カスタマーサクセスにおけるクロスセルとは?
「既存顧客からの売上をもっと伸ばしたい」「カスタマーサクセスがクロスセルを担うべき?」――B2B SaaS企業のカスタマーサクセス担当者から多く寄せられる課題です。
クロスセルとは、顧客が購入した(現在利用している)製品・サービスに対して、関連する別の製品・サービスを購入してもらうことで定期収益を増やす営業手法です。カスタマーサクセスがクロスセルを担う意義は、顧客の成功体験を深めながらLTV(顧客生涯価値)を高められる点にあります。
この記事では、カスタマーサクセスにおけるクロスセルの定義、アップセルとの違い、適切なタイミング、実践手法、成功のポイントまでを体系的に解説します。
この記事のポイント:
- クロスセルは関連する別製品・サービスを勧める手法で、既存顧客への販売コストは新規の5分の1
- アップセルは上位プラン切替、クロスセルは別製品購入という違いがある
- アダプションフェーズの顧客を対象とし、ヘルススコアを確認してから実施する
- 顧客データ分析から「よく一緒に購入される製品」を抽出して提案する
- 顧客満足度向上だけでは不十分で、能動的な施策が必要
カスタマーサクセスにおけるクロスセルとは?
(1) クロスセルの定義とCSが担う意義
クロスセル(Cross-sell)とは、顧客が購入した(現在利用している)製品・サービスに対して、関連する別の製品・サービスを購入してもらうことで定期収益を増やす営業手法です。
クロスセルの具体例:
- SaaSツール: 営業支援ツールを利用している顧客に、マーケティングオートメーションツールを提案
- ECサイト: パソコンを購入した顧客に、マウス・キーボード・ケースを提案
- クラウドサービス: データ管理ツールを利用している顧客に、データ分析ツールを提案
カスタマーサクセスがクロスセルを担う意義:
- 顧客の成功を前提とする: セールスと異なり、CSは顧客が成功するために必要な製品・サービスを提案する立場
- 信頼関係の構築: 日常的なサポート・伴走を通じて信頼関係が構築されているため、提案が受け入れられやすい
- LTV最大化: 顧客の成功体験を深めながら、長期的なLTV(顧客生涯価値)を高められる
(2) 既存顧客への販売コストは新規の5分の1
既存顧客へのクロスセル・アップセルは、新規顧客獲得と比較して効率的にLTVを高められます:
既存顧客へのアプローチのメリット:
- コスト効率: 既存顧客への販売コストは新規顧客獲得の5分の1
- 高い成功率: すでに自社製品・サービスを利用しており、信頼関係が構築されているため成功率が高い
- 迅速な成果: 新規顧客獲得には時間がかかるが、既存顧客へのクロスセルは短期間で成果が出やすい
新規顧客獲得が困難な状況:
- 2024年、競合の増加や広告費の高騰により、新規顧客獲得が困難になっている
- 既存顧客からの売上最大化手法としてアップセル・クロスセルが注目されている
(出典: Commune「アップセル・クロスセルとは?概要から事例まで徹底解説」2024年)
(3) 2024-2025年のトレンド(売上拡大への注目)
2025年のカスタマーサクセス組織は「守りのカスタマーサクセス」から「攻めのカスタマーセールス」へのシフトが進んでいます:
守りのカスタマーサクセス:
- ミッション: 解約防止(チャーン率の低減)
- 主な活動: オンボーディング、サポート、満足度調査
攻めのカスタマーセールス:
- ミッション: 売上拡大(既存顧客のアップセル・クロスセルによるMRR/ARR増加)
- 主な活動: ヘルススコア分析、ロイヤリティの高い顧客への提案、LTV最大化
トレンドの背景:
- カスタマーサクセス市場は世界的な需要増により着実に成長を遂げている
- 新規顧客獲得が困難な中、既存顧客からの売上最大化が重要な経営課題となっている
(出典: セレブリックス「2025年のカスタマーサクセス組織はどう変わるのか~守りのカスタマーサクセスから攻めのカスタマーセールスへ~」2024年)
クロスセルとアップセルの違いと使い分け
(1) クロスセル:関連する別製品・サービスの提案
クロスセルは、現在利用している製品・サービスに対して、関連する別の製品・サービスを購入してもらう手法です:
クロスセルの特徴:
- 別製品の提案: 現在の製品とは異なる製品・サービスを提案
- 利用価値の拡大: 複数の製品を組み合わせることで、顧客の課題解決の幅が広がる
- 定期収益の増加: 月額料金が増加し、MRR/ARRが向上する
クロスセルの具体例(SaaS):
- 営業支援ツールを利用している顧客に、マーケティングオートメーションツールを提案
- データ管理ツールを利用している顧客に、データ分析ツールを提案
- プロジェクト管理ツールを利用している顧客に、タスク管理ツールを提案
(2) アップセル:上位プランへの切り替え提案
アップセルは、現在よりも高額な上位プランや機種への切り替えを提案する手法です:
アップセルの特徴:
- 上位プランへの移行: より多機能・高性能なプランへの切り替え
- 利用量の拡大: ユーザー数・ストレージ容量などの制限を拡大
- 顧客単価の向上: 1顧客あたりの月額料金が増加
アップセルの具体例(SaaS):
- スタンダードプランからプレミアムプランへの切り替え
- 10ユーザープランから50ユーザープランへの切り替え
- ストレージ10GBから100GBへの拡大
(3) 両者を組み合わせたLTV向上戦略
クロスセルとアップセルを組み合わせることで、LTV(顧客生涯価値)を最大化できます:
組み合わせ戦略の例:
- オンボーディング成功後: アダプションフェーズに移行したら、アップセルを検討
- 上位プラン移行後: 利用が安定したら、関連製品をクロスセル
- ロイヤリティ向上後: 複数製品を利用している顧客に、さらなるアップセルを提案
LTV向上の効果:
- クロスセル・アップセルにより、1顧客あたりの月額料金が増加
- 複数製品を利用している顧客は解約率が低く、長期間利用する傾向がある
- MRR/ARRが増加し、企業の成長が加速する
クロスセルの適切なタイミングと対象顧客の見極め
(1) アダプションフェーズの顧客を対象とする
アップセル・クロスセルは、アダプションフェーズ(製品・サービスを定着させ、活用している段階)の顧客を対象とします:
カスタマージャーニーとフェーズ:
- オンボーディングフェーズ: 製品の初期設定・学習段階(アップセル・クロスセルは不適切)
- アダプションフェーズ: 製品を定着させ、活用している段階(アップセル・クロスセルの対象)
- エクスパンションフェーズ: 利用が拡大し、ロイヤリティが高まっている段階(積極的なアップセル・クロスセルを推奨)
アダプションフェーズの見極め:
- 製品の主要機能を定期的に利用している
- 利用開始から3〜6ヶ月が経過している
- サポート問い合わせが減り、自律的に活用できている
(出典: SaaS Manager Lab「カスタマーサクセス基礎④-アップセル・クロスセルとは?」2024年)
(2) ヘルススコアの確認と優先順位付け
ヘルススコアとは、顧客の製品・サービス利用状況や満足度を数値化した指標です。アップセル・クロスセルの実施判断に使用します:
ヘルススコアの構成要素:
- 利用頻度: ログイン回数、機能利用回数
- 利用深度: 主要機能の利用状況、高度な機能の活用度
- 満足度: NPS(ネットプロモータースコア)、サポート評価
- エンゲージメント: 問い合わせ内容、フィードバック頻度
ヘルススコア別の対応:
- 高スコア(80-100点): 積極的なアップセル・クロスセルを推奨
- 中スコア(50-79点): 顧客のニーズを確認してから提案
- 低スコア(0-49点): アップセル・クロスセルは控え、まず満足度向上に注力
注意点:
- ヘルススコアが低い顧客にクロスセルを提案すると逆効果になる可能性がある
- まず満足度を向上させ、アダプションフェーズに移行させることが優先
(3) ロイヤリティの高い顧客への優先アプローチ
ロイヤリティの高い顧客は、アップセル・クロスセルの成功率が高いため、優先的にアプローチします:
ロイヤリティの高い顧客の特徴:
- 長期間利用している(1年以上)
- 複数製品を利用している
- NPS(ネットプロモータースコア)が高い
- 推薦・口コミで新規顧客を紹介してくれる
優先アプローチの手順:
- ロイヤリティの高い顧客をリストアップ
- 顧客データ分析で「よく一緒に購入される製品」を抽出
- 顧客のニーズに合った製品を提案
- 提案後、フィードバックを収集し、次の提案に活かす
(出典: CustomerCore「クロスセルとは?3つの視点+カスタマーサクセスでLTV最大化」2024年)
クロスセルの実践手法とLTV最大化戦略
(1) 顧客データ分析(よく一緒に購入される製品の抽出)
顧客データ分析により、「よく一緒に購入される製品」「関連度が高いサービス」を抽出して提案します:
分析手法:
- 購買履歴分析: 過去の購買データから、同時購入されることが多い製品を特定
- 相関分析: 製品A を利用している顧客の何%が製品B も利用しているかを分析
- セグメント分析: 業種・企業規模・利用目的別に、適した製品の組み合わせを特定
データ分析ツール:
- CRM(顧客管理システム)のレポート機能
- BIツール(Tableau、Power BIなど)
- CSプラットフォーム(Gainsight、Totango、HiCustomerなど)
分析結果の活用:
- よく一緒に購入される製品をセット販売
- レコメンド機能で関連製品を提案
- カスタマーサクセス担当者が個別に提案
(2) レコメンド機能とセット販売の活用
レコメンド機能とセット販売により、顧客の購買行動を促進します:
レコメンド機能:
- 顧客の利用状況に応じて、関連製品を自動的に提案
- 「この製品を利用している顧客は、こちらの製品も利用しています」
- タイミング: ログイン時、ダッシュボード表示時、メール配信時
セット販売:
- 複数の製品をパッケージ化し、割引価格で提供
- 「営業支援ツール + マーケティングオートメーションツールのセット」
- メリット: 単体購入よりも割安で、顧客の導入ハードルが下がる
活用のポイント:
- レコメンドは顧客のニーズに合った製品のみを表示(関連性の低い製品は逆効果)
- セット販売は割引率を明示し、メリットをわかりやすく伝える
(3) 顧客ニーズに合った提案の設計
クロスセルの成功には、顧客ニーズに合った提案が不可欠です:
顧客ニーズの把握:
- 定期的なヒアリング(QBR、タッチポイント)
- 利用状況の分析(どの機能を使っているか、どの機能を使っていないか)
- 課題のヒアリング(現在抱えている課題、今後の展望)
提案の設計:
- 顧客の課題を解決できる製品を提案
- 導入後の成功イメージを具体的に伝える
- 導入支援(オンボーディング、トレーニング)も含めて提案
重要な注意点:
- 自社の利益を優先しない: 顧客が必要としていないアップグレードやオプションを勧めると信頼を失う
- 顧客価値を重視: 顧客の成功を第一に考え、必要な製品のみを提案する
成功のポイントと失敗しないための注意点
(1) 顧客満足度向上だけでは不十分(能動的施策が必要)
「顧客満足度が上がれば自動的にアップセル・クロスセルする」という考えは幻想です:
顧客満足度向上だけでは不十分な理由:
- 顧客は満足していても、関連製品の存在を知らない場合が多い
- 顧客自ら「この製品も使いたい」と言ってくることは稀
- 能動的に提案しなければ、機会を逃す
能動的な施策の必要性:
- カスタマーサクセス担当者が積極的に提案する
- レコメンド機能やメール配信で関連製品を紹介する
- 定期的なタッチポイント(QBR、チェックイン)で提案の機会を作る
(出典: SBSマーケティング「『顧客満足度が上がれば「アップセル」「クロスセル」する』は幻想!?」2024年)
(2) 自社の利益優先ではなく顧客価値を重視
クロスセル・アップセルは、顧客の成功を前提とした提案であることが重要です:
顧客価値を重視した提案:
- 顧客の課題を解決できる製品のみを提案
- 導入後の成功イメージを具体的に伝える
- 導入支援も含めて提案し、確実に成功させる
自社の利益優先のリスク:
- 顧客が必要としていない製品を勧めると、信頼を失う
- 解約につながり、長期的なLTVが低下する
- 口コミで悪評が広がり、新規顧客獲得にも悪影響
成功のポイント:
- カスタマーサクセスは「顧客の成功」を第一に考える
- 提案が顧客にとってどのようなメリットがあるかを明確に伝える
- 導入後のサポート体制も整え、確実に成功させる
(3) カスタマーサクセスとセールスの役割分担
カスタマーサクセスとセールスのどちらがクロスセル・アップセルを担当すべきかは、企業によって異なります:
カスタマーサクセスが担当する場合:
- メリット: 顧客との信頼関係が構築されており、提案が受け入れられやすい
- デメリット: セールススキルが不足している場合がある
- 適したケース: SaaS企業、サブスクリプションビジネス、継続的な伴走が必要な製品
セールスが担当する場合:
- メリット: セールススキルが高く、クロージングが得意
- デメリット: 顧客との日常的な接点が少なく、ニーズを把握しにくい
- 適したケース: 高額商材、複雑な提案が必要な製品
役割分担のポイント:
- カスタマーサクセスがニーズを把握し、セールスがクロージングする分業体制
- 両者が連携し、顧客情報を共有する仕組みを構築
- 顧客の成功を第一に考え、無理な提案は避ける
まとめ:2025年、守りから攻めのカスタマーサクセスへ
カスタマーサクセスにおけるクロスセルは、顧客の成功を前提としながらLTV(顧客生涯価値)を最大化する重要な手法です。2025年は「守りのカスタマーサクセス」から「攻めのカスタマーセールス」へのシフトが進んでいます。
この記事のまとめ:
- クロスセルは関連する別製品・サービスを勧める手法で、既存顧客への販売コストは新規の5分の1
- アップセルは上位プラン切替、クロスセルは別製品購入という違いがある
- アダプションフェーズの顧客を対象とし、ヘルススコアを確認してから実施する
- 顧客データ分析から「よく一緒に購入される製品」を抽出して提案する
- 顧客満足度向上だけでは不十分で、能動的な施策が必要
次のアクション:
- ヘルススコアを確認し、アダプションフェーズの顧客をリストアップする
- 顧客データ分析で「よく一緒に購入される製品」を抽出する
- ロイヤリティの高い顧客に、顧客ニーズに合った製品を提案する
- 定期的なタッチポイント(QBR、チェックイン)で提案の機会を作る
- 顧客の成功を第一に考え、自社の利益優先の提案は避ける
顧客の成功を前提としたクロスセル戦略により、LTV最大化と売上拡大を実現しましょう。
