営業BPRが注目される背景と「表面的な改善」の課題
先に答えを言うと、営業BPRは、業務フローの見直しだけでなく、MA/SFA連携によるデータ基盤整備と専門家の支援があって初めて営業成果につながります。
BPR(Business Process Reengineering) とは、業務プロセスを根本から見直し、組織構造やシステムを含めて抜本的に再設計する業務改革手法です。JMACの調べによると、現在では約7割の企業がBPRを実施しており、1990年代から2010年代にかけて普及が加速しました(調査時期・対象の詳細は不明)。
しかし、多くの営業組織が「BPRに取り組んでいる」と言いながらも、実際には部門内の業務効率化にとどまり、成果につながっていないケースが少なくありません。営業プロセスの属人化や非効率を解消するには、表面的な改善ではなく、MA/SFA連携を前提とした全社的なプロセス再設計が求められます。
この記事で分かること
- 営業BPRと業務改善の違い
- 営業BPR実践の具体的なステップ
- MA/SFA連携を前提としたプロセス再設計のポイント
- 成功事例と推進のためのチェックリスト
営業BPRとは|業務改善との違いと基本概念
営業BPRとは、営業組織における業務プロセスを根本から見直し、組織構造やシステムを含めて抜本的に再設計する取り組みです。単なる業務効率化ではなく、営業成果向上を目的としたプロセス全体の再構築を指します。
営業組織においてBPRが必要になる背景として、以下のような課題が挙げられます。
- 営業プロセスが担当者に属人化している
- MA/SFAを導入済みだが活用できていない
- 部門間でデータが分断されている
- 営業活動の可視化ができていない
業務改善とBPRの違い
業務改善とBPRは、改善の対象範囲と深さが異なります。
業務改善は、既存の業務プロセスを前提として、その中で効率化や改善を図る取り組みです。部分的な最適化を目指し、現行の仕組みを維持しながら改善を積み重ねていきます。
一方、BPRは、既存のプロセスをゼロベースで見直し、組織構造やシステムを含めて抜本的に再設計します。部分最適ではなく全体最適を目指し、場合によっては業務の廃止や統合も含む大きな変革を伴います。
営業組織では、部門内の効率化(業務改善)だけでは成果に限界があり、マーケティングからカスタマーサクセスまでを含む全社的なプロセス再設計(BPR)が営業成果につながります。
営業BPR実践ステップ|業務可視化からシステム連携まで
営業BPRを成功させるには、現状分析から継続改善までの一連のステップを着実に進めることが重要です。以下に、営業BPR実践の基本的なフローを示します。
【フロー図】営業BPR実践ステップフロー
flowchart TD
A[現状分析] --> B[課題特定]
B --> C[プロセス再設計]
C --> D[導入・運用]
D --> E[継続改善]
E --> B
A1[業務フローの可視化] --> A
A2[タスク量・工数の把握] --> A
A3[カスタマージャーニー整理] --> A
B1[ボトルネックの特定] --> B
B2[属人化ポイントの洗い出し] --> B
C1[MA/SFA連携設計] --> C
C2[KPI設定] --> C
C3[役割分担の再定義] --> C
D1[パイロット検証] --> D
D2[本格導入] --> D
D3[定着支援] --> D
業務可視化の重要性を示す事例として、日立システムズと東海村の共同研究では、全29課を対象に4,339業務の可視化を実施し、総労働時間の1.21%にあたる12,680時間相当の業務量削減案を創出しました。これは削減「案」であり実績値ではありませんが、業務可視化が改善余地の発見につながることを示しています。
業務可視化の進め方
業務可視化は、BPR成功の第一歩です。以下のアプローチが有効とされています。
カスタマージャーニーマップとは、顧客が認知から購入・利用に至るまでの行動と心理を時系列で可視化した図です。営業プロセス再設計の基礎資料として活用できます。
業務可視化のポイント:
- 営業プロセス全体をフローチャート化する
- 各タスクの所要時間と担当者を明確にする
- 顧客接点ごとの対応内容を整理する
- データの流れ(どこで取得し、どこに格納するか)を把握する
MA/SFA連携を前提とした営業プロセス再設計
営業BPRで成果を出すには、MA/SFA連携によるデータ基盤整備が不可欠です。部門単位の業務効率化だけでは、全社的な営業成果向上にはつながりません。
よくある失敗パターンとして、営業BPRを「部門内の業務効率化」と捉え、MA/SFAとのシステム連携や全社的なプロセス再設計を後回しにして、表面的な改善に留まるケースがあります。この考え方は誤りであり、ツール導入と業務プロセス再設計をセットで進める必要があります。
RPA(Robotic Process Automation) とは、定型的な業務を自動化するソフトウェアロボット技術です。データ入力や転記作業の効率化に活用されます。AI-OCRは、AI技術を活用した光学文字認識で、手書き文字や帳票の自動読み取りに使用されBPRの自動化ツールとして活用されています。
部門単位の改善では不十分な理由
部門単位の最適化(部分最適)と全社的なプロセス再設計(全体最適)では、得られる成果が大きく異なります。
部分最適にとどまると:
- マーケティングと営業でリードの定義が異なり、引き渡しがうまくいかない
- MA/SFAにデータは入力されているが、分析・活用されていない
- 部門ごとにKPIが異なり、全体の成果が見えない
全体最適を目指すと:
- マーケティングから営業、カスタマーサクセスまで一貫したデータ基盤が構築される
- リード獲得から商談、受注、継続利用までのプロセスが可視化される
- 全社共通のKPIで営業成果を測定・改善できる
なお、高機能・高額ツールが良いという誤解もありますが、自社規模に合ったシンプルなものの方が定着しやすいケースも多いです。
営業BPR成功事例と推進のポイント
営業BPRの成功には、経営層のコミットメントと現場の巻き込みの両方が必要です。以下に、参考となる事例とチェックリストを紹介します。
営業組織での事例として、豊田自動織機はフォークリフトの新興国営業体制改善により、成約数2倍を達成しました(個別企業事例)。また、建設系DX事業会社はリスティング広告とLP改善により、リード数3倍・CPA60%削減を達成しています(個別事例)。SCSK株式会社はサービスサイトリニューアル後、問い合わせ数が3倍に増加しました(リニューアル後3年間、個別事例)。
自治体事例(参考) として、佐賀県佐賀市は事業見直しとデジタル化推進により、職員勤務時間を約2,620時間削減しました(2020年度)。北海道恵庭市税務課はRPA・AI-OCR導入により、年間232時間の業務削減に成功しています。これらは自治体事例のため、BtoB営業組織への直接適用には文脈の読み替えが必要ですが、業務可視化とツール活用の効果を示す参考になります。
【チェックリスト】営業BPR準備チェックリスト
- 経営層がBPR推進にコミットしている
- BPR推進の責任者・担当者がアサインされている
- 現状の営業プロセスがフローチャート化されている
- 各業務のタスク量・工数が把握されている
- 営業プロセスのボトルネックが特定されている
- 属人化しているポイントが洗い出されている
- カスタマージャーニーマップが作成されている
- BPR後のKPIが設定されている
- MA/SFA連携の設計が完了している
- マーケティングと営業でリード定義が合意されている
- データの流れ(取得・格納・活用)が整理されている
- パイロット検証の計画がある
- 定着支援の体制が整っている
- 現場メンバーへの説明・トレーニング計画がある
- 継続改善のサイクル(レビュー頻度等)が決まっている
トップダウン推進と現場巻き込みの両立
BPR推進では、経営層のリーダーシップと現場の理解・協力の両方が必要です。
トップダウン推進のポイント:
- 経営層がBPRの目的と期待成果を明確に示す
- 必要なリソース(予算・人員・時間)を確保する
- 部門横断的な推進体制を構築する
現場巻き込みのポイント:
- 現場メンバーに「なぜBPRが必要か」を丁寧に説明する
- 現場の意見を吸い上げ、設計に反映する
- 小さな成功事例(パイロット検証)で効果を実感してもらう
まとめ|営業BPRで成果を出すために必要なこと
本記事では、営業BPRの基本概念から実践ステップ、MA/SFA連携のポイント、成功事例までを解説しました。
要点を整理します:
- 営業BPRは業務改善とは異なり、プロセス全体をゼロベースで再設計する取り組み
- 業務可視化がBPR成功の第一歩(カスタマージャーニーマップ、フローチャート化)
- 部門単位の効率化ではなく、MA/SFA連携による全社的なデータ基盤整備が重要
- 経営層のコミットメントと現場の巻き込みの両方が必要
- パイロット検証で効果を確認し、段階的に展開する
JMACの調べによると、約7割の企業がBPRを実施していますが、成果を出すには運用定着が重要です。本記事のチェックリストを活用して自社の準備状況を診断し、まずは現状の業務可視化から始めてみてください。
繰り返しになりますが、営業BPRは、業務フローの見直しだけでなく、MA/SFA連携によるデータ基盤整備と専門家の支援があって初めて営業成果につながります。
