カスタマーサクセスと営業の役割分担がよく分からない...
「カスタマーサクセスと営業の違いは何?」「アップセル・クロスセルはどちらが担当すべき?」「両部門の連携をどう改善すればいいのか」といった疑問を抱えるB2B SaaS企業の担当者は少なくありません。サブスクリプション型ビジネスでは、新規顧客獲得だけでなく、既存顧客の継続・拡大が収益の鍵を握ります。
この記事では、カスタマーサクセスと営業の定義・違い、それぞれの役割とKPI、連携によるメリット、効果的な連携体制の作り方まで、SaaSビジネスにおける実践的なポイントを解説します。
この記事のポイント:
- 営業は「新規顧客獲得」、カスタマーサクセスは「契約後の顧客の成功」にフォーカス
- カスタマーサクセスの役割はコストセンターからプロフィットセンターへ進化(アップセル・クロスセルを牽引)
- 顧客情報を商談時点で営業がリサーチし、カスタマーサクセスと共有することでスムーズな顧客理解が可能
- ヘルススコアとプロダクト利用状況をトラッキングすることでアップセル・クロスセルの予見精度が向上
- 組織立ち上げはスモールスタートで1〜2つの役割に絞り、段階的に拡大することが推奨
SaaSビジネスにおけるCS・営業の重要性
サブスクリプション型SaaSビジネスでは、カスタマーサクセス(CS)と営業の役割が明確に分かれています。
(1) サブスクリプションモデルにおける顧客維持の重要性
サブスクリプション型ビジネスの特性:
- 売り切り型と異なり、継続的な顧客関係が収益の源泉
- 新規顧客獲得コスト(CAC)を回収するには、一定期間の継続が必要
- 顧客生涯価値(LTV)を最大化することが重要
顧客維持の重要性:
- 新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍と言われている
- チャーンレート(解約率)を1%改善するだけで、ARR(年次経常収益)が大きく変わる
- 既存顧客からのアップセル・クロスセルが成長の鍵
カスタマーサクセスの役割:
- 顧客が製品・サービスの価値を実感し、継続利用してもらうための能動的な支援
- チャーン防止とアップセル・クロスセルの推進
- 顧客の成功体験を創出し、LTVを最大化
(2) The Model型営業プロセスにおけるCSの位置づけ
The Modelとは: 2019年に提唱されたフレームワークで、営業プロセスを分業化し効率を上げることを目的とします。
The Model型営業プロセス:
- マーケティング:リード獲得
- インサイドセールス(IS):リード育成・アポイント獲得
- フィールドセールス(FS):商談・受注
- カスタマーサクセス(CS):オンボーディング・定着支援・アップセル/クロスセル
CSの位置づけ:
- 受注後の顧客の成功を担当
- マーケティング→IS→FS→CSの一気通貫プロセスで顧客価値を最大化
- 従来の「サポート部門」から「成長エンジン」へ進化
The Model型組織では、カスタマーサクセスがARR最大化の要となります。
カスタマーサクセスと営業の定義と違い
カスタマーサクセスと営業の定義と主な違いを整理します。
(1) カスタマーサクセス(CS)とは
カスタマーサクセスの定義: 自社サービスを利用する顧客が成功体験を得られるよう能動的に支援する活動・職種。
CSの主な役割:
- オンボーディング:新規顧客が製品・サービスの初期設定や導入手続きを完了し、価値を実感できるようにする
- 定着支援:顧客が継続的に製品・サービスを活用し、価値を最大化できるよう支援
- アップセル・クロスセル:顧客の追加ニーズを把握し、上位プランや関連サービスを提案
- チャーン防止:解約予兆を検知し、顧客満足度を維持・向上
CSの目的:
- 顧客の成功体験を創出
- チャーンレート(解約率)の低減
- LTV(顧客生涯価値)の最大化
- NPS(ネットプロモータースコア)の向上
(2) 営業とは(新規獲得フォーカス)
営業の定義: 新規顧客の獲得を目的とした、リード獲得・商談・受注までの活動。
営業の主な役割:
- リード獲得:マーケティング施策やアウトバウンド営業でリードを獲得
- 商談:顧客の課題をヒアリングし、自社製品・サービスで解決できることを提案
- 受注:契約締結
営業の目的:
- 新規顧客獲得
- 新規受注金額の最大化
- パイプライン(見込み案件)の管理
(3) 主な違い(新規獲得 vs 継続・拡大)
カスタマーサクセスと営業の主な違いは以下の通りです:
| 項目 | 営業 | カスタマーサクセス |
|---|---|---|
| 主な対象 | 見込み顧客(未契約) | 既存顧客(契約済み) |
| 目的 | 新規顧客獲得 | 顧客の成功・継続・拡大 |
| KPI | 新規受注数・受注金額 | チャーンレート・NPS・MRR |
| アプローチ | 営業活動(商談・提案) | 能動的な支援(オンボーディング・定着) |
| 収益貢献 | 新規ARR | 既存ARRの維持・拡大(アップセル/クロスセル) |
役割分担を明確にする重要性:
- 営業が既存顧客対応に追われると、新規獲得が疎かになる
- CSが新規獲得に関与すると、既存顧客の成功支援が疎かになる
- 役割分担を明確にすることで、両部門が専門性を発揮できる
(4) カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートも異なります:
カスタマーサポート:
- 顧客からの問い合わせに対して受動的に対応
- 問題解決が主な役割
- KPI:問い合わせ対応時間、解決率
カスタマーサクセス:
- 顧客の成功のために能動的に支援
- 顧客の成功体験創出が主な役割
- KPI:チャーンレート、NPS、MRR、LTV
カスタマーサクセスは、問題が発生する前に顧客の状況を把握し、先回りして支援することが特徴です。
それぞれの役割とKPI設定
カスタマーサクセスと営業のそれぞれの役割とKPIを整理します。
(1) CSの役割(オンボーディング・定着支援・アップセル/クロスセル)
CSの主な役割:
1. オンボーディング:
- 新規顧客が製品・サービスの初期設定を完了
- 早期に価値を実感してもらう(初回成功体験の創出)
- 初回ログイン、主要機能の利用開始を支援
2. 定着支援:
- 顧客が継続的に製品・サービスを活用
- 活用度を高め、価値を最大化
- 定期的なフォロー、活用事例の提供、勉強会の開催
3. アップセル・クロスセル:
- 顧客の追加ニーズを把握
- 上位プランへのアップグレード、関連サービスの提案
- ヘルススコアと利用状況に基づくタイミング判断
4. チャーン防止:
- 解約予兆を検知(活用度低下、NPS低下、問い合わせ増加等)
- 顧客満足度を維持・向上
- 早期のフォローアップ
(2) 営業の役割(リード獲得・商談・受注)
営業の主な役割:
1. リード獲得:
- マーケティング施策やアウトバウンド営業でリードを獲得
- リードの育成(インサイドセールス)
2. 商談:
- 顧客の課題をヒアリング
- 自社製品・サービスで解決できることを提案
- デモ、トライアル、見積もり提示
3. 受注:
- 契約締結
- CSへの引き継ぎ(顧客情報、課題、期待値等)
(3) CSのKPI(チャーンレート・NPS・MRR・LTV・ヘルススコア)
カスタマーサクセスの主なKPIは以下の通りです:
1. チャーンレート(解約率):
- 一定期間内で解約・退会した顧客の割合
- 計算式:チャーンレート = 解約顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100
- 目標値:業界・サービス特性により異なるが、5%以下が一般的な目安
2. NPS(ネットプロモータースコア):
- 顧客ロイヤルティを数値化するための指標
- 0〜10点の11段階で評価
- 計算式:NPS = 推奨者(9-10点)の割合 - 批判者(0-6点)の割合
3. MRR(月次経常収益):
- 毎月継続的に得られる収益
- 計算式:MRR = 月額料金 × 顧客数
- SaaSビジネスの健全度を測る指標
4. LTV(顧客生涯価値):
- 顧客が生涯にわたり企業にもたらす収益の総額
- 計算式:LTV = 平均購入金額 × 平均購入回数 × 平均継続年数
- LTVを最大化することがCSの最重要目標
5. ヘルススコア:
- 顧客の健全度を数値化した指標
- プロダクト利用状況、NPS、問い合わせ頻度等を総合的に評価
- アップセル・クロスセルやチャーン予兆の判断に活用
(4) 営業のKPI(新規受注数・受注金額・商談化率)
営業の主なKPIは以下の通りです:
1. 新規受注数:
- 一定期間内で新規に契約した顧客数
- 目標値:企業規模・商材により異なる
2. 新規受注金額(新規ARR):
- 新規顧客から得られる年次経常収益
- 計算式:新規ARR = 新規受注の月額料金 × 12ヶ月 × 顧客数
3. 商談化率:
- リードが商談に進んだ割合
- 計算式:商談化率 = 商談数 ÷ リード数 × 100
- マーケティング施策の効果測定に活用
4. パイプライン管理:
- 初回アポイントから受注までの営業プロセスを可視化
- 各フェーズの進捗率、滞留期間を管理
連携によるメリットとARR最大化
カスタマーサクセスと営業が連携することで、ARR(年次経常収益)を最大化できます。
(1) 顧客情報の共有によるスムーズな顧客理解
営業→CSへの引き継ぎ:
- 商談時点で営業が顧客企業の基本情報、課題、期待値をリサーチ
- 受注時にCSへ詳細な情報を引き継ぐ
- CSは顧客の背景を理解した上でオンボーディングを開始できる
CS→営業へのフィードバック:
- CSが把握した顧客の活用状況、満足度、追加ニーズを営業にフィードバック
- 営業は類似顧客への提案精度を向上できる
- 既存顧客の声を新規提案に活かせる
情報共有のメリット:
- 顧客理解がスムーズになる
- オンボーディング期間が短縮される
- 顧客満足度が向上する
(2) アップセル・クロスセル機会の最大化
CSによるアップセル・クロスセルの推進:
- CSは顧客の活用状況を日々把握している
- ヘルススコアとプロダクト利用状況をトラッキングすることで、アップセル・クロスセルのタイミングを予見
- 顧客が価値を実感し、追加ニーズが顕在化したタイミングで提案
CSQL(Customer Success Qualify Lead):
- カスタマーサクセス活動によって生まれた、アップセル・クロスセルにつながる見込み客
- CSがCSQLを営業に引き継ぐ
- 営業は具体的な提案・見積もり提示・契約締結を担当
アップセル・クロスセルのメリット:
- 新規顧客獲得コストがかからない
- 既存顧客は製品・サービスを理解しているため、成約率が高い
- LTVが大幅に向上する
(3) CSがコストセンターからプロフィットセンターへ進化
従来のCS:
- 顧客サポート的な位置づけ
- コストセンター(売上貢献なし)
現在のCS:
- アップセル・クロスセルを牽引
- プロフィットセンター(売上貢献あり)
- ARR最大化の成長エンジン
進化のポイント:
- CSが能動的に顧客の追加ニーズを把握
- ヘルススコアに基づくアップセル・クロスセルの提案
- CSQLを営業に引き継ぎ、成約へつなげる
(4) ヘルススコアとプロダクト利用状況のトラッキング
ヘルススコアの活用:
- 顧客の健全度を数値化し、優先順位付け
- ヘルススコアが高い顧客:アップセル・クロスセルの提案
- ヘルススコアが低い顧客:チャーン防止のフォロー
プロダクト利用状況のトラッキング:
- ログイン頻度、機能利用状況、アクティブユーザー数を可視化
- 利用状況が低下した顧客に早期にフォロー
- 利用状況が高い顧客にアップセル・クロスセルを提案
トラッキングのメリット:
- アップセル・クロスセルの予見精度が向上
- チャーン予兆を早期に検知
- データに基づく顧客対応が可能
連携を成功させる組織設計と実践方法
カスタマーサクセスと営業の連携を成功させるための組織設計と実践方法を解説します。
(1) 顧客情報の共有方法(商談時点でのリサーチ情報共有)
商談時点でのリサーチ情報共有:
- 営業が商談時点で顧客企業の基本情報、課題、期待値、決裁者情報をリサーチ
- 受注時にCRMツールやスプレッドシートでCSへ引き継ぐ
- CSは顧客の背景を理解した上でオンボーディングを開始
情報共有のフォーマット例:
- 顧客企業名、業種、従業員数、担当者情報
- 導入目的、課題、期待値
- 決裁者、決裁プロセス
- 商談での合意事項、注意事項
ツールの活用:
- CRMツール(Salesforce、HubSpot等)で顧客情報を一元管理
- CSツール(Gainsight、HiCustomer等)でヘルススコアを可視化
- 両ツールを連携し、営業・CS双方が顧客情報を参照できる環境を構築
(2) アップセル・クロスセルの役割分担
役割分担の明確化:
- CS:顧客の追加ニーズを把握、アップセル・クロスセルのタイミング判断、CSQLの創出
- 営業:CSQLを受け取り、具体的な提案・見積もり提示・契約締結
CSと営業の連携フロー:
- CSが顧客の活用状況・ヘルススコアを日々トラッキング
- アップセル・クロスセルのタイミングを判断(ヘルススコア高、利用状況良好、追加ニーズ顕在化)
- CSがCSQLを営業に引き継ぐ
- 営業が顧客に具体的な提案を行う
- 契約締結後、CSがオンボーディング・定着支援
注意点:
- CSが営業活動まで行うと、本来の顧客成功支援が疎かになる
- 営業が既存顧客対応に追われると、新規獲得が疎かになる
- 役割分担を明確にし、KPIもすり合わせる
(3) タッチモデルによる顧客セグメント化
タッチモデルとは: 顧客をLTVや活用度でセグメント化し、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチなどアプローチを変える手法。
ハイタッチ:
- 対象:LTVが高い、企業規模が大きい、戦略的に重要な顧客
- アプローチ:専任CSM(カスタマーサクセスマネージャー)が1対1で支援
- 頻度:週1回〜月1回の定期MTG
ロータッチ:
- 対象:LTVが中程度、企業規模が中規模の顧客
- アプローチ:CSMが複数顧客を担当、定期的なフォロー
- 頻度:月1回〜四半期1回のMTG
テックタッチ:
- 対象:LTVが低い、企業規模が小さい顧客
- アプローチ:メール配信、Webセミナー、チャットボット等の自動化ツールで支援
- 頻度:月次メルマガ、定期Webセミナー
タッチモデルのメリット:
- CSリソースを効率的に配分
- 高LTV顧客に集中してアップセル・クロスセルを推進
- 低LTV顧客も自動化ツールで最低限のフォロー
(4) 立ち上げのポイント(スモールスタート・5-6割で御の字)
組織立ち上げのポイント:
1. スモールスタートで1〜2つの役割に絞る:
- 初期は全ての役割(オンボーディング・定着支援・アップセル/クロスセル・チャーン防止)を完璧にこなすことは難しい
- まずは1〜2つの役割に絞る(例:オンボーディングとチャーン防止)
- 段階的に役割を拡大
2. 完璧を目指さず、5-6割で御の字:
- 組織立ち上げ初期は試行錯誤が必要
- 完璧を目指すと動き出せない
- 5-6割が計画通りにいけば御の字という姿勢で進める
3. 売り切り型のビジネス文化や縦割り組織体制の変革:
- 売り切り型のビジネス文化が残っていると、CSの重要性が理解されにくい
- 縦割りの組織体制では、営業・CS間の連携が進まない
- 経営層の理解とコミットメントが重要
4. KPIを絶対的な判断材料にしない:
- KPIは重要だが、現場の声や顧客の意見を取り入れた柔軟な対応が必要
- KPIのみを追求すると、顧客の真のニーズを見失う可能性がある
まとめ:CS・営業の効果的な連携体制
カスタマーサクセスと営業は、役割分担を明確にし、情報共有と連携を強化することで、ARR(年次経常収益)を最大化できます。営業は「新規顧客獲得」、カスタマーサクセスは「契約後の顧客の成功」にフォーカスし、それぞれの専門性を発揮することが重要です。
連携成功のポイント:
- 顧客情報を商談時点で営業がリサーチし、CSと共有
- アップセル・クロスセルの役割分担を明確化(CS:CSQL創出、営業:提案・契約締結)
- ヘルススコアとプロダクト利用状況をトラッキング
- タッチモデルで顧客をセグメント化し、CSリソースを効率配分
- 組織立ち上げはスモールスタートで段階的に拡大
次のアクション:
- 現在の営業・CS間の情報共有方法を見直す
- アップセル・クロスセルの役割分担を明確にする
- ヘルススコアの設計とトラッキング方法を検討する
- タッチモデルによる顧客セグメント化を検討する
- CSツール(Gainsight、HiCustomer等)の導入を検討する
カスタマーサクセスと営業の効果的な連携体制を構築し、顧客の成功とARR最大化を実現しましょう。
