ビジネスにおけるエンゲージメントとは?顧客・従業員の関与を高める方法

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/18

社員のモチベーションが上がらない、顧客が離れていく...

BtoB SaaS企業のマーケティング担当者、カスタマーサクセス担当者、人事担当者の多くが、「社員のモチベーションが上がらない」「顧客がサービスを使ってくれない」「定着率が低い」と悩んでいます。その背景にあるのが、エンゲージメント(関与度・結びつき) の低さです。

エンゲージメントは、従業員と企業、または顧客と企業の「深いつながり」を表す概念で、ビジネスの成果に直結します。本記事では、ビジネスにおけるエンゲージメントの基本概念から、従業員エンゲージメント・顧客エンゲージメントの測定方法・向上施策までを体系的に解説します。

この記事のポイント:

  • エンゲージメントとは「婚約」「約束」を意味し、人と組織の深いつながりを表す概念
  • 従業員エンゲージメント(社員の自発的貢献意欲)と顧客エンゲージメント(製品への愛着・継続利用)の2軸がある
  • 日本の従業員エンゲージメントは国際的に最下位レベル(5%)で、人材確保の課題に直結
  • 測定方法はアンケート(パルスサーベイ、センサス)やNPS(顧客推奨度)が主流
  • 向上施策は1on1ミーティング、評価制度見直し、柔軟な働き方制度が効果的

1. ビジネスでエンゲージメントが注目される背景

エンゲージメントが経営上の重要テーマとなった背景には、日本の人材環境と働き方の変化があります。

(1) 日本の従業員エンゲージメント低水準(5%)

国際的な調査機関ギャラップの2024年調査によると、日本の従業員エンゲージメントは 5% で、調査対象国の中で最下位レベルです。

国際比較:

エンゲージメント率
アメリカ 34%
イギリス 30%
ドイツ 18%
日本 5%

この低さは、日本特有の組織文化(年功序列・終身雇用の崩壊、硬直的な評価制度、コミュニケーション不足)が影響していると考えられています。

(2) 人材確保と定着率の課題(2024年トレンド)

2024年は人材確保がさらに深刻化しており、以下の課題が顕在化しています:

  • 人材の流動化: 転職が当たり前になり、優秀な人材の流出が加速
  • Z世代の価値観: 給与よりもやりがい・成長機会・ワークライフバランスを重視
  • 採用コストの高騰: 新規採用は既存社員の定着より5倍のコストがかかる

エンゲージメントが高い企業は、従業員の定着率が高く、採用コストを抑えられるため、経営効率の観点からも注目されています。

(3) コロナ後の働き方の変化

コロナ後の従業員エンゲージメントは、世界的にパンデミック以前の水準(71%)に戻っていますが、日本は依然として低水準です。

コロナ後の変化:

  • テレワークの定着により、対面コミュニケーションが減少
  • 孤独感・疎外感を感じる社員の増加
  • 柔軟な働き方を求める声の高まり

この環境下では、従来の「オフィスに出社してチームで働く」前提の組織運営では、エンゲージメントを維持できません。新しい働き方に対応した施策が求められています。

2. エンゲージメントとは|基本概念と種類

エンゲージメントの定義と、よく混同される概念を整理します。

(1) エンゲージメントの定義(深いつながり・約束)

エンゲージメント とは、英語で「婚約」「約束」「契約」を意味し、ビジネスでは 人と組織の深いつながり を表す概念です。

ビジネスにおけるエンゲージメント:

  • 従業員と企業の間に、相互の信頼と貢献関係がある状態
  • 顧客と企業の間に、強固かつ継続的な信頼関係がある状態

単なる「満足している」状態を超えて、自発的に貢献したい・応援したい と思う能動的な関係性を指します。

(2) 従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い

よく混同される概念ですが、明確な違いがあります:

項目 従業員満足度 従業員エンゲージメント
定義 労働条件・福利厚生への満足 会社への愛着・自発的な貢献意欲
方向性 受動的(企業から与えられる) 能動的(自ら貢献しようとする)
測定内容 給与・休暇・オフィス環境 理解度・帰属意識・行動意欲
成果への影響 離職率低下に寄与 生産性向上・イノベーション創出

具体例:

  • 満足度が高い社員: 「給与も良いし、休みも取れるから満足」(受動的)
  • エンゲージメントが高い社員: 「この会社のビジョンに共感し、自分の力で成長に貢献したい」(能動的)

エンゲージメントの方が、ビジネスの成果に直結する概念です。

(3) ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い

ワークエンゲージメント従業員エンゲージメント は、似ているようで異なる概念です:

ワークエンゲージメント:

  • 仕事に対する個人の心理状態を表す
  • 3要素: 「活力」(エネルギッシュに働く)、「熱意」(仕事に誇りを持つ)、「没頭」(集中して取り組む)
  • 対象: 「仕事そのもの」

従業員エンゲージメント:

  • 従業員と企業の関係性を表す
  • 3要素: 「理解度」(ビジョンへの共感)、「帰属意識」(組織の一員としての自覚)、「行動意欲」(貢献する意欲)
  • 対象: 「企業・組織」

ワークエンゲージメントが高くても、従業員エンゲージメントが低い(仕事は好きだが会社には愛着がない)というケースもあります。

(4) 顧客エンゲージメントとは

顧客エンゲージメント とは、企業と顧客の間に 強固かつ継続的な信頼関係が醸成されている状態 です。

顧客エンゲージメントが高い状態:

  • 製品・サービスを継続的に利用している
  • 他社への乗り換えを検討していない
  • 友人・知人に推奨する(口コミ・紹介)
  • 企業のコミュニティ・イベントに参加する

BtoB SaaSでは、顧客エンゲージメントが高いほど、チャーン(解約)率が低く、アップセル・クロスセルの成功率が高まります。

3. 従業員エンゲージメント|測定方法と向上施策

従業員エンゲージメントの測定方法と、構成要素を解説します。

(1) エンゲージメントの3要素(理解度・帰属意識・行動意欲)

従業員エンゲージメントは、以下の3つの要素から成り立ちます:

1. 理解度:

  • 企業のビジョン・ミッション・バリューを理解し共感している
  • 自分の仕事が企業の目標にどう貢献しているか理解している

2. 帰属意識:

  • 組織の一員である自覚を持っている
  • 会社に対する愛着・誇りがある
  • 長期的に働き続けたいと思っている

3. 行動意欲:

  • 自主的に会社の成長に貢献しようとする意欲がある
  • 指示された業務以上のことに挑戦する
  • 他のメンバーと協力して成果を出そうとする

この3要素がバランスよく高い状態が、理想的なエンゲージメントです。

(2) 測定方法(パルスサーベイ、センサス)

エンゲージメントは主に アンケート調査 で測定されます:

パルスサーベイ:

  • 短期間(月1回・四半期1回)で実施する簡易的な調査
  • 5~10問程度の質問で、素早く現状を把握
  • リアルタイムで改善施策を実施できる

センサス:

  • 全従業員を対象とした包括的な調査
  • 年1~2回実施
  • 50~100問程度の詳細な質問で、深い分析が可能

主な質問例:

  • 「会社のビジョンに共感していますか?」
  • 「自分の仕事にやりがいを感じていますか?」
  • 「この会社を友人に勧めたいですか?」(eNPS: 従業員版ネット・プロモーター・スコア)

(3) 測定指標(総合指標・レベル指標・ドライバー指標)

エンゲージメント調査では、以下の3種類の指標を活用します:

総合指標:

  • エンゲージメント全体を表すスコア
  • 例: eNPS(従業員推奨度)、総合満足度スコア

レベル指標:

  • エンゲージメントの高さを段階的に分類
  • 例: 高エンゲージメント層(20%)、中エンゲージメント層(60%)、低エンゲージメント層(20%)

ドライバー指標:

  • エンゲージメントに影響を与える要因を特定
  • 例: 「上司との関係」「成長機会」「報酬」「ワークライフバランス」

ドライバー指標を分析することで、どの領域を改善すればエンゲージメントが向上するかが見えてきます。

4. 顧客エンゲージメント|BtoB SaaSでの重要性

BtoB SaaSでは、顧客エンゲージメントが解約率(チャーン)に直結します。

(1) 顧客エンゲージメントの定義(信頼関係の醸成)

BtoB SaaSにおける顧客エンゲージメントとは:

  • 顧客が製品を継続的に利用している
  • 製品の価値を実感している
  • カスタマーサクセスチームとの関係が良好
  • 企業のコミュニティ・イベントに参加している

顧客エンゲージメントが低いと、契約更新時に解約リスクが高まります。

(2) プロダクト活用度とチャーン防止

顧客エンゲージメントの代表的な測定指標は、プロダクト活用度(Product Usage) です:

測定項目:

  • ログイン頻度(週に何回ログインしているか)
  • アクティブユーザー数(チーム内で何人が使っているか)
  • 機能の利用状況(主要機能を使いこなしているか)

活用度が低い顧客への対策:

  • カスタマーサクセスチームがプロアクティブにフォロー
  • オンボーディングの強化(使い方チュートリアル、個別サポート)
  • 成功事例の共有(他社の活用方法を紹介)

活用度が高い顧客は、チャーン率が低く、アップセル・クロスセルの成功率が高い傾向があります。

(3) NPS(ネット・プロモーター・スコア)の活用

NPS(Net Promoter Score) とは、顧客が自社サービスを友人・知人に推奨する度合いを測る指標です。

測定方法:

  • 「このサービスを友人に勧める可能性はどれくらいですか?」(0~10点で回答)
  • 9~10点: 推奨者(Promoter)
  • 7~8点: 中立者(Passive)
  • 0~6点: 批判者(Detractor)

NPS計算式:

NPS = (推奨者の割合) - (批判者の割合)

NPSが高い顧客は、エンゲージメントが高く、継続率も高い傾向があります。定期的にNPSを測定し、批判者の不満を早期に解決することがチャーン防止の鍵です。

5. エンゲージメント向上の具体的施策

従業員エンゲージメントを向上させるための具体的な施策を紹介します。

(1) 1on1ミーティングの実施(対話の重要性)

1on1ミーティング とは、上司と部下が定期的に行う1対1の面談です。

1on1の大原則:

  • 「デスクで出来ない話をする」(業務報告ではなく、キャリア・悩み・成長機会を話す)
  • 「社員のための時間」(上司の指示ではなく、部下の関心・課題を優先)
  • 「腹を割って話す」(本音で対話し、信頼関係を構築)

効果:

  • 社員の悩みを早期に発見し、離職を防ぐ
  • キャリアの方向性を明確にし、モチベーション向上
  • 上司と部下の信頼関係が深まる

頻度: 月1~2回、30分~1時間程度が一般的

(2) 評価制度の見直し(成果+貢献度評価)

従来の評価制度(成果のみで評価)では、短期的な成果を追うあまり、チームワークやチャレンジ精神が評価されない問題があります。

改善のポイント:

  • 業務への貢献度を評価: チームへのサポート、ナレッジ共有、後輩育成なども評価対象に
  • 挑戦する姿勢を評価: 失敗を恐れず新しいことに挑戦したことも評価
  • 透明性の向上: 評価基準を明確にし、納得感を高める

社員が「正当に評価されている」と感じることで、帰属意識が高まります。

(3) 柔軟な働き方制度(フレックス・テレワーク)

ワークライフバランスを重視する環境を整えることで、エンゲージメントが向上します。

具体的な制度:

  • フレックスタイム制: 始業・終業時刻を柔軟に設定
  • テレワーク: 週2~3日在宅勤務を選択可能
  • 時短勤務: 育児・介護との両立を支援
  • 副業解禁: スキルアップ・キャリアの多様化を支援

Z世代を中心に、柔軟な働き方を提供できる企業が選ばれる時代になっています。

(4) 継続的な取り組みと文化変革

エンゲージメント向上は、一度の施策で劇的に改善するものではありません。

重要なポイント:

  • 経営層の本気度: トップが率先してエンゲージメント向上を経営の優先課題と位置づける
  • 継続的な測定と改善: パルスサーベイで定期的に測定し、PDCAを回す
  • 組織文化の変革: 制度導入だけでなく、マネージャー層の意識改革が必要

表面的な施策(制度だけ導入)では効果が薄く、組織全体の文化として根付かせることが重要です。

6. まとめ|エンゲージメントを高めるために

エンゲージメントは、従業員と企業、顧客と企業の「深いつながり」を表す概念で、ビジネスの成果に直結します。日本の従業員エンゲージメントは国際的に最下位レベル(5%)であり、人材確保・定着率向上のために、エンゲージメント向上が急務です。

エンゲージメント向上のチェックリスト:

従業員エンゲージメント:

  • パルスサーベイで定期的にエンゲージメントを測定する
  • 1on1ミーティングを月1~2回実施し、社員の悩みを早期に発見する
  • 評価制度を見直し、成果だけでなく貢献度・挑戦姿勢も評価する
  • フレックスタイム・テレワークなど柔軟な働き方制度を導入する
  • 経営層がエンゲージメント向上を優先課題として取り組む

顧客エンゲージメント(BtoB SaaS):

  • プロダクト活用度(ログイン頻度・機能利用状況)を定期的に測定する
  • NPS(顧客推奨度)を測定し、批判者の不満を早期に解決する
  • 活用度が低い顧客にプロアクティブにフォローする
  • オンボーディングを強化し、導入初期のチャーンを防ぐ

次のアクション:

  • 自社の従業員エンゲージメントを測定する(パルスサーベイ実施)
  • 低エンゲージメント層の社員にヒアリングを行い、主な課題を把握する
  • 1on1ミーティングの仕組みを導入する(マネージャー研修を実施)
  • 顧客のプロダクト活用度をダッシュボードで可視化する
  • NPS調査を実施し、批判者の不満要因を特定する

エンゲージメント向上は時間がかかりますが、継続的に取り組むことで、人材の定着・生産性向上・顧客満足度向上につながります。まずは現状を正確に把握することから始めましょう。

※本記事で紹介する施策の効果は、企業規模・業種・組織文化により異なります。エンゲージメント測定方法やスコアの定義は企業により異なるため、他社との単純比較には注意が必要です。

よくある質問

Q1エンゲージメントと従業員満足度の違いは何ですか?

A1従業員満足度は受動的な概念(労働条件への満足)、エンゲージメントは能動的な概念(自発的に貢献しようとする意欲)です。エンゲージメントは企業と従業員の双方向の関係性を表します。

Q2日本の従業員エンゲージメントは本当に低いのですか?

A2国際調査で日本は最下位レベル(5%)で、アメリカ(34%)と大きな差があります。日本特有の組織文化(年功序列・硬直的な評価制度・コミュニケーション不足)が影響していると考えられています。

Q3エンゲージメント向上にはどれくらいの期間が必要ですか?

A3即効性はなく、継続的な取り組みが必要です。表面的な制度導入だけでは効果が薄く、経営層の本気度と組織文化の変革が重要です。パルスサーベイで定期的に測定し、PDCAを回すことが成功の鍵です。

Q4顧客エンゲージメントとチャーン(解約)の関係は?

A4顧客エンゲージメントが高い(プロダクト活用度が高い)顧客は、チャーン率が低く、アップセル・クロスセルの成功率が高い傾向があります。NPS(顧客推奨度)を測定し、批判者の不満を早期に解決することが重要です。

B

B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

「B2Bデジタルプロダクト実践ガイド」は、デシセンス株式会社が運営する情報メディアです。B2Bデジタルプロダクト企業のマーケティング・営業・カスタマーサクセス・開発・経営に関する実践的な情報を、SaaS、AIプロダクト、ITサービス企業の実務担当者に向けて分かりやすく解説しています。