なぜBtoB営業では職種別アプローチが必要なのか
リードは獲得できているが、職種や役職に応じた適切なアプローチができず商談化率が低いという課題を解決したいなら、BtoB営業における職種別アプローチは、ターゲットの課題・関心に応じたメッセージ設計だけでなく、MA/SFAのセグメント設計・スコアリングと連動させることで初めて効果を発揮する。
職種別アプローチとは、ターゲット企業内の職種・役職ごとにメッセージやコンテンツを最適化して届けるBtoBマーケティング手法です。BtoB取引では、購買意思決定に複数の部門・担当者が関与するため、それぞれの関心軸に合わせたアプローチが求められます。
経済産業省「2023年版ものづくり白書」によると、製造業でのデジタル技術導入にあたり、現場、生産技術、情報システム、経営層など複数部門が意思決定に関与しており、部門間の目的やKPIの違いが導入のボトルネックになっているという実態が報告されています。また、総務省「情報通信白書2024年版」では、DX・クラウド等の導入に際し、情報システム部門と業務部門・経営層で期待効果や課題認識がズレているため、コミュニケーションの工夫が必要とされています。
これらの調査結果が示すように、BtoB取引では複数の職種・部門が意思決定に関与し、それぞれが異なる関心軸を持っています。全員に同じメッセージを届けても響かないのは当然のことです。
この記事で分かること
- BtoB営業で職種別アプローチが必要な理由
- 意思決定ユニット(DMU)と職種クラスターの考え方
- 職種ごとの訴求ポイントの違いと比較表
- MA/SFA連携による職種別アプローチの実装方法
- 職種別アプローチ設計のチェックリスト
BtoB購買における意思決定ユニットと職種クラスターの理解
職種別アプローチを設計するには、まずターゲット企業内の意思決定構造を理解することが出発点になります。
意思決定ユニット(DMU) とは、BtoBの購買において意思決定に関与する複数の関係者(決裁者、推進者、利用者など)の集合体です。BtoB取引では、1人の担当者だけで購買が決まることは稀であり、複数の役割を持つ関係者が意思決定に関与します。
セグメンテーションとは、市場を特定の基準(業種、規模、職種など)で分類し、アプローチすべきターゲットを明確化する手法です。職種別アプローチでは、このセグメンテーションを職種軸で行うことになります。
意思決定ユニット(DMU)とは
DMUを構成する主な役割は以下の通りです。
決裁者: 最終的な購買承認を行う役割。経営層や部門長が担うことが多く、予算権限を持っています。投資対効果やリスクを重視する傾向があります。
推進者: 導入検討をリードする役割。導入によって自部門の課題を解決したいと考えており、社内稟議を通すための情報収集を積極的に行います。
利用者: 実際に製品・サービスを使う役割。現場の担当者が該当し、使いやすさや業務効率化への貢献を重視します。
影響者: 直接の意思決定者ではないものの、技術評価やセキュリティ確認などで意思決定に影響を与える役割。情報システム部門や法務部門などが該当します。
これらの役割を理解したうえで、それぞれに適したメッセージを設計することが職種別アプローチの基本となります。
代表的な職種クラスターの分類
職種クラスターは、意思決定における役割と機能(部門)の2軸で整理するのが一般的です。実務では3〜6つ程度のクラスターに整理することが多いとされています。
意思決定権による分類:
- 決裁者層: 経営層、部門長
- 推進者層: 導入責任者、プロジェクトマネージャー
- 利用者層: 現場担当者、オペレーター
機能(部門)による分類:
- 経営・管理部門: 経営企画、財務、人事
- 情報システム部門: IT、情報セキュリティ
- 事業部門: 営業、マーケティング、カスタマーサクセス
- 現場部門: 製造、物流、サポート
これらの軸を組み合わせて、自社のターゲットに適した職種クラスターを設計します。BtoB SaaSでは2〜4職種程度に絞って重点アプローチするのが一般的とされています。
職種別アプローチのポイント比較
職種ごとに関心軸や訴求ポイントは大きく異なります。経営層には事業インパクトやROI、現場担当者には機能や操作性、情報システム部門にはセキュリティや連携性といった訴求が効果的とされています。
【比較表】BtoB職種別アプローチポイント比較表
| 職種クラスター | 主な関心軸 | 効果的な訴求ポイント | 有効なコンテンツ例 |
|---|---|---|---|
| 経営層・決裁者 | ROI・事業インパクト | 投資対効果、競合動向、成長戦略への貢献 | ROI試算、経営者向け導入事例 |
| 事業部門・推進者 | 業務課題解決 | 課題解決の具体性、導入の容易さ、サポート体制 | 課題別ソリューション資料、導入ステップ |
| 情報システム部門 | セキュリティ・連携性 | セキュリティ認証、既存システムとの連携、運用負荷 | 技術仕様書、セキュリティホワイトペーパー |
| 現場担当者・利用者 | 使いやすさ・効率化 | 操作性、業務時間削減、日常業務への適合 | 操作デモ、無料トライアル |
| 管理部門(人事・財務) | コンプライアンス・コスト | 法令対応、コスト削減効果、管理の効率化 | コスト比較表、コンプライアンス対応資料 |
この表は代表的な例であり、業種や製品特性によって適切な訴求ポイントは異なります。自社のターゲットに合わせてカスタマイズすることが重要です。
経営層・決裁者へのアプローチ
経営層・決裁者は、投資に対するリターン(ROI)や事業インパクトを重視する傾向があります。
経営層向けの訴求で効果的なポイントは以下の通りです。
- 事業成長への貢献: 売上増加、市場シェア拡大、新規事業創出など、経営目標との関連を示す
- 投資対効果(ROI): 具体的な数値で投資回収期間や期待効果を示す
- 競合動向: 競合他社の導入状況や業界トレンドを情報提供する
- リスク低減: 導入しないことによるリスク(競争力低下、法令違反など)を示す
経営層向けのコンテンツでは、詳細な機能説明よりも、経営課題との関連性を端的に伝えることが重要です。
現場担当者・利用者へのアプローチ
現場担当者・利用者は、実際に製品・サービスを使う立場として、使いやすさや業務効率化への直接的な貢献を重視します。
現場担当者向けの訴求で効果的なポイントは以下の通りです。
- 操作性: 直感的に使えるか、学習コストはどの程度か
- 業務時間削減: 現在の業務がどのくらい効率化されるか
- 日常業務への適合: 既存の業務フローに無理なく組み込めるか
- サポート体制: 困ったときにすぐ解決できるか
現場担当者には、実際に触れてもらうことが最も効果的です。無料トライアルや操作デモの提供が有効とされています。
メッセージ変更だけでは不十分な理由
よくある失敗パターンは、「職種ごとにメッセージを変えよう」と考えても、MA/SFAでのセグメント設計やスコアリングと連動していないケースです。この考え方は誤りです。
メッセージを変えても、以下のような問題が発生します。
- 誰に何を送ったか追跡できない: 手動でセグメントを管理していると、過去のコミュニケーション履歴が不明確になる
- リードの優先度が判断できない: 職種や行動履歴に基づくスコアリングがなければ、どのリードを優先すべきか判断できない
- 部門間で情報が共有されない: マーケティングが把握している職種情報が営業に引き継がれない
- 一貫したジャーニーを設計できない: 認知から商談までの職種別シナリオが構築できない
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、特定のターゲットアカウント(企業)を選定し、そのアカウント内の意思決定者に対してパーソナライズした施策を展開する手法です。ABMを実践する場合も、職種別アプローチとMA/SFAの連携は不可欠です。
総務省「情報通信白書2024年版」でも指摘されているように、情報システム部門と業務部門・経営層では期待効果や課題認識にズレがあります。このズレを埋めるには、職種ごとの関心軸を理解し、適切なタイミングで適切なメッセージを届ける仕組みが必要です。それを実現するのがMA/SFAとの連携です。
MA/SFA連携による職種別アプローチの実装方法
職種別アプローチを効果的に実施するには、MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)を連携させ、職種情報に基づくセグメント・スコアリング・シナリオを構築することが重要です。
カスタマージャーニーとは、顧客が認知から購入・継続に至るまでの行動・接点の流れを可視化したものです。職種別アプローチでは、職種ごとにカスタマージャーニーを設計し、各ステージで適切なコンテンツを配信する仕組みを構築します。
【チェックリスト】職種別アプローチ設計チェックリスト
- ターゲット企業の意思決定構造(DMU)を整理している
- 重点アプローチする職種クラスターを2〜4つ程度に絞り込んでいる
- 職種ごとの関心軸・課題を言語化している
- 職種ごとの訴求ポイントを明確にしている
- MAで職種情報を取得・管理するフィールドを設定している
- リード獲得フォームに職種・役職の入力項目を設けている
- 職種別のセグメントをMAで作成している
- 職種別のスコアリングルールを設計している
- 職種×カスタマージャーニーステージでコンテンツを整理している
- 職種別のナーチャリングシナリオ(メールシーケンス)を設計している
- 経営層向けのコンテンツ(ROI試算、導入事例)を用意している
- 現場担当者向けのコンテンツ(デモ、トライアル案内)を用意している
- 情報システム部門向けのコンテンツ(技術資料、セキュリティ情報)を用意している
- SFAに職種情報を連携する仕組みを構築している
- 営業がリードの職種情報を確認できるようにしている
- 職種別のアプローチ結果を分析・改善するKPIを設定している
職種別セグメント・スコアリングの設計
MAで職種別アプローチを実装するための基本ステップは以下の通りです。
ステップ1: 職種情報の取得
- リード獲得フォームに職種・役職の入力項目を設ける
- 名刺情報や外部データベースから職種を補完する
- 行動履歴(閲覧コンテンツ)から職種を推定する
ステップ2: セグメントの作成
- 職種クラスターごとにセグメントを作成する
- 職種 × 業種、職種 × 企業規模など複合条件も設定する
- 未分類(職種不明)リードの扱いを決める
ステップ3: スコアリングルールの設計
- 職種属性によるスコア加算(決裁者は高スコアなど)
- 職種別の重要行動によるスコア加算(経営層が料金ページを閲覧したら高スコアなど)
- 商談化しやすい職種パターンをスコアリングに反映する
全職種に均等にアプローチするのではなく、2〜4職種程度に絞って重点アプローチするのが一般的とされています。
職種別シナリオ・コンテンツ設計
職種別のナーチャリングシナリオを設計する際は、職種 × カスタマージャーニーステージのマトリクスで整理すると効果的です。
認知ステージのコンテンツ例:
- 経営層向け: 業界トレンドレポート、経営課題に関するホワイトペーパー
- 推進者向け: 課題別ソリューション概要、導入メリット資料
- 情報システム部門向け: 技術概要資料、連携可能システム一覧
比較検討ステージのコンテンツ例:
- 経営層向け: ROI試算ツール、経営者向け導入事例
- 推進者向け: 詳細機能資料、導入ステップガイド
- 情報システム部門向け: セキュリティホワイトペーパー、API仕様書
意思決定ステージのコンテンツ例:
- 経営層向け: 投資対効果の具体例、リスク低減効果の説明
- 推進者向け: 導入支援体制の説明、成功事例の詳細
- 現場担当者向け: 無料トライアル、操作デモ
このマトリクスに沿って、MAでメールシナリオを設計し、職種ごとに最適なタイミングで最適なコンテンツを配信する仕組みを構築します。
まとめ|職種別アプローチはMA/SFA連携で成果を最大化する
本記事では、BtoB営業における職種別アプローチの設計方法について解説しました。
重要なポイントを振り返ります。
- 職種別アプローチの必要性: BtoB取引では複数部門が意思決定に関与し、職種ごとに関心軸が異なる
- DMUの理解: 決裁者・推進者・利用者・影響者の役割を把握する
- 職種クラスターの設計: 2〜4職種程度に絞って重点アプローチする
- 職種別の訴求ポイント: 経営層にはROI、現場には操作性、情シスにはセキュリティを訴求
- MA/SFA連携の重要性: セグメント・スコアリング・シナリオをツールと連動させる
「職種ごとにメッセージを変えよう」と考えても、MA/SFAでのセグメント設計やスコアリングと連動していなければ、結局は画一的なアプローチになり成果が出ません。BtoB営業における職種別アプローチは、ターゲットの課題・関心に応じたメッセージ設計だけでなく、MA/SFAのセグメント設計・スコアリングと連動させることで初めて効果を発揮します。
チェックリストを活用して、自社の職種別アプローチの設計状況を点検してみてください。自社だけでMA/SFA設定やシナリオ設計が難しい場合は、専門家の支援を活用することで、効率的に実装を進めることができます。
