アップセル・クロスセルとは?違い・成功事例・実践方法を解説

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/20

既存顧客からの売上をもっと伸ばしたい...

営業やカスタマーサクセスの担当者の多くが、「新規顧客獲得のコストが高すぎる」「既存顧客からの売上をどう伸ばせばいいのか分からない」といった課題を抱えています。

アップセル・クロスセルは、既存顧客からの売上を低コストで拡大し、LTV(顧客生涯価値)を向上させる効果的な手法です。

この記事では、アップセル・クロスセルの基本概念から、違い、メリット、実践方法、業界別の成功事例まで、B2B企業の実務担当者が理解すべき情報を網羅的に解説します。

この記事のポイント:

  • アップセルは「より上位の商品」を提案、クロスセルは「関連する別の商品」を提案する販売戦略
  • 新規顧客への販売コストは既存顧客の5倍(1:5の法則)で、アップセル・クロスセルは低コストで売上を拡大できる
  • LTV向上のメカニズムは、顧客単価・購買頻度・継続期間を改善すること
  • アップセルは商品使いこなし時、クロスセルは購入直後やカート内で実施するのが効果的
  • ロイヤリティが高い顧客に絞り、押し売りにならない提案設計が成功の鍵

1. アップセル・クロスセルとは?基本概念と重要性

(1) アップセル・クロスセルの定義

アップセル(Upsell) とは、既存顧客に対して、より上位モデルや上位オプションの購入を促す販売戦略です。

具体例:

  • 10万円のPCを使用している顧客に、15万円の高機能PCを提案
  • 年会費無料のクレジットカード利用者に、ゴールドカードへの切り替えを提案
  • SaaS基本プランの顧客に、上位プラン(追加機能・優先サポート付き)を提案

クロスセル(Cross-sell) とは、関連商品や組み合わせて使える商品を売り込む販売戦略です。

具体例:

  • スマホ購入時に、画面保護フィルムやカバーケースを提案
  • Amazonの「よく一緒に購入される商品」「関連する商品」表示
  • マクドナルドの「ポテトもいかがですか?」

両者とも、既存顧客からの売上を拡大し、LTV(顧客生涯価値)を向上させることを目的としています。

(2) 1:5の法則(新規顧客獲得コストは既存の5倍)

アップセル・クロスセルが重要視される理由のひとつに、「1:5の法則」があります。

1:5の法則とは:

  • 新規顧客への販売コストは、既存顧客への販売コストの5倍かかる

この法則により、既存顧客からの売上拡大は、新規獲得よりもコスト効率が良いことが示されています。

コスト比較例:

  • 新規顧客獲得: 広告費、営業人件費、マーケティングコストが必要
  • 既存顧客へのアップセル・クロスセル: すでに信頼関係があり、提案だけで成約できる場合が多い

そのため、多くの企業がアップセル・クロスセルを重視するようになっています。

(3) 2024年の注目背景(新規獲得コスト増加)

2024年時点で、新規顧客獲得コストが増加傾向にあります。

背景:

  • Web広告の競争激化によるクリック単価の上昇
  • 顧客の情報収集手段の多様化
  • 市場の成熟化による新規顧客数の減少

このような背景から、LTV(顧客生涯価値)を向上させるアップセル・クロスセルの重要性が改めて注目されています。

2. アップセルとクロスセルの違い

(1) アップセル:より上位の商品・プランへの誘導

アップセルは、顧客が検討中の商品より 上位モデル・上位グレード へ乗り換えてもらう販売戦略です。

特徴:

  • 同じカテゴリ内で、より高機能・高価格の商品を提案
  • 顧客が現在利用している商品から「グレードアップ」してもらう

業界別の例:

  • SaaS: 基本プラン → 上位プラン(追加機能、優先サポート、使用無制限など)
  • クレジットカード: 年会費無料カード → ゴールドカード → プラチナカード
  • 飲食: レギュラーサイズ → Lサイズ

(2) クロスセル:関連商品・補完商品の提案

クロスセルは、関連商品や組み合わせて使える商品を売り込む販売戦略です。

特徴:

  • 異なるカテゴリの商品を提案
  • 顧客の利便性や満足度を高める補完商品を提案

業界別の例:

  • EC: スマホ購入時に画面保護フィルム、ケース、充電器を提案
  • 小売・飲食: ハンバーガー購入時にポテトやドリンクを提案
  • SaaS: 会計ソフト利用者に給与計算ソフトを提案

(3) 具体例(ファストフード、PC、クレジットカード等)

以下の表で、アップセルとクロスセルの違いを具体的に比較します。

業界 アップセル クロスセル
ファストフード 「Lサイズにできます(+100円)」 「ポテトもいかがですか?」
PC販売 10万円のPC → 15万円の高機能PC PC購入時にマウス、キーボード、モニターを提案
クレジットカード 年会費無料カード → ゴールドカード カード利用者に旅行保険、ETCカードを提案
SaaS 基本プラン → 上位プラン 会計ソフト利用者に給与計算ソフトを提案

(4) ダウンセルとの関係

ダウンセル(Downsell) とは、アップセルの反対で、より低価格の商品やサービスを提案する販売戦略です。

目的:

  • 高額プランを検討していた顧客が購入をためらっている場合、低価格プランを提案して解約を防ぐ

例:

  • 年間プラン(高額)を検討している顧客に、月額プラン(低額)を提案
  • 上位プランの解約を検討している顧客に、基本プランへのダウングレードを提案

ダウンセルは、顧客維持(リテンション)を重視するSaaSビジネスでよく活用されます。

3. アップセル・クロスセルのメリットとLTV向上

(1) 既存顧客からの低コスト売上拡大

アップセル・クロスセルの最大のメリットは、既存顧客からの売上を低コストで拡大できることです。

理由:

  • すでに信頼関係があり、提案が受け入れられやすい
  • 新規獲得に必要な広告費・営業コストが不要
  • 1:5の法則により、コスト効率が5倍高い

(2) LTV(顧客生涯価値)の向上メカニズム

LTV(Customer Lifetime Value) とは、一人の顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益の総額です。

計算式:

LTV = 平均単価 × 購買頻度 × 継続期間

アップセル・クロスセルは、この3つの要素すべてを改善することでLTVを向上させます。

(3) 顧客単価・購買頻度・継続期間への影響

アップセル・クロスセルがLTVに与える影響を具体的に見てみましょう。

①顧客単価の向上(アップセル):

  • 月額1万円のプランから月額3万円のプランへアップグレード
  • 年間売上:12万円 → 36万円(+24万円)

②購買頻度の向上(クロスセル):

  • 会計ソフトに加えて給与計算ソフトも購入
  • 年間売上:12万円 → 24万円(+12万円)

③継続期間の向上(顧客満足度向上):

  • 適切なアップセル・クロスセルにより、顧客のニーズが満たされ、継続率が向上
  • 継続期間:2年 → 5年(LTVが2.5倍に向上)

(4) 顧客満足度向上との両立

適切なアップセル・クロスセルは、顧客満足度も向上させます。

理由:

  • 顧客のニーズに合った商品・サービスを提案することで、利便性が向上
  • 関連商品をまとめて購入できることで、手間が省ける

注意点:

  • 無理な営業は顧客満足度を下げ、解約やクレームにつながる可能性がある
  • 顧客のニーズを理解した上で、適切な提案を行うことが重要

4. 効果的な実践方法とタイミング

(1) アップセルのタイミング(商品使いこなし、上位プラン検討時)

アップセルは、顧客が商品やサービスをある程度利用し、上位プランや追加オプションを検討しているタイミング で行うのが効果的です。

具体的なタイミング:

  • 人数制限や機能制限に達しそうな時
  • 利用頻度が高く、より高度な機能が必要になった時
  • 顧客満足度が高く、ロイヤリティが向上した時

SaaSの例:

  • 基本プランで5ユーザーまでだが、6人目を追加したい時に上位プランを提案

(2) クロスセルのタイミング(購入直後、カート内、定期購入時)

クロスセルは、以下のタイミングで実施するのが効果的です。

①購入直後:

  • 商品を購入した直後は、購買意欲が高い
  • 「ご購入ありがとうございます。こちらの商品もおすすめです」

②カート内:

  • カートに商品を入れた時点で、関連商品を表示
  • Amazonの「よく一緒に購入される商品」がこの手法

③定期購入のタイミング:

  • 定期購入の更新時に、関連商品を提案
  • 「次回配送時に、こちらの商品も追加しませんか?」

(3) ロイヤリティの高い顧客への重点的アプローチ

ロイヤリティ(Loyalty) とは、顧客が自社商材やサービスに対して持つ信頼や愛着の度合いです。

ロイヤリティが高い顧客(自社の「ファン」)ほど、アップセル・クロスセルの提案を受け入れやすい傾向があります。

ロイヤリティの高い顧客の特徴:

  • 長期間継続して利用している
  • 頻繁に利用している
  • カスタマーサポートへの問い合わせが少ない
  • NPS(顧客推奨度)が高い

重点的アプローチの方法:

  • ロイヤリティの高い顧客を優先的にターゲティング
  • 専任担当者による個別提案

(4) 押し売りにならない提案設計

無理な営業は顧客満足度を下げ、解約やクレームにつながる可能性があります。

押し売りにならないポイント:

  • 顧客のニーズを理解した上で提案する
  • 押し付けず、選択肢を提示する
  • 断られた場合は無理に勧めない
  • 顧客のメリットを明確に伝える

(5) データ分析に基づくPDCAサイクル

アップセル・クロスセルの施策は、業種・商品特性により効果が大きく異なります。

PDCAサイクルの重要性:

  • Plan: どの顧客に、どのタイミングで、何を提案するか計画
  • Do: 実施
  • Check: 成約率、売上、顧客満足度を測定
  • Act: データ分析に基づき改善

継続的にPDCAを回すことで、自社に最適なアップセル・クロスセル戦略を構築できます。

5. 業界別の成功事例(SaaS・EC・小売)

(1) SaaS:基本プランから上位プラン(追加機能・優先サポート)

SaaS製品では、基本プランを使用している顧客に対し、以下を訴求するアップセルが一般的です。

訴求ポイント:

  • 追加機能(高度な分析、カスタマイズ機能)
  • 優先的なサポート(専任担当者、24時間対応)
  • 使用無制限(ユーザー数、データ容量)

成功のポイント:

  • 顧客の利用状況をモニタリングし、上位プランが必要なタイミングで提案

(2) EC:Amazonの「よく一緒に購入される商品」

Amazonは、クロスセルの代表的な成功事例です。

手法:

  • 商品ページに「よく一緒に購入される商品」「関連する商品」を表示
  • カートに商品を追加した時点で、関連商品を推薦

成功のポイント:

  • データ分析に基づき、購入される可能性の高い商品を提案
  • ワンクリックでカートに追加できる利便性

(3) 小売・飲食:マクドナルドの「ポテトもいかがですか」

マクドナルドのクロスセルは、ファストフード業界で広く採用されている手法です。

手法:

  • ハンバーガーを注文した顧客に「ポテトもいかがですか?」と提案
  • セット販売(ハンバーガー+ポテト+ドリンク)で単価を向上

成功のポイント:

  • 購入タイミングで口頭で提案
  • セット販売により、割引感を演出して購買意欲を高める

(4) クレジットカード:年会費無料カードからゴールドカード

クレジットカード業界では、年会費無料カードの利用者に、ゴールドカードへの切り替えを提案するアップセルが一般的です。

訴求ポイント:

  • ポイント還元率の向上
  • 空港ラウンジ利用、旅行保険などの特典
  • ステータス性

成功のポイント:

  • 利用額が多い顧客(ロイヤリティが高い顧客)に絞って提案

6. まとめ:成功のためのポイント

アップセル・クロスセルは、既存顧客からの売上を低コストで拡大し、LTV(顧客生涯価値)を向上させる効果的な手法です。

アップセル は「より上位の商品」を提案、クロスセル は「関連する別の商品」を提案する点が異なります。

新規顧客への販売コストは既存顧客の5倍(1:5の法則)であり、2024年時点で新規獲得コストが増加傾向にあることから、アップセル・クロスセルの重要性が改めて注目されています。

次のアクション:

  • 自社の顧客をロイヤリティ別にセグメント化する
  • アップセル・クロスセルのタイミングを設計する(商品使いこなし時、購入直後、カート内など)
  • 押し売りにならない提案設計を行う(顧客のニーズを理解)
  • データ分析に基づき、PDCAサイクルを回す

顧客満足度を損なわないバランスを保ちながら、自社に最適なアップセル・クロスセル戦略を構築しましょう。

※この記事は2025年12月時点の情報です。最新の市場動向やコスト感は各種調査レポート・業界資料をご確認ください。

よくある質問

Q1アップセルとクロスセルの違いは?

A1アップセルは「より上位の商品」を提案する戦略(例:PCの上位モデル)、クロスセルは「関連する別の商品」を提案する戦略(例:スマホとケース)です。目的はどちらもLTV(顧客生涯価値)向上ですが、アプローチが異なります。

Q2アップセル・クロスセルの実施タイミングは?

A2アップセルは顧客が商品を使いこなし、上位プランを検討しているタイミングが効果的です。クロスセルは購入直後やカート内、定期購入のタイミングに合わせて実施するのが効果的です。

Q3押し売りにならないためには?

A3ロイヤリティが高い顧客(自社のファン)に絞り、顧客のニーズを理解した上で適切に提案することが重要です。無理な営業は顧客満足度を下げ、解約につながる可能性があるため、顧客の利益を最優先にした提案設計が必要です。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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