最も効果的なLTV向上施策です。

チャーンレート低減の施策:

オンボーディング強化:

  • 導入初期の成功体験を支援
  • 最初の90日で価値実感を促進

カスタマーサクセス活動:

  • 定期的なヘルスチェック
  • 利用状況の可視化と改善提案

解約予兆の検知:

  • ログイン頻度低下、利用機能減少を検知
  • 解約リスク顧客へのアプローチ

フィードバック収集:

  • 定期的なNPS(Net Promoter Score)調査
  • 解約理由のヒアリングと改善

サポート体制の充実:

  • 迅速な問い合わせ対応
  • ヘルプセンター・FAQの充実

(3) 既存顧客維持の効率性(1:5の法則)

新規顧客獲得は既存顧客維持の5倍のコストがかかると言われています(1:5の法則)。そのため、既存顧客のLTV向上が最も効率的な成長戦略となります。

既存顧客維持のメリット:

コスト効率:

  • 新規獲得の5倍コストを削減
  • マーケティングROIの向上

収益安定:

  • 解約率が低いと収益が安定
  • 予測可能な成長が実現

口コミ効果:

  • 満足度の高い既存顧客が新規顧客を紹介
  • CAC削減につながる

施策の優先順位:

  1. 最優先: 解約率低減(チャーンレート改善)
  2. 次点: アップセル・クロスセルによる単価向上
  3. 補助: 新規顧客獲得(LTV/CAC比率が3以上の場合)

既存顧客のLTV向上に注力することで、持続可能な成長基盤を構築できます。

業界別ベンチマークと活用事例

(1) SaaS業界のLTV目安

SaaS業界では、LTV/CAC比率とチャーンレートが重要な指標となります。

SaaS業界の一般的な目安:

LTV/CAC比率:

  • 目標: 3以上
  • 優良: 5以上
  • 要改善: 3未満

チャーンレート(月次): 一般的に以下の水準が目安と言われています:

  • 優良: 2%以下
  • 平均: 3-5%
  • 要改善: 5%以上

CAC回収期間: 一般的に以下の水準が目安と言われています:

  • 優良: 12ヶ月以内
  • 平均: 12-18ヶ月
  • 要改善: 18ヶ月以上

注意点: これらは一般的な目安であり、ビジネスモデル(B2B vs B2C、エンタープライズ向け vs SMB向け)によって異なります。自社のビジネスモデルに合ったベンチマークを設定することが重要です。

(2) EC・小売業界との比較

EC・小売業界では、購入頻度と顧客寿命が重要な指標となります。

EC・小売業界の特徴:

購入頻度:

  • 日用品: 年10回以上
  • アパレル: 年2-4回
  • 高額商品: 年1回未満

顧客寿命:

  • 平均: 2-5年
  • ロイヤルティプログラムで延長可能

LTV向上施策:

  • パーソナライズドレコメンデーション
  • 定期購入(サブスクリプション化)
  • ポイント・クーポン施策

SaaSとの違い: SaaSは継続課金モデルのため、チャーンレート低減が最優先。EC・小売は購入頻度向上と顧客寿命延長が重要。ビジネスモデルに応じた施策設計が必要です。

まとめ:LTV活用の第一歩

LTV(顧客生涯価値)は、B2B SaaS企業が持続可能な成長を実現するための重要指標です。LTV/CAC比率(ユニットエコノミクス)を定期的にモニタリングし、マーケティング投資の意思決定に活用することが推奨されます。

LTV活用のポイント:

  • 基本計算式(平均購入額 × 購入頻度 × 顧客寿命)またはサブスク型計算式(月間収益 ÷ チャーンレート)で算出
  • LTV/CAC比率は3以上が健全な目安(1以下は赤字、3以上で持続可能)
  • 新規顧客獲得は既存維持の5倍コストがかかるため、既存顧客のLTV向上が効率的
  • 購入単価・頻度向上、継続利用促進、チャーンレート低減の3つの軸で施策を設計
  • 業界・ビジネスモデルに合ったベンチマークを設定

次のアクション:

  • 自社のLTVとCACを計算し、LTV/CAC比率を確認する
  • チャーンレート(解約率)を正確に把握する
  • 比率が3未満の場合、LTV向上施策(解約率低減、アップセル)に注力
  • 比率が3以上の場合、マーケティング投資を拡大して成長を加速
  • 四半期ごとにLTV/CAC比率をモニタリングし、継続的に改善

LTVを軸にした戦略的な意思決定で、効率的なビジネス成長を実現しましょう。

※この記事は2025年11月時点の情報です。LTV/CAC比率の目安は業界・ビジネスモデルにより異なります。自社に合った指標設計が重要です。

よくある質問

Q1B2BとB2CでLTV計算方法は異なりますか?

A1基本式(平均購入額 × 購入頻度 × 顧客寿命)は同じですが、B2Bは契約期間が長く取引単価が高い傾向があります。B2Cは購入頻度と継続率が重要です。B2B SaaSではサブスク型計算式(月間収益 ÷ チャーンレート)を使うことが一般的です。自社のビジネスモデルに合わせた計算式を選択してください。

Q2LTV/CAC比率が低い場合、何から改善すべきですか?

A2まずチャーンレート(解約率)の低減から着手することが推奨されます。新規顧客獲得は既存顧客維持の5倍のコストがかかるため(1:5の法則)、既存顧客のLTV向上が最も効率的です。解約率が改善したら、次にアップセル・クロスセルによる購入単価向上に取り組むのが適切です。

Q3LTV計算に必要なデータは何ですか?

A3基本的には、平均購入額、購入頻度、顧客継続期間(またはチャーンレート)の3つが必要です。サブスク型ビジネスでは、ARPU(1ユーザーあたりの月間平均収益)と月次チャーンレートがあれば計算できます。データが不足している場合は、過去6ヶ月〜1年のデータからコホート分析で推定することが推奨されます。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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