KPIの見える化が意思決定に活かせない企業の共通課題
先に答えを言うと、KPIの見える化は、ダッシュボードを作ることではなく、マーケ・営業が共通認識を持てるKPI体系を設計し、SFA/CRMでデータを連携することで初めて意思決定に活かせる仕組みになります。
KPI(重要業績評価指標) とは、目標達成度を測定するための定量的な指標であり、KGI達成に向けた中間目標として設定されます。多くの企業がKPIを設定しダッシュボードを構築していますが、「データは溜まっているのに意思決定に活かせない」という課題を抱えているケースが少なくありません。
カスタマーサクセス分野の2025年調査によると、顧客との関係性の数値化・見える化に38.1%の企業が注力している一方、KPI未設定企業が31.6%と3割超に上るという結果が報告されています(ただし、特定分野の調査であり業界平均として一般化する際は注意が必要です)。
この記事で分かること
- KPI見える化の基本(KGI・KPI・KPIツリーの関係性)
- マーケ・営業連携を前提としたKPI体系設計の考え方
- ダッシュボード構築と形骸化を防ぐ運用のポイント
- KPI見える化の実践ステップとチェックリスト
KPI見える化の基本:KGI・KPI・KPIツリーの関係
KPI見える化を成功させるには、まずKGI・KPI・KPIツリーの関係性を正しく理解することが前提となります。
KGI(重要目標達成指標) とは、組織やプロジェクトの最終的な目標を示す指標であり、KPIツリーの頂点に置かれます。売上高や利益率など、経営目標に直結する指標が該当します。
KPIツリーとは、KGIを頂点に、KSFやKPIを階層的に分解・視覚化した樹形図です。因果関係を明確化し、どのKPIを改善すればKGI達成につながるかを可視化します。
KSF(重要成功要因) とは、KGI達成に不可欠な要因であり、KGIとKPIの間に位置し、戦略の柱となります。
KGI→KSF→KPIの階層構造を設計することで、各部門のKPIが最終目標にどう貢献するかが明確になります。この因果関係が不明確なままKPIを設定しても、単なる数値管理に終わってしまいます。
KPIツリーの設計アプローチ:トップダウンとボトムアップ
KPIツリーを設計する際には、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチの両方を組み合わせることが効果的です。
トップダウンアプローチは、KGIから逆算してKSF、KPIへと分解していく方法です。経営目標を起点に、「この目標を達成するために何が必要か」を論理的に落とし込んでいきます。
ボトムアップアプローチは、現場の実績データや活動内容から積み上げていく方法です。実際に測定可能な指標を洗い出し、それがKGI達成にどう寄与するかを検証します。
どちらか一方だけでは不十分であり、トップダウンで設計した論理構造をボトムアップの実績データで検証し、両者を擦り合わせることで実効性のあるKPIツリーが構築できます。
マーケ・営業連携を前提としたKPI体系設計の考え方
マーケティング部門と営業部門が共通のKPI体系を持つことが、見える化を意思決定に活かすための前提条件です。
令和2年版情報通信白書(2020年3月時点)によると、大企業の9割、中小企業の半数以上が顧客データ・POSデータ・アクセスログをマーケティング領域で活用を開始しているとされています。ただし、2020年時点のデータであり、現在の状況は変動している可能性があります。
しかし、マーケと営業でKPIが異なり、データ連携ができないケースは依然として多いです。マーケティング部門がMQL(マーケティング適格リード)を追い、営業部門がSQL(営業適格リード)や商談数を追うという分断が起きると、両部門のKPIが連動せず、全体最適の意思決定ができなくなります。
【フロー図】KPI見える化の5ステップ
flowchart TD
A[Step1: KGI設定] --> B[Step2: KSF特定]
B --> C[Step3: 部門横断KPI設計]
C --> D[Step4: SFA/CRM連携設定]
D --> E[Step5: ダッシュボード構築]
E --> F[定期レビュー・改善]
F --> C
SFA/CRM連携を見据えたKPI設計のポイント
KPI設計の段階で、SFA/CRMに入力可能な形でKPIを定義することが重要です。
SSOT(Single Source of Truth) とは、データの一元管理を指す概念であり、MA/SFA/CRMのデータを統合して全部門が同じデータを参照できる状態を実現します。
SFA/CRM連携を見据えたKPI設計では、以下のポイントを意識します。
- KPIの定義を明文化し、部門間で合意する
- 測定方法(どのツールのどのデータを使うか)を明確にする
- データ入力ルールを標準化し、入力負荷を最小化する
- マーケからセールスへのリード引き渡し基準をKPIに含める
KPIダッシュボード構築と運用のポイント
ダッシュボードとは、複数のKPIや指標を一画面で可視化し、リアルタイムで進捗を把握できるツールです。しかし、ダッシュボードを作るだけでは見える化は完了しません。
「KPIダッシュボードを作れば見える化が完了する」という考え方は誤りです。 部門ごとにバラバラのKPIを設定してツールに入力すると、データは溜まるものの、部門間で指標の解釈が異なり、意思決定に活かせない状態に陥ります。これがよくある失敗パターンです。
デジタル庁のJapan Dashboardでは、公的統計データを人口・経済・社会保障など7分野約700指標で時系列チャート化し、政策進捗を可視化しています(出典不明の注記付き)。このように大規模な可視化でも、指標の選定と体系設計が前提となっています。
また、データドリブン経営のKPI目安として、BIツール利用率80%以上が目標値として挙げられることがあります(出典不明の注記付き)。ただし、利用率だけでなく、活用度(意思決定への貢献度)を測ることが重要です。
閲覧者別にダッシュボードをカスタマイズすることも効果的です。経営層には戦略的な俯瞰ビュー、現場担当者にはアクションにつながる詳細ビューを提供することで、それぞれの意思決定を支援できます。
ダッシュボードが形骸化する原因と対策
ダッシュボードを作っても活用されないケースには、共通の原因があります。
形骸化の原因
- 部門ごとにバラバラのKPIを設定し、全体像が見えない
- 指標の定義や解釈が部門間で異なる
- ダッシュボードを見ても次のアクションにつながらない
- 定期的なレビューの場がない
対策
- 部門横断でKPI体系を設計し、共通認識を持つ
- 指標の定義を明文化し、ダッシュボード上で説明を付記する
- 各KPIに対する改善アクションを紐付けておく
- 週次・月次のレビュー会議でダッシュボードを確認する習慣を作る
KPI見える化の実践ステップとチェックリスト
KPI見える化を実践するためには、KPI設計→ダッシュボード構築→運用定着の流れで段階的に進めることが重要です。
カスタマーサクセス分野の2025年調査では、顧客との関係性の数値化・見える化に38.1%の企業が注力しているとされています(特定分野の調査であり、他業種への一般化には注意が必要です)。見える化への関心が高まる一方で、実際に成果につなげている企業はまだ限定的と考えられます。
【チェックリスト】KPI見える化チェックリスト
- KGI(最終目標)が明確に設定されている
- KGIからKSF、KPIへの因果関係が整理されている
- KPIツリーが可視化されている
- マーケティング部門と営業部門でKPI体系が統一されている
- 各KPIの定義が明文化されている
- KPIの測定方法(データソース)が明確になっている
- SFA/CRMへのデータ入力ルールが標準化されている
- マーケから営業へのリード引き渡し基準が定義されている
- ダッシュボードに必要なKPIが揃っている
- 閲覧者別(経営層・現場)にビューがカスタマイズされている
- 各KPIに対する改善アクションが紐付けられている
- 週次・月次のレビュー会議が設定されている
- ダッシュボードの更新頻度が決まっている
- KPIの見直しサイクル(四半期ごとなど)が設定されている
- データ品質を担保する運用ルールがある
導入時によくある失敗と回避策
KPI見える化導入時によくある失敗パターンと回避策を整理します。
失敗パターン1: KPI設定だけで満足する
KPIを設定しただけで、共有・活用の仕組みがないと成果につながりません。ダッシュボード構築と運用定着まで計画に含めることが重要です。
失敗パターン2: 部門ごとに独自のKPIを設定する
部門最適に陥り、全体最適の意思決定ができなくなります。部門横断でKPI体系を統一し、共通言語を持つことが必要です。
失敗パターン3: ツール導入がゴールになる
BIツールやダッシュボードを導入しても、運用が定着しなければ投資対効果は得られません。導入前に運用体制とレビュープロセスを設計しておくことが重要です。
まとめ:KPI見える化を意思決定に活かすために
本記事では、KPI見える化の基本から、マーケ・営業連携を前提としたKPI体系設計、ダッシュボード構築と運用のポイント、そして実践ステップとチェックリストを解説しました。
要点を整理します。
- KGI→KSF→KPIの階層構造でKPIツリーを設計する
- マーケティングと営業で共通のKPI体系を持つ
- SFA/CRM連携を見据えてKPIを定義する
- ダッシュボードを作るだけでなく、運用定着まで計画する
- 定期レビューで見直しサイクルを回す
まずは本記事のチェックリストで自社の現状を確認し、未対応の項目から優先的に取り組んでみてください。
繰り返しになりますが、KPIの見える化は、ダッシュボードを作ることではなく、マーケ・営業が共通認識を持てるKPI体系を設計し、SFA/CRMでデータを連携することで初めて意思決定に活かせる仕組みになります。部門横断でのKPI設計から始めることをおすすめします。
