なぜ今「データサイロ解消」が企業の緊急課題なのか
「マーケティング部門が獲得したリードの情報が、営業部門に正確に伝わらない」「同じ顧客データが複数のシステムに分散していて、どれが最新かわからない」——このような課題を抱える企業は少なくない。
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、データサイロ化を含むレガシーシステムの問題を放置した場合、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失が発生すると試算されている。この「2025年の崖」と呼ばれる問題は、単なるシステムの老朽化ではなく、部門間でデータが分断され活用できない状態が根本的な原因となっている。
しかし、データサイロ化の解消は、CDPやデータ統合ツールを導入すれば完了するものではない。MA/SFA連携の設計と業務プロセスの整備を一気通貫で行うことで、はじめてマーケと営業の分断を解消し、データに基づく意思決定が可能になる。
データサイロ化とは|定義と発生原因を理解する
データサイロ化とは、企業内の各部門やシステムにデータが分散・孤立し、組織全体で活用できない状態を指す。マーケティング部門はMAツールに、営業部門はSFAに、カスタマーサポートは別のCRMにと、それぞれがデータを保持しているが、相互に連携されていない状況がこれにあたる。
サイロ化が発生する原因は複合的だ。システム導入時期の違いによる技術的な分断、部門ごとの予算・権限による組織的な縦割り、そしてデータ入力ルールの不統一による運用上の問題が絡み合っている。
| 原因カテゴリ | 具体例 | 解消アプローチ |
|---|---|---|
| システムの分断 | MA・SFA・CRMが別々に導入され連携なし | API連携・CDP導入による統合 |
| 組織の縦割り | 部門ごとに独自のツール選定・運用 | 部門横断のデータガバナンス体制構築 |
| 入力ルールの不統一 | 顧客名の表記揺れ、必須項目の違い | 共通入力ルール策定・データクレンジング |
| アクセス権限の分断 | 他部門のデータを参照できない | 役割ベースのアクセス権限設計 |
サイロ化が引き起こす具体的な問題
データサイロ化は、日々の業務に直接的な悪影響を及ぼす。
まず、業務効率の低下だ。同じ顧客情報を複数のシステムに手動で入力する重複作業が発生し、担当者の時間を奪う。また、他部門のデータを確認するために都度問い合わせが必要となり、意思決定のスピードが落ちる。
特に深刻なのが、マーケティングと営業間のリード引き渡しの問題だ。マーケティング部門がウェビナーや資料ダウンロードで獲得したリードの行動履歴が営業に共有されず、「なぜこの見込み客に連絡するのか」という背景情報なしにアプローチせざるを得ない。結果として、的外れな提案や重複連絡が発生し、顧客体験を損なうことになる。
データサイロ解消の基本アプローチ
データサイロ化を解消するアプローチは、大きく3つに分類できる。
システム統合アプローチは、CDPやデータ統合基盤を導入し、分散したデータを技術的に連携させる方法だ。各システムのAPIを活用してデータを一元化し、どの部門からも同じ顧客情報にアクセスできる環境を構築する。
組織改革アプローチは、データへのアクセス権限を見直し、部門横断でデータを活用できる体制を整える方法だ。必要に応じて、データ活用を推進する専任チームを設置することも含まれる。
ガバナンス確立アプローチは、入力ルールの標準化やKPIの共通化を通じて、データの質と活用方法を組織全体で統一する方法だ。データクレンジングによる既存データの整備も、このアプローチに含まれる。
重要なのは、これら3つのアプローチを個別に実施するのではなく、組み合わせて推進することだ。システムだけ、組織だけ、ルールだけを変えても、サイロ化の根本的な解消には至らない。
ツール導入だけでは解消しない理由
「CDPを導入すればデータサイロは解消される」——この考え方は、多くの企業がはまる落とし穴だ。
システム上でデータが連携されても、それだけでは活用には至らない。営業担当者がMAのリードスコアを見る習慣がなければ、連携されたデータは使われないままだ。マーケティングと営業でKPIが異なれば、同じデータを見ても優先順位の解釈が食い違う。
解消に必要なのは、入力ルールの標準化(誰が・いつ・何を入力するか)、アクセス権限の整備(誰がどのデータを見られるか)、そしてKPIの共通化(どの指標を共有目標とするか)だ。これらの業務プロセスの整備なしに、ツール導入だけでサイロ化が解消されることはない。
MA/SFA連携によるマーケ・営業データ統合の進め方
BtoB企業においてデータサイロ化が最も顕著に現れるのが、マーケティング部門と営業部門の間だ。MA(マーケティングオートメーション)とSFA(営業支援システム)の連携は、この分断を解消する具体的な手段となる。
MA/SFA連携で実現すべきは、リード情報の一元管理だ。MAで蓄積されたウェブ行動履歴、メール開封状況、資料ダウンロード履歴などを、SFA側で営業担当者が確認できる状態を作る。これにより、営業は「なぜこの見込み客が有望なのか」という背景を理解した上でアプローチできる。
実際に、SFAツール「Mazrica Sales」の導入企業では、MA連携によってマーケティング部門への問い合わせが25%削減されたという報告がある(ベンダー発信事例のため、効果は運用体制により変動する可能性がある)。
連携を進める際のポイントは3つだ。
- リード引き渡しルールの明確化:どの条件を満たしたリードを営業に引き渡すか、スコアリング基準と引き渡しタイミングを定義する
- データ項目の統一:MA側とSFA側で顧客情報の項目名・形式を揃え、連携時のデータ変換を最小化する
- KPIの共通化:MQL(マーケティング認定リード)からSQL(営業認定リード)への転換率など、両部門が共有できる指標を設定する
リード管理の一元化で実現する商談化率向上
MA/SFA連携の成果は、商談化率の向上に現れる。
リードスコアリングとは、見込み客の行動や属性に点数を付け、営業アプローチの優先順位を判断する仕組みだ。料金ページの閲覧、事例ダウンロード、セミナー参加など、購買意欲を示す行動に高いスコアを設定する。
引き渡し基準の設定では、「スコアが一定値を超えた」「特定のページを閲覧した」などの条件を組み合わせる。重要なのは、基準を営業・マーケティング双方で合意し、定期的に見直すことだ。引き渡し後に商談化しなかったリードを分析し、基準を調整していくPDCAサイクルが求められる。
データサイロ解消の成功事例と効果
データサイロ解消に取り組んだ企業の事例を紹介する。
日本製鉄の事例では、データ収集・検証にかかる工数が6週間から1週間に短縮され、約86%の削減を実現した。複数システムに分散していたデータを統合基盤に集約したことで、レポート作成の効率が大幅に向上している。
Geniee社の事例では、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)とAIの活用により、業務時間を200時間削減し、売上成長率は過去最高を更新した。顧客データの一元管理と分析の自動化が、成果につながった例だ。
これらはベンダー発信の事例であり、成功バイアスが含まれる可能性がある点には留意が必要だ。効果は各企業の運用体制、既存システムの状況、組織文化によって変動する。
自社のサイロ化状況を診断するには、以下のチェックリストを活用してほしい。
- 同じ顧客情報を複数のシステムに手動入力している
- 他部門のデータを確認するために毎回問い合わせが必要
- 顧客名や企業名の表記が部門・システムごとに異なる
- マーケティングが獲得したリードの背景情報が営業に伝わっていない
- 部門ごとにKPIが異なり、共通の成果指標がない
- データの「正」がどのシステムにあるか明確でない
- 統合的な顧客分析ができず、部門ごとの断片的なレポートしかない
3つ以上該当する場合は、データサイロ化が業務効率や意思決定に影響を与えている可能性が高い。
まとめ|データサイロ解消で実現するデータドリブン経営
データサイロ化の解消は、ツール導入だけで完結するものではない。MA/SFA連携の設計と業務プロセスの整備を一気通貫で行うことで、マーケと営業の分断を解消し、データに基づく意思決定が可能になる。
取り組みのステップとしては、まず上記のチェックリストで自社のサイロ化状況を診断することから始めてほしい。次に、最も影響の大きい分断ポイント(多くの場合、マーケ・営業間)を特定し、そこからシステム連携・ルール整備・組織体制の見直しを進める。
MA/SFA連携設計から運用定着まで、専門家の支援を活用することで、導入後の形骸化を防ぎ、データドリブン経営への移行を加速できる。
