SaaS事業とは?立ち上げ前に知っておくべき全体像
「SaaS事業を立ち上げたいが、何から始めればいいかわからない」「投資対効果はどれくらい?」と悩んでいる事業企画担当者や経営者の方は多いでしょう。
SaaS(Software as a Service)は継続課金モデルによる安定収益が魅力ですが、初期キャッシュフローが少なく収益化に時間がかかる特性もあります。市場選定や開発費用、重要指標の理解なしに着手すると、失敗リスクが高まります。
この記事では、SaaS事業の定義・ビジネスモデルから、立ち上げに必要なコスト、成功のカギとなる指標、実際の成功事例と失敗パターンまで、実践的な情報を網羅的に解説します。
この記事のポイント:
- SaaS市場は2024年で国内1.4兆円、2028年には2兆円規模へ成長予測(年平均成長率10.9%)
- 立ち上げコストはMVP開発で300万円程度、本番ローンチまでに1千万円以上が目安
- Vertical SaaS(業界特化型)が新規参入に推奨される。Horizontal SaaSは既に主要プレイヤーが出揃っている
- ARR・CAC・LTV・チャーンレートの4つの指標がビジネスの健全性を測る鍵
- カスタマーサクセスの重視と顧客ニーズの深い理解が成功の必須条件
1. SaaS事業が注目される背景
SaaS事業は、継続課金モデルによる安定収益と拡張性の高さから、B2B企業の新規事業として注目されています。
(1) 国内SaaS市場の成長(2024年1.4兆円、2028年2兆円予測)
国内SaaS市場は急速に拡大しています。SE Designの調査によれば、2024年時点で市場規模は1.4兆円、2028年には2兆円規模に達する見込みです。年平均成長率は10.9%で、IT市場全体(4.9%)の2倍以上の成長率を誇ります。
ファーストライトキャピタルの「SaaS Annual Report 2024-2025」によると、2024年の国内SaaS企業のIPO件数は8件と前年を大幅に上回り、トップ企業はARR(年間経常収益)400億円台に到達しています。ラクス、Sansanなど上位企業は年間成長率25-30%を維持しており、市場の成熟度が高まっています。
One Capitalの「Japan SaaS Insights 2024」では、エンタープライズ企業の50%以上がSaaSを導入し、1社あたり平均4.9サービスを利用していると報告されています。企業のデジタル化が進む中、SaaSは業務効率化の標準的な選択肢となりつつあります。
(出典: SE Design「国内外のSaaS市場規模を解説」2024年、ファーストライトキャピタル「SaaS Annual Report 2024-2025」、One Capital「Japan SaaS Insights 2024」)
(2) 継続課金モデルによる安定収益の魅力
SaaSの最大の魅力は、サブスクリプション型の継続課金モデルによる安定収益です。従来の買い切り型ソフトウェアと異なり、月額または年額で定期的に収益が発生するため、売上予測が立てやすく、事業計画の精度が高まります。
CloudFitの解説によれば、継続課金モデルでは顧客が使い続ける限り収益が積み上がるため、長期的なLTV(顧客生涯価値)が高くなります。これにより、初期の顧客獲得コストを回収した後は、高い利益率を維持できる可能性があります。
ただし、Baremetricsの分析では、初期は無料プランや低額プランが中心でキャッシュフローが少なく、収益化には時間を要すると指摘されています。資金繰り計画を慎重に立てる必要があります。
(出典: CloudFit「SaaSのビジネスモデルの本質とは?」2023年、Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
2. SaaS事業の基礎知識(定義・ビジネスモデル・特徴)
SaaS事業を立ち上げる前に、基本的な定義とビジネスモデルの特徴を理解しておくことが重要です。
(1) SaaSの定義とASPとの違い
SaaS(Software as a Service)は、インターネット経由でソフトウェア機能を提供するサービスです。ユーザーはソフトウェアをインストールせずに、ブラウザからアクセスして利用できます。
Wikipediaによれば、SaaSは単一システム・マルチテナント方式を採用しています。これは、一つのシステムを複数の顧客が共有する仕組みで、効率的な運用が可能です。
一方、ASP(Application Service Provider)は個別カスタマイズが可能ですが、SaaSは標準化されたシステムを提供する点が異なります。ASPは顧客ごとに異なる環境を構築するため、運用コストが高くなる傾向があります。
(出典: Wikipedia「SaaS」、Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
(2) サブスクリプション型ビジネスモデルの特徴
SaaSの収益モデルは、月額または年額の継続課金(サブスクリプション)が基本です。顧客が継続して利用する限り、安定した収益が得られます。
Baremetricsによれば、SaaSビジネスでは以下の指標が重要です:
- ARR(Annual Recurring Revenue、年間経常収益): サブスクリプション型ビジネスの年間収益
- MRR(Monthly Recurring Revenue、月間経常収益): サブスクリプション型ビジネスの月間収益
- CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト): 新規顧客1人を獲得するためにかかる費用
- LTV(Lifetime Value、顧客生涯価値): 1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益
- チャーンレート(解約率): 一定期間内にサービスを解約した顧客の割合
これらの指標をモニタリングすることで、ビジネスの健全性を評価できます。
(出典: Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
(3) Vertical SaaSとHorizontal SaaSの違い
SaaSは大きく2種類に分類されます:
Vertical SaaS(業界特化型SaaS):
- 特定業界に特化したSaaS(小売、建設、医療、不動産など)
- 業界特有の業務フローに最適化されている
- 競合が少なく、新規参入しやすい
Horizontal SaaS(機能特化型SaaS):
- 業界横断で特定機能を提供するSaaS(CRM、MA、会計など)
- 市場規模は大きいが、既に主要プレイヤーが出揃っている
- 新規参入の難易度が高い
BLUEPRINT Holdingsのnote記事によれば、Vertical SaaSが新規参入に推奨される理由は、Horizontal SaaSは既にSalesforce、HubSpot、freeeなどの主要プレイヤーが市場を占めており、差別化が難しいためです。
(出典: BLUEPRINT Holdings「新規事業を成功に導く、SaaSビジネスの勝ちパターン」2023年)
3. SaaS事業の立ち上げ方(市場選定・開発・費用)
SaaS事業の立ち上げには、市場選定、開発プロセス、費用計画の3つの要素が重要です。
(1) 市場選定のポイント(業界特化型が推奨される理由)
BLUEPRINT Holdingsのnote記事では、業界特化型(Vertical SaaS)が新規参入に推奨されています。その理由は:
- Horizontal SaaSは既に主要プレイヤーが市場を占めている
- Vertical SaaSは業界特有のニーズに対応でき、競合が少ない
- 特定業界の深い知見があれば、差別化しやすい
市場選定時には、以下のポイントを検討しましょう:
- 業界の成長性: 市場が拡大しているか、デジタル化の余地があるか
- 顧客のペインポイント: 業界特有の課題が明確か
- 競合の状況: 既存のSaaSがどれだけ浸透しているか
(出典: BLUEPRINT Holdings「新規事業を成功に導く、SaaSビジネスの勝ちパターン」2023年)
(2) 3ステップの事業ロードマップ
BLUEPRINT Holdingsのnote記事では、SaaSビジネスの立ち上げに3つのステップが提案されています:
ステップ1: アナログ業務の排除
- 紙やExcelで管理していた業務をデジタル化
- 例: 勤怠管理、請求書発行、契約書管理
ステップ2: 情報収集コストの削減・データ化
- 手動で収集していた情報を自動化
- 例: 営業活動の記録、顧客データの一元管理
ステップ3: 中間プロセスの排除
- 業務フローの無駄なステップを削減
- 例: 承認フローの自動化、レポート作成の自動化
この3ステップに沿って事業ロードマップを考えると、顧客にとっての価値が明確になり、開発の優先順位が定まります。
(出典: BLUEPRINT Holdings「新規事業を成功に導く、SaaSビジネスの勝ちパターン」2023年)
(3) 開発費用の目安(MVP 300万円、本番ローンチ1千万円以上)
TimeSkipの解説によれば、SaaS開発の費用目安は以下の通りです:
MVP(Minimum Viable Product、実用最小限の製品)開発:
- 費用: 約300万円
- 目的: 最小限の機能で市場投入し、顧客フィードバックを得る
本番ローンチまでの開発:
- 費用: 1千万円以上
- 内容: MVP検証後、本格的な機能開発とインフラ整備
運用保守:
- 費用: 月5万円程度
- 内容: サーバー費用、セキュリティアップデート、バグ修正
ただし、開発費用は要件・技術選定により大きく変動します。提示金額は目安として扱い、自社の要件に合わせて見積もりを取得することが推奨されます。
(出典: TimeSkip「SaaS立ち上げのポイント・開発費用や立ち上げプロセスとは?」2023年)
※2025年11月時点の情報です。最新の開発費用相場は開発会社にご確認ください。
4. 成功のカギとなる重要指標(ARR・CAC・LTV・チャーンレート)
SaaS事業の成否を左右する4つの重要指標を理解し、継続的にモニタリングすることが重要です。
(1) ARR(年間経常収益)の重要性
ARR(Annual Recurring Revenue、年間経常収益)は、サブスクリプション型ビジネスの年間収益を示す指標です。SaaS企業の成長度を測る最も重要な指標とされています。
ファーストライトキャピタルの「SaaS Annual Report 2024-2025」によれば、2024年の国内SaaSトップ企業はARR400億円台に到達し、上位企業は年間成長率25-30%を維持しています。
ARRの成長率が高いほど、事業の拡大が順調であることを示します。投資家もARRの成長率を重視するため、資金調達時の重要な評価指標となります。
(出典: ファーストライトキャピタル「SaaS Annual Report 2024-2025」、Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
(2) CAC(顧客獲得コスト)とLTV(顧客生涯価値)のバランス
SaaSビジネスでは、CAC(Customer Acquisition Cost、顧客獲得コスト)とLTV(Lifetime Value、顧客生涯価値)のバランスが重要です。
CAC(顧客獲得コスト):
- 新規顧客1人を獲得するためにかかる費用
- 広告費、営業人件費、マーケティング施策費用などを含む
LTV(顧客生涯価値):
- 1人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす利益
- 月額料金 × 平均利用期間 - サポートコスト
理想的なバランス:
- LTV / CAC = 3以上が健全とされる
- CAC回収期間は12ヶ月以内が推奨される
Baremetricsによれば、CACが高すぎるとビジネスが成立しません。一方、LTVを高めるには、顧客が長く使い続ける仕組み(カスタマーサクセス)が必要です。
(出典: Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
(3) チャーンレート(解約率)の管理
チャーンレート(解約率)は、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示す指標です。SaaSビジネスの健全性を測る重要な指標とされています。
チャーンレートの計算式:
- チャーンレート(月次)= 当月解約顧客数 ÷ 前月末顧客数 × 100
目安:
- 月次チャーンレート: 1-2%以下が理想(年次12-24%以下)
- 月次チャーンレート5%以上は危険信号
Baremetricsによれば、解約率が高いとビジネスモデルが成立しません。新規顧客を獲得しても、既存顧客が離脱していては成長できないためです。
チャーンレートを下げるには、カスタマーサクセス(顧客がサービスで成果を出せるよう支援する活動)の強化が必須です。
(出典: Baremetrics「SaaSビジネスは儲かる?」2023年)
5. 成功事例と失敗パターン
実際の成功事例と失敗パターンを知ることで、自社の事業計画に活かすことができます。
(1) 国内外の成功事例(Adobe、HubSpot、Chatwork等)
Paidのブログ記事では、国内外の成功事例が紹介されています:
海外の成功事例:
- Adobe: 買い切り型ソフトウェアからサブスクリプション型(Adobe Creative Cloud)に移行し、継続収益を拡大
- HubSpot: インバウンドマーケティングツールとして成長。フリーミアムモデルで初期ユーザーを獲得し、有料プランへアップグレードを促進
- Zoom: ビデオ会議ツールとして急成長。無料プランで認知度を高め、エンタープライズ企業への導入を拡大
国内の成功事例:
- Chatwork: ビジネスチャットツールとして国内シェアを獲得。中小企業向けに使いやすさを重視
- 楽楽精算: 経費精算SaaSとして成長。特定業務に特化し、導入企業を拡大
これらの成功事例に共通するのは:
- フリーミアムモデルで初期ユーザーを獲得
- カスタマーサクセスを重視し、解約率を低く抑える
- 特定のニーズに特化し、差別化を図る
(出典: Paid「SaaS型ビジネスモデルとは?成功した企業の事例」2023年)
(2) よくある失敗パターン(顧客ニーズの見誤り、カスタマーサクセス不足)
Researcher出力では、SaaS事業でよくある失敗パターンとして以下が指摘されています:
失敗パターン1: 顧客ニーズの見誤り
- 「こんな機能があれば便利だろう」という思い込みで開発を進める
- 実際の顧客が求めている機能とズレている
- 解決策: MVP開発で早期に顧客フィードバックを得る
失敗パターン2: カスタマーサクセス不足
- 新規顧客獲得ばかりに注力し、既存顧客のサポートが不十分
- 顧客が使い方を理解できず、解約率が高まる
- 解決策: オンボーディング支援、活用セミナー、サポート体制の強化
失敗パターン3: 解約率の高さ
- チャーンレートが高く、新規顧客獲得が追いつかない
- 収益が積み上がらず、ビジネスモデルが成立しない
- 解決策: 解約理由を分析し、プロダクト改善とカスタマーサクセス強化
TechCrunch Japanのfreee記事では、「顧客ニーズの深い理解とカスタマーサクセスの重視が成功の鍵」と強調されています。継続的に使ってもらうことが必須です。
(出典: TechCrunch Japan「日本発の強いSaaSビジネスを作るには?」2019年)
6. まとめ:SaaS事業に向いている企業
SaaS事業は、継続課金モデルによる安定収益が魅力ですが、初期キャッシュフローが少なく収益化に時間がかかる特性があります。市場選定、開発費用、重要指標の理解が成功の前提条件です。
SaaS事業に向いている企業:
- 特定業界の深い知見があり、Vertical SaaSで差別化できる企業
- 長期的な視点で事業投資ができる企業(収益化まで6ヶ月〜1年以上かかる可能性)
- カスタマーサクセスに注力し、顧客を継続的に支援できる体制がある企業
- ARR・CAC・LTV・チャーンレートを継続的にモニタリングできる企業
次のアクション:
- 自社が参入可能な業界・領域を洗い出す(Vertical SaaSの可能性を検討)
- MVP開発費用(300万円程度)と本番ローンチ費用(1千万円以上)の予算を確保
- ARR・CAC・LTV・チャーンレートの目標値を設定する
- カスタマーサクセス体制の構築計画を立てる
- 成功事例(Adobe、HubSpot、Chatwork等)を参考に、自社の戦略を策定
SaaS事業は、適切な市場選定と顧客ニーズの深い理解があれば、安定的な成長が期待できるビジネスモデルです。失敗パターンを避け、成功事例から学びながら、慎重に立ち上げを進めましょう。
