なぜ部門間連携はうまくいかないのか
部門間連携の課題を構造的に理解し、KPI設計・データ連携を含めた具体的な改善策を実行するために必要なのは、コミュニケーション機会を増やすだけでなく、KPI設計とデータ連携を含むプロセスの仕組み化です。
部門間連携とは、複数部門が共通目的に向けて情報・業務・リソースを継続的かつ相互補完的に結び付ける仕組みと行動を指します。多くの企業で「マーケと営業の連携がうまくいかない」「リード情報が部門間で分断されている」という課題を抱えていますが、その根本原因はコミュニケーション不足だけではありません。
BtoB中小企業の39.0%が「新規開拓のKPIがない」と回答しており、特に紹介に依存する企業では59.0%がKPI未設定という調査結果があります(2025年、メールマーケティングラボ調査。BtoB中小企業が対象)。この数字は、そもそも部門間で共有すべきKPIが設定されていない企業が多いことを示しています。
この記事で分かること
- 部門間連携がうまくいかない構造的な原因
- コミュニケーション施策だけでは解決しない理由
- 部門間連携の課題タイプと解決策の対応表
- マーケティング・営業間のKPI連携チェックリスト
- MA活用による部門間連携改善の成功事例
なお、この記事では主に従業員50〜300名程度のBtoB企業を想定しています。企業規模や業種によって最適な方法は異なりますので、自社の状況に合わせてご活用ください。
部門間連携の基礎知識と主要な障壁
部門間連携を阻む主要な障壁は、KPIの分断、データのサイロ化、そしてプロセス設計の欠如です。サイロ化とは、部門間でデータや情報が分断され、組織全体として一貫した価値提供ができない状態を指します。
BtoBマーケティングオートメーション(MA)の国内導入率は全企業平均で1.5%という調査結果があります(Nexal調査引用。ただし業種・規模別の詳細は不明)。この数字が示すように、データ連携の基盤となるツール自体がまだ普及途上であり、多くの企業が部門間のデータ分断を抱えたまま業務を行っています。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング活動で獲得し一定条件を満たした見込み顧客のことで、営業へパスする前段階のリードを指します。SQL(Sales Qualified Lead) とは、営業が商談見込みありと認定したリードを指し、MQLからの転換率が重要指標となります。
マーケティングと営業のKPIが分断する構造
マーケティング部門と営業部門でKPIが異なることが、連携の大きな障壁になっています。
マーケティング部門は「リード数」「MQL数」「メール開封率」などをKPIとして追いかける一方、営業部門は「受注金額」「受注件数」「商談化率」をKPIとしていることが多いです。この状態では、マーケがいくらリードを獲得しても、営業がそのリードを活用しなければ「リードの質が低い」「営業がフォローしない」という相互不信が生まれます。
解決のためには、MQL→SQL転換率や商談化率といった、マーケと営業が共に追いかけられる共通指標の設定が必要です。
部門間連携の主な課題と解決策
部門間連携の課題は、コミュニケーションの問題ではなく、プロセス・KPI・データの問題であることが多いです。課題のタイプ別に整理し、それぞれの解決策を示します。
【比較表】部門間連携の課題と解決策の対応表
| 課題タイプ | 典型的な症状 | 根本原因 | 解決策 |
|---|---|---|---|
| KPI分断 | マーケはリード数、営業は受注金額を追いかけ、相互不信が生じる | 部門ごとに異なるKPIを設定 | MQL→SQL転換率など共通指標を設定 |
| データ分断 | リード情報がマーケで止まり、営業に渡らない | MA/SFAが連携していない | 会社ID・リードソースなど共通項目を定義しデータ連携 |
| プロセス不在 | 「誰がいつ何をするか」が曖昧 | リード引き渡しルールがない | MQL定義・引き渡しタイミング・フォロー期限を明文化 |
| 責任不明確 | 「それは営業の仕事」「それはマーケの仕事」と押し付け合い | 役割分担が曖昧 | 「どの時点から誰のKPIか」を明確に定義 |
| ツール依存 | ツールを入れれば解決すると期待 | 運用設計なしでツール導入 | 運用ルール・体制整備をツール導入前に設計 |
BtoBマーケター330名を対象とした調査では、広告経由リードの商談化率の最多ボリュームゾーンは11〜20%(31.3%)であり、目標値として15%前後が妥当とされています(ferret One調査。ただし広告経由リードに限った数値)。このような数値を部門間で共有し、共通の目標として設定することが重要です。
コミュニケーション施策だけでは解決しない理由
よくある失敗パターンとして、「部門間の飲み会を増やす」「チャットツールを導入する」といったコミュニケーション施策だけで部門間連携が改善すると考えてしまうケースがあります。このアプローチでは、KPIの不整合やデータ分断という根本原因に対処できないため、成果につながりません。
「コミュニケーションを増やせば連携が改善する」という考え方は誤りです。実際には、KPI・データ・プロセスの設計が先であり、コミュニケーションはそれを補完するものです。まずは「何を共有すべきか」「どの数字を共通で追いかけるか」を明確にしたうえで、コミュニケーションの質を高めることが重要です。
部門間連携の改善事例とMA活用の効果
部門間連携を改善した企業では、商談数の大幅増加や問い合わせからのアポイント獲得率向上といった成果が報告されています。以下に具体的な事例を紹介します。
あるBtoB企業では、MA導入と教育コンテンツメールへの切り替えにより、4か月で商談数が300%(3倍)に増加したという事例があります(個社事例であり、同様の効果を保証するものではありません)。
また、別のBtoBマーケ成功事例では、インサイドセールスの立ち上げとMA導入により、Webからの反響が10倍、問い合わせからアポイント獲得率は40%前後を達成しています(複数の成功事例を集めたものであり、個社の再現性は保証されません)。
MA導入企業の成功事例では、商談数2〜3倍がよく紹介されるレンジです。ただし、これらは成功例であり、全ての導入企業で同じ成果が出るわけではありません。
MA導入とインサイドセールス連携による成果
これらの成功事例に共通するのは、単にMAツールを導入しただけでなく、インサイドセールスとの連携設計を含めて取り組んでいる点です。
具体的には、以下のような取り組みが成功要因として挙げられます。
- MAでリードをスコアリングし、一定スコア以上のリードをインサイドセールスに引き渡すルールを設計
- インサイドセールスが商談化可能と判断したリード(SQL)を営業に引き渡すプロセスを明文化
- マーケ・インサイドセールス・営業が同じダッシュボードでKPIを確認できる環境を構築
ツール導入だけでは部門間連携は改善しません。運用設計と組織体制の整備が不可欠です。
KPI連携とデータ統合で部門間連携を仕組み化する
部門間連携を属人的な努力に頼らず仕組みとして機能させるためには、KPIの共通化とデータ連携の設計が必要です。
LTV/CAC比とは、顧客生涯価値(LTV)を顧客獲得コスト(CAC)で割った比率で、マーケティングと営業の施策効率を測る共通指標として使われます。
広告経由リードの商談化率は11〜20%が最多ボリュームゾーンであり、目標値として15%前後が参考になります(ただし広告経由リードに限った数値であり、他チャネルには適用できない場合があります)。
【チェックリスト】マーケティング・営業部門間のKPI連携チェックリスト
- マーケと営業で共通の目標数値(売上貢献額など)を設定している
- MQL(Marketing Qualified Lead)の定義が明文化されている
- SQL(Sales Qualified Lead)の定義が明文化されている
- MQL→SQL転換率を共通KPIとして追いかけている
- 商談化率の目標値を設定している
- LTV/CAC比などの効率指標を部門横断で共有している
- 「どの時点から誰のKPIか」が明確に定義されている
- リードの引き渡しタイミングとルールが明文化されている
- 営業からマーケへのフィードバックプロセスがある
- 定期的にKPI達成状況を部門横断で確認する場がある
- KPIが達成できない場合の原因分析プロセスがある
- マーケ起点の売上・粗利を測定できる仕組みがある
- リードソース別の商談化率・受注率を測定している
- 部門横断のダッシュボードでKPIを可視化している
- KPI定義の見直しを定期的に行う仕組みがある
MQL→SQL転換率の共通指標化
マーケと営業が共有すべき最も重要なKPIの一つが、MQL→SQL転換率です。この指標は「マーケが創出したリードのうち、何%が営業で商談見込みありと認定されたか」を示します。
設計のポイントは「どの時点から誰のKPIか」を明確に切ることです。例えば、以下のような設計が考えられます。
- マーケのKPI: リード数、MQL数、MQL率(リードに対するMQL比率)
- インサイドセールスのKPI: MQL→SQL転換率、SQL数
- 営業のKPI: SQL→商談化率、受注率、受注金額
- 共通KPI: マーケ起点売上、LTV/CAC比
このように責任範囲を明確にすることで、「リードの質が低い」「営業がフォローしない」といった相互の責任転嫁を防ぐことができます。
データ連携の最低限必要な項目
部門間でデータを繋ぐためには、以下の共通項目を最低限統一する必要があります。
- 会社ID/会社名: 名寄せ用のIDを必ず定義し、同一企業を複数部門で認識できるようにする
- 担当者ID/氏名・メール・役職: 誰にアプローチしているかを共有
- リードソース: 広告、展示会、セミナー、紹介など、どこから獲得したリードかを記録
- 行動履歴: 資料DL、セミナー参加、Web閲覧カテゴリなどの行動を記録
- 商談ID、フェーズ、金額、受注/失注理由: 営業進捗を共有
これらの項目を同じマスタ・同じ命名で管理し、MA→SFA→CSに同一IDで流すことが、KPIをつなぐ最低条件です。
まとめ:プロセスの仕組み化が部門間連携成功の鍵
本記事では、部門間連携の課題と解決策について、KPI設計とデータ連携の観点から解説しました。
ポイントの振り返り:
- 部門間連携の課題は、コミュニケーション不足ではなく、KPIの分断・データのサイロ化・プロセス設計の欠如が根本原因
- 「飲み会を増やす」「チャットツールを導入する」といったコミュニケーション施策だけでは根本解決にならない
- MQL→SQL転換率など、マーケと営業が共通で追いかける指標の設定が重要
- 会社ID・リードソース・行動履歴など、最低限の共通データ項目を統一する
- ツール導入だけでは解決せず、運用設計と組織体制の整備が不可欠
まずは本記事で紹介したKPI連携チェックリストを使って、自社の現状を確認することをおすすめします。チェックが付かない項目があれば、それが改善すべき優先課題を示しています。
改めて結論を述べます。部門間連携の課題を解決するには、コミュニケーション機会を増やすだけでなく、KPI設計とデータ連携を含むプロセスの仕組み化が必要です。「コミュニケーションを増やせば連携が改善する」という考え方から脱却し、プロセスの設計と仕組み化に取り組むことが、部門間連携成功の鍵です。
