なぜ営業組織の「設計」が必要なのか
営業組織設計は「図面を描いて終わり」ではなく、ツール活用・業務プロセス・人材育成を連動させた「運用可能な設計」でなければ成果につながりません——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
2025年の調査によると、BtoB営業の38.5%が「営業プロセスが属人化している」と回答しています。属人化した営業組織では、トップ営業の退職や配置転換によって売上が大きく変動し、組織としての再現性がありません。また、「紹介」を主力にするBtoB中小企業の59%が新規開拓KPIを設定していないという調査結果もあり、属人的なネットワークに依存した営業からの脱却が課題となっています。
この記事で分かること
- 営業組織設計の基本フレームワーク(THE MODEL型分業体制)
- 設計→実装→定着の3フェーズフロー
- KPI設計とプロセス標準化の具体的な進め方
- 設計を「運用可能」にするための実践ポイントとチェックリスト
本記事では、従業員50-300名規模のスケールアップ企業の営業部長・インサイドセールス責任者を対象に、属人化から脱却し運用まで見据えた営業組織設計の進め方を解説します。
営業組織設計の基本フレームワークと用語
営業組織設計を進めるにあたり、まずチーム内で共通言語を持つことが重要です。2025年の調査によると、BtoB企業の約7割が「4名以上のチーム体制」で営業を行っています。組織として機能させるためには、役割分担と引き渡し基準を明確にする必要があります。
THE MODELとは、マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスの分業体制で営業プロセスを設計するフレームワークです。各機能が専門化することで、効率的かつ再現性のある営業活動を実現します。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得した見込み顧客のうち、一定の条件を満たし営業アプローチの対象となるリードを指します。
SQL(Sales Qualified Lead) とは、インサイドセールスが接触・育成し、商談の対象として営業に引き渡す見込み顧客です。
THE MODEL型分業体制とは
THE MODEL型では、以下の4つの機能が連携して営業プロセスを構成します。
- マーケティング: リード獲得・ナーチャリングを担当
- インサイドセールス: リードへの接触・育成・商談アポ獲得を担当
- フィールドセールス: 商談・提案・クロージングを担当
- カスタマーサクセス: 契約後のオンボーディング・継続支援を担当
インサイドセールスには、SDR(Sales Development Representative) とBDR(Business Development Representative) の2つの役割があります。SDRはマーケティングが獲得したリードに対応する反響対応型、BDRはターゲット企業に能動的にアプローチする新規開拓型です。
インサイドセールスとフィールドセールスの人員比率は、一般的にIS:FS=1:2〜3程度が目安とされていますが、商材の単価や商談の複雑さにより調整が必要です。
リードから商談化までのステージ定義
営業プロセスを可視化し、チーム内で共通認識を持つためには、ステージ定義の明文化が不可欠です。
- リード: 問い合わせや資料請求などで獲得した見込み顧客
- MQL: 一定条件を満たし、営業アプローチ対象となったリード
- SQL: インサイドセールスが接触し、商談化が見込まれるリード
- 見積: 具体的な提案・見積提示段階
- 受注: 契約締結
これらのステージをSFA/CRMで一元管理し、各段階の件数・転換率を計測することで、ボトルネックの特定と改善が可能になります。
営業組織設計で押さえるべき原則
営業組織設計を成功させるには、「設計」「実装」「定着」の3つのフェーズを連動させて進めることが重要です。2025年の調査によると、営業の仕組み化で期待する効果として「営業効率の向上」が55.7%で最多となっています。一方で、BtoBマーケティングの課題として「人手不足・体制が整っていない」が34.3%で1位であり、設計段階から運用を見据えた現実的な体制を検討する必要があります。
【フロー図】設計→実装→定着の3フェーズフロー
flowchart TD
A[設計フェーズ] --> B[実装フェーズ]
B --> C[定着フェーズ]
A --> A1[組織体制・役割分担を決定]
A --> A2[ステージ定義・KPI設計]
A --> A3[引き渡し基準の明文化]
B --> B1[SFA/MAの設定]
B --> B2[業務フローの整備]
B --> B3[ドキュメント作成]
C --> C1[定期的な振り返り]
C --> C2[改善サイクルの運用]
C --> C3[人材育成・スキル移転]
設計フェーズ:組織体制と役割分担
設計フェーズでは、以下の要素を決定します。
- 組織体制: THE MODEL型の分業体制を採用するか、ハイブリッド型にするか
- 役割分担: 各機能の責任範囲と担当者のアサイン
- 引き渡し基準: MQL→SQL、SQL→商談など、各ステージ間の引き渡し条件
自社の規模・商材・営業サイクルに合った体制を選ぶことが重要です。大企業向けの高単価商材と、中小企業向けの低単価商材では、最適な体制は異なります。
実装フェーズ:ツール設定と業務フロー整備
設計を実装に落とし込む際は、ツール設定と業務フローを連動させることが必要です。
- SFA/MAの設定: ステージ定義・項目設計・自動化ルールの設定
- 業務フローの整備: 日次・週次の業務プロセスをドキュメント化
- ダッシュボード構築: KPIを可視化し、進捗を確認できる環境を整備
特定のツールを推奨するものではありませんが、設計した組織体制とツールの設定が乖離していると、運用段階で破綻します。
定着フェーズ:運用と改善サイクル
設計と実装が完了しても、定着には一定の時間がかかります。
- 定期的な振り返り: 週次・月次でKPIの進捗と課題を確認
- 改善サイクル: 課題に対する改善策を立案・実行・検証
- ナレッジ共有: 成功事例・失敗事例をチームで共有
定着フェーズを軽視すると、設計した仕組みが形骸化し、属人的な営業に戻ってしまいます。
KPI設計とプロセス標準化の進め方
営業組織設計においてKPI設計は不可欠です。「紹介」を主力にするBtoB中小企業の59%が新規開拓KPIを設定していないという調査結果があり、KPI不在が属人化を助長している側面があります。
営業ステージ別KPIの設計例
各ステージで計測すべき主要なKPIを整理します。
| ステージ | 主要KPI | 補足 |
|---|---|---|
| リード獲得 | 新規リード数 | チャネル別に計測 |
| MQL化 | MQL数・MQL化率 | リードからの転換率 |
| 商談化 | SQL数・商談化率 | MQLからの転換率 |
| 受注 | 受注件数・受注率 | 商談からの転換率 |
2025年の調査によると、広告経由リードの商談化率は11〜20%が最多層(31.3%)であり、目標値として15%前後が一つの目安とされています。ただし、業種・単価・営業スタイルにより大きく変動するため、自社の実績を踏まえた目標設定が必要です。
商談化率が想定より低い場合は、ターゲット設定やLPの訴求内容を見直すトリガーとして活用できます。
プロセス標準化と情報共有の仕組み
属人化を防ぐためには、営業プロセスの標準化と情報共有の仕組み化が不可欠です。
- 引き渡し時のブリーフィング: IS→FSの引き渡し時に、顧客の温度感・課題・論点を共有する短時間のミーティングを設ける
- SFA/CRMへの入力ルール: 必須入力項目と入力タイミングを明確化
- ナレッジベースの構築: よくある質問・反論対応・成功事例を蓄積
これらのルールを明文化し、チーム全員が同じ基準で業務を進められる状態を作ることが、属人化防止の基盤となります。
設計を「運用可能」にするための実践ポイント
よくある失敗パターンとして、THE MODEL型に組織図だけ変えても、SFA/MAが使いこなせず、結局属人化した営業に戻ってしまうケースがあります。この失敗を避けるためには、ツール活用・業務プロセス・人材育成を連動させる必要があります。
前述のとおり、BtoB営業の38.5%が「営業プロセスが属人化している」と回答しています。この課題を解決するためのチェックリストを活用してください。
【チェックリスト】営業組織設計確認チェックリスト
- 営業組織の体制(分業体制 or ハイブリッド型)が決定している
- 各機能の役割と責任範囲が明文化されている
- リード→MQL→SQL→商談→受注のステージ定義が共有されている
- 各ステージ間の引き渡し基準が明確になっている
- KPI(リード数、商談化率、受注率など)が設計されている
- SFA/CRMにステージ定義とKPIが反映されている
- 日次・週次の業務プロセスがドキュメント化されている
- IS→FSの引き渡し時の情報共有ルールがある
- 定期的な振り返りMTGのスケジュールが設定されている
- 改善サイクル(課題抽出→施策実行→効果検証)が運用されている
- 新人向けのオンボーディングプログラムがある
- ナレッジ共有の仕組み(ドキュメント・勉強会など)がある
- ツール活用スキルの育成計画がある
- 組織変更後の定着状況をモニタリングする指標がある
SFA/MA活用と組織設計の連動
SFA/MAは組織設計を機能させるための基盤です。ただし、ツール導入ありきではなく、設計した組織体制に合わせた設定が必要です。
- ステージ定義の反映: 設計したステージをSFAの商談パイプラインに設定
- 引き渡しトリガーの自動化: MQL条件を満たしたリードを自動でインサイドセールスに通知
- KPIダッシュボードの構築: 各ステージの件数・転換率をリアルタイムで可視化
組織設計とツール設定が乖離していると、現場が使いづらいと感じ、入力が後回しにされ、データの精度が低下するという悪循環に陥ります。
人材育成と定着支援の仕組み
新しい組織体制を定着させるためには、人材育成が欠かせません。日本企業はOJT以外の人材投資が少ない傾向があり、育成不在が属人化の構造的要因となっているケースも見られます。
- オンボーディングプログラム: 新人が早期に戦力化できるよう、体系的な育成プログラムを用意
- スキルマップ: 各役割に必要なスキルを可視化し、育成計画を立案
- ナレッジ移転: トップ営業のノウハウを形式知化し、チーム全体に展開
人材育成に投資することで、属人化を防ぎ、組織としての再現性を高めることができます。
営業組織設計を成功させるために
本記事では、営業組織設計の進め方について、設計→実装→定着の3フェーズで解説しました。重要なポイントを整理します。
- 設計だけで終わらせない: 組織図を変えるだけでなく、ツール設定・業務フロー・人材育成を連動させる
- KPIを設計し、可視化する: ステージ別のKPIを設定し、SFA/CRMで計測・改善する
- 定着までフォローする: 定期的な振り返りと改善サイクルで、設計した仕組みを形骸化させない
THE MODEL型に組織図だけ変えても、SFA/MAが活用できなければ属人化に戻ります。まずは自社の現状を本記事のチェックリストで確認し、不足している項目から着手してください。
営業組織設計は「図面を描いて終わり」ではなく、ツール活用・業務プロセス・人材育成を連動させた「運用可能な設計」でなければ成果につながりません。設計から運用定着までの道筋を描き、段階的に改善を進めていくことが成功の鍵です。
