ABMで成果が出ない企業が見落としている実装の重要性
最も重要なのは、ABMで成果を出すには戦略設計だけでなくMA/SFAの実装・運用体制まで整備する必要があり、実装まで支援できる専門パートナーと組むことで成功確率が高まるということです。
ABM(Account Based Marketing) とは、自社にとって価値の高い特定企業(アカウント)を選定し、その企業ごとに最適化したマーケティングと営業活動を集中的に行うBtoB向け戦略です。IDEATECH社による2025年ABM実態調査によると、ABMを実践している企業の約8割が何らかの成果を実感しているとされています。
しかし、MA/SFAを導入済みでありながら活用できていない企業では、「ABMの概念は理解しているが、戦略が実行に移せない」という課題を抱えているケースが少なくありません。この差はどこから生まれるのでしょうか。
本記事では、ABMの概念理解から、MA/SFA連携の実装、推進体制の構築まで、実践に必要なステップを解説します。
この記事で分かること
- ABMの基本概念と従来のリード型マーケティングとの違い
- ABMがBtoB企業に必要とされる背景と適している企業の条件
- ABM導入から実装までの具体的なステップとチェックリスト
- ABM推進体制の選択肢と外部パートナー活用のポイント
ABMの基本概念とBtoBマーケティングでの位置づけ
ABMは、少数の重要アカウントに集中してLTV(顧客生涯価値)を最大化するBtoB向け戦略であり、海外調査ではその効果が確認されています。
Forrester調査(2024年)によると、ABMを実践する企業の23%が「ROIが従来施策の1.5〜3倍になった」と回答しています(ただし、この調査は北米・欧州・APACが対象であり、日本市場では異なる可能性があります)。
ターゲットアカウントとは、ABMにおいて優先的に攻略すべき企業として選定された対象企業を指します。LTVや戦略的価値を基準に選定され、この選定が成否を分ける重要なポイントとなります。
LTV(Life Time Value) は、顧客生涯価値と呼ばれ、一顧客が取引期間全体で企業にもたらす総利益を示す指標です。ABMでは、このLTVが高い企業に集中してリソースを投下します。
従来のリード型マーケティングとABMの違い
リードベースドマーケティングとは、不特定多数に対して広告・セミナー等で大量リードを獲得するマーケティング手法です。ABMの対比概念として使われます。
両者の違いを整理すると以下のようになります。
- リードベースドマーケティング: 広く網を張り、多くのリードを獲得 → 商談化率で絞り込む
- ABM: 最初からターゲット企業を絞り、深くアプローチ → 商談の質と単価を高める
「大量リードを集めれば商談につながる」という考え方がABM導入の障壁になりやすいですが、BtoBの高単価商材では、数よりも質が重要になるケースが多いです。展示会や広告で大量リードを集めても商談につながらない、という課題を抱える企業は、ABMへのシフトを検討する価値があります。
ABMがBtoB企業に必要とされる背景
ABMが注目される背景には、BtoBマーケティングのデジタル化の進展と、日本企業の商習慣がABMに適しているという認識の広がりがあります。
グローバルABM支援ツール市場は2024年に約15億ドル規模で、2031年には約24億ドルに成長すると予測されており、年平均成長率は12%を超えています(グローバル市場の数値であり、日本単独の市場規模ではありません)。
日本のBtoB向けMA市場は2023年に約753億円(事業者売上高ベース)で、前年比11.2%成長を記録しています。MAの普及が進むことで、ABMの基盤となるデータ活用環境が整いつつあります。
また、日本のBtoB EC化率は2023年時点で40%に達しており、BtoB取引のデジタル化が進んでいます。日本の商習慣である既存顧客との長期関係構築や名刺交換文化は、アカウント単位でのアプローチを重視するABMに親和性が高いとされています。
ABMが適している企業の条件
ABMはすべての企業に適しているわけではありません。以下の条件を満たす企業で特に有効とされています。
- ターゲット企業に意思決定者が複数存在する
- 複数部門へ提案できる商材がある
- 取引単価が高く、長期的な取引関係が見込める
- MA/SFAがある程度整っている
国内MA導入率は約62.6万社中9,444社(導入率1.5%)で、上場企業3,850社のうち導入済みは562社(14.6%)となっています(2022年調査)。業種別では情報通信・広告・マスコミが31%を占めており、これらの業種でABM導入が進みやすい傾向があります。
「ABMは大企業向け」という誤解がありますが、高単価・長期取引のビジネスモデルであれば中堅企業でも有効です。重要なのは企業規模ではなく、ターゲット企業の数と自社のリソースのバランスです。
ABM導入から実装までの実践ステップ
ABMを成功させるには、戦略設計だけでなく、MA/SFAとの連携を含む実装まで一貫して進めることが重要です。
よくある失敗パターンとして、「ABMの戦略を立てただけで満足し、MA/SFAの設定や営業連携の仕組みを整備しないまま放置してしまう」ことが挙げられます。このパターンでは、せっかく定義したターゲットアカウントへのアプローチが属人的になり、継続的な成果につながりません。
ABM導入の基本的な流れは以下の通りです。
- ターゲットアカウントの選定(LTV・戦略的価値を基準に優先順位付け)
- 各アカウントのリサーチと意思決定者の把握
- MA/SFAへのターゲット情報の登録と連携設定
- パーソナライズされたコンテンツ・アプローチの実施
- 商談・受注状況のトラッキングと改善
パイロット実行はまず少数のターゲットアカウントから開始し、成功パターンを確立してから拡大することが推奨されています。
【チェックリスト】ABM導入準備チェックリスト
- ターゲットアカウントの選定基準が明確になっている
- 優先度の高いターゲットアカウントリストが作成されている
- 各ターゲットアカウントの意思決定者が把握できている
- MA/SFAにターゲットアカウント情報が登録されている
- ターゲットアカウント向けのコンテンツが準備されている
- 営業とマーケティングでターゲットアカウントの認識が共有されている
- ABMのKPIが設定されている(商談数・受注数など)
- MAでターゲットアカウントのエンゲージメントを追跡できる
- SFAでターゲットアカウントの商談状況を管理できる
- 営業とマーケティングの定例ミーティングが設定されている
- ABM施策の効果測定方法が決まっている
- パイロット対象のアカウント数が決まっている
- ABM推進の担当者・チームがアサインされている
- 必要なツール・システムの導入が完了している
- 外部パートナー活用の要否が検討されている
MA/SFA連携で実現するABMの仕組み化
ABMを属人的な取り組みで終わらせないためには、MA/SFAとの連携による仕組み化が不可欠です。
KPI設計では、「MQL数」ではなく「ターゲットアカウント内での商談数・受注」を指標にすることで、営業とマーケティングの連携が進みます。従来のリード単位のKPIでは、ABMの成果を正しく測定できません。
営業とマーケティングの連携体制構築のポイントは以下の通りです。
- ターゲットアカウントリストの共有と更新ルールの策定
- 各アカウントの進捗状況を可視化するダッシュボードの整備
- 営業からのフィードバックをマーケティング施策に反映する仕組み
- 定期的なレビューミーティングの実施
ABM推進体制の選択肢と専門パートナー活用
ABM推進の体制は、自社のリソースや成熟度に応じて選択する必要があります。ABM専任チームを設置するSaaS・製造・ITサービス各社が増加している傾向があります。
体制の選択肢は大きく分けて「完全内製」「一部外注」「フル外注」の3つがあります。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の状況に応じた選択が求められます。
【比較表】ABM推進体制の選択肢比較表
| 項目 | 完全内製 | 一部外注 | フル外注 |
|---|---|---|---|
| 初期コスト | 高い(人材採用・育成) | 中程度 | 低い(外注費のみ) |
| 運用コスト | 人件費中心 | 人件費+外注費 | 外注費中心 |
| 立ち上げ速度 | 遅い | 中程度 | 速い |
| ノウハウ蓄積 | 社内に蓄積 | 一部社内に蓄積 | 蓄積しにくい |
| カスタマイズ性 | 高い | 中程度 | 低い(パートナー依存) |
| MA/SFA設定 | 自社対応 | 一部外部支援 | 外部が主導 |
| 向いている企業 | ABM経験者がいる | MA/SFA導入済み | リソースが限られる |
内製だけでは実装まで進められないケースや、MA/SFAの設定に課題を抱えている場合は、戦略設計から実装・運用まで一気通貫で支援できる専門パートナーの活用を検討する価値があります。
ABMで成果を出すための体制構築と次のステップ
本記事では、ABMの基本概念から導入・実装のステップ、推進体制の選択肢まで解説しました。
ABMを実践している企業の約8割が何らかの成果を実感しているという調査結果がありますが、その成果を出している企業に共通するのは、戦略を立てるだけでなく、MA/SFAとの連携を含む実装・運用体制を整えていることです。
改めて強調すべきは、「戦略を立てただけで満足してしまう」という失敗パターンを避けることの重要性です。ターゲットアカウントを選定しても、MA/SFAに反映されず、営業との連携も取れていなければ、成果にはつながりません。
次のステップとして、まずは自社のMA/SFA活用状況の棚卸しから始めることをお勧めします。現状のデータ基盤でターゲットアカウントを管理・追跡できる状態にあるか、営業とマーケティングの連携はどの程度進んでいるかを確認してください。
ABMで成果を出すには、戦略設計だけでなくMA/SFAの実装・運用体制まで整備する必要があり、実装まで支援できる専門パートナーと組むことで成功確率が高まります。自社のリソースや成熟度を見極め、必要に応じて外部の力を借りながら、ABMの実践を進めていきましょう。
