デュアルファネルとは?BtoBマーケティングの新しい顧客獲得モデル

著者: B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部公開日: 2025/12/18

デュアルファネルとは:新規と既存を統合する新しいマーケティングモデル

BtoBマーケティングでは、新規顧客獲得に注力する一方で、既存顧客の育成やリピート購入、推奨行動が後回しになりがちです。しかし、SaaSやサブスクリプションモデルが普及した現在、「購入後の顧客行動」こそが長期的な収益の鍵を握ります。

こうした課題を解決するために注目されているのが、デュアルファネル(ダブルファネル)戦略です。この記事では、デュアルファネルの基本的な定義から、従来の単一ファネルの限界、デュアルファネルの構造、BtoBにおける実践方法、導入と運用方法まで、BtoB企業のマーケティングマネージャー・営業企画担当者向けに詳しく解説します。

この記事のポイント:

  • デュアルファネルはパーチェスファネル(新規顧客獲得)とインフルエンスファネル(既存顧客育成)を統合したモデル
  • 従来の単一ファネルは購入までしか追跡せず、購入後の顧客行動が見えない問題がある
  • BtoBではデマンドジェネレーション(MQL重視)とABM(MQA重視)の2つのファネルを同時に管理
  • 人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で運用し、新規と既存のデータを統合してマーケティングROIを向上
  • リソース分散のリスクがあるため、中小企業はスモールスタートで段階的に導入することが重要

(1) デュアルファネルが注目される背景(SaaS・サブスクモデルの普及)

SaaSやサブスクリプションモデルでは、初回購入よりも「継続利用」「アップセル」「推奨行動」が収益の大部分を占めます。既存顧客が離脱せず、長期的に価値を提供し続けることが、ビジネスの持続性に直結します。

Metadata.ioの解説でも、「購入後の顧客行動の重要性が高まり、デュアルファネルの必要性が増している」と指摘されています。新規顧客獲得コストが高騰する中、既存顧客の維持とロイヤルティ向上がマーケティングの最重要課題となっています。

(2) 新規獲得と既存育成を同時に管理する重要性

従来のマーケティングでは、新規顧客獲得(デマンドジェネレーション)と既存顧客育成(カスタマーサクセス)が別々に管理されることが多く、データの分断や施策の非連携が課題でした。

デュアルファネルは、新規獲得から既存育成までを一貫したフレームワークで管理し、顧客全体のライフサイクルを可視化します。これにより、マーケティングROIの向上と、顧客エンゲージメントの最大化が実現します。

従来の単一ファネルの限界

従来のマーケティングファネルは、主に「購入まで」のプロセスを描いており、購入後の顧客行動を扱わないという限界があります。

(1) AIDA・TOFU-MOFU-BOFUモデルの課題

従来のファネルモデルの代表例として、以下があります。

AIDA(アイーダ)モデル:

  • Attention(認知)→ Interest(興味)→ Desire(欲求)→ Action(行動)

TOFU-MOFU-BOFU(トフ・モフ・ボフ)モデル:

  • Top of Funnel(認知段階)→ Middle of Funnel(検討段階)→ Bottom of Funnel(購入段階)

これらのモデルは購入(Action/BOFU)でプロセスが終わるため、購入後の顧客行動(継続利用、推奨、発信)が見えません。

(2) 購入後の顧客行動が見えない問題

従来のファネルでは、以下のような購入後の重要な顧客行動が追跡されません。

購入後の顧客行動:

  • 継続利用(リピート購入・サブスクリプション更新)
  • アップセル・クロスセル(上位プランへのアップグレード)
  • 推奨行動(他社への推薦・口コミ)
  • 発信行動(SNSでのシェア・レビュー投稿)

これらの行動は、LTV(顧客生涯価値)の向上に直結するため、追跡・管理することが不可欠です。

(3) 新規獲得に偏重するリスク

従来のファネルは新規顧客獲得に焦点を当てるため、既存顧客の育成が後回しになりがちです。新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍とも言われており、新規獲得に偏重する戦略はコスト効率が悪くなります。

Demand Gen Reportの解説でも、「新規獲得だけに注力すると、既存顧客の離脱による収益損失が大きくなる」と警告されています。

デュアルファネルの定義と構造

デュアルファネルは、2つのファネルを組み合わせることで、顧客のライフサイクル全体を管理します。

(1) パーチェスファネル:認知→理解→検討→購入

パーチェスファネルは、新規顧客獲得のためのファネルです。従来のAIDAやTOFU-MOFU-BOFUモデルと同様に、認知から購入までのプロセスを表します。

パーチェスファネルの段階:

  1. 認知(Awareness): 潜在顧客に製品・サービスを知ってもらう
  2. 理解(Interest): 製品の価値や特徴を理解してもらう
  3. 検討(Consideration): 競合と比較し、購入を検討してもらう
  4. 購入(Purchase): 実際に購入してもらう

(2) インフルエンスファネル:購入後→継続→推奨→発信

インフルエンスファネルは、既存顧客育成のためのファネルです。購入後の顧客行動を追跡し、継続利用や推奨行動を促します。

インフルエンスファネルの段階:

  1. 購入後(Post-Purchase): 初回購入後のオンボーディング・初期サポート
  2. 継続(Retention): リピート購入・サブスクリプション更新
  3. 推奨(Advocacy): 他社への推薦・紹介
  4. 発信(Amplification): SNSでのシェア・レビュー投稿・ブランドアンバサダー化

MarkeZineの解説でも、「購入後の顧客を継続→推奨→発信へと導くことで、新規顧客獲得コストを削減しながら収益を拡大できる」と強調されています。

(3) 2つのファネルの相互作用と統合データ活用

デュアルファネルの最大の特徴は、2つのファネルが独立しているのではなく、相互に影響し合う点です。

相互作用の例:

  • インフルエンスファネルで推奨行動を起こした顧客(紹介・口コミ)が、パーチェスファネルの「認知」段階に新規見込み客を送り込む
  • パーチェスファネルで獲得した新規顧客が、インフルエンスファネルで継続利用→推奨行動へと移行する

電通デジタルとAdobeのデュアルファネルソリューションでは、新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合し、一貫した施策を実行できると紹介されています。

(4) 定義の多様性:専門家の間でも議論がある点に注意

デュアルファネルの定義や図の描き方については、専門家の間でも議論があります。高広伯彦氏の検証記事でも、「デュアルファネルの『正しい図』については統一された標準がない」と指摘されています。

企業によって、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの境界や、各段階の名称が異なる場合があります。自社で導入する際は、自社の顧客行動に合わせてカスタマイズすることが重要です。

BtoBにおけるデュアルファネル実践:デマンドジェネレーションとABMの統合

BtoBマーケティングでは、デマンドジェネレーション(需要創出)とABM(アカウントベースドマーケティング)の2つのアプローチを並行運用するデュアルファネル戦略が効果的です。

(1) デマンドジェネレーション(MQL重視)のファネル

デマンドジェネレーションは、広範な見込み客に対して需要を創出する手法です。MQL(Marketing Qualified Lead:マーケティング・クオリファイド・リード)を獲得することを目標とします。

デマンドジェネレーションの特徴:

  • ターゲット:幅広い見込み客(リード単位)
  • 施策:ウェビナー、ホワイトペーパー、SEO、広告
  • KPI:MQL数、リード獲得コスト

(2) ABM(MQA重視)のファネル

ABMは、特定の重要アカウント(企業)をターゲットにした手法です。MQA(Marketing Qualified Account:マーケティング・クオリファイド・アカウント)を特定し、アカウント単位で営業との連携を強化します。

ABMの特徴:

  • ターゲット:重要アカウント(アカウント単位)
  • 施策:パーソナライズドコンテンツ、アカウントベース広告、エグゼクティブエンゲージメント
  • KPI:MQA数、アカウント受注率

DemandbaseのCMOインタビューでも、「デマンドジェネレーションとABMを同時に管理することで、パイプライン拡大と受注率向上を両立できる」と紹介されています。

(3) 2つのファネルを同時に管理する組織体制

デュアルファネル戦略を実行するには、組織体制の整備が不可欠です。

組織体制の例:

  • デマンドジェネレーションチーム: 幅広い見込み客獲得(MQL重視)
  • ABMチーム: 重要アカウント攻略(MQA重視)
  • カスタマーサクセスチーム: 既存顧客育成(インフルエンスファネル)

Metadata.ioの解説でも、「人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で体制を整備し、チームを顧客セグメント別に分けることが成功の鍵」と強調されています。

(4) 顧客セグメント別のチーム分け

顧客セグメント別にチームを分けることで、各セグメントに最適化された施策を実行できます。

セグメント例:

  • エンタープライズ顧客: ABMチームが担当
  • 中小企業顧客: デマンドジェネレーションチームが担当
  • 既存顧客: カスタマーサクセスチームが担当

デュアルファネルの導入と運用方法

デュアルファネルを成功させるためには、適切な導入と運用が必要です。

(1) 人・プロセス・テクノロジーの3つの観点

デュアルファネル運用には、以下の3つの要素を整備する必要があります。

人(People):

  • デマンドジェネレーション担当、ABM担当、カスタマーサクセス担当を配置
  • 各チームの役割と責任を明確化

プロセス(Process):

  • MQLとMQAの定義を明確化
  • 営業との連携フロー(リードパス、アカウントパス)を整備
  • 既存顧客のヘルススコア(継続利用度)を定期的に評価

テクノロジー(Technology):

  • MAツール(HubSpot、Marketo、Pardotなど)
  • ABMプラットフォーム(Demandbase、6senseなど)
  • CRM(Salesforce、Microsoft Dynamicsなど)

(2) 新規獲得と既存育成のデータ統合

新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合することで、顧客全体のライフサイクルを可視化できます。

統合データの活用例:

  • 既存顧客の推奨行動(紹介・口コミ)を新規獲得のリードソースとして追跡
  • 新規顧客の初回購入後の行動を分析し、継続率向上の施策に反映

電通デジタルとAdobeのソリューションでも、「統合データ活用により、新規・既存の課題を同時解決できる」と紹介されています。

(3) マーケティングROIの向上

デュアルファネルにより、以下のようなROI向上が期待できます。

ROI向上の要因:

  • 既存顧客の継続利用により、LTV(顧客生涯価値)が増加
  • 推奨行動により、新規顧客獲得コストが削減
  • 2つのファネルを統合管理することで、施策の重複や無駄が削減

(4) リソース分散のリスクと対策

デュアルファネルは2つのファネルを同時に運用するため、リソース(人・予算・時間)が薄く広がるリスクがあります。

リスク:

  • 限られたリソースで2つのファネルを運用すると、どちらも中途半端になる可能性
  • 特に中小企業では、一点集中の方が効果的な場合もある

対策:

  • スモールスタートで段階的に導入(まずは1つのファネルに注力し、安定してから拡大)
  • 外部パートナー(代理店・ツールベンダー)の活用
  • 優先順位をつけ、リソースを重点的に配分

BOL Agencyの評価でも、「デュアルファネルは効果的だが、リソースが限られている企業では慎重に導入すべき」と指摘されています。

(5) 複雑なBtoB購買プロセスへの対応

BtoBでは、複数の意思決定者が関与する複雑な購買プロセスが一般的です。デュアルファネルでは、各意思決定者の役割や関心に応じたパーソナライズドコンテンツを提供することが重要です。

複雑な購買プロセスへの対応:

  • 決裁者、実務担当者、技術担当者など、役割別にコンテンツをカスタマイズ
  • アカウント単位で購買委員会全体のエンゲージメントを追跡
  • 営業チームと連携し、各意思決定者の関心に応じた提案を行う

まとめ:顧客全体を見据えた統合的マーケティングへ

デュアルファネルは、パーチェスファネル(新規顧客獲得)とインフルエンスファネル(既存顧客育成)を統合したマーケティングモデルです。従来の単一ファネルは購入までしか追跡しませんが、デュアルファネルは購入後の継続利用・推奨行動も管理し、顧客全体のライフサイクルを可視化します。

BtoBでは、デマンドジェネレーション(MQL重視)とABM(MQA重視)の2つのファネルを同時に管理することで、パイプライン拡大と受注率向上を両立できます。人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で運用体制を整備し、新規と既存のデータを統合してマーケティングROIを向上させましょう。

ただし、リソース分散のリスクがあるため、中小企業はスモールスタートで段階的に導入することが重要です。また、デュアルファネルの定義は企業によって異なるため、自社の顧客行動に合わせてカスタマイズすることをお勧めします。

次のアクション:

  • 自社の顧客ライフサイクルを可視化し、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの各段階を定義する
  • デマンドジェネレーションとABMの役割分担を明確にし、組織体制を整備する
  • MAツール・CRM・ABMプラットフォームなど、必要なテクノロジーを選定・導入する
  • 新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合し、一貫した施策を実行する
  • スモールスタートで導入し、効果を測定しながら段階的に拡大する

顧客全体を見据えた統合的マーケティングにより、持続的な成長を実現しましょう。

※この記事は2024年時点の情報です。マーケティング戦略のトレンドは変化するため、最新の情報は信頼できるメディアや公式サイトをご確認ください。

よくある質問

Q1デュアルファネル(ダブルファネル)とは何?従来のファネルとどう違う?

A1デュアルファネルはパーチェスファネル(新規顧客獲得:認知→購入)とインフルエンスファネル(既存顧客育成:購入後→継続→推奨)を組み合わせたモデルです。従来のファネルは購入までしか見ませんが、デュアルファネルは購入後の顧客行動も統合的に管理します。

Q2デュアルファネルはBtoBとBtoCのどちらに適している?

A2両方で活用できますが、特にBtoBでの効果が高いです。BtoBではデマンドジェネレーション(広範な見込み客獲得)とABM(重要アカウント特化)の2つのアプローチを並行運用することで、パイプライン拡大と受注率向上を同時に実現できます。

Q3MQL(マーケティング・クオリファイド・リード)とMQA(マーケティング・クオリファイド・アカウント)の違いは?

A3MQLは「個人の見込み客」(デマンドジェネレーション)、MQAは「企業アカウント」(ABM)です。MQLはリード単位で評価、MQAはアカウント単位で評価します。デュアルファネルでは両方を同時に追跡し、最適な施策を実行します。

Q4デュアルファネル戦略のリスクは?

A4リソース(人・予算・時間)が2つのファネルに分散し、薄く広がるリスクがあります。特に中小企業では一点集中の方が効果的な場合もあります。また、定義が統一されておらず、企業ごとに解釈が異なる点にも注意が必要です。

Q5デュアルファネルの導入に必要な組織体制は?

A5人・プロセス・テクノロジーの3つを整備します。チームを顧客セグメント別に分け(デマンドジェン担当・ABM担当)、新規と既存のデータを統合できるMAツール・CRMを導入します。小規模企業はスモールスタートで段階的に拡大することが重要です。

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B2Bデジタルプロダクト実践ガイド編集部

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