逆説のカスタマーサクセスとは?従来CSの常識を覆す新アプローチ

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/10

「逆説のカスタマーサクセス」とは何か

B2B SaaS企業のカスタマーサクセス責任者の方から、「ハイタッチで手厚く対応しているのに解約が減らない」「プロアクティブに支援しているのに顧客が疲弊している」といった相談をいただくことがあります。

こうした課題を解決するヒントとなるのが、「逆説のカスタマーサクセス」という考え方です。これは、従来のカスタマーサクセスの常識を覆す視点で、解約率一辺倒やハイタッチ偏重の問題を指摘し、より本質的なアプローチを提案しています。本記事では、「逆説のカスタマーサクセス」の概念から具体的な実践手法まで解説します。

この記事のポイント:

  • 「逆説のカスタマーサクセス」は東京大学の馬田隆明氏が2017年に発表した資料
  • 従来CSの課題(ハイタッチ偏重・解約率一辺倒・プロアクティブ過剰)を指摘
  • 5つの逆説的視点(解約率を追いかけない・NRR/LTV重視・顧客理解が先)
  • タッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)の構築が重要
  • 2024年のCS認知度は8割超、成果実感度は66.7%

(1) オリジナル資料の概要(東京大学馬田隆明氏、2017年)

「逆説のカスタマーサクセス」は、東京大学の馬田隆明氏が2017年に発表したプレゼン資料です。

資料の特徴:

  • SlideShareで公開されている無料資料(日本語)
  • カスタマーサクセスの入門的な内容として群を抜いて良質
  • サブスクリプションビジネスにおけるカスタマーサクセスの本質を解説

主要なメッセージ:

  • 「サブスクリプションでは、すべての活動はプリセールス活動である」
  • 顧客の成功を支援することで、継続利用・アップセル・クロスセルが実現される
  • カスタマーサクセスは解約防止だけでなく、LTV(顧客生涯価値)最大化を目指す

この資料は、2017年当時、日本でカスタマーサクセスの概念が浸透し始めた時期に発表され、多くのSaaS企業で参照されました。

(2) 新・逆説のカスタマーサクセス(高橋歩氏、2018年)

2018年には、高橋歩氏が「新・逆説のカスタマーサクセス」をnoteで発表しました。

5つの逆説的視点:

  1. 解約率は追いかけない: 解約率だけに注目すると短期的な数値改善に走り、本質を見失う
  2. プロアクティブを目指さない: 過剰な支援は顧客を疲弊させる、適切なタイミングでの支援が重要
  3. データ分析から始めない: データより先に、まず顧客理解が必要
  4. すべての活動はプリセールス活動: カスタマーサクセスはサポートではなく、継続的な価値提供
  5. カスタマーサポートとの統合: 組織の壁を超えて、顧客体験全体を最適化

これらの視点は、従来のカスタマーサクセスの課題を浮き彫りにし、より本質的なアプローチを提案しています。

(3) なぜ「逆説」なのか(従来CSの常識を覆す視点)

「逆説」と呼ばれる理由は、従来のカスタマーサクセスの常識を覆す視点だからです。

従来CSの常識:

  • 解約率を下げることが最優先
  • ハイタッチで手厚く対応することが成功の秘訣
  • プロアクティブに支援することが重要
  • データ分析で顧客行動を把握することが先決

逆説的視点:

  • 解約率よりもNRR(売上継続率)・LTV(顧客生涯価値)を重視
  • ハイタッチだけでなく、ロータッチ・テックタッチで効率化
  • プロアクティブよりも、適切なタイミングでの支援
  • データ分析よりも、まず顧客理解(インタビュー・対話)が先

この「逆説」は、カスタマーサクセスの本質(顧客の成功支援)に立ち返るための視点転換を促すものです。

従来のカスタマーサクセスの課題と限界

(1) ハイタッチ偏重の問題(人的リソースの限界)

従来のカスタマーサクセスでは、ハイタッチ(人的対応)が重視されてきました。

ハイタッチの特徴:

  • 専任CSMが個別に顧客対応
  • 定期的な打ち合わせ・レビューミーティング
  • 手厚いオンボーディング・トレーニング

ハイタッチ偏重の問題点:

  • 人的リソースの限界: CSMが対応できる顧客数には限界がある(1人あたり10〜20社程度)
  • コスト高: 大量の顧客を抱える場合、ハイタッチは費用対効果が合わない
  • スケーラビリティ不足: 顧客が増えても、CSMを増やすだけでは対応できない

このため、ハイタッチだけでなく、ロータッチ・テックタッチを組み合わせたタッチモデルの構築が必要です。

(2) 解約率一辺倒の危険性(本質を見失う)

従来のカスタマーサクセスでは、解約率(チャーンレート)が最重要KPIとされてきました。

解約率一辺倒の問題点:

  • 短期的な数値改善に走る: 解約を防ぐためだけに、無理な値引きや過剰サポートを提供
  • 顧客の成功を無視: 解約さえ防げればよい、という発想になりがち
  • LTV最大化の視点が欠ける: 解約率が低くても、アップセル・クロスセルがなければLTVは伸びない

逆説的アプローチ:

  • NRR(売上継続率)を重視:既存顧客からの収益維持・拡大を測定
  • LTV(顧客生涯価値)を最大化:解約率だけでなく、顧客からの総収益を重視
  • 顧客の成功支援を最優先:顧客が成功すれば、自然と解約率は下がる

(3) プロアクティブの過剰推進(顧客の疲弊)

従来のカスタマーサクセスでは、プロアクティブ(能動的な支援)が推奨されてきました。

プロアクティブの特徴:

  • 顧客が問題を認識する前に、CSMが先回りして支援
  • 定期的なヘルスチェック・レビューミーティング
  • 新機能リリース時の積極的な案内

プロアクティブ過剰の問題点:

  • 顧客の疲弊: 頻繁な連絡・ミーティングが負担になる
  • タイミングの不一致: 顧客が必要としていないタイミングでの支援は逆効果
  • CSMの疲弊: すべての顧客にプロアクティブ対応すると、CSMのリソースが枯渇

逆説的アプローチ:

  • 適切なタイミングでの支援:顧客が必要とするタイミングで支援
  • セルフサービス化:顧客が自分で解決できる仕組みを構築(ヘルプセンター・チュートリアル動画)
  • データドリブンなアプローチ:ヘルススコアで顧客の状態を可視化し、優先順位をつける

逆説的アプローチの5つの視点

(1) 解約率は追いかけない(NRR・LTV重視)

従来アプローチ:

  • 解約率を最重要KPIに設定
  • 解約を防ぐためだけに値引きや過剰サポート

逆説的アプローチ:

  • NRR(Net Revenue Retention)を重視: 既存顧客からの収益維持・拡大率を測定(目安:110%以上が優良)
  • LTV(Life Time Value)を最大化: 一顧客から得られる総収益を重視
  • 顧客セグメント別の戦略: 解約リスクが高い顧客には集中支援、成長見込みのある顧客にはアップセル提案

実践例:

  • ヘルススコアで顧客を分類(健全・注意・危険)
  • 危険顧客には集中支援、健全顧客には新機能案内
  • NRRを四半期ごとに測定し、目標値(110%以上)を設定

(2) プロアクティブを目指さない(適切なタイミング支援)

従来アプローチ:

  • すべての顧客にプロアクティブ対応
  • 定期的なミーティング・ヘルスチェック

逆説的アプローチ:

  • 適切なタイミングでの支援: 顧客が必要とするタイミングで支援
  • データドリブンな優先順位付け: ヘルススコア・利用状況で優先順位を決定
  • セルフサービス化: ヘルプセンター・チュートリアル動画で顧客が自己解決できる環境を整備

実践例:

  • 利用頻度が低下した顧客に自動アラート→CSMがフォロー
  • 新機能リリース時は、ヘルプセンターで情報提供→必要に応じてCSMが個別案内
  • ヘルススコアが一定以下の顧客のみプロアクティブ対応

(3) データ分析から始めない(顧客理解が先)

従来アプローチ:

  • まずデータ分析で顧客行動を把握
  • ツール導入・ダッシュボード構築を優先

逆説的アプローチ:

  • 顧客インタビューから始める: データよりも先に、顧客の課題・ニーズを直接ヒアリング
  • 定性データを重視: 数値では見えない、顧客の心理・感情を理解
  • 仮説検証のサイクル: 顧客理解→仮説立案→データ検証→改善

実践例:

  • 月5〜10社の顧客インタビューを実施
  • 「なぜこの機能を使っているか」「どんな課題があるか」を深掘り
  • インタビュー結果を基に、データ分析で仮説を検証

(4) すべての活動はプリセールス活動(継続的価値提供)

従来アプローチ:

  • カスタマーサクセスは「サポート」部門として位置づけ
  • 解約防止が主目的

逆説的アプローチ:

  • すべての活動はプリセールス活動: カスタマーサクセスは、継続利用・アップセル・クロスセルのための「営業活動」
  • 顧客の成功支援を最優先: 顧客が成功すれば、自然と継続利用・アップセルが実現される
  • サブスクリプションの本質: 一度の販売で終わらず、継続的に価値を提供し続けることが重要

実践例:

  • オンボーディング完了後も、定期的に新機能・活用事例を案内
  • 顧客の課題をヒアリングし、上位プランや追加機能を提案
  • CS活動をアップセル・クロスセルのKPIで評価

(5) カスタマーサポートとの統合(組織の壁を超える)

従来アプローチ:

  • カスタマーサクセスとカスタマーサポートは別組織
  • 役割分担が明確すぎて、顧客体験が分断

逆説的アプローチ:

  • 組織の壁を超える: CS・サポート・営業が連携し、顧客体験全体を最適化
  • 情報共有の仕組み: サポートチケット・CS活動履歴を一元管理
  • 共通のKPI: 顧客満足度(NPS)・LTV・NRRなど、全組織で共通のKPIを設定

実践例:

  • サポートチケットをCSMが確認し、重要な課題には個別フォロー
  • CS・サポート合同の定例ミーティングで顧客状況を共有
  • 顧客満足度(NPS)を全組織で定期測定

具体的な実践手法とタッチモデルの構築

(1) ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの分類

タッチモデルは、顧客をセグメント分けし、適切な支援方法を選択するフレームワークです。

ハイタッチ(High-Touch):

  • 対象: 大口顧客・戦略顧客(ARR 500万円以上など)
  • 支援方法: 専任CSMが個別対応、定期的なレビューミーティング
  • メリット: 手厚い対応で顧客満足度が高い
  • デメリット: 人的リソースが必要、スケーラビリティが低い

ロータッチ(Low-Touch):

  • 対象: 中小顧客(ARR 50万円〜500万円など)
  • 支援方法: 1人のCSMが複数顧客を担当、グループウェビナー・メールマーケティング
  • メリット: 効率的に多数の顧客をカバー
  • デメリット: 個別対応が減る

テックタッチ(Tech-Touch):

  • 対象: 小口顧客(ARR 50万円未満など)
  • 支援方法: 自動化ツール・ヘルプセンター・チュートリアル動画
  • メリット: スケーラブル、コスト効率が高い
  • デメリット: 顧客との関係性が薄い

(2) 顧客セグメント別のアプローチ設計

セグメント分類の基準:

  • ARR(年間経常収益)
  • 利用頻度・利用機能数
  • ヘルススコア(健全・注意・危険)
  • 成長見込み(アップセル・クロスセル可能性)

アプローチ設計例:

  • 大口顧客(ハイタッチ): 専任CSM、月1回のレビューミーティング、四半期ごとのビジネスレビュー
  • 中小顧客(ロータッチ): 1人のCSMが20〜30社担当、月1回のグループウェビナー、重要な節目でのフォロー
  • 小口顧客(テックタッチ): 自動メール配信、ヘルプセンター、チャットボット対応

(3) オンボーディング・アダプション・エクスパンションの各フェーズ

カスタマーサクセスは、以下の3フェーズで設計します:

オンボーディング(Onboarding):

  • 顧客がサービスを円滑に利用開始できるよう支援
  • 目標:初回ログイン後30日以内に主要機能を利用
  • 施策:チュートリアル動画、初期設定サポート、キックオフミーティング

アダプション(Adoption):

  • 顧客がサービスを定着的に利用できるよう支援
  • 目標:月間アクティブユーザー率80%以上
  • 施策:定期的な活用状況レビュー、新機能案内、ベストプラクティス共有

エクスパンション(Expansion):

  • 顧客の利用範囲拡大・アップセル・クロスセルを支援
  • 目標:NRR 110%以上
  • 施策:上位プラン案内、追加機能提案、他部門への導入支援

(4) KPI設計(NRR・LTV・オンボーディング完了率等)

カスタマーサクセスの主要KPIは以下の通りです:

全体KPI:

  • NRR(Net Revenue Retention): 既存顧客からの収益維持・拡大率(目安:110%以上)
  • LTV(Life Time Value): 一顧客から得られる総収益
  • 顧客満足度(NPS): Net Promoter Score(目安:30以上)

フェーズ別KPI:

  • オンボーディング完了率: 初回ログイン後30日以内に主要機能を利用した顧客の割合(目安:80%以上)
  • 月間アクティブユーザー率: 月1回以上ログインしている顧客の割合(目安:70%以上)
  • アップセル・クロスセル率: 既存顧客のうち、上位プランや追加機能を購入した割合(目安:20%以上)

導入事例と効果測定のポイント

(1) SaaS/サブスクリプション企業の適用事例

逆説的アプローチは、多くのSaaS/サブスクリプション企業で実践されています。

適用事例(一般的な実践例):

  • ハイタッチ偏重からタッチモデル導入: 大口顧客はハイタッチ、中小顧客はロータッチ、小口顧客はテックタッチに分類
  • 解約率からNRR重視へ: 解約率だけでなく、NRRを四半期ごとに測定し、目標値110%以上を設定
  • プロアクティブからデータドリブンへ: ヘルススコアで顧客を分類し、優先順位をつけてフォロー

効果:

  • CSMの負担軽減:1人あたり対応顧客数が10社→30社に増加
  • NRR向上:105% → 115%に改善
  • 顧客満足度向上:NPS 20 → 35に改善

(2) 2024年の市場動向(認知度8割超、成果実感度66.7%)

2024年のカスタマーサクセス市場は、以下の状況です(Growwwing調査):

認知度・導入状況:

  • カスタマーサクセス認知度:8割超
  • SaaS/サブスクリプション事業者のCS組織設立率:85.3%
  • 成果実感度:66.7%(前年比3.7ポイントUP)

主要課題(TOP3):

  1. 人材育成(CSMのスキル向上)
  2. 業務改善(効率化・自動化)
  3. 顧客分析(ヘルススコア・セグメント分類)

トレンド:

  • NRR重視の傾向が強まり、CSのセールス化が進行
  • テックタッチ・自動化ツールの導入が加速
  • カスタマーサポートとの統合が進む

(3) 導入時の注意点とリスク回避策

注意点1: いきなり全面導入しない

  • スモールスタート:一部の顧客セグメントで試験導入
  • 効果検証:3〜6ヶ月後に効果を測定し、改善策を実施

注意点2: 現場の理解を得る

  • CSMへの説明:なぜタッチモデルが必要か、メリットを共有
  • トレーニング:ロータッチ・テックタッチの運用方法を研修

注意点3: データ基盤を整備

  • ヘルススコアの設計:利用頻度・利用機能数・サポートチケット数などを統合
  • MAツール・CRM連携:データを一元管理し、CSMが効率的に活用できる環境を構築

まとめ:カスタマーサクセスの本質を問い直す

「逆説のカスタマーサクセス」は、従来のカスタマーサクセスの常識を覆す視点で、解約率一辺倒やハイタッチ偏重の問題を指摘し、より本質的なアプローチを提案しています。

逆説的アプローチの本質:

  • 解約率よりもNRR・LTVを重視
  • ハイタッチだけでなく、ロータッチ・テックタッチで効率化
  • プロアクティブよりも、適切なタイミングでの支援
  • データ分析よりも、まず顧客理解が先
  • カスタマーサポートとの統合で、顧客体験全体を最適化

次のアクション:

  • 自社のカスタマーサクセス体制を見直す(ハイタッチ偏重になっていないか)
  • NRR・LTVを測定し、目標値を設定する
  • タッチモデル(ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチ)を構築する
  • 顧客インタビューを実施し、課題・ニーズを深く理解する
  • カスタマーサポートとの連携を強化する

カスタマーサクセスの本質は、顧客の成功を支援することです。この本質に立ち返り、データ・効率化・顧客理解を組み合わせた戦略的アプローチを実践しましょう。

よくある質問

Q1「逆説のカスタマーサクセス」はどの企業に適していますか?

A1SaaS/サブスクリプションビジネス全般に適用可能です。特に成長期でCS体制の見直しが必要な企業、ハイタッチ偏重で人的リソースが限界を迎えている企業に有効です。

Q2カスタマーサクセスの必読書は何ですか?

A2「青本」(ニック・メータ著、10の原則を解説)と「赤本」(弘子ラザヴィ著、日本企業向け解説)の2冊が必読です。赤本は日本人向けで読みやすいです。

Q3解約率を追いかけないとはどういう意味ですか?

A3解約率だけに注目すると短期的な数値改善に走り、本質(顧客の成功支援)を見失うリスクがあります。NRR(売上継続率)やLTV(顧客生涯価値)など、より包括的な指標で評価することが重要です。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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