デュアルファネルとは:新規と既存を統合する新しいマーケティングモデル
BtoBマーケティングでは、新規顧客獲得に注力する一方で、既存顧客の育成やリピート購入、推奨行動が後回しになりがちです。しかし、SaaSやサブスクリプションモデルが普及した現在、「購入後の顧客行動」こそが長期的な収益の鍵を握ります。
こうした課題を解決するために注目されているのが、デュアルファネル(ダブルファネル)戦略です。この記事では、デュアルファネルの基本的な定義から、従来の単一ファネルの限界、デュアルファネルの構造、BtoBにおける実践方法、導入と運用方法まで、BtoB企業のマーケティングマネージャー・営業企画担当者向けに詳しく解説します。
この記事のポイント:
- デュアルファネルはパーチェスファネル(新規顧客獲得)とインフルエンスファネル(既存顧客育成)を統合したモデル
- 従来の単一ファネルは購入までしか追跡せず、購入後の顧客行動が見えない問題がある
- BtoBではデマンドジェネレーション(MQL重視)とABM(MQA重視)の2つのファネルを同時に管理
- 人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で運用し、新規と既存のデータを統合してマーケティングROIを向上
- リソース分散のリスクがあるため、中小企業はスモールスタートで段階的に導入することが重要
(1) デュアルファネルが注目される背景(SaaS・サブスクモデルの普及)
SaaSやサブスクリプションモデルでは、初回購入よりも「継続利用」「アップセル」「推奨行動」が収益の大部分を占めます。既存顧客が離脱せず、長期的に価値を提供し続けることが、ビジネスの持続性に直結します。
Metadata.ioの解説でも、「購入後の顧客行動の重要性が高まり、デュアルファネルの必要性が増している」と指摘されています。新規顧客獲得コストが高騰する中、既存顧客の維持とロイヤルティ向上がマーケティングの最重要課題となっています。
(2) 新規獲得と既存育成を同時に管理する重要性
従来のマーケティングでは、新規顧客獲得(デマンドジェネレーション)と既存顧客育成(カスタマーサクセス)が別々に管理されることが多く、データの分断や施策の非連携が課題でした。
デュアルファネルは、新規獲得から既存育成までを一貫したフレームワークで管理し、顧客全体のライフサイクルを可視化します。これにより、マーケティングROIの向上と、顧客エンゲージメントの最大化が実現します。
従来の単一ファネルの限界
従来のマーケティングファネルは、主に「購入まで」のプロセスを描いており、購入後の顧客行動を扱わないという限界があります。
(1) AIDA・TOFU-MOFU-BOFUモデルの課題
従来のファネルモデルの代表例として、以下があります。
AIDA(アイーダ)モデル:
- Attention(認知)→ Interest(興味)→ Desire(欲求)→ Action(行動)
TOFU-MOFU-BOFU(トフ・モフ・ボフ)モデル:
- Top of Funnel(認知段階)→ Middle of Funnel(検討段階)→ Bottom of Funnel(購入段階)
これらのモデルは購入(Action/BOFU)でプロセスが終わるため、購入後の顧客行動(継続利用、推奨、発信)が見えません。
(2) 購入後の顧客行動が見えない問題
従来のファネルでは、以下のような購入後の重要な顧客行動が追跡されません。
購入後の顧客行動:
- 継続利用(リピート購入・サブスクリプション更新)
- アップセル・クロスセル(上位プランへのアップグレード)
- 推奨行動(他社への推薦・口コミ)
- 発信行動(SNSでのシェア・レビュー投稿)
これらの行動は、LTV(顧客生涯価値)の向上に直結するため、追跡・管理することが不可欠です。
(3) 新規獲得に偏重するリスク
従来のファネルは新規顧客獲得に焦点を当てるため、既存顧客の育成が後回しになりがちです。新規顧客獲得コストは既存顧客維持コストの5倍とも言われており、新規獲得に偏重する戦略はコスト効率が悪くなります。
Demand Gen Reportの解説でも、「新規獲得だけに注力すると、既存顧客の離脱による収益損失が大きくなる」と警告されています。
デュアルファネルの定義と構造
デュアルファネルは、2つのファネルを組み合わせることで、顧客のライフサイクル全体を管理します。
(1) パーチェスファネル:認知→理解→検討→購入
パーチェスファネルは、新規顧客獲得のためのファネルです。従来のAIDAやTOFU-MOFU-BOFUモデルと同様に、認知から購入までのプロセスを表します。
パーチェスファネルの段階:
- 認知(Awareness): 潜在顧客に製品・サービスを知ってもらう
- 理解(Interest): 製品の価値や特徴を理解してもらう
- 検討(Consideration): 競合と比較し、購入を検討してもらう
- 購入(Purchase): 実際に購入してもらう
(2) インフルエンスファネル:購入後→継続→推奨→発信
インフルエンスファネルは、既存顧客育成のためのファネルです。購入後の顧客行動を追跡し、継続利用や推奨行動を促します。
インフルエンスファネルの段階:
- 購入後(Post-Purchase): 初回購入後のオンボーディング・初期サポート
- 継続(Retention): リピート購入・サブスクリプション更新
- 推奨(Advocacy): 他社への推薦・紹介
- 発信(Amplification): SNSでのシェア・レビュー投稿・ブランドアンバサダー化
MarkeZineの解説でも、「購入後の顧客を継続→推奨→発信へと導くことで、新規顧客獲得コストを削減しながら収益を拡大できる」と強調されています。
(3) 2つのファネルの相互作用と統合データ活用
デュアルファネルの最大の特徴は、2つのファネルが独立しているのではなく、相互に影響し合う点です。
相互作用の例:
- インフルエンスファネルで推奨行動を起こした顧客(紹介・口コミ)が、パーチェスファネルの「認知」段階に新規見込み客を送り込む
- パーチェスファネルで獲得した新規顧客が、インフルエンスファネルで継続利用→推奨行動へと移行する
電通デジタルとAdobeのデュアルファネルソリューションでは、新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合し、一貫した施策を実行できると紹介されています。
(4) 定義の多様性:専門家の間でも議論がある点に注意
デュアルファネルの定義や図の描き方については、専門家の間でも議論があります。高広伯彦氏の検証記事でも、「デュアルファネルの『正しい図』については統一された標準がない」と指摘されています。
企業によって、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの境界や、各段階の名称が異なる場合があります。自社で導入する際は、自社の顧客行動に合わせてカスタマイズすることが重要です。
BtoBにおけるデュアルファネル実践:デマンドジェネレーションとABMの統合
BtoBマーケティングでは、デマンドジェネレーション(需要創出)とABM(アカウントベースドマーケティング)の2つのアプローチを並行運用するデュアルファネル戦略が効果的です。
(1) デマンドジェネレーション(MQL重視)のファネル
デマンドジェネレーションは、広範な見込み客に対して需要を創出する手法です。MQL(Marketing Qualified Lead:マーケティング・クオリファイド・リード)を獲得することを目標とします。
デマンドジェネレーションの特徴:
- ターゲット:幅広い見込み客(リード単位)
- 施策:ウェビナー、ホワイトペーパー、SEO、広告
- KPI:MQL数、リード獲得コスト
(2) ABM(MQA重視)のファネル
ABMは、特定の重要アカウント(企業)をターゲットにした手法です。MQA(Marketing Qualified Account:マーケティング・クオリファイド・アカウント)を特定し、アカウント単位で営業との連携を強化します。
ABMの特徴:
- ターゲット:重要アカウント(アカウント単位)
- 施策:パーソナライズドコンテンツ、アカウントベース広告、エグゼクティブエンゲージメント
- KPI:MQA数、アカウント受注率
DemandbaseのCMOインタビューでも、「デマンドジェネレーションとABMを同時に管理することで、パイプライン拡大と受注率向上を両立できる」と紹介されています。
(3) 2つのファネルを同時に管理する組織体制
デュアルファネル戦略を実行するには、組織体制の整備が不可欠です。
組織体制の例:
- デマンドジェネレーションチーム: 幅広い見込み客獲得(MQL重視)
- ABMチーム: 重要アカウント攻略(MQA重視)
- カスタマーサクセスチーム: 既存顧客育成(インフルエンスファネル)
Metadata.ioの解説でも、「人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で体制を整備し、チームを顧客セグメント別に分けることが成功の鍵」と強調されています。
(4) 顧客セグメント別のチーム分け
顧客セグメント別にチームを分けることで、各セグメントに最適化された施策を実行できます。
セグメント例:
- エンタープライズ顧客: ABMチームが担当
- 中小企業顧客: デマンドジェネレーションチームが担当
- 既存顧客: カスタマーサクセスチームが担当
デュアルファネルの導入と運用方法
デュアルファネルを成功させるためには、適切な導入と運用が必要です。
(1) 人・プロセス・テクノロジーの3つの観点
デュアルファネル運用には、以下の3つの要素を整備する必要があります。
人(People):
- デマンドジェネレーション担当、ABM担当、カスタマーサクセス担当を配置
- 各チームの役割と責任を明確化
プロセス(Process):
- MQLとMQAの定義を明確化
- 営業との連携フロー(リードパス、アカウントパス)を整備
- 既存顧客のヘルススコア(継続利用度)を定期的に評価
テクノロジー(Technology):
- MAツール(HubSpot、Marketo、Pardotなど)
- ABMプラットフォーム(Demandbase、6senseなど)
- CRM(Salesforce、Microsoft Dynamicsなど)
(2) 新規獲得と既存育成のデータ統合
新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合することで、顧客全体のライフサイクルを可視化できます。
統合データの活用例:
- 既存顧客の推奨行動(紹介・口コミ)を新規獲得のリードソースとして追跡
- 新規顧客の初回購入後の行動を分析し、継続率向上の施策に反映
電通デジタルとAdobeのソリューションでも、「統合データ活用により、新規・既存の課題を同時解決できる」と紹介されています。
(3) マーケティングROIの向上
デュアルファネルにより、以下のようなROI向上が期待できます。
ROI向上の要因:
- 既存顧客の継続利用により、LTV(顧客生涯価値)が増加
- 推奨行動により、新規顧客獲得コストが削減
- 2つのファネルを統合管理することで、施策の重複や無駄が削減
(4) リソース分散のリスクと対策
デュアルファネルは2つのファネルを同時に運用するため、リソース(人・予算・時間)が薄く広がるリスクがあります。
リスク:
- 限られたリソースで2つのファネルを運用すると、どちらも中途半端になる可能性
- 特に中小企業では、一点集中の方が効果的な場合もある
対策:
- スモールスタートで段階的に導入(まずは1つのファネルに注力し、安定してから拡大)
- 外部パートナー(代理店・ツールベンダー)の活用
- 優先順位をつけ、リソースを重点的に配分
BOL Agencyの評価でも、「デュアルファネルは効果的だが、リソースが限られている企業では慎重に導入すべき」と指摘されています。
(5) 複雑なBtoB購買プロセスへの対応
BtoBでは、複数の意思決定者が関与する複雑な購買プロセスが一般的です。デュアルファネルでは、各意思決定者の役割や関心に応じたパーソナライズドコンテンツを提供することが重要です。
複雑な購買プロセスへの対応:
- 決裁者、実務担当者、技術担当者など、役割別にコンテンツをカスタマイズ
- アカウント単位で購買委員会全体のエンゲージメントを追跡
- 営業チームと連携し、各意思決定者の関心に応じた提案を行う
まとめ:顧客全体を見据えた統合的マーケティングへ
デュアルファネルは、パーチェスファネル(新規顧客獲得)とインフルエンスファネル(既存顧客育成)を統合したマーケティングモデルです。従来の単一ファネルは購入までしか追跡しませんが、デュアルファネルは購入後の継続利用・推奨行動も管理し、顧客全体のライフサイクルを可視化します。
BtoBでは、デマンドジェネレーション(MQL重視)とABM(MQA重視)の2つのファネルを同時に管理することで、パイプライン拡大と受注率向上を両立できます。人・プロセス・テクノロジーの3つの観点で運用体制を整備し、新規と既存のデータを統合してマーケティングROIを向上させましょう。
ただし、リソース分散のリスクがあるため、中小企業はスモールスタートで段階的に導入することが重要です。また、デュアルファネルの定義は企業によって異なるため、自社の顧客行動に合わせてカスタマイズすることをお勧めします。
次のアクション:
- 自社の顧客ライフサイクルを可視化し、パーチェスファネルとインフルエンスファネルの各段階を定義する
- デマンドジェネレーションとABMの役割分担を明確にし、組織体制を整備する
- MAツール・CRM・ABMプラットフォームなど、必要なテクノロジーを選定・導入する
- 新規顧客獲得と既存顧客育成のデータを統合し、一貫した施策を実行する
- スモールスタートで導入し、効果を測定しながら段階的に拡大する
顧客全体を見据えた統合的マーケティングにより、持続的な成長を実現しましょう。
※この記事は2024年時点の情報です。マーケティング戦略のトレンドは変化するため、最新の情報は信頼できるメディアや公式サイトをご確認ください。
