営業組織のスケールが難しい理由
意外かもしれませんが、営業組織のスケールは「型化×分業×ツール活用」の3点セットに、運用定着支援とBPR・採用を含む包括的アプローチを加えることで実現できます。
多くの企業が営業組織のスケールに苦しんでいます。調査によると、営業プロセスの属人化率は38.5%にのぼり、共通の型がなく個人経験頼みの現状が顕著です。売上は伸びているものの、特定の営業メンバーに依存しており、組織として再現性のある成果が出せていないという課題を抱えています。
さらに、購買プロセスの変化も営業組織のスケールを難しくしています。2025年の調査では、BtoB購買プロセスにおいて営業面談前に85%が候補選定済みという結果が報告されており、従来型の提案営業が通用しなくなっているのが現状です。
この記事で分かること
- 営業組織のスケールが必要な理由と市場環境の変化
- 営業プロセスの型化・標準化による属人化の排除方法
- THE MODEL型分業組織の構築ステップと落とし穴
- ツール活用とKPI設計・運用定着支援の実践方法
- 成功するためのチェックリストと実行フローチャート
なぜ今、営業組織のスケールが必要なのか
営業組織のスケールが必要な背景には、市場環境と購買プロセスの大きな変化があります。営業の型化とは、属人的な営業活動を標準化し、プロセスを可視化・共有することで、誰でも一定の成果を出せる仕組みを構築することです。
従来の営業手法では、トップセールスのスキルや人脈に依存する構造が一般的でした。しかし、このアプローチには限界があります。
BtoB購買プロセスの変化
顧客の購買行動が大きく変化しています。2025年の白書によると、BtoB購買プロセスでは営業面談前に85%が候補選定済みという状況です。
これは、顧客が営業担当者と会う前に、インターネットを通じて情報収集を完了していることを意味します。従来の「営業が情報提供して提案する」というモデルが通用せず、インサイドセールスとコンテンツマーケティングの重要性が増しています。
紹介・人脈頼みの営業の限界
紹介依存型営業では、組織としてのスケールが困難です。2025年の調査では、新規開拓の手動率は全体で42.0%、紹介依存企業では61.5%と高い数値を示しています。
さらに問題なのは、紹介依存企業ではKPI未設定が59.0%と高く、型化が遅れている点です。紹介・人脈に依存した営業では、成果の再現性が低く、新しいメンバーが成果を出すまでに時間がかかります。これが営業組織のスケールを妨げる大きな要因となっています。
営業プロセスの型化・標準化による属人化の排除
営業プロセスの型化・標準化は、属人化を排除し組織として再現性のある成果を出すための第一歩です。調査によると、営業プロセス標準化により効率化(55.7%期待)と商談質向上(44.3%期待)が実現可能とされています。
Playbookとは、営業プロセスの各フェーズにおけるゴール、達成項目、ヒアリング項目、トークスクリプトなどを体系化した営業の実行手順書です。Playbookを作成することで、トップセールスの暗黙知を形式知化し、組織全体で共有できるようになります。
Playbookの作成ステップ
効果的なPlaybookを作成するには、段階的なアプローチが推奨されます。まず小規模チーム(1プロジェクト)で成功パターンを構築し、その後全社展開するという流れです。
フェーズ定義: 営業プロセスを「初回接触」「ヒアリング」「提案」「クロージング」など明確なフェーズに分割します。各フェーズのゴールを定義することで、進捗を可視化できます。
達成項目の設定: 各フェーズで達成すべき項目を具体的に設定します。例えば、「ヒアリングフェーズでは、予算・決裁者・導入時期の3つを確認する」といった形です。
トークスクリプトの作成: トップセールスの成功事例をもとに、各フェーズで使用するトークスクリプトを作成します。完全に固定する必要はありませんが、基本的な流れや質問項目を標準化することで、新人でも一定の成果を出せるようになります。
【チェックリスト】営業組織スケール準備チェックリスト
以下のチェックリストを使用して、営業組織スケールの準備状況を確認してください。
- 営業プロセスの各フェーズが明確に定義されている
- トップセールスの成功パターンが特定されている
- 各フェーズのゴールと達成項目が設定されている
- ヒアリング項目が標準化されている
- トークスクリプトの骨子が作成されている
- 小規模チームでのPoC(概念実証)計画がある
- 成功パターンを共有する仕組みがある
- 営業データを一元管理するツールが導入されている
- KPI設定の基準が明確になっている
- 定期的な振り返りとPlaybook更新の仕組みがある
- 新人育成プログラムにPlaybookが組み込まれている
- 部門間の連携体制(バトンミーティング等)が構築されている
- 顧客データの引き継ぎルールが明確になっている
- 商談の進捗状況を可視化する仕組みがある
- 失敗事例も含めたナレッジ共有の仕組みがある
THE MODEL型分業組織の構築と落とし穴
THE MODEL型分業組織は、営業プロセスをスケールさせる有効な手法です。THE MODELとは、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4部門に営業プロセスを分業し、各部門にKPIを設定して連携させる営業組織フレームワークです。
ある企業の事例では、THE MODEL型分業化により商談化率が13%から25%(約2倍)に向上したという報告があります(ただし、成功事例中心のデータであり、再現性には企業規模や業界による変動があります)。
THE MODELの基本構造
THE MODELは以下の4部門で構成されます。
マーケティング: リード獲得とナーチャリング(育成)を担当します。Webサイト、広告、コンテンツマーケティングなどを通じて見込み顧客を獲得し、育成します。
インサイドセールス: マーケティングが育成したリードに対し、電話やメールで一次対応を行います。顧客の課題をヒアリングし、商談の見込みがあるリードをフィールドセールスに引き渡します。
フィールドセールス: インサイドセールスから引き継いだ商談を、提案・クロージングまで担当します。対面またはオンラインで顧客と深い議論を行い、受注を目指します。
カスタマーサクセス: 受注後の顧客をフォローし、サービス活用を支援します。解約防止、アップセル・クロスセルも担当し、顧客の生涯価値(LTV)を最大化します。
各部門間の連携には、SLA(Service Level Agreement) が重要です。SLAとは、マーケティングと営業部門間でリードの質・量・対応速度などについて合意した基準です。また、レベニューサイクルモデルにより、組織分業・データSSOT(Single Source of Truth)・KPIサイクルを統合した収益管理が可能になります。
分業化の落とし穴と対処法
しかし、分業化には落とし穴があります。最も避けるべき失敗パターンは、戦略資料を作って終わり、ツールを導入して終わりという「絵に描いた餅」で終わってしまい、現場に定着せず成果が出ないことです。
また、分業化の副作用として、部門間の壁が生まれ、顧客不在の状態に陥るリスクがあります。各部門がKPI達成に偏重し、顧客体験が分断されてしまうのです。
これらの落とし穴を避けるための対処法は以下の通りです。
バトンミーティングの実施: 週次で部門横断のミーティングを開催し、リードの引き継ぎ状況や課題を共有します。MA/SFA導入時は、ツール設定だけでなく、このような運用定着支援が不可欠です。
部門横断KPIの設定: 各部門の個別KPIだけでなく、全体最適を図る部門横断KPIを設定します。例えば、「リード獲得から受注までのリードタイム」を全体KPIとすることで、部門間の連携が促進されます。
顧客ジャーニーの可視化: 顧客が最初の接触から受注・継続利用に至るまでのジャーニー全体を可視化し、各部門がどこを担当するかを明確にします。これにより、顧客視点での一貫した体験を提供できます。
ツール活用とKPI設計・運用定着支援
MA/SFAツールの活用とKPI設計は、営業組織スケールの基盤となります。しかし、ツールを導入しただけでは成果は出ません。運用定着支援とBPR(業務プロセス改革)が不可欠です。
2025年の調査によると、リード受注率管理の必要性が高まっていると感じる企業は68.4%(非常にそう思う30.5% + ややそう思う37.9%)にのぼり、量から質への転換が進行しています。
KPI設計の実践ステップ
KPI設計では、「コントロール可能な指標」を優先することが重要です。調査によると、マーケティング施策の重視KPIは1位「新規リード獲得数」(32.1%)、2位「受注率」(11.1%)という結果が出ています。
新規リード獲得数が優先される理由は、「マーケティング施策でコントロールできる」(58.0%)が最多です。施策で改善できる指標から着手することで、PDCAサイクルを回しやすくなります。
KPI設計の実践ステップは以下の通りです。
ゴール設定: まず最終的なゴール(売上目標など)を設定します。
プロセス分解: ゴール達成に必要なプロセスを分解し、各プロセスでコントロール可能な指標を特定します。
KPI選定: コントロール可能な指標の中から、優先度の高いKPIを3-5個選定します。多すぎるとフォーカスが分散するため、絞り込みが重要です。
目標値設定: 各KPIに対して、現状値と目標値を設定します。初期段階では、過度に高い目標は避け、達成可能な水準から始めることが推奨されます。
定期レビュー: 週次または月次でKPIをレビューし、改善策を議論します。データに基づいた意思決定を徹底します。
【フロー図】運用定着のための実行フローチャート
営業組織のスケールを実現するための6ステップのフローチャートです。小規模チームでのPoC(概念実証)から始め、段階的に全社展開していく流れを示しています。
flowchart TD
A[ステップ1: 営業プロセスの型化] --> B[ステップ2: 分業組織の設計]
B --> C[ステップ3: MA/SFAツール導入]
C --> D[ステップ4: KPI設定とSLA合意]
D --> E[ステップ5: 運用定着支援]
E --> F[ステップ6: PDCA継続改善]
F -.-> A
A1[Playbook作成] -.-> A
A2[小規模チームでPoC] -.-> A
B1[4部門の役割定義] -.-> B
B2[バトンミーティング設計] -.-> B
C1[ツール選定] -.-> C
C2[初期設定と連携] -.-> C
D1[部門別KPI設定] -.-> D
D2[部門横断KPI設定] -.-> D
E1[週次レビュー実施] -.-> E
E2[現場からのフィードバック収集] -.-> E
F1[KPI達成状況の確認] -.-> F
F2[Playbook・プロセスの改善] -.-> F
各ステップの詳細
- ステップ1: 営業プロセスの型化 - Playbookを作成し、小規模チームで成功パターンを検証します(1-3ヶ月)。
- ステップ2: 分業組織の設計 - THE MODELの4部門への役割分担を設計し、SLAを定義します。
- ステップ3: MA/SFAツール導入 - ツールを選定し、初期設定とデータ連携を行います。
- ステップ4: KPI設定とSLA合意 - 部門別KPIと部門横断KPIを設定し、リードの引き渡し基準を合意します。
- ステップ5: 運用定着支援 - 週次レビューを実施し、現場からのフィードバックを収集して改善を繰り返します(3-6ヶ月)。
- ステップ6: PDCA継続改善 - KPI達成状況を確認し、Playbookやプロセスを継続的に改善します。
まとめ:型化×分業×ツール活用+運用定着で営業組織をスケールさせる
営業組織のスケールは「型化×分業×ツール活用」の3点セットに、運用定着支援とBPR・採用を含む包括的アプローチを加えることで実現できます。
この記事のポイント
- 営業プロセスの属人化率は38.5%と高く、型化・標準化が急務
- THE MODEL型分業組織により、商談化率が約2倍に向上した事例がある
- KPI設計では「コントロール可能な指標」を優先し、新規リード獲得数から着手する
- ツール導入だけでは成果は出ず、運用定着支援(バトンミーティング、週次レビュー)が不可欠
次のアクション
まず小規模チームでPoCを実施し、成功パターンを構築してください。その後、全社展開を進めます。重要なのは、戦略資料やツール導入で終わらせず、運用定着支援を重視することです。
営業組織のスケールは一朝一夕には実現しません。しかし、型化・分業・ツール活用の3点セットに運用定着支援を加えることで、属人化を排除し、持続的な成長基盤を確立できます。
