ABMを始める前に知っておくべきこと
多くの方が悩むABMの始め方。結論は、ABMは戦略設計だけでなく、MA/SFA設定とデータ整備、部門間連携の実装まで見据えた計画で成果を出せるということです。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、企業・組織単位でターゲットを選定し、個別にカスタマイズされたマーケティング施策を展開する手法です。個人単位のリード獲得を目指すデマンドジェネレーションとは異なります。
ABM導入を検討中のマーケティング責任者・営業責任者の多くが、「ABMという言葉は聞いたことがあるが、何から始めればよいかわからない」「MA/SFA導入済みだが、ABMに活用できるか不明」という課題を抱えています。本記事では、ABMの基本情報から実装準備まで、導入後に活用不全に陥らないための手順を解説します。
この記事で分かること
- ABMとデマンドジェネレーションの違いと基本概念
- ABMの5ステップ(ターゲット企業選定から効果測定まで)
- ABM導入の成功事例と具体的な成果
- 活用不全を防ぐためのMA/SFA設定とデータ整備のチェックリスト
- ターゲット企業選定基準シート(コピペで即実行可能)
ABMとは何か?従来マーケティングとの違い
ABMとデマンドジェネレーションは、対象単位と施策の展開方法が大きく異なるマーケティング手法です。ABMは企業・組織単位でアプローチするのに対し、デマンドジェネレーションは個人単位でリード獲得を目指します。
ABMの定義
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、企業・組織単位でターゲットを選定し、個別にカスタマイズされたマーケティング施策を展開する手法です。個人単位のリード獲得を目指すデマンドジェネレーションとは異なります。
ABMでは、ターゲット企業を事前に選定し、その企業の課題や意思決定プロセスに合わせて、カスタマイズされたコンテンツやアプローチを展開します。例えば、製造業A社をターゲットとする場合、A社の業界特有の課題に焦点を当てたホワイトペーパーや事例を提供し、A社の意思決定者(経営層・部長など)に個別にアプローチします。
デマンドジェネレーションとの違い
デマンドジェネレーションとは、個人単位でリードを獲得し、育成・選別を通じて商談化を目指すマーケティング手法です。ABMとは対象単位(個人 vs 企業)が異なります。
デマンドジェネレーションでは、不特定多数の個人に対して情報を発信し、関心を示した個人をリードとして獲得します。その後、リードスコアリングやナーチャリングを通じて、購買意欲の高いリードを選別し、営業に引き渡します。
一方、ABMでは、最初からターゲット企業を選定し、その企業に対して集中的にリソースを投下します。どちらが優れているかではなく、目的・状況に応じた使い分けが重要です。例えば、高単価商材で少数の大企業をターゲットとする場合はABMが適しており、幅広い中小企業をターゲットとする場合はデマンドジェネレーションが適しているケースが多いです。
ABMの始め方:実践ステップ
ABMは、①ターゲット企業選定、②優先順位付け、③カスタマージャーニー設計、④実行、⑤効果測定の5ステップで進めることが推奨されています。特に①②を慎重に実施することが成功の鍵となります。
ステップ1:ターゲット企業選定
ターゲット企業選定では、見込み取引額、市場への影響力、中長期的な関係構築可能性の3基準で評価します。
見込み取引額は、その企業から得られる売上の見込みを評価する基準です。例えば、従業員1,000名以上の企業であれば、自社製品の導入規模が大きくなり、見込み取引額が高くなる傾向があります。
市場への影響力は、その企業が業界内で持つ影響力を評価する基準です。業界のリーディングカンパニーを顧客とすることで、他社への導入実績としてアピールでき、新規顧客獲得につながる可能性があります。
中長期的な関係構築可能性は、一度の取引で終わるのではなく、継続的な取引や追加提案の機会がある企業を評価する基準です。例えば、自社製品の導入後に追加モジュールの販売や、定期的な保守契約が見込める企業は、中長期的な関係構築が可能です。
よくある誤解として、「ターゲット企業を多く選べば成果が上がる」というものがありますが、実際には優先順位付けで絞り込み、リソースを集中させる方が効果的です。
ステップ2:優先順位付け
選定したターゲット企業に優先順位をつけることで、限られたリソースを効果的に配分できます。
ステップ1で選定した企業を、3基準(見込み取引額、市場影響力、中長期関係構築可能性)でスコアリングし、総合点が高い企業から順に優先順位をつけます。例えば、各基準を5点満点で評価し、合計15点満点で10点以上の企業を最優先ターゲットとする、といった方法が考えられます。
リソース集中による効果最大化の考え方として、全てのターゲット企業に均等にアプローチするのではなく、優先順位の高い企業に対してカスタマイズされた施策を集中的に展開することが重要です。
ステップ3:カスタマージャーニー設計
カスタマージャーニーとは、顧客が製品・サービスを認知してから購買に至るまでのプロセスを可視化したものです。ABMでは企業単位でジャーニーを設計します。
企業単位でのジャーニー設計では、意思決定プロセス、関与者、接点を明確にします。例えば、製造業A社の場合、意思決定プロセスは「課題認識→情報収集→比較検討→稟議→決裁」という流れで、関与者は経営層・情報システム部長・現場責任者など複数名が想定されます。
各ステージで提供するコンテンツとチャネルを設計します。認知ステージではホワイトペーパーやウェビナー、比較検討ステージでは導入事例や比較資料、稟議・決裁ステージでは見積書や導入支援資料といった形で、ステージごとに最適なコンテンツを用意します。
ABM導入の成功事例
ABM導入による具体的な成果を事例で示します。ただし、これらは成功企業の数値であり、全体平均ではない点に注意が必要です。
ABM導入企業の23%が投資対効果(ROI)1.5倍〜3倍を達成しているという調査結果があります(Forrester 2024年調査)。この数値は、ABM導入に成功した企業の数値であり、全ての導入企業の平均ではありません。
国内SaaS企業B社では、ABM導入3ヶ月で、ターゲット企業50社中40%が商談化したという事例があります(2024年事例)。この事例は短期成果であり、長期的効果については未検証です。ただし、3ヶ月という短期間で成果が出ている点は、ABMの即効性を示す事例として参考になります。
株式会社セラクは、ABM実施5年間で投資対効果(ROI)180%以上を達成しました。この数値は5年間累積のため、初年度効果とは異なりますが、中長期的にABMを継続することで大きな成果が得られることを示しています。
ABMターゲティングでコンバージョン率(CVR)2.2%、リード獲得単価約4万円を達成した事例もあります(IT Communications調査)。この調査は自社サービス紹介を含むためバイアス可能性がありますが、ABMによるターゲティング精度の向上がコスト効率改善につながることを示唆しています。
ABM導入準備:活用不全を防ぐための実装チェックリスト
ABM導入後に活用不全に陥らないための準備項目を提示します。よくある失敗パターンは、「ABMの戦略を立てれば自動的に成果が出る」と考えて実装を怠ると形骸化してしまうことです。
ABM導入後に活用不全になる主な原因は、MA/SFA設定不足、部門間連携の形骸化、データ整備不足です。戦略設計だけでなく、実装段階まで見据えた計画が必要です。
【チェックリスト】ABM導入準備チェックリスト
- ターゲット企業リストの作成(見込み取引額・市場影響力・中長期関係構築可能性で評価)
- ターゲット企業の優先順位付け完了
- 各ターゲット企業のカスタマージャーニーマップ作成
- MAツールの設定完了(企業単位のリードトラッキング設定)
- SFAツールの設定完了(ターゲット企業の商談管理設定)
- MA・SFA間のデータ連携設定完了
- 企業データベースの整備(企業規模・業種・意思決定者情報の登録)
- 既存リードデータのクレンジング(企業単位での名寄せ)
- 営業・マーケティング部門の連携ルール策定
- ターゲット企業ごとの担当者アサイン
- 部門間での定期レビュー会の設定
- コンテンツの棚卸し(各カスタマージャーニーステージで必要なコンテンツの確認)
- 不足コンテンツの作成計画策定
- パイロット期間(3ヶ月)の計画策定
- 効果測定KPIの設定(商談化率・受注率・ROI等)
【管理シート】ターゲット企業選定基準シート
企業名,見込み取引額(点),市場影響力(点),中長期関係構築可能性(点),総合点,優先順位,担当者,備考
製造業A社,5,4,5,14,1,山田,業界リーディングカンパニー
IT企業B社,4,3,4,11,2,佐藤,既存顧客の関連会社
小売業C社,3,3,3,9,3,鈴木,中長期的な追加提案機会あり
計算列の定義:
- 総合点 = 見込み取引額(点)+ 市場影響力(点)+ 中長期関係構築可能性(点)
- 優先順位 = 総合点の降順で自動採番
各基準の評価方法:
- 見込み取引額(点): 1-5点で評価(1=〜100万円、2=100-300万円、3=300-500万円、4=500-1000万円、5=1000万円〜)
- 市場影響力(点): 1-5点で評価(1=影響力低、3=中程度、5=業界リーディングカンパニー)
- 中長期関係構築可能性(点): 1-5点で評価(1=単発取引、3=継続取引可能性あり、5=追加提案機会多数)
MA/SFA設定の準備
MAツールとは、マーケティングオートメーションツールです。リード獲得・育成・選別を自動化し、営業へ引き渡すまでの業務を効率化するソフトウェアです。
SFAツールとは、Sales Force Automation(営業支援システム)です。商談管理・顧客情報管理・営業活動の可視化を行うツールで、MA連携で営業効率を向上させます。
MA/SFA設定不足が活用不全の原因になることが多く報告されています。ABMでは企業単位でのリードトラッキングやスコアリングが必要になるため、従来の個人単位の設定では不十分です。導入前に、企業単位でのデータ管理・トラッキング・レポーティングができるよう設定を完了させることが重要です。
データ整備と部門間連携
データ整備不足、部門間連携の形骸化が活用不全の原因になります。
データ整備では、企業データベースの整備(企業規模・業種・意思決定者情報の登録)と、既存リードデータのクレンジング(企業単位での名寄せ)が必要です。例えば、同じ企業から複数のリードが登録されている場合、それらを企業単位で統合し、企業全体の関心度や接点履歴を可視化します。
営業・マーケティング部門の連携体制構築では、ターゲット企業ごとの担当者アサイン、部門間での定期レビュー会の設定が重要です。ABMでは、マーケティング部門がターゲット企業を選定し、営業部門が個別アプローチを行うため、両部門の密な連携が不可欠です。定期レビュー会では、ターゲット企業の進捗状況や、施策の効果を共有し、改善アクションを決定します。
よくある誤解として、「ABMツールを導入すれば自動的に成果が出る」「戦略設計だけでABMは完了」というものがありますが、実際にはMA/SFA設定・データ整備・部門間連携の実装が必須です。実装段階(MA/SFA設定、業務BPR、現場フロー変更)まで見据える必要があります。
まとめ
本記事では、ABMの始め方を、基本情報から実装準備まで解説しました。
ABMは、企業・組織単位でターゲットを選定し、個別にカスタマイズされたマーケティング施策を展開する手法です。デマンドジェネレーションとは対象単位(企業 vs 個人)が異なり、目的・状況に応じた使い分けが重要です。
ABMの5ステップは、①ターゲット企業選定、②優先順位付け、③カスタマージャーニー設計、④実行、⑤効果測定です。特にターゲット企業選定では、見込み取引額、市場への影響力、中長期的な関係構築可能性の3基準で評価し、優先順位を付けてリソースを集中させることが成功の鍵となります。
ABM導入企業の23%がROI 1.5〜3倍を達成している一方で、導入後に活用不全になる主な原因は、MA/SFA設定不足、部門間連携の形骸化、データ整備不足です。
**ABMは戦略設計だけでなく、MA/SFA設定とデータ整備、部門間連携の実装まで見据えた計画で成果を出せます。**戦略を立てただけで満足せず、実装段階まで見据えた計画を立て、ABM導入準備チェックリストとターゲット企業選定基準シートを活用して、準備を整えてください。
次のアクションとして、ABM導入準備チェックリストで自社の準備状況を確認し、ターゲット企業選定基準シートで優先順位付けを行ってみてください。実装段階まで見据えた計画で、ABMの成果を最大化できます。
