社員のモチベーションが上がらない、顧客が離れていく...
BtoB SaaS企業のマーケティング担当者、カスタマーサクセス担当者、人事担当者の多くが、「社員のモチベーションが上がらない」「顧客がサービスを使ってくれない」「定着率が低い」と悩んでいます。その背景にあるのが、エンゲージメント(関与度・結びつき) の低さです。
エンゲージメントは、従業員と企業、または顧客と企業の「深いつながり」を表す概念で、ビジネスの成果に直結します。本記事では、ビジネスにおけるエンゲージメントの基本概念から、従業員エンゲージメント・顧客エンゲージメントの測定方法・向上施策までを体系的に解説します。
この記事のポイント:
- エンゲージメントとは「婚約」「約束」を意味し、人と組織の深いつながりを表す概念
- 従業員エンゲージメント(社員の自発的貢献意欲)と顧客エンゲージメント(製品への愛着・継続利用)の2軸がある
- 日本の従業員エンゲージメントは国際的に最下位レベル(5%)で、人材確保の課題に直結
- 測定方法はアンケート(パルスサーベイ、センサス)やNPS(顧客推奨度)が主流
- 向上施策は1on1ミーティング、評価制度見直し、柔軟な働き方制度が効果的
1. ビジネスでエンゲージメントが注目される背景
エンゲージメントが経営上の重要テーマとなった背景には、日本の人材環境と働き方の変化があります。
(1) 日本の従業員エンゲージメント低水準(5%)
国際的な調査機関ギャラップの2024年調査によると、日本の従業員エンゲージメントは 5% で、調査対象国の中で最下位レベルです。
国際比較:
| 国 | エンゲージメント率 |
|---|---|
| アメリカ | 34% |
| イギリス | 30% |
| ドイツ | 18% |
| 日本 | 5% |
この低さは、日本特有の組織文化(年功序列・終身雇用の崩壊、硬直的な評価制度、コミュニケーション不足)が影響していると考えられています。
(2) 人材確保と定着率の課題(2024年トレンド)
2024年は人材確保がさらに深刻化しており、以下の課題が顕在化しています:
- 人材の流動化: 転職が当たり前になり、優秀な人材の流出が加速
- Z世代の価値観: 給与よりもやりがい・成長機会・ワークライフバランスを重視
- 採用コストの高騰: 新規採用は既存社員の定着より5倍のコストがかかる
エンゲージメントが高い企業は、従業員の定着率が高く、採用コストを抑えられるため、経営効率の観点からも注目されています。
(3) コロナ後の働き方の変化
コロナ後の従業員エンゲージメントは、世界的にパンデミック以前の水準(71%)に戻っていますが、日本は依然として低水準です。
コロナ後の変化:
- テレワークの定着により、対面コミュニケーションが減少
- 孤独感・疎外感を感じる社員の増加
- 柔軟な働き方を求める声の高まり
この環境下では、従来の「オフィスに出社してチームで働く」前提の組織運営では、エンゲージメントを維持できません。新しい働き方に対応した施策が求められています。
2. エンゲージメントとは|基本概念と種類
エンゲージメントの定義と、よく混同される概念を整理します。
(1) エンゲージメントの定義(深いつながり・約束)
エンゲージメント とは、英語で「婚約」「約束」「契約」を意味し、ビジネスでは 人と組織の深いつながり を表す概念です。
ビジネスにおけるエンゲージメント:
- 従業員と企業の間に、相互の信頼と貢献関係がある状態
- 顧客と企業の間に、強固かつ継続的な信頼関係がある状態
単なる「満足している」状態を超えて、自発的に貢献したい・応援したい と思う能動的な関係性を指します。
(2) 従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
よく混同される概念ですが、明確な違いがあります:
| 項目 | 従業員満足度 | 従業員エンゲージメント |
|---|---|---|
| 定義 | 労働条件・福利厚生への満足 | 会社への愛着・自発的な貢献意欲 |
| 方向性 | 受動的(企業から与えられる) | 能動的(自ら貢献しようとする) |
| 測定内容 | 給与・休暇・オフィス環境 | 理解度・帰属意識・行動意欲 |
| 成果への影響 | 離職率低下に寄与 | 生産性向上・イノベーション創出 |
具体例:
- 満足度が高い社員: 「給与も良いし、休みも取れるから満足」(受動的)
- エンゲージメントが高い社員: 「この会社のビジョンに共感し、自分の力で成長に貢献したい」(能動的)
エンゲージメントの方が、ビジネスの成果に直結する概念です。
(3) ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
ワークエンゲージメント と 従業員エンゲージメント は、似ているようで異なる概念です:
ワークエンゲージメント:
- 仕事に対する個人の心理状態を表す
- 3要素: 「活力」(エネルギッシュに働く)、「熱意」(仕事に誇りを持つ)、「没頭」(集中して取り組む)
- 対象: 「仕事そのもの」
従業員エンゲージメント:
- 従業員と企業の関係性を表す
- 3要素: 「理解度」(ビジョンへの共感)、「帰属意識」(組織の一員としての自覚)、「行動意欲」(貢献する意欲)
- 対象: 「企業・組織」
ワークエンゲージメントが高くても、従業員エンゲージメントが低い(仕事は好きだが会社には愛着がない)というケースもあります。
(4) 顧客エンゲージメントとは
顧客エンゲージメント とは、企業と顧客の間に 強固かつ継続的な信頼関係が醸成されている状態 です。
顧客エンゲージメントが高い状態:
- 製品・サービスを継続的に利用している
- 他社への乗り換えを検討していない
- 友人・知人に推奨する(口コミ・紹介)
- 企業のコミュニティ・イベントに参加する
BtoB SaaSでは、顧客エンゲージメントが高いほど、チャーン(解約)率が低く、アップセル・クロスセルの成功率が高まります。
3. 従業員エンゲージメント|測定方法と向上施策
従業員エンゲージメントの測定方法と、構成要素を解説します。
(1) エンゲージメントの3要素(理解度・帰属意識・行動意欲)
従業員エンゲージメントは、以下の3つの要素から成り立ちます:
1. 理解度:
- 企業のビジョン・ミッション・バリューを理解し共感している
- 自分の仕事が企業の目標にどう貢献しているか理解している
2. 帰属意識:
- 組織の一員である自覚を持っている
- 会社に対する愛着・誇りがある
- 長期的に働き続けたいと思っている
3. 行動意欲:
- 自主的に会社の成長に貢献しようとする意欲がある
- 指示された業務以上のことに挑戦する
- 他のメンバーと協力して成果を出そうとする
この3要素がバランスよく高い状態が、理想的なエンゲージメントです。
(2) 測定方法(パルスサーベイ、センサス)
エンゲージメントは主に アンケート調査 で測定されます:
パルスサーベイ:
- 短期間(月1回・四半期1回)で実施する簡易的な調査
- 5~10問程度の質問で、素早く現状を把握
- リアルタイムで改善施策を実施できる
センサス:
- 全従業員を対象とした包括的な調査
- 年1~2回実施
- 50~100問程度の詳細な質問で、深い分析が可能
主な質問例:
- 「会社のビジョンに共感していますか?」
- 「自分の仕事にやりがいを感じていますか?」
- 「この会社を友人に勧めたいですか?」(eNPS: 従業員版ネット・プロモーター・スコア)
(3) 測定指標(総合指標・レベル指標・ドライバー指標)
エンゲージメント調査では、以下の3種類の指標を活用します:
総合指標:
- エンゲージメント全体を表すスコア
- 例: eNPS(従業員推奨度)、総合満足度スコア
レベル指標:
- エンゲージメントの高さを段階的に分類
- 例: 高エンゲージメント層(20%)、中エンゲージメント層(60%)、低エンゲージメント層(20%)
ドライバー指標:
- エンゲージメントに影響を与える要因を特定
- 例: 「上司との関係」「成長機会」「報酬」「ワークライフバランス」
ドライバー指標を分析することで、どの領域を改善すればエンゲージメントが向上するかが見えてきます。
4. 顧客エンゲージメント|BtoB SaaSでの重要性
BtoB SaaSでは、顧客エンゲージメントが解約率(チャーン)に直結します。
(1) 顧客エンゲージメントの定義(信頼関係の醸成)
BtoB SaaSにおける顧客エンゲージメントとは:
- 顧客が製品を継続的に利用している
- 製品の価値を実感している
- カスタマーサクセスチームとの関係が良好
- 企業のコミュニティ・イベントに参加している
顧客エンゲージメントが低いと、契約更新時に解約リスクが高まります。
(2) プロダクト活用度とチャーン防止
顧客エンゲージメントの代表的な測定指標は、プロダクト活用度(Product Usage) です:
測定項目:
- ログイン頻度(週に何回ログインしているか)
- アクティブユーザー数(チーム内で何人が使っているか)
- 機能の利用状況(主要機能を使いこなしているか)
活用度が低い顧客への対策:
- カスタマーサクセスチームがプロアクティブにフォロー
- オンボーディングの強化(使い方チュートリアル、個別サポート)
- 成功事例の共有(他社の活用方法を紹介)
活用度が高い顧客は、チャーン率が低く、アップセル・クロスセルの成功率が高い傾向があります。
(3) NPS(ネット・プロモーター・スコア)の活用
NPS(Net Promoter Score) とは、顧客が自社サービスを友人・知人に推奨する度合いを測る指標です。
測定方法:
- 「このサービスを友人に勧める可能性はどれくらいですか?」(0~10点で回答)
- 9~10点: 推奨者(Promoter)
- 7~8点: 中立者(Passive)
- 0~6点: 批判者(Detractor)
NPS計算式:
NPS = (推奨者の割合) - (批判者の割合)
NPSが高い顧客は、エンゲージメントが高く、継続率も高い傾向があります。定期的にNPSを測定し、批判者の不満を早期に解決することがチャーン防止の鍵です。
5. エンゲージメント向上の具体的施策
従業員エンゲージメントを向上させるための具体的な施策を紹介します。
(1) 1on1ミーティングの実施(対話の重要性)
1on1ミーティング とは、上司と部下が定期的に行う1対1の面談です。
1on1の大原則:
- 「デスクで出来ない話をする」(業務報告ではなく、キャリア・悩み・成長機会を話す)
- 「社員のための時間」(上司の指示ではなく、部下の関心・課題を優先)
- 「腹を割って話す」(本音で対話し、信頼関係を構築)
効果:
- 社員の悩みを早期に発見し、離職を防ぐ
- キャリアの方向性を明確にし、モチベーション向上
- 上司と部下の信頼関係が深まる
頻度: 月1~2回、30分~1時間程度が一般的
(2) 評価制度の見直し(成果+貢献度評価)
従来の評価制度(成果のみで評価)では、短期的な成果を追うあまり、チームワークやチャレンジ精神が評価されない問題があります。
改善のポイント:
- 業務への貢献度を評価: チームへのサポート、ナレッジ共有、後輩育成なども評価対象に
- 挑戦する姿勢を評価: 失敗を恐れず新しいことに挑戦したことも評価
- 透明性の向上: 評価基準を明確にし、納得感を高める
社員が「正当に評価されている」と感じることで、帰属意識が高まります。
(3) 柔軟な働き方制度(フレックス・テレワーク)
ワークライフバランスを重視する環境を整えることで、エンゲージメントが向上します。
具体的な制度:
- フレックスタイム制: 始業・終業時刻を柔軟に設定
- テレワーク: 週2~3日在宅勤務を選択可能
- 時短勤務: 育児・介護との両立を支援
- 副業解禁: スキルアップ・キャリアの多様化を支援
Z世代を中心に、柔軟な働き方を提供できる企業が選ばれる時代になっています。
(4) 継続的な取り組みと文化変革
エンゲージメント向上は、一度の施策で劇的に改善するものではありません。
重要なポイント:
- 経営層の本気度: トップが率先してエンゲージメント向上を経営の優先課題と位置づける
- 継続的な測定と改善: パルスサーベイで定期的に測定し、PDCAを回す
- 組織文化の変革: 制度導入だけでなく、マネージャー層の意識改革が必要
表面的な施策(制度だけ導入)では効果が薄く、組織全体の文化として根付かせることが重要です。
6. まとめ|エンゲージメントを高めるために
エンゲージメントは、従業員と企業、顧客と企業の「深いつながり」を表す概念で、ビジネスの成果に直結します。日本の従業員エンゲージメントは国際的に最下位レベル(5%)であり、人材確保・定着率向上のために、エンゲージメント向上が急務です。
エンゲージメント向上のチェックリスト:
従業員エンゲージメント:
- パルスサーベイで定期的にエンゲージメントを測定する
- 1on1ミーティングを月1~2回実施し、社員の悩みを早期に発見する
- 評価制度を見直し、成果だけでなく貢献度・挑戦姿勢も評価する
- フレックスタイム・テレワークなど柔軟な働き方制度を導入する
- 経営層がエンゲージメント向上を優先課題として取り組む
顧客エンゲージメント(BtoB SaaS):
- プロダクト活用度(ログイン頻度・機能利用状況)を定期的に測定する
- NPS(顧客推奨度)を測定し、批判者の不満を早期に解決する
- 活用度が低い顧客にプロアクティブにフォローする
- オンボーディングを強化し、導入初期のチャーンを防ぐ
次のアクション:
- 自社の従業員エンゲージメントを測定する(パルスサーベイ実施)
- 低エンゲージメント層の社員にヒアリングを行い、主な課題を把握する
- 1on1ミーティングの仕組みを導入する(マネージャー研修を実施)
- 顧客のプロダクト活用度をダッシュボードで可視化する
- NPS調査を実施し、批判者の不満要因を特定する
エンゲージメント向上は時間がかかりますが、継続的に取り組むことで、人材の定着・生産性向上・顧客満足度向上につながります。まずは現状を正確に把握することから始めましょう。
※本記事で紹介する施策の効果は、企業規模・業種・組織文化により異なります。エンゲージメント測定方法やスコアの定義は企業により異なるため、他社との単純比較には注意が必要です。
