CRM移行が「データを移しただけ」で終わる企業が多い理由
CRM移行で成功するには、データ移行手順だけでなく、MA/SFA連携設計と移行後の定着施策を同時に計画することで、移行後に「使われない」状態を防ぎ、営業・マーケ活動に活かせる状態を実現できます。
国内CRMアプリケーション市場は急成長を続けています。2021年度の市場規模は1,812億1,800万円(前年比13%増)で、2021〜2026年の年間平均成長率は10.0%、2026年には2,917億9,000万円に達すると予測されています(IDC Japan調査)。さらに2023〜2028年の年間平均成長率は8.0%で、2028年には3,950億円超の規模になると見込まれています。
このような市場拡大の中、多くの企業がCRM移行に取り組んでいますが、「データを移しただけ」で終わってしまうケースが少なくありません。現行CRMが活用できていない、Excel管理から脱却したいという課題を抱える企業にとって、移行は業務改善のチャンスですが、適切な計画なしに進めると新しいCRMも形骸化するリスクがあります。
CRM(Customer Relationship Management) とは、顧客情報を一元管理し、営業・マーケティング・カスタマーサポートの顧客対応を最適化するシステムです。
この記事で分かること
- CRM移行プロジェクトの全体像と各フェーズで押さえるべきポイント
- データ移行時の失敗を防ぐ具体的な対策
- MA/SFA連携を見据えた移行設計の方法
- 移行後の定着を成功させるためのチェックリストと工程表
CRM移行の全体像と押さえるべき基本用語
CRM移行を成功させるには、移行プロセスの全体像を理解し、各フェーズで必要な作業を把握することが重要です。
データクレンジングとは、CRM移行時に重複データや不正確なデータを除去・修正し、データ品質を向上させる作業です。移行プロジェクトにおいて、この工程に多くの工数がかかることが一般的です。
フィールドマッピングとは、旧CRMと新CRMのデータ項目を対応付け、移行時のデータ損失や不整合を防ぐ設計作業です。項目名が異なっていたり、データ形式が違っていたりする場合に、どの項目をどこに移行するかを事前に設計します。
CX変革サービスとは、顧客体験を向上させるためのデータ移行・システム統合・コンサルティングサービスの総称です。CRM移行もこの一部として位置づけられることがあります。
CRM移行を検討すべきタイミング
CRM移行を検討すべきタイミングとして、以下のようなケースがあります。
- 現行CRMが活用されておらず、データ入力が形骸化している
- Excel管理が限界に達し、チーム間での情報共有に課題がある
- 事業拡大に伴い、現行システムでは機能が不足している
- MA/SFAとの連携が必要になったが、現行CRMでは対応できない
これらの課題を抱えている場合、単なるツール乗り換えではなく、業務プロセス全体の見直しを含めた移行を検討することをおすすめします。
CRM移行プロジェクトの手順と工程設計
CRM移行プロジェクトは、計画フェーズから定着フェーズまで複数の工程で構成されます。中堅企業のCRM移行期間は一般的に数ヶ月程度とされていますが、データ量や連携設計の複雑さにより変動します。
【比較表】CRM移行プロジェクト工程表
| フェーズ | 主な作業内容 | 担当者 | 成果物 |
|---|---|---|---|
| 計画 | 要件定義・スケジュール策定・ツール選定 | プロジェクトリーダー・情シス | 要件定義書・移行計画書 |
| データ棚卸 | 現行データの把握・移行対象の選定 | 各部門担当・情シス | データ一覧・移行対象リスト |
| クレンジング | 重複除去・不正データ修正・名寄せ | データ管理担当 | クレンジング済みデータ |
| マッピング設計 | 旧→新CRMの項目対応付け | 情シス・ベンダー | マッピング定義書 |
| テスト移行 | 一部データでの移行テスト・検証 | 情シス・各部門 | テスト結果報告書 |
| 本番移行 | 全データの移行実行 | 情シス・ベンダー | 移行完了報告書 |
| 運用定着 | 入力ルール整備・教育・モニタリング | 各部門リーダー | 運用マニュアル |
データ移行時の失敗を防ぐポイント
データ移行時に発生しやすい問題として、重複データの発生やマッピング不備があります。CRM移行をデータ移行だけの作業と捉え、移行後の運用設計やMA/SFA連携を後回しにした結果、新しいCRMも活用されずに形骸化するパターンは誤りです。
重複を防ぐためには、ユニークIDの統一が有効です。メールアドレスを基準にした名寄せや、会社コードによる紐付けを行うことで、移行時の重複発生を抑制できます。
また、フィールドマッピングでは、以下の点に注意が必要です。
- 旧CRMにあって新CRMにない項目の扱いを決める
- データ形式(日付形式、電話番号形式など)の変換ルールを定める
- 必須項目と任意項目の整理を行う
テスト移行を複数回繰り返し、問題を洗い出してから本番移行に進むことが成功の鍵となります。
MA/SFA連携を見据えた移行設計の重要性
CRM移行を単なるデータ移行として捉えるのではなく、MA/SFA連携を含めた設計を行うことで、移行後の活用度が大きく変わります。
リードスコアリングとは、見込み顧客の行動履歴や属性に基づき商談化可能性を数値化し、営業優先度を決定する仕組みです。CRM移行時にこの仕組みを設計しておくことで、移行後すぐに営業・マーケ連携が機能します。
あるBtoB SaaS企業の事例では、CRM移行時にWeb行動スコアリングを導入し、スコア70以上のリードのみインサイドセールスへ引き渡す運用を設計しました。その結果、架電効率が向上したと報告されています(ただし、これは特定ツール・業種の事例であり、企業PRベースで成功バイアスがある点に注意が必要です)。
移行後に「使われない」を防ぐ連携設計
移行後に新しいCRMが活用されない原因として、営業・マーケ間の連携が設計されていないケースがあります。以下のポイントを移行前に整理しておくことが重要です。
- リードの定義(どの状態のリードを営業に引き渡すか)
- 引き渡しのタイミングとルール
- データ入力のルールと責任範囲
- 営業からマーケへのフィードバック方法
日本のBtoBマーケティングは欧米と比較して遅れているという指摘もあり、CRM活用による営業・マーケ連携強化は多くの企業にとって重要な課題となっています。
CRM移行前の準備と定着施策
移行を成功させるためには、移行前の準備が重要です。以下のチェックリストを活用して、準備状況を確認してください。
【チェックリスト】CRM移行前準備チェックリスト
- 移行の目的・ゴールが明確に定義されている
- プロジェクトリーダーと推進体制がアサインされている
- 移行スケジュールと各フェーズのマイルストーンが設定されている
- 現行CRMの全データの棚卸が完了している
- 移行対象データと移行しないデータの選別が完了している
- データクレンジングの計画と担当者がアサインされている
- 重複除去のルール(ユニークID基準)が決定している
- 旧→新CRMのフィールドマッピングが設計されている
- 新CRMでのMA/SFA連携方針が決定している
- リードスコアリングの設計方針が決定している
- リード引き渡しルールがマーケ・営業間で合意されている
- データ入力ルールが策定されている
- 入力項目の必須/任意の整理が完了している
- ユーザー権限設計が完了している
- テスト移行の計画が策定されている
- 本番移行時のダウンタイム対応計画がある
- 移行後の教育・トレーニング計画がある
- 運用マニュアルの作成計画がある
- 移行後のモニタリング・改善サイクルが計画されている
- 移行失敗時のロールバック計画がある
移行後の定着を成功させるポイント
高機能CRMを選んでも、運用体制・入力ルールの整備が不十分だと定着しません。移行後の定着を成功させるために、以下のポイントを押さえてください。
- 入力ルールの明確化と周知徹底
- 定期的なデータ品質チェック
- 利用状況のモニタリングと改善
- 成功事例の社内共有
また、移行後すぐにROI向上を期待しがちですが、初期投資の回収には一定期間かかるのが一般的です。中長期的な視点で成果を測定する計画を立てることが重要です。
まとめ|CRM移行を「営業・マーケ業務の再設計」として成功させる
本記事では、CRM移行を成功させるための手順と注意点を解説しました。
CRM移行プロジェクトで重要なポイントは以下の通りです。
- データクレンジングとフィールドマッピングを事前に計画する
- 移行前にMA/SFA連携設計を行い、リード引き渡しルールを整備する
- 運用ルールと教育計画を移行前に策定する
- テスト移行を繰り返し、問題を洗い出してから本番移行する
国内CRM市場は引き続き成長が予測されており、多くの企業がCRM移行に取り組んでいます。しかし、データを移すだけでは新しいCRMも活用されずに終わってしまいます。
CRM移行を成功させるには、データ移行手順だけでなく、MA/SFA連携設計と移行後の定着施策を同時に計画することで、移行後に「使われない」状態を防ぎ、営業・マーケ活動に活かせる状態を実現できます。CRM移行を単なるツール入れ替えではなく、「営業・マーケ業務の再設計プロジェクト」として捉え、計画的に進めることが成功の鍵です。
