マーケティング責任者がKPI設計で直面する課題
マーケティング責任者のKPI設計とは何か。マーケティング責任者のKPI設計は、指標を決めるだけでなく、MA/SFA実装とダッシュボード開発まで一気通貫で進め、経営層への報告に活用できる状態にすることで成果につながります。
多くのBtoB企業では、KPI設計において新規リード数を最重視する傾向があります。2024年の調査によると、BtoB企業が現在最も重視しているKPIは「新規リード獲得数」が32.1%で最多、2位が「受注率」11.1%、3位が「Webサイト訪問件数」「コンバージョン率」各7.9%という結果でした(国内BtoBマーケター190名対象)。
しかし、新規リード数だけを追うことには問題があります。同調査では新規リードKPI偏重の問題点として「新規獲得するリードの数が頭打ちになる」46.4%、「リードが多く取れる施策にコストが集中する」46.4%、「営業部門からリードの温度感の低さを指摘される」40.6%という声が挙がっています。
この記事で分かること
- KGI・KPIの基本概念とKPIツリーの設計方法
- マーケティング責任者が経営層への報告を見据えて設定すべき主要KPI指標
- KPI設計のよくある失敗パターンとその回避策
- MA/SFAを活用したKPI可視化とダッシュボード設計のポイント
KPI設計の基礎:KGI・KPIツリーと主要指標の定義
KPI設計の基礎は、KGIから逆算してKPIを設計するという考え方です。まず、マーケティング責任者が押さえるべき基本用語を整理します。
KGI(Key Goal Indicator) とは、最終的に達成すべき経営目標を示す指標です。例として年間売上高10億円、新規顧客20社獲得などが挙げられます。
KPI(Key Performance Indicator) とは、KGI達成のために必要な中間指標です。各プロセスにおける具体的な成果を測定します。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動により一定スコア以上に達した見込み顧客を指します。営業へパスする対象となります。
SQL(Sales Qualified Lead) とは、営業が商談可能と判断した見込み顧客です。MQLから営業へ引き渡された後の段階を指します。
CPL(Cost Per Lead) とは、リード1件あたりの獲得コストです。広告費や施策コスト÷新規リード数で算出します。
ROMI(Return on Marketing Investment) とは、マーケティング投資収益率です。マーケティング費用1円あたりの収益貢献を測定します。
KGIとKPIの違い
KGIは最終的なゴールであり、KPIはそのゴールに至るまでの中間指標です。KGIが「年間売上10億円」であれば、それを達成するために「受注数」「商談数」「MQL数」「リード数」といったKPIを設定します。
マーケティング責任者は、この関係性を理解した上で、経営目標に紐づくKPIを設計する必要があります。
BtoBマーケティングにおけるKPIツリーの設計方法
KPIツリーは、KGIから逆算して設計します。
例えば、KGIが「年間売上10億円」の場合、受注単価と目標受注数から逆算し、受注率を踏まえて必要な商談数を算出します。さらに商談化率から必要なMQL数を、MQL転換率から必要なリード数を算出していきます。
KGI → 受注数 → 商談数 → MQL数 → リード数という流れで、上位指標から下位指標へと分解していくのが基本的な設計方法です。
この設計において重要なのは、マーケティング部門と営業部門でMQLの定義を合意することです。MQL→SQL転換率を共通指標として持つことで、部門間の連携が改善されます。
マーケティング責任者が設定すべき主要KPI指標
マーケティング責任者は、経営層への報告を見据えてKPIを設定する必要があります。リード数だけでなく、事業貢献を示す指標をセットで追うことが重要です。
調査によると、BtoB広告運用で最も重視するKPIは「コンバージョン率(CVR)」が28.7%でした(BtoBマーケター330名対象、2025年調査)。また、広告経由リードの商談化率はボリュームゾーンが11〜20%で、15%前後が一つの目安とされています(ただし業種・単価により変動します)。
【比較表】マーケティング責任者向け主要KPI比較表
| KPI指標 | 定義 | 測定方法 | 経営報告での位置づけ |
|---|---|---|---|
| 新規リード数 | 新規に獲得した見込み顧客数 | MA/フォーム送信数 | マーケ活動の規模感を示す |
| MQL数 | 営業パス基準を満たしたリード数 | MAスコアリング | リードの質を示す指標 |
| MQL→SQL転換率 | MQLのうちSQLに進んだ割合 | SFA商談データ | マーケ・営業連携の効率性 |
| 商談化率 | リードから商談に至った割合 | SFA商談データ | リード品質の評価指標 |
| 受注率 | 商談から受注に至った割合 | SFA受注データ | 最終的な成果指標 |
| CPL | リード1件あたりの獲得コスト | 広告費÷リード数 | 投資効率の指標 |
| ROMI | マーケティング投資収益率 | マーケ起点売上÷マーケ費用 | 経営層が最も重視する指標 |
| パイプライン貢献額 | マーケ起点の商談金額合計 | SFAパイプライン | 事業貢献の金額換算 |
リード獲得・育成に関するKPI
リード獲得・育成フェーズでは、新規リード数、MQL数、CPLなどが主要なKPIとなります。
新規リード獲得数を優先する理由として、調査では「マーケティング施策でコントロールできるKPIだから」58.0%、「経営側からもっとも求められているKPIだから」43.5%という結果が出ています(n=69、複数回答)。
リード数はマーケティング施策で比較的コントロールしやすい指標ですが、量だけを追うと質が下がるリスクがあります。MQL数やCPLを併せて追うことで、効率性と質のバランスを取ることが重要です。
商談・受注に関するKPI
商談・受注フェーズでは、商談化率、受注率、パイプライン貢献額などが重要なKPIとなります。
広告経由リードの商談化率について、調査では15%前後が一つの目安とされています。5%未満の場合はターゲティングやLP訴求の見直しが必要と言われています(ただし業種・単価・商談期間により大きく変動するため、自社データとの比較を優先すべきです)。
SQL(Sales Qualified Lead) は営業が商談可能と判断した見込み顧客であり、MQLからSQLへの転換率は、マーケティングと営業の連携度合いを測る重要な指標です。
KPI設計のよくある失敗パターンと回避策
KPI設計でよくある失敗パターンとして、**「KPIの概念を学び目標数値を設定しただけで満足し、MA/SFAへの実装やダッシュボード開発を後回しにした結果、結局Excelでの手動集計に戻ってしまい経営判断に活用されない」**という問題があります。この失敗パターンでは成果が出ません。
新規リード数偏重の落とし穴
新規リード数だけをKPIに設定すると、質よりも量を優先する施策に偏りがちです。
調査では、新規リードKPI偏重の問題点として「新規獲得するリードの数が頭打ちになる」46.4%、「リードが多く取れる施策にコストが集中する」46.4%、「営業部門からリードの温度感の低さを指摘される」40.6%という回答が挙がっています。
この問題を回避するには、リード数と併せて商談化率や受注率を追い、質的な評価も行う必要があります。
リード受注率向上に必要な取り組みとしては、「発信するコンテンツの見直し」50.5%、「営業部門への詳細な顧客情報の提供」34.7%、「受注率の高いチャネルでの施策強化」34.2%が上位に挙げられています。
KPI設定後の実装・運用が後回しになる問題
KPIを設定しても、MA/SFAへの実装やダッシュボード開発が後回しになるケースは多いです。
その結果、月次報告のたびにExcelで手動集計する状態に戻り、リアルタイムでの進捗把握ができなくなります。経営会議で「マーケティングの成果は?」と聞かれても、数日かけてデータを集計しないと報告できないという状況に陥ります。
KPI設計は、設定して終わりではありません。MA/SFAへの実装、ダッシュボードでの可視化、定期的なレビューと改善という一連の流れを設計段階から見据えておく必要があります。
MA/SFAを活用したKPI可視化とダッシュボード設計
KPI設計から実装・可視化までを一気通貫で進めることが成功の鍵です。ある調査では、リード改善の取り組みとして「データ分析強化」が24.7%挙げられており、データ活用の重要性が認識されています(ただしサンプル数93名と限定的な調査であり、傾向の参考としてください)。
【チェックリスト】マーケティング責任者 KPI設計チェックリスト
- KGI(売上目標・受注数目標など)を経営層と合意した
- KGIから逆算してKPIツリーを設計した
- 各KPIの目標値を設定した
- MQLの定義を営業部門と合意した
- MQL→SQL転換率の目標値を設定した
- MAでリードスコアリングルールを設定した
- MAでMQL判定の自動化を設定した
- SFAにリードソース項目を追加した
- SFAでマーケ起点の商談・受注を識別できる状態にした
- ダッシュボードで主要KPIをリアルタイム表示できる状態にした
- 経営層向けレポートのフォーマットを設計した
- マーケ起点売上額・受注数を算出できる仕組みを構築した
- CPLを広告チャネル別に算出できる状態にした
- ROMIを算出するための計算式を定義した
- 週次・月次のKPIレビュー会議を設定した
- KPI未達時のアクションプランを事前に設計した
- マーケティング部門内で運用ルールを文書化した
- 営業部門とのKPI共有MTGを定期的に実施する体制を整えた
KPI設計チェックリスト
上記のチェックリストは、KPI設計から運用までの各段階で確認すべき項目をまとめたものです。特に重要なのは以下の点です。
- KGIとの紐付けが明確であること
- MQLの定義が営業部門と合意されていること
- MA/SFAにKPI計測のための設定が実装されていること
- ダッシュボードでリアルタイムに可視化できる状態になっていること
- 定期的なレビューと改善の仕組みがあること
経営層への報告を見据えたダッシュボード設計のポイント
経営層への報告では、マーケティング活動の事業貢献を示すことが重要です。ダッシュボードには以下の指標を含めることが推奨されます。
- マーケ起点売上額: マーケティング活動から発生したリードが最終的に生み出した売上
- マーケ起点受注数: マーケティング起点の商談から受注に至った件数
- パイプライン貢献額: マーケ起点で現在進行中の商談金額合計
- ROMI: マーケティング投資収益率(マーケ起点売上÷マーケティング費用)
- CAC: 顧客獲得コスト
- LTV: 顧客生涯価値
ダッシュボードは、更新頻度と運用体制も設計段階で決めておく必要があります。週次でチャネル別KPIを確認し、月次で全体のパフォーマンスをレビュー、四半期でROIを評価するというサイクルが一般的です。
まとめ:KPI設計から運用まで一気通貫で進めることが成功の鍵
マーケティング責任者のKPI設計について、本記事の要点を整理します。
- KPIはKGIから逆算して設計する(KGI→受注数→商談数→MQL数→リード数)
- 新規リード数だけでなく、商談化率・受注率・ROMIなど質的指標もセットで追う
- MQLの定義は営業部門と合意し、MQL→SQL転換率を共通指標として持つ
- KPI設定だけで満足せず、MA/SFA実装とダッシュボード開発まで一気通貫で進める
- 経営層向けレポートには、マーケ起点売上額やROMIなど事業貢献を示す指標を含める
マーケティング責任者のKPI設計は、指標を決めるだけでなく、MA/SFA実装とダッシュボード開発まで一気通貫で進め、経営層への報告に活用できる状態にすることで成果につながります。
まずは本記事のチェックリストを活用し、現状の設計・実装状況を確認することから始めてみてください。
