ABMの注目が高まる背景と「成果の差」が生まれる理由
ABMは戦略策定だけでなく、MA/SFA連携の実装設計とマーケ・営業連携の体制構築まで一体で進めることで、優良顧客からの収益最大化を実現できます。これが本記事の結論です。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、BtoB企業が重要なターゲット企業をアカウント単位で特定し、営業とマーケティングが連携してパーソナライズされたアプローチを行う戦略です。
2024年の調査によると、日本のBtoB企業におけるABMの認知度は42.0%であり、ABMを認知している企業の70.6%がすでに導入しています。この数字は、ABMが単なるトレンドではなく、実践フェーズに入っていることを示しています。
しかし、ABMを導入しても成果に差が生まれるケースが見られます。その原因の多くは、戦略策定で満足してしまい、実装・運用設計まで踏み込めていないことにあります。
この記事で分かること
- ABMの基本概念と従来のリード獲得型との違い
- 自社がABMに向いているかを判断するチェックリスト
- ABM導入で成果を出している企業の事例と効果
- 実装・運用設計のポイントとプロセスフロー
ABMの定義と従来のリード獲得型マーケティングとの違い
ABM(アカウントベースドマーケティング) は、最初からターゲット企業を絞り込んでアプローチする点が従来のマーケティングと大きく異なります。
リードジェネレーションは、広範なターゲットにリーチしてリードを大量に獲得し、育成・選別していく従来型のマーケティング手法です。「広く集めて絞り込む」アプローチと言えます。
一方、ABMは「最初から絞って深掘りする」アプローチです。ターゲット企業を明確にした上で、その企業内の複数の意思決定者に対してパーソナライズされたコミュニケーションを展開します。
| 項目 | リードジェネレーション | ABM |
|---|---|---|
| アプローチ | 広範囲から絞り込み | ターゲット企業起点 |
| 対象 | 個人(リード) | 企業(アカウント) |
| 施策 | 大量配信・一括管理 | パーソナライズ・個別対応 |
| KPI | リード数・MQL数 | ターゲット企業の商談化率 |
ABMとリードジェネレーションの使い分け
ABMとリードジェネレーションは二者択一ではなく、併用することで効果を最大化できます。
高額・複雑な商材を扱い、意思決定に複数の関係者が関わるBtoB企業では、ABMの効果が高いとされています。一方、広範な顧客層を持つ商材や、市場シェア拡大を優先するフェーズではリードジェネレーションが適しています。
自社の商材特性、ターゲット市場、組織体制を踏まえて、両者のバランスを検討することが重要です。
ABMが向いている企業・向いていない企業の判断基準
ABMはすべてのBtoB企業に向いているわけではありません。導入前に自社の適性を見極めることが、成功への第一歩です。
2024年の調査では、ABM導入企業が直面する課題として「社内のリソース不足」51.7%、「マーケティング施策に関するノウハウ不足」48.3%、「企業ブランドの認知力不足」44.9%が報告されています。これらの課題を事前に把握し、対策を講じておくことが重要です。
【チェックリスト】ABM導入適性チェックリスト
- 商材単価が高額である(年間契約で数百万円以上が目安)
- 購買に複数の意思決定者が関与する商材である
- ターゲット企業を具体的にリストアップできる
- 営業部門とマーケティング部門が連携できる体制がある
- MA/SFAツールを導入済み、または導入予定である
- ターゲット企業の情報を収集・分析するリソースがある
- パーソナライズされたコンテンツを制作できる体制がある
- 営業担当がターゲット企業に対して個別アプローチできる
- 施策の効果測定を行うKPIが設定できる
- 中長期的な視点で施策を継続できる
診断結果の目安
- 8項目以上該当: ABM導入の適性が高いです。実施プロセスの設計に進んでください
- 5〜7項目該当: 部分的にABMを導入可能です。不足項目の整備を並行して進めてください
- 4項目以下該当: まずリードジェネレーションの強化を優先し、体制整備を進めてください
ABM導入で成果を出している企業の事例と効果
ABM導入企業の76.4%がABMによる成果を実感しています(ただし、自己申告ベースの成果実感であり、客観的なROI測定ではない点に注意が必要です)。
具体的な効果として、「ブランド価値・信頼性獲得につながった」54.4%、「案件単価・受注金額が上昇した」51.5%、「複数部署や関連会社の開拓が実現した」51.5%が報告されています。
成功事例として報告されている数値
- NECや村田製作所のABM導入事例では、受注率約5倍、売上前年比約2倍を達成したと報告されています
- SAPジャパンは4万社から2,000社にターゲットを絞り込むことで効率化を実現しています
- 大手IT・製造業でのABM導入相場として、受注率3〜7倍、売上1.5〜2倍が成功事例として報告されています
これらの成功事例はベンダーや企業自身の発表に基づくものが多く、成功バイアスがある点に留意が必要です。失敗事例のデータは公開されていないため、これらの数値を鵜呑みにせず、自社の状況に照らして判断することが重要です。
ABMの実施プロセスと実装・運用設計のポイント
ABMで成果を出すには、戦略策定から実装・運用までを一貫して設計することが不可欠です。
よくある失敗パターンとして、ABMを「ターゲット企業を絞るだけ」と捉え、戦略策定で満足して実装・運用設計を疎かにするケースがあります。この場合、結局はリード獲得型と変わらない属人的なアプローチに終わってしまいます。
コンタクトマップは、ターゲット企業内の意思決定者・影響者をマッピングし、複数の接点を可視化する手法です。ABMでは、単一の担当者だけでなく、組織図を把握した上で複数のキーパーソンにアプローチすることが重要です。
インテントデータは、見込み客の購買意図を示すWeb行動データです。ターゲット企業の購買検討状況を把握し、適切なタイミングでアプローチするために活用されます。
なお、グローバルABM市場規模は2025年に10億3,000万米ドルと推定され、2030年には18億3,000万米ドルに達すると予測されています(CAGR 12.1%)。これはグローバル市場のデータであり、日本市場特化ではありませんが、ABMへの投資が世界的に拡大していることを示しています。
【フロー図】ABM実施プロセスフロー
flowchart TD
A[戦略策定] --> B[ターゲット選定]
B --> C[コンタクトマップ構築]
C --> D[MA/SFA連携設計]
D --> E[コンテンツ・施策実行]
E --> F[営業への引き渡し]
F --> G[効果測定・改善]
G --> E
A --> A1[目標KPI設定]
A --> A2[体制・役割分担]
B --> B1[ターゲット企業リスト作成]
B --> B2[優先順位付け]
C --> C1[意思決定者の特定]
C --> C2[接点情報の整理]
D --> D1[データ連携設計]
D --> D2[トリガー設定]
MA/SFA連携とマーケ・営業の体制構築
ABM導入はツール導入ではなく、営業・マーケティングのデータ共有体制と連携が前提条件です。
MA/SFA連携のポイント
- ターゲット企業単位でのデータ管理(アカウント×コンタクトの紐付け)
- 営業とマーケティングで共通のKPIを設定(ターゲット企業の商談化率など)
- 入力項目を必須項目のみに絞り、データ活用を促進
- ターゲット企業の行動(Web訪問、メール開封など)を営業に即時共有
マーケ・営業連携の体制構築
- 定期的なミーティングでターゲット企業の状況を共有
- 営業からのフィードバックをマーケティング施策に反映
- 商談進捗とマーケティング施策の効果を紐付けて分析
まとめ:ABMを「戦略」で終わらせないために
ABMで成果を出すためのポイントを整理します。
- ABMは「ターゲット企業を絞る戦略」だけでなく、実装・運用設計まで一体で進める
- 導入前にチェックリストで自社の適性を確認し、課題を把握しておく
- MA/SFA連携とマーケ・営業連携の体制を整備してから施策を開始する
- 成功事例を参考にしつつも、自社の状況に合わせた目標設定を行う
- 効果測定と改善のサイクルを継続的に回す
まずは本記事のチェックリストで自社の導入適性を診断してください。適性が確認できたら、実施プロセスフローに沿って具体的な設計を進めましょう。
ABMは戦略策定だけでなく、MA/SFA連携の実装設計とマーケ・営業連携の体制構築まで一体で進めることで、優良顧客からの収益最大化を実現できます。
