なぜ営業とマーケの統合が失敗するのか
営業とマーケの統合は、単に情報共有するだけでなく、MA/SFAでリードデータ・商談履歴・顧客情報を一元管理する仕組みを実装することで、部門間の壁を崩し継続的な成果向上が可能になる——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
多くの企業が営業とマーケティングの連携強化に取り組んでいます。しかし、定期ミーティングを始めても情報共有が曖昧で形骸化してしまう、というケースは珍しくありません。Ask One「BtoBセールス&マーケティング調査」(2025年度版)によると、マーケティング課題の1位は「人手不足・体制不備」で34.3%を占めています(民間調査で自己申告ベースのためバイアス可能性あり)。また、同調査ではマーケティング施策の投資対効果を「受注金額」まで追う企業はわずか30.2%にとどまっています。
つまり、多くの企業で体制の問題とKPI不一致が同時に起きているのです。
この記事で分かること
- 営業とマーケの分断が起こる構造的な原因
- 定期ミーティングや共通KPI設定だけでは形骸化する理由
- MA/SFAによるデータ一元管理の具体的な実装方法
- 統合を成功させるための準備チェックリストと実装フロー
営業とマーケティングの役割の違いと分断される原因
営業とマーケティングの分断は、単なる「仲の悪さ」ではなく、構造的な原因から生じています。両部門の役割を理解し、分断のメカニズムを把握することが、統合への第一歩です。
MA(マーケティングオートメーション) とは、マーケティング活動を自動化するツールです。リード獲得・育成・スコアリングを効率化する役割を担います。一方、SFA(営業支援システム) は、営業活動を支援するシステムです。顧客管理・商談管理・活動記録を効率化します。
マーケティング部門はリード獲得・育成を担当し、営業部門は商談・受注を担当します。この役割分担自体は合理的ですが、以下の3つの原因で分断が生じやすくなります。
分断の原因1:コミュニケーション不足と体制不備
先述のとおり、マーケティング課題の1位は「人手不足・体制不備」で34.3%です(Ask One調査、2025年度版)。専任担当者が不在、または兼務で十分なリソースを割けない状況では、部門間の情報共有に手が回りません。
分断の原因2:KPIの不一致
マーケティング施策の投資対効果を「受注金額」まで追う企業はわずか30.2%です。マーケはリード数やMQL数で評価され、営業は受注数や売上で評価されると、両部門が異なるゴールを追いかけることになり、連携のインセンティブが働きにくくなります。
分断の原因3:データのサイロ化
MAにはリード情報、SFAには商談情報がそれぞれ格納されていますが、これらが連携されていないと、営業とマーケが共通のデータを見ることができません。
ワンマーケティング「BtoB購買プロセス白書2025」によると、85%の購買担当者が営業初回面談前に候補を絞り込み済みです。この数字は、マーケと営業が連携してタイムリーに情報を共有しないと、商談機会を逃すリスクが高いことを示しています。
営業×マーケ統合のメリットと具体的な連携施策
営業とマーケティングを統合することで得られるメリットは大きく、多くの企業がその実現を目指しています。ここでは、統合のメリットと基本的な連携施策を整理します。
統合のメリット:受注率向上・業務効率化・顧客体験向上
営業×マーケ統合によるメリットは主に3つあります。
受注率向上
営業とマーケが連携することで、リード品質が向上し、商談化率・成約率の向上が期待できます。マーケが獲得したリードの質を営業がフィードバックし、それを基にリード獲得基準を改善するサイクルが回り始めます。
業務効率化
データ共有により、重複作業を削減できます。営業が手動でリード情報を確認したり、マーケが商談状況を個別に問い合わせたりする手間がなくなります。
顧客体験向上
85%の購買担当者が営業初回面談前に候補を絞り込み済みという現状を踏まえると、マーケと営業が一貫した情報を持ってアプローチすることが重要です。顧客にとっては、部門間で情報が共有されていないと感じる体験は、サービスへの信頼低下につながります。
具体的な連携施策:共通KPI設定・定期ミーティング・リードフィードバック
営業×マーケ連携の基本的な施策として、以下の3つがよく実施されています。
共通KPI設定
営業とマーケが同じ目標(受注数、売上など)を追いかける体制を構築します。マーケのKPIを「リード数」だけでなく「商談化数」「受注貢献数」まで拡張することで、両部門のベクトルを揃えます。
定期ミーティング
週次または隔週で情報共有し、リード品質や商談状況をフィードバックします。マーケからは新規リードの傾向、営業からはリードの質や商談進捗を共有します。
リードフィードバック
営業からマーケにリード品質をフィードバックし、リード獲得基準を改善します。「このリードは商談に至った」「このリードは対象外だった」といった情報をマーケに返すことで、リードの質を継続的に向上させます。
ただし、これらの施策だけでは形骸化しやすいという課題があります。データがMA・SFAでバラバラに管理され、情報共有が手動のままでは、運用負荷がかかり元の分断状態に戻ることが多いのです。
MA/SFA実装によるデータ一元管理の仕組み
MA/SFAによるデータ一元管理は、営業×マーケ統合を「形骸化させない」ための根本的な解決策です。定期ミーティングや共通KPI設定を始めても、データがバラバラに管理され手動共有が続くと、運用負荷で形骸化して元の分断状態に戻る——これがよくある失敗パターンです。
SSOT(Single Source of Truth) とは、単一の真実の情報源という概念です。顧客データを全社で共有可能にするデータ一元管理の考え方を指します。また、RevOps(Revenue Operations) は、マーケティング、営業、カスタマーサクセスなど、顧客ライフサイクル全部門を統合し、収益創出の効率と予測可能性を最大化するアプローチです。
MA/SFA実装によるデータ一元管理のメリットは以下の3つです。
- 手動共有からの脱却:データ連携が自動化され、運用負荷が軽減される
- リアルタイムなデータ同期:最新の顧客情報を両部門が即座に確認できる
- 共通のデータ基盤で意思決定:営業とマーケが同じデータを見て判断できる
マーケティング施策の投資対効果を「受注金額」まで追う企業がわずか30.2%という現状は、データ連携の不足が原因であることが多いです。MA/SFA間でデータが連携されていれば、リードがどの施策から来て、最終的に受注に至ったかを追跡できるようになります。
データサイロ化の問題と解決策
データサイロ化とは、MAにリード情報、SFAに商談情報がバラバラに管理され、営業とマーケが共通のデータを見られない状態を指します。
データサイロ化が引き起こす問題
- リードのステータスがリアルタイムで共有されない
- 営業が過去のマーケ接点(メール開封、資料DLなど)を把握できない
- マーケが商談の進捗や受注結果を把握できず、施策改善に活かせない
解決策:MA/SFAをAPI連携し、SSOTを構築する
MA/SFAをAPI連携し、リードデータ・商談履歴・顧客情報を一元管理する仕組みを構築します。これにより、両部門が同じデータにアクセスでき、手動共有から脱却できます。部門別システム/定義のサイロ化を洗い出し、統合の障壁を可視化することが第一歩です。
MA/SFAデータ連携実装の具体的なステップ
MA/SFAデータ連携の実装は、以下の6ステップで進めます。なお、特定のツールを推奨するものではなく、自社の状況に合わせたツール選定が重要です。
【フロー図】MA/SFAデータ連携実装フロー(6ステップ)
flowchart TD
A[Step1: 現状診断] --> B[Step2: データマッピング設計]
B --> C[Step3: API連携構築]
C --> D[Step4: ワークフロー自動化]
D --> E[Step5: テスト・検証]
E --> F[Step6: 本番稼働・運用開始]
Step1: 現状診断
現在のMA/SFAの利用状況、データの格納場所、連携状況を棚卸しします。部門別のシステムやデータ定義のサイロ化を洗い出します。
Step2: データマッピング設計
MAとSFAでどのデータ項目を連携するかを定義します。リード情報、スコアリング結果、商談ステータス、受注結果など、連携対象を明確にします。
Step3: API連携構築
MAとSFAのAPI連携を構築します。社内IT部門やベンダーと連携し、技術的な実装を進めます。
Step4: ワークフロー自動化
スコア閾値を超えたリードを自動でSFAに登録する、商談ステータスが変わったらMAに反映するなど、ワークフローを自動化します。
Step5: テスト・検証
連携が正しく動作するか、データの整合性が保たれているかをテストします。
Step6: 本番稼働・運用開始
本番環境で運用を開始し、継続的にモニタリングします。
MA/SFAツールを導入しただけでは自動的にデータ統合されません。API連携やデータ定義の標準化など、実装設計が不可欠です。「ツールを入れれば解決する」という考えは誤りであり、実装に踏み込むことが成功の鍵です。
統合を成功させるための準備と実践ステップ
営業×マーケ統合を成功させるには、実装前の準備が重要です。準備を怠ると、実装後に手戻りが発生したり、期待した効果が得られなかったりします。
現状診断とデータ整備の重要性
統合前の現状診断とデータ整備は、成功の土台となります。
現状診断のポイント
- 部門別システム/定義のサイロ化を洗い出す
- 営業とマーケがそれぞれどのデータを持っているかを棚卸しする
- データの品質(重複、欠損、不整合)を確認する
データ整備のポイント
- リードの定義を統一する(MALとMQLの基準など)
- スコアリング基準を営業・マーケで合意する
- データ項目の名称・形式を標準化する
以下のチェックリストを活用して、統合前の準備を漏れなく実施してください。
【チェックリスト】営業×マーケ統合前の準備チェックリスト(データ整備20項目)
- MAの現在の利用状況を棚卸ししている
- SFAの現在の利用状況を棚卸ししている
- MAに格納されているデータ項目を一覧化している
- SFAに格納されているデータ項目を一覧化している
- MAとSFAで重複しているデータ項目を特定している
- リードの定義(MAL、MQL)を営業・マーケで合意している
- スコアリング基準を営業・マーケで合意している
- 商談ステータスの定義を統一している
- データ項目の名称・形式を標準化している
- データの重複を洗い出している
- データの欠損を洗い出している
- データの不整合を洗い出している
- 連携対象のデータ項目を決定している
- データ連携の方向(MA→SFA、SFA→MA、双方向)を決定している
- 連携トリガー(タイミング)を決定している
- 共通KPIを営業・マーケで合意している
- 実装担当者をアサインしている
- 実装スケジュールを策定している
- テスト計画を策定している
- 運用ルール(データ更新頻度、異常時対応)を決定している
業務プロセス全体の再設計(BPR)の実践
MA/SFAデータ連携を単なるツール連携で終わらせず、業務プロセスに組み込むことが重要です。
BPR(Business Process Reengineering) とは、業務プロセスの抜本的見直しと再設計を指します。MA/SFAデータ連携を営業フローに組み込む際の基盤となる考え方です。
イリソ電子工業株式会社は「Microsoft Dynamics 365」導入において、BPO(Business Process Owner)をはじめ各プロセスチームを発足し、一斉に業務フローの見直しを実施しました。この事例は、ツール導入と業務プロセス見直しを同時に行う重要性を示しています。
BPR実践のポイント
- ツール導入と業務プロセス見直しを同時に行う
- BPOやプロセスチームを発足し、部門横断で取り組む
- 既存の業務フローを可視化し、データ連携を組み込んだ新フローを設計する
- 全社KPI/データ定義を統一し、CoE(Center of Excellence)を設置して運用する
MA/SFAツールを導入すれば自動的にデータ統合されるという考えは誤りです。API連携やデータ定義の標準化など、実装設計が不可欠であり、さらに業務プロセスへの組み込みまで踏み込むことで、形骸化を防ぐことができます。
MA/SFAでデータ一元管理する仕組みを実装し、継続的な成果向上を実現する
本記事では、営業とマーケティングの統合を「定期ミーティングで終わらせない」ための実践的なアプローチを解説しました。
記事の要点
- 営業とマーケの分断は、コミュニケーション不足・KPI不一致・データサイロ化という構造的な原因から生じる
- 定期ミーティングや共通KPI設定だけでは、手動共有の運用負荷で形骸化しやすい
- MA/SFAによるデータ一元管理を実装することで、手動共有から脱却し、営業とマーケが共通のデータ基盤で意思決定できる体制を構築できる
- 実装前の準備(現状診断、データ整備、BPR)が成功の鍵
次のアクション
まずは「営業×マーケ統合前の準備チェックリスト」を活用して、現状診断とデータ整備から始めてください。その上で「MA/SFAデータ連携実装フロー」に沿って、段階的に実装を進めることをお勧めします。企業規模や既存システムの状況により最適な方法は異なりますので、自社に合った形で参考にしてください。
営業とマーケの統合は、単に情報共有するだけでなく、MA/SFAでリードデータ・商談履歴・顧客情報を一元管理する仕組みを実装することで、部門間の壁を崩し継続的な成果向上が可能になります。
