SaaS営業戦略が成果を出せない理由
多くの方が悩むSaaS営業戦略。結論は、SaaS営業戦略は、戦略策定だけでなくMA/SFA設定と営業組織構築を含む実装支援まで見据えた設計で成果を出せます。
国内SaaS市場は2029年度に3.4兆円に達すると予測されており、年平均成長率11.6%で拡大しています。市場機会は大きい一方で、SaaS営業戦略を策定したものの成果が出ない企業が少なくありません。
この記事で分かること
- SaaS営業と一般営業の違い、サブスクリプションモデル特有の営業プロセス
- SaaS営業戦略の種類(PLG/SLG、エンタープライズ/SMB)と選び方
- The Model型組織(MK/IS/FS/CS分業)の構築方法とKPI設定
- 戦略策定だけでは成果が出ない理由と、実装支援の重要性
- SaaS営業戦略実装チェックリストと営業モデル別比較表
戦略策定だけで終わらせ、MA/SFA設定や営業組織構築(IS/FS/CSの分業、KPI設定、ツール連携)を自社で行おうとすると、リソース不足・スキル不足で成果が出ないケースが多く見られます。本記事では、戦略策定から実装支援まで含めた成功の全体像を解説します。
SaaS営業と一般営業の違い|サブスクリプションモデルの特性
SaaS営業はサブスクリプションモデルのため、一般営業とは異なる営業プロセスが必要です。一般営業は受注がゴールですが、SaaS営業は受注後のカスタマーサクセス(CS)活動が成果を決める点が最大の違いです。
サブスクリプションモデルとは、顧客が定期的に料金を支払い、継続的にサービスを利用する形態を指します。SaaS企業では、受注後の解約(チャーン)を防ぎ、長期的な関係を築くことが収益の鍵となります。
一般営業では、受注した時点で営業担当者のミッションが完了します。一方、SaaS営業では受注はスタート地点であり、顧客がサービスを活用し続け、アップセル・クロスセルを推進できるかが重要です。
受注後のカスタマーサクセスが成果を決める
カスタマーサクセスとは、受注後の顧客成功を支援する部門です。顧客のサービス活用を促進し、解約(チャーン)を防ぎ、アップセル・クロスセルを推進する役割を担います。
カスタマーサクセス(CS) とは、受注後の顧客成功を支援する部門です。顧客のサービス活用を促進し、解約(チャーン)を防ぎ、アップセル・クロスセルを推進します。
CS活動の具体例として、オンボーディング支援(初期設定・使い方レクチャー)、定期的な利用状況確認とフォロー、解約リスク顧客へのアプローチ、アップセル・クロスセルの提案などが挙げられます。
一般営業との対比で言えば、一般営業では「受注=ゴール」ですが、SaaS営業では「受注=スタート」です。受注後のCS活動が解約率に影響し、長期的な収益(LTV)を左右します。
ARR・LTV・CAC比率による成果測定
SaaS営業では、ARR(年間経常収益)、LTV(顧客生涯価値)、CAC(顧客獲得コスト)といった指標で成果を測定します。
ARR(Annual Recurring Revenue) とは、年間経常収益です。サブスクリプションモデルで、年間の定期的な収益を示す指標で、SaaS企業の成長度合いを測る重要KPIです。
ARRは、月額課金の場合はMRR(月次経常収益)×12、年額課金の場合は年額契約の合計で計算されます。SaaS企業の成長率を測る基本指標として広く使われています。
LTV(Life Time Value)は、1顧客が契約期間中に支払う総額を指します。CAC(Customer Acquisition Cost)は、1顧客を獲得するためにかかったコストです。LTV/CAC比率は、顧客獲得の効率性を示す指標で、一般的には3:1以上が望ましいとされていますが、企業規模や業種により異なります。
チャーン率(解約率)管理も重要です。月次チャーン率が高いと、新規顧客を獲得してもARRが増えず、成長が鈍化します。SaaS営業では、新規顧客獲得とチャーン率低減の両面から成果を測定する必要があります。
SaaS営業戦略の種類と選び方
SaaS営業戦略には、PLG(Product-Led Growth)とSLG(Sales-Led Growth)、エンタープライズとSMBといった複数の選択肢があります。自社の製品特性、顧客単価、営業リソースに応じて適切なモデルを選ぶことが重要です。
【比較表】SaaS営業モデル別の適用条件比較表
| モデル | 適用条件 | 特徴 | 単価目安 | 営業プロセス |
|---|---|---|---|---|
| PLG(Product-Led Growth) | 製品が自己説明的、低単価、セルフサービス可能、バイラル性あり | 製品の自己成長型、ユーザーが自らサインアップし利用開始 | 低〜中 | シンプル、自動化が中心 |
| SLG(Sales-Led Growth) | 高単価、複雑な製品、顧客教育が必要、カスタマイズが必要 | 営業主導型、営業担当者が顧客開拓から契約まで推進 | 中〜高 | 複雑、人的接点が多い |
| エンタープライズ開拓 | 大企業向け、高単価、長期商談、複雑な意思決定 | 高単価・低ボリューム、営業サイクルが長い | 高 | 複雑、複数人での意思決定 |
| SMB開拓 | 中小企業向け、低単価、短期商談、シンプルな意思決定 | 低単価・大量獲得、営業サイクルが短い | 低〜中 | シンプル、スピード重視 |
PLG vs SLG|どちらを選ぶべきか
PLG(Product-Led Growth)は製品の自己成長型、SLG(Sales-Led Growth)は営業主導型として対比されます。
PLGは、ユーザーが自らサインアップし、製品を試用して価値を実感した後に有料化する成長モデルです。PLGに適した条件として、低単価、セルフサービス可能、バイラル性(ユーザーが他のユーザーを呼び込む性質)が挙げられます。製品自体が分かりやすく、営業担当者の説明がなくても利用開始できることが前提です。
SLGは、営業担当者が顧客開拓から契約まで推進する成長モデルです。SLGに適した条件として、高単価、複雑な製品、顧客教育が必要、カスタマイズが必要といった点が挙げられます。エンタープライズ向けSaaSや、業務フローに深く組み込まれる製品では、営業担当者による提案・導入支援が不可欠です。
どちらを選ぶべきかは、自社の製品特性と顧客単価により異なります。低単価でセルフサービス可能ならPLG、高単価で複雑な製品ならSLGが適しています。近年では、PLGとSLGを組み合わせたハイブリッドモデルも増えています。
エンタープライズ vs SMB|顧客セグメント別の戦略
エンタープライズ開拓とSMB開拓では、営業戦略が大きく異なります。
エンタープライズ開拓の特性として、長期商談(数ヶ月〜1年以上)、複雑な意思決定(複数部署・役職者の承認が必要)、高単価(年間数百万円〜数千万円)が挙げられます。営業担当者は、顧客の業務フローを深く理解し、カスタマイズ提案やPoC(概念実証)を実施する必要があります。
SMB開拓の特性として、短期商談(数週間〜数ヶ月)、シンプルな意思決定(経営者や担当者が即決)、低単価(年間数万円〜数十万円)、大量獲得が挙げられます。営業プロセスはシンプルで、標準的なパッケージ提案が中心となります。
どちらを優先すべきかは、企業のリソース・製品特性により異なります。エンタープライズ開拓は高単価ですがリソースが必要で、SMB開拓は低単価ですが大量獲得が前提です。自社の営業リソースと製品の複雑さに応じて、顧客セグメント別の戦略を設計することが重要です。
営業組織の分業体制構築|The Model型組織の作り方
The Model型組織とは、マーケティング(MK)、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)への分業型営業組織モデルです。各担当者が専門業務に集中し効率化を図る仕組みで、SaaS企業で広く採用されています。
The Modelとは、マーケティング(MK)、インサイドセールス(IS)、フィールドセールス(FS)、カスタマーサクセス(CS)への分業型営業組織モデルです。各担当者が専門業務に集中し効率化を図ります。
インサイドセールス(IS)導入率は2023年時点で41.3%(HubSpot調査)で、2020年比で5%上昇し、2024年も継続的な拡大傾向にあります。また、CRM導入率(分業支援ツール)は2024年度37.2%(2023年度36.2%から1.0ポイント上昇)となっており、分業化のトレンドが進んでいます。
SaaS企業創業フェーズ(41.4%)では、未経験中途採用の優先ポジションがIS 41.0%、MK 39.9%、FS 13.6%、CS 5.5%となっており、約9割のSaaS企業が業界未経験者採用を強化しています(2025年調査)。IS/MKを優先的に採用する傾向が見られます。
各担当の役割とKPI設定
The Model型組織では、MK/IS/FS/CSの各担当が明確な役割とKPIを持ちます。
インサイドセールス(IS) とは、電話・メール・Web会議等を活用した非対面の営業手法です。リード育成から商談化までを担当し、フィールドセールスへ引き渡します。
フィールドセールス(FS) とは、顧客と対面で商談を行う営業手法です。インサイドセールスから引き渡された商談を受注まで進めます。
MK(マーケティング)の役割は、リード獲得です。KPIはリード数、CPL(Cost Per Lead:リード獲得単価)となります。Web広告、SEO、セミナー、ホワイトペーパーなどを通じて見込み顧客を獲得します。
IS(インサイドセールス)の役割は、リード育成・商談化です。KPIは商談化率、SQL数(Sales Qualified Lead:営業が対応すべき質の高いリード数)となります。MKから引き渡されたリードに対し、電話・メールでアプローチし、商談に進められる顧客をFSへ引き渡します。
FS(フィールドセールス)の役割は、商談・受注です。KPIは受注率、受注額となります。ISから引き渡された商談を受注まで進め、契約締結を行います。
CS(カスタマーサクセス)の役割は、顧客成功支援・解約防止です。KPIはチャーン率(解約率)、NRR(Net Revenue Retention:既存顧客からの収益維持率)となります。受注後の顧客に対し、サービス活用支援、定期フォロー、アップセル・クロスセル提案を行います。
分業化の落とし穴と対策
The Model型組織を導入しても、失敗するケースがあります。
よくある誤解として、IS導入しても「テレアポ屋化」して失敗するケースがあります。ISの役割はリード育成・商談化であり、単なるテレアポではありません。顧客の課題をヒアリングし、適切なタイミングで商談化することが重要ですが、現場ではテレアポ部隊として扱われ、本来の効率化が実現しないケースが見られます。
日本企業文化では「人間性」軽視により顧客関係構築が薄くなる問題もあります。分業化により、顧客が複数の担当者と接点を持つため、顧客との関係性が希薄になる傾向があります。
対策として、CRM/SFAで情報共有し、IS/FS間の引き継ぎルールを明確化することが重要です。顧客情報、ヒアリング内容、商談履歴をCRM/SFAに記録し、担当者が変わっても顧客体験が途切れないようにします。また、定期的な振り返りミーティングを実施し、IS/FS/CSの連携を強化することが成功の鍵です。
実装段階での障壁と解決策|戦略策定だけでは失敗する理由
SaaS営業戦略を策定しても、実装段階で成果が出ない企業が多く見られます。戦略策定だけで終わらせ、MA/SFA設定や営業組織構築を自社で行おうとすると、リソース不足・スキル不足で進まないケースが典型的です。
戦略策定だけで終わる失敗パターン
戦略コンサルに依頼したが戦略レポート提出で終わり、実装は自社で行う必要がありリソース・スキル不足で進まないケースは少なくありません。このような失敗パターンは誤りです。
戦略レポートには、「PLG/SLGのどちらを選ぶべきか」「The Model型組織をどう構築するか」「KPIをどう設定するか」といった方針が記載されていますが、具体的な実装手順までは含まれていないことが多いです。
MA/SFA設定は専門知識が必要で、自社で行うとリソース・スキル不足で進みません。MA(マーケティングオートメーション)やSFA(セールスフォースオートメーション)の設定には、ツールの仕様理解、データ連携設計、スコアリングルール設計、シナリオ設計などが必要です。これらを自社で行うには、専任の担当者と数ヶ月の期間が必要となります。
営業組織構築(IS/FS/CSの分業、KPI設定)も同様にリソース不足で進みません。分業体制を構築するには、役割定義、引き継ぎルール設計、CRM/SFAでの情報共有ルール設計、KPI設計、採用・トレーニングといった複数のステップが必要です。戦略レポートを読んだだけでは、これらを実行できないケースが多いです。
【チェックリスト】SaaS営業戦略実装チェックリスト
- 営業モデル(PLG/SLG、エンタープライズ/SMB)の選定完了
- ターゲット顧客セグメントの明確化
- The Model型組織(MK/IS/FS/CS)の役割定義
- 各担当のKPI設計(リード数、商談化率、受注率、チャーン率等)
- MA/SFAツールの選定
- MA/SFA設定(データ連携、スコアリングルール、シナリオ設計)
- CRM/SFAでの情報共有ルール設計
- IS/FS間の引き継ぎルール明確化
- 営業プロセスの可視化(リードジェネレーション→商談化→受注→CS)
- IS/FS/CS担当者の採用
- IS/FS/CS担当者のトレーニング実施
- 商談化基準(SQL基準)の設定
- 受注後のオンボーディングフロー設計
- チャーン防止施策の設計
- アップセル・クロスセル施策の設計
- 定期的な振り返りミーティングの実施体制構築
- ARR/LTV/CAC比率のモニタリング体制構築
実装支援を含むSaaS営業戦略の全体像
実装支援を含むSaaS営業戦略では、戦略策定と実装支援を一気通貫で対応します。
戦略策定では、営業モデル選定(PLG/SLG、エンタープライズ/SMB)、顧客セグメント設定、KPI設計を行います。自社の製品特性、顧客単価、営業リソースに応じて、適切な営業モデルを選択します。
実装支援では、MA/SFA設定、営業組織構築、トレーニング、運用支援を行います。MA/SFA設定では、データ連携設計、スコアリングルール設計、シナリオ設計を実施し、実際に動くツール環境を構築します。営業組織構築では、IS/FS/CSの役割定義、引き継ぎルール設計、CRM/SFAでの情報共有ルール設計を行い、分業体制を実際に稼働させます。トレーニングでは、IS/FS/CS担当者に対し、ツールの使い方、営業プロセス、KPIの見方を教育します。運用支援では、定期的な振り返りミーティングを実施し、KPIモニタリングと改善提案を行います。
実装支援まで含めることで、戦略が「動くもの」として現場に定着し、成果につながります。戦略レポートだけでは動かない仕組みを、実際に稼働させることが実装支援の価値です。
SaaS営業戦略成功のポイント
SaaS営業戦略を成功させるには、戦略策定から実装支援まで一貫して対応することが重要です。
SaaS営業と一般営業の違いを理解し、受注後のCS活動を重視することが第一歩です。ARR、LTV/CAC比率、チャーン率といったSaaS特有のKPIで成果を測定します。
営業戦略の選び方では、自社の製品特性、顧客単価、営業リソースに応じて、PLG/SLG、エンタープライズ/SMBを選択します。The Model型組織を構築し、MK/IS/FS/CSの分業体制で効率化を図ります。
実装支援の重要性を認識し、戦略策定だけで終わらせないことが成功の鍵です。MA/SFA設定、営業組織構築、トレーニング、運用支援まで含めた一気通貫の対応により、戦略が実際に動く仕組みとなります。
SaaS営業戦略実装チェックリストを活用し、自社の現状を確認してください。戦略策定から実装支援までの各ステップを確実に進めることで、SaaS営業戦略は成果を出せます。
改めて結論を述べます。SaaS営業戦略は、戦略策定だけでなくMA/SFA設定と営業組織構築を含む実装支援まで見据えた設計で成果を出せます。
