上場審査で問われる営業組織の「見える化」
上場準備において営業組織は、属人的な売上依存から脱却し、プロセス・数値・体制を可視化することで審査に耐えうる再現性のある組織へ変革することが求められます。これが本記事の結論です。
2025年上半期の東証IPOは28社で、前年比26%減となりました。グロース基準の厳格化により、営業キャッシュフローが安定している企業が優位に立つ傾向が見られます(OBC分析)。このような審査環境の変化を踏まえると、営業組織の「見える化」は上場準備において避けて通れないテーマです。
「営業が属人化していて、審査で何を問われるかわからない」「予実管理との連動ができていない」といった課題を抱える企業は少なくありません。本記事では、IPO審査で営業組織に求められる要件と、整備の優先順位・具体的なアクションを解説します。
この記事で分かること
- IPO審査で営業組織に求められる要件(実質基準の内容)
- 上場準備フェーズ別の営業組織整備項目とスケジュール
- 属人的営業から組織営業への移行方法
- 営業組織整備の具体的なアクションとチェックリスト
IPO審査で営業組織に求められる要件
上場審査では、売上高の規模よりも組織体制の整備状況が重視されます。EY Japanの調査によると、2025年1〜9月の新規上場企業36社中、直前期売上高50億円未満が55.5%(20社)を占めています。中小規模の企業でも上場は十分に可能ですが、そのためには営業組織の体制整備が不可欠です。
実質基準とは、JPX上場審査において、事業継続性・収益性・組織体制など定性的に審査される基準を指します。営業組織においては、売上の再現性、プロセスの標準化、データ管理体制が重要な評価ポイントとなります。
J-SOXは、金融商品取引法に基づく内部統制報告制度であり、上場企業に内部統制の整備・評価・報告を義務付けています。営業プロセスもこの内部統制の対象となるため、早期からの準備が求められます。
形式基準と実質基準の違い
上場審査には形式基準と実質基準があります。形式基準は株主数や流通株式比率など数値で判断される基準ですが、営業組織においてより重視されるのは実質基準です。
「形式基準(人数など)を整えれば審査を通過できる」という考え方は誤りです。審査では、事業の安定性・継続性が実質的に評価されるため、営業組織においても再現性のある体制構築が求められます。
上場準備フェーズ別の営業組織整備項目
営業組織整備は、上場申請前から計画的に進める必要があります。一般的には、上場申請の12〜18ヶ月前から本格化し、6ヶ月前には完成しているのがベストプラクティスとされています。
TOKYO PRO Marketは、東京証券取引所が運営するプロ投資家向け市場であり、上場基準が柔軟で成長企業向けの市場です。2025年には46社が新規上場し、そのうちサービス業が11社(24%)で最多となっています(日本M&Aセンター集計)。ステップアップ上場の選択肢としてTOKYO PRO Marketを活用する企業も増えています。
【比較表】上場準備フェーズ別 営業組織整備項目一覧
| フェーズ | 時期目安 | 営業組織の整備項目 | 重点ポイント |
|---|---|---|---|
| N-3期 | 上場3年前 | 営業プロセスの現状把握 | 属人化の洗い出し |
| N-3期 | 上場3年前 | CRM/SFA導入検討開始 | ツール選定・要件定義 |
| N-2期 | 上場2年前 | 営業データの記録・蓄積開始 | データ管理体制構築 |
| N-2期 | 上場2年前 | 営業プロセスの標準化着手 | マニュアル・フロー整備 |
| N-1期 | 上場1年前 | 予実管理との連動開始 | KPI設計・モニタリング |
| N-1期 | 上場1年前 | 営業管掌取締役の配置 | ガバナンス体制構築 |
| N期 | 上場期 | 内部統制対応完了 | 業務記述書・フロー整備 |
| N期 | 上場期 | 審査対応の説明資料準備 | エビデンス整理 |
N-2期からN期までの整備スケジュール
N-2期(直前々期)では、営業データの記録・蓄積を本格化させます。この時期にCRM/SFAを導入し、営業活動のデータ化を進めることが重要です。BtoB企業では、営業DX(CRM導入)を上場2年前から開始する傾向が見られます。
N-1期(直前期)では、予実管理との連動を強化し、営業KPIのモニタリング体制を構築します。取締役会設置会社への移行時には、事業部(営業)管掌取締役を配置することが標準的です。
N期(上場期)では、内部統制対応を完了させ、審査対応の説明資料を準備します。この時期に慌てて整備を始めると間に合わないため、早期からの計画的な準備が不可欠です。
属人的営業から組織営業への移行方法
「営業は数字さえ達成していれば問題ない」という考え方は、上場準備において典型的な失敗パターンです。プロセスの標準化やデータ管理を後回しにした結果、審査で指摘を受けるケースは少なくありません。
属人的な営業体制から組織営業への移行には、SFA/CRMの活用が有効です。営業プロセスを可視化し、誰が担当しても一定の品質で営業活動ができる体制を構築することが、審査で求められる「再現性」につながります。
多くの企業では、データを取得しても効果測定・改善サイクルを回せていないという課題を抱えています。ツール導入だけでなく、データを活用した営業改善の仕組みづくりまで含めて設計することが重要です。
予実管理と営業KPIの連動
予実管理と営業KPIを連動させることで、審査での説明力が大きく向上します。売上予算に対して、営業活動のどの指標がどの程度寄与しているかを説明できる体制を構築しましょう。
具体的には、リード数・商談数・受注率・顧客単価などの営業KPIを設定し、予算達成に向けた進捗をモニタリングする仕組みが求められます。営業データを経営判断に活かせる状態を作ることで、審査における事業継続性の説明がしやすくなります。
営業組織整備の具体的なアクション
営業組織整備を進めるにあたり、まずは現状の把握と課題の整理から始めることを推奨します。以下のチェックリストを活用して、自社の整備状況を確認してみてください。
内部統制3点セットとは、業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクスの3文書であり、J-SOX対応に必須の文書です。営業プロセスにおいても、これらの文書を整備する必要があります。
【チェックリスト】上場準備 営業組織整備チェックリスト
- 営業プロセスの全体像が文書化されている
- CRM/SFAが導入され、営業活動が記録されている
- 営業担当者ごとの活動データが可視化されている
- 商談のステージ管理ルールが定義されている
- 受注確度の判定基準が統一されている
- 売上予実管理が月次で行われている
- 営業KPI(リード数・商談数・受注率等)が設定されている
- 予算と営業KPIの連動が説明できる状態になっている
- 営業管掌の取締役・執行役員が配置されている
- 営業部門の組織図・職務分掌が明確になっている
- 営業プロセスの業務記述書が作成されている
- 営業プロセスのフローチャートが作成されている
- 営業に関するリスクコントロールマトリクスが整備されている
- 顧客データの管理ルール(個人情報保護含む)が定められている
- 営業報告のルール・頻度が定められている
- 主要顧客との取引条件が適切に管理されている
- 与信管理のルールが整備されている
- 営業活動の承認フロー(値引き・特別条件等)が明確になっている
- 退職時の引き継ぎルールが定められている
- 営業人材の採用・育成計画が策定されている
営業データの整備と管理体制構築
営業プロセスの記録・可視化は、内部統制対応の観点からも重要です。審査では、営業活動がどのように管理され、リスクがどのようにコントロールされているかが問われます。
データ整備においては、まず記録すべきデータ項目を定義し、入力ルールを統一することから始めます。その上で、データの正確性を担保するためのチェック体制を構築し、定期的なデータクレンジングを実施する仕組みを作りましょう。
まとめ|上場審査に耐えうる営業組織の構築
本記事では、上場準備における営業組織整備のポイントを解説しました。2025年上半期の東証IPOはグロース基準の厳格化により前年比26%減となっており、審査環境は厳しさを増しています。
上場準備において営業組織は、属人的な売上依存から脱却し、プロセス・数値・体制を可視化することで審査に耐えうる再現性のある組織へ変革することが求められます。「数字さえ達成していれば問題ない」という考え方では、審査で指摘を受けるリスクが高まります。
まずは本記事で紹介したチェックリストを活用して、自社の営業組織整備状況を確認してみてください。整備が不十分な項目があれば、上場スケジュールから逆算して計画的に対応を進めることが重要です。営業組織の「見える化」を早期から進め、審査に耐えうる体制を構築しましょう。
