大企業の営業部門でBPRが求められる背景
意外かもしれませんが、大企業の営業BPRは、SFA/CRMデータによる現状の営業プロセス可視化を起点に、現場を巻き込んだボトムアップ型で推進することで、組織の抵抗を最小化しながら持続的な成果を生み出せます。
BPR(Business Process Reengineering) とは、既存プロセスの延長線上での改善ではなく、ゼロベースでプロセスを再構築し、大幅な生産性向上を狙う業務改革手法です。単なる部分最適の業務改善とは異なり、プロセス全体を見直すことで抜本的な変革を実現します。
営業部門でBPRが求められる背景には、2025年の崖と呼ばれる問題があります。経済産業省DXレポートでは、レガシーシステムを放置した場合、2025〜2030年の5年間で最大12兆円/年の経済損失が発生しうると試算し、BPRを伴うDXを強く求めています。
多くの大企業では、営業プロセスが属人化・ブラックボックス化しており、「どこから手を付けてよいか分からない」という課題を抱えています。SFA/CRMを導入済みでも、「入力するだけの箱」になっており活用できていないケースも少なくありません。
この記事で分かること
- 営業BPRの基本概念と主要な手法の違い
- 大企業での営業BPR成功事例と具体的な成果
- 業務可視化から実装までの具体的な進め方
- BPRで陥りがちな失敗パターンとその対策
営業BPRの基本概念と手法の整理
BPRは単なる業務改善ではなく、ゼロベースでプロセスを再構築する点が特徴です。BPR研究(ハマー&チャンピー)では、ビジネスプロセス・リエンジニアリングにより企業の行動速度は2倍以上になるとされています。
データドリブン営業とは、MA・SFA・CRM等を活用し、データに基づいて営業活動の意思決定・プロセス改善を行うアプローチです。現代の営業BPRでは、このデータドリブンなアプローチが基本形となっています。
業務可視化とは、既存の業務内容・業務量・プロセスを定量的に把握し、改善対象を特定するBPRの第一ステップです。可視化なしにいきなりプロセス変更を行うと、現場の抵抗にあいやすくなります。
営業BPRでは、リード獲得〜商談化〜受注〜請求・入金〜アップセルまでの一連プロセスを対象に再設計を行うケースが増えています。
【比較表】営業BPRの主要アプローチ
| アプローチ | 概要 | 向いている課題 | 導入難易度 |
|---|---|---|---|
| プロセス可視化型 | 現状の業務フローを定量的に把握し、ボトルネックを特定して改善 | 属人化・ブラックボックス化 | 中 |
| 分業化・集約化型 | 営業・インサイドセールス・事務などの役割を再編成し、効率化 | 営業担当の業務過多 | 中〜高 |
| データドリブン型 | SFA/CRMデータを活用し、KPI設計と改善サイクルを回す | データ活用不足 | 中 |
| インサイドセールス導入型 | 対面営業の一部をインサイドセールスに移管 | 訪問効率の悪さ | 高 |
| 標準プロセス化型 | 属人化した営業活動を標準化し、再現性を高める | ノウハウの偏在 | 中 |
※アプローチは単独で実施するのではなく、複数を組み合わせることが一般的です。
大企業の営業BPR成功事例
営業BPRの効果は業界・企業規模・対象範囲により大きく異なりますが、大企業での成功事例を紹介します。
金融機関での営業業務改革事例
静岡銀行の「次世代勘定系システム+営業業務BPR」では、約4,000名の営業担当者を対象とした業務改革により、プログラム開発生産性25%以上向上、システム改修作業1/20に削減を実現しました。
この事例では、次世代勘定系システムの導入とBPRを組み合わせることで、単なるシステム刷新にとどまらない業務プロセス全体の改革を実現しています。営業担当者の日常業務から見直すことで、大幅な効率化を達成しました。
保険業界での営業事務標準化事例
NTTデータによる生命保険会社のBPR事例では、BPR継続により生産性最大5%向上を実現しました。営業事務も含めた標準化・集約化の効果が示されています。
この事例では、営業部門だけでなく、営業を支える事務部門も含めた一体的な改革を行っている点が特徴です。標準化と集約化を組み合わせることで、継続的な生産性向上を実現しています。
なお、これらの数値は各社の事例であり、業界・企業規模・対象範囲により効果は異なります。
営業BPRの進め方|業務可視化から実装まで
営業BPRは「業務可視化」から始めることが重要です。現状の営業プロセス・業務量を定量的に把握してからでないと、改善ポイントが特定できません。
SFA/CRMデータを活用した現状分析が効果的です。商談数、訪問回数、成約率、リードタイムなどのデータから、ボトルネックとなっているプロセスを特定します。
BPRを進める際は、以下のステップで進めることが一般的です。
- 現状の業務可視化: 営業プロセス・業務量をデータで把握
- 課題の特定: ボトルネック・非効率な業務を洗い出し
- 目標設定: KPIと達成期限を設定
- プロセス再設計: ゼロベースで新しいプロセスを設計
- パイロット実施: 一部の部門・チームで試行
- 全社展開: 効果検証後、全社に展開
- 定着・改善: 継続的なモニタリングと改善
【チェックリスト】営業BPR推進の確認項目
- 営業BPR推進の目的・ゴールが経営層と合意されている
- 推進責任者(プロジェクトオーナー)がアサインされている
- 推進チームのメンバーが決まっている
- 現場の営業担当者がチームに参加している
- 現状の営業プロセスがフロー図で可視化されている
- 営業活動の工数・時間配分がデータで把握されている
- SFA/CRMのデータ(商談数・成約率等)が分析されている
- ボトルネックとなっている業務・プロセスが特定されている
- 改善後の目標KPIが設定されている
- 新しい営業プロセスが設計されている
- 新プロセスでの役割分担が決まっている
- パイロット実施の対象部門・期間が決まっている
- パイロットの効果測定方法が決まっている
- 全社展開のスケジュールが策定されている
- 営業担当者への説明・研修計画がある
- SFA/CRMの設定変更が計画されている
- 定着後のモニタリング方法が決まっている
- 継続的な改善のサイクルが設計されている
営業BPRで陥りがちな失敗パターンと対策
営業BPRで多い失敗は、大きく2つのパターンに分類されます。これらの失敗パターンを理解し、対策を講じることが重要です。
トップダウン型BPRの問題点
よくある誤解として、「経営層がトップダウンで一気にBPRを進めれば成功する」と考えて、現場を巻き込まずに推進しようとするケースがあります。この考え方は誤りです。
現場の営業担当者を巻き込まないBPRは、以下の問題を引き起こします。
- 現場の実態と乖離したプロセスが設計される
- 営業担当者の抵抗により、新プロセスが定着しない
- 「やらされ感」が強く、継続的な改善が生まれない
ボトムアップ型推進では、現場の営業担当者をBPR推進チームに参加させ、現状の課題感や改善アイデアを吸い上げながら進めます。現場の声を反映することで、実効性のあるプロセスを設計でき、定着もしやすくなります。
ツール導入だけで終わるパターン
もう一つの失敗パターンは、SFA/CRM導入だけで満足し、営業プロセス自体の再設計をしないままツールが形骸化するケースです。
ツール導入だけではBPRではありません。プロセス自体の再設計を伴わないSFA/CRM導入は、「入力するだけの箱」になりやすく、営業担当者の負担だけが増えて成果につながらない状態に陥ります。
BPRでは、ツール導入と並行して以下を実施する必要があります。
- 営業プロセス自体の見直し・再設計
- データを活用した意思決定の仕組み構築
- KPIの設計と定期的なレビュー
まとめ:営業BPRは業務可視化とボトムアップ型推進が成功の鍵
大企業の営業BPRは、一朝一夕に進むものではありません。しかし、正しいアプローチで推進すれば、大きな成果につながる可能性があります。
本記事で解説したポイントを振り返ります。
- BPRは単なる業務改善ではなく、ゼロベースでの再構築。ハマー&チャンピーの研究では行動速度2倍以上の効果が示されている
- 静岡銀行では約4,000名対象の営業業務BPRで開発生産性25%以上向上を実現
- 営業BPRは「業務可視化」から始め、SFA/CRMデータを活用して現状を把握する
- トップダウンで一気に進めず、現場を巻き込んだボトムアップ型で推進する
- ツール導入だけでなく、営業プロセス自体の再設計を伴うことが重要
まずは上記のチェックリストで自社の準備状況を確認し、不足している項目から着手してください。大企業の営業BPRは、SFA/CRMデータによる現状の営業プロセス可視化を起点に、現場を巻き込んだボトムアップ型で推進することで、組織の抵抗を最小化しながら持続的な成果を生み出せます。
