カスタマーサクセスが注目される背景
B2B SaaS企業のCS責任者やカスタマーサポート担当者の多くが、「カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違いが曖昧で、組織をどう設計すればいいか分からない」「両部門の連携がうまくいかず、顧客対応の質が低下している」といった課題を抱えています。サブスクリプションモデルの一般化により、継続率が収益に直結するようになり、カスタマーサクセスの重要性が急速に増しています。
この記事では、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの基礎知識、6つの観点から見る両者の違い、KPI設計と組織体制の構築、効果的な連携によるLTV最大化まで、B2B SaaS企業の実務担当者が知っておくべき知識を解説します。
この記事のポイント:
- カスタマーサポートは受動的に問題解決(マイナスをゼロに)、カスタマーサクセスは能動的に成功支援(ゼロをプラスに)
- サポートはコストセンター、サクセスはレベニュードライバー(収益ドライバー)として位置づけられる
- KPIも異なり、サポートは問い合わせ数・応答時間、サクセスは解約率・LTV・アップセル率
- 2025年は継続率向上と契約更新が最優先課題となり、デジタル主導のカスタマーサクセスが主流に
- 営業・プロダクト・マーケティング・サポート各部門と深く連携し、一貫したメッセージと体験を提供することが重要
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの基礎知識
(1) カスタマーサポートとは(受動的・問題解決)
カスタマーサポートとは、顧客からの問い合わせやクレームに受動的に対応し、問題解決を支援する部門です。「マイナスをゼロに戻すこと」が目的です。
主な活動:
- 製品の使い方に関する問い合わせ対応
- トラブルシューティング
- クレーム対応
- 技術的な問題の解決
組織上の位置づけ:
- コストセンター(収益を直接生まないが、事業運営に必要な部門)
- 顧客満足度を維持するために必要不可欠
(2) カスタマーサクセスとは(能動的・成功支援)
カスタマーサクセスとは、契約後の顧客に能動的に働きかけ、製品・サービスを活用した成功を支援する部門です。「ゼロをプラスにすること」、つまり顧客のLTV(ライフタイムバリュー)を最大化することが目的です。
主な活動:
- オンボーディング(新規顧客が製品を適切に使い始められるよう支援)
- 定期的なヘルスチェック(顧客の利用状況を監視)
- 顧客の目標達成を支援
- アップセル・クロスセルの提案
- 契約更新の促進
組織上の位置づけ:
- レベニュードライバー(企業の収益増加に直接貢献する部門)
- サブスクリプションモデルにおいて、継続率が収益に直結するため戦略的に重要
(3) マイナスをゼロに vs ゼロをプラスに
両者の違いを最もシンプルに表現すると以下の通りです:
| カスタマーサポート | カスタマーサクセス |
|---|---|
| マイナスをゼロに | ゼロをプラスに |
| 問題が発生したら対応 | 問題が発生しないよう予防 |
| 顧客満足度を維持 | 顧客の成功とLTVを最大化 |
6つの観点から見る両者の違い
(1) 起点とアプローチ(受動的 vs 能動的)
カスタマーサポート: 受動的(Reactive)
- 顧客からの問い合わせがあってから対応
- 問題発生時にリアクション
カスタマーサクセス: 能動的(Proactive)
- 顧客に対して先回りして働きかける
- 問題が発生する前に予防策を講じる
- 顧客の目標を理解した上で、その達成に向けた支援を提供
(2) ミッション(問題解決 vs LTV最大化)
カスタマーサポート:
- ミッション: 顧客の問題を迅速かつ正確に解決する
- ゴール: 顧客満足度の維持、問い合わせの解決
カスタマーサクセス:
- ミッション: 顧客が製品・サービスを活用して成功することを支援する
- ゴール: 解約率の低減、LTV(顧客生涯価値)の最大化、アップセル・クロスセルの実現
(3) KPI(問い合わせ数・応答時間 vs 解約率・LTV・アップセル率)
カスタマーサポートのKPI:
- 問い合わせ対応件数
- 平均応答時間(First Response Time)
- 平均解決時間(Time to Resolution)
- 顧客満足度(CSAT)
- 一次解決率(First Contact Resolution)
カスタマーサクセスのKPI:
- 解約率(チャーンレート)
- 継続率(リテンションレート)
- LTV(ライフタイムバリュー)
- アップセル率・クロスセル率
- NPS(ネットプロモータースコア:顧客推奨度)
- ヘルススコア(顧客の健全性を数値化した指標)
(4) 組織上の位置づけ(コストセンター vs レベニュードライバー)
カスタマーサポート: コストセンター
- 収益を直接生まないが、事業運営に必要な部門
- コスト削減と効率化が主要な評価軸
カスタマーサクセス: レベニュードライバー
- 企業の収益増加に直接貢献する部門
- アップセル・クロスセル、契約更新により収益を拡大
- 2025年はカスタマーサクセス部門が収益目標との連携を強化し、ビジネスインパクトを測定可能な指標で証明することが求められる
(5) 活動開始タイミング(問題発生時 vs 契約直後)
カスタマーサポート:
- 顧客が問題に直面し、問い合わせがあったタイミングで活動開始
カスタマーサクセス:
- 契約直後から活動開始
- オンボーディングにより、顧客が製品を適切に使い始められるよう支援
- 定期的なヘルスチェックで、顧客の利用状況を監視
カスタマーサクセスが活動を開始するタイミング(契約直後・導入後・利用開始後)を明確にしないと効果が半減します。
(6) 測定指標(サービス品質・解決時間 vs ビジネスインパクト)
カスタマーサポート:
- サービス品質(問い合わせ対応の正確性・迅速性)
- 解決時間(問題解決までにかかる時間)
カスタマーサクセス:
- ビジネスインパクト(顧客の実際のビジネス成果)
- LTV(顧客生涯価値)
- 成果ベースのカスタマーサクセス(Outcomes-Based CS)がトレンドとなり、顧客の実際のビジネス成果にフォーカス
KPI設計と組織体制の構築
(1) カスタマーサクセス組織の役割分担(オンボーディング・CSM・テックタッチ・契約更新・オペレーション)
カスタマーサクセス組織では、役割を明確に分担することが重要です:
オンボーディングチーム:
- 新規顧客が製品を適切に使い始められるよう支援
- 初期設定、トレーニング、ベストプラクティスの共有
CSM(カスタマーサクセスマネージャー):
- 顧客の成功を支援し、関係を管理する専門職
- 定期的なヘルスチェック、ビジネスレビュー、目標設定支援
- 主に高額顧客(ハイタッチ)を担当
テックタッチチーム:
- デジタルツールやボット(AI)を活用した自動化された顧客エンゲージメント手法
- 主に中小額顧客を担当
- デジタル主導のカスタマーサクセスが主流となり、顧客エンゲージメントの最大80%がボット(AI)で管理される可能性が言われています
契約更新チーム:
- 契約更新の促進、アップセル・クロスセルの提案
- 2025年は継続率向上と契約更新が最優先課題
オペレーションチーム:
- データ分析、レポート作成、プロセス改善
- ヘルススコアの算出、リスク顧客の特定
(2) CCO(Chief Customer Officer)の設置
SaaS事業者において、CCO(Chief Customer Officer)を設置し顧客満足度に対する最終責任を明確化する企業が増加しています。
CCOの役割:
- カスタマーサクセス組織全体の統括
- 経営層における顧客視点の代弁者
- 顧客満足度・継続率・LTVに対する最終責任
- 部門横断的な連携の推進(営業・プロダクト・マーケティング・サポート)
(3) 小規模企業におけるオールラウンダー型CS
小規模企業でもカスタマーサクセスは必要です。オールラウンダー型で少人数から始め、段階的に拡大可能です。
オールラウンダー型CSの特徴:
- 1人または少人数で複数の役割を兼務
- オンボーディング、CSM、契約更新をすべて担当
- サブスクリプションモデルでは解約率低減が収益に直結するため、規模に関わらず重要
段階的な拡大:
- Phase 1: 1人のCSMがすべての顧客を担当
- Phase 2: 顧客数が増えたら、ハイタッチ(高額顧客)とテックタッチ(中小額顧客)に分割
- Phase 3: 専門チーム(オンボーディング、契約更新等)を設置
効果的な連携によるLTV最大化
(1) 部門横断連携(営業・プロダクト・マーケティング・サポート)
カスタマーサクセスは、営業・プロダクト・マーケティング・サポートの各部門と深く連携し、一貫したメッセージと体験を提供することが重要です。
営業との連携:
- 営業が獲得した顧客情報(目標、課題、期待値)をカスタマーサクセスに引き継ぎ
- カスタマーサクセスが把握した顧客ニーズを営業にフィードバック
- アップセル・クロスセルの機会を共有
プロダクトとの連携:
- 顧客の利用状況、フィードバックをプロダクトチームに共有
- プロダクト改善の優先順位付けに貢献
- 新機能リリース時の顧客への説明・トレーニング
マーケティングとの連携:
- 成功事例の収集・発信
- 顧客の声をマーケティング施策に活用
- オンボーディングコンテンツの共同作成
カスタマーサポートとの連携:
- 問い合わせ内容から顧客の課題を把握
- 頻出する問題をプロダクト改善に反映
- 責任範囲の明確化(サポートは問題解決、サクセスは成功支援)
部門間(営業・プロダクト・マーケティング・サポート)がサイロ化すると、顧客は一貫性のないメッセージに直面します。
(2) 顧客データの一元化と情報共有の仕組み
効果的な連携には、顧客データの一元化と情報共有の仕組みが不可欠です。
データ一元化のポイント:
- CRM(顧客関係管理)システムで顧客情報を一元管理
- 営業・CS・サポート・マーケティングすべての部門が同じデータにアクセス
- 顧客とのやり取り履歴(メール、電話、商談、問い合わせ)を記録
情報共有の仕組み:
- 定期的な部門横断ミーティング(週次・月次)
- 顧客ヘルススコアの共有(リスク顧客の早期発見)
- Slack等のビジネスチャットツールで迅速な情報共有
データドリブンアプローチ:
- 顧客セグメントごとに戦略を設計することで効果を最大化
- ヘルススコアに基づき、リスク顧客に優先的にリソースを配分
(3) 2025年トレンド(デジタル主導CS、AI活用、成果ベースCS)
2025年のカスタマーサクセスにおける主要トレンドは以下の通りです:
デジタル主導のカスタマーサクセス:
- 顧客エンゲージメントの最大80%がボット(AI)で管理される可能性
- 中小額顧客はテックタッチで効率的に対応
- CSMはハイタッチ顧客に集中し、戦略的な関係構築に注力
AI活用の進化:
- リスク顧客の予測(解約予兆の早期検知)
- パーソナライズされたコンテンツ・トレーニングの自動提供
- 顧客の行動分析とレコメンデーション
成果ベースのカスタマーサクセス(Outcomes-Based CS):
- 顧客の実際のビジネス成果にフォーカス
- SMART(具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限)な目標設定により、成果を明確に追跡
- 契約更新・アップセルの判断基準として、顧客の成果達成度を重視
継続率向上と契約更新の最優先:
- 2025年は継続率向上と契約更新が最優先課題となり、新規獲得の不確実性に対応するため既存顧客からの収益最大化が焦点に
まとめ:カスタマーサクセス導入の成功ポイント
カスタマーサポートは受動的に問題解決(マイナスをゼロに)、カスタマーサクセスは能動的に成功支援(ゼロをプラスに)を担います。サブスクリプションモデルにおいて、継続率が収益に直結するため、カスタマーサクセスの戦略的重要性が増しています。
成功のポイント:
- 6つの観点から両者の違いを理解する(起点・ミッション・KPI・組織上の位置づけ・活動開始タイミング・測定指標)
- カスタマーサクセス組織では役割を明確に分担する(オンボーディング・CSM・テックタッチ・契約更新・オペレーション)
- CCO(Chief Customer Officer)を設置し、顧客満足度に対する最終責任を明確化
- 小規模企業はオールラウンダー型で少人数から始め、段階的に拡大
- 営業・プロダクト・マーケティング・サポート各部門と深く連携し、一貫したメッセージと体験を提供
- 顧客データを一元化し、情報共有の仕組みを構築
- 2025年トレンド(デジタル主導CS、AI活用、成果ベースCS)に対応
注意点:
- カスタマーサクセスとカスタマーサポートの役割が曖昧だと、顧客対応の質が低下し解約率が上昇する
- カスタマーサクセス部門が事業価値を証明できないと、予算削減や組織縮小のリスクがある
- 部門間のサイロ化により、顧客が一貫性のないメッセージに直面する
- 活動開始タイミング(契約直後・導入後・利用開始後)を明確化しないと効果が半減
次のアクション:
- 自社の顧客対応体制を見直し、カスタマーサポートとカスタマーサクセスの役割を明確化する
- KPIを設計し、ビジネスインパクトを測定可能な指標で追跡する
- 顧客データを一元化するCRMシステムを導入する
- 部門横断ミーティングを定期的に開催し、情報共有の仕組みを構築する
- SMART目標設定により、成果を明確に追跡する
サブスクリプションモデルでは継続率が収益に直結するため、カスタマーサクセスの導入は規模に関わらず重要です。効果的な連携によりLTVを最大化しましょう。
