上場準備にマーケティング部門が関わる理由と本記事の目的
多くの人が見落としがちですが、上場準備においてマーケティング部門は、MA/SFA/CRMのデータ整備と運用プロセスの標準化を通じて、監査対応と内部統制構築に重要な役割を担います。
上場準備というと経理・法務・総務などバックオフィス部門の業務と思われがちですが、マーケティング部門も内部統制の対象であり、売上データの整合性やKPI管理体制が審査でチェックされます。
グロース市場とは、東証の新興企業向け市場です。高い成長可能性を有する企業が対象で、規模・成熟度に応じた柔軟な審査基準が適用されます。
2025年のグロース市場IPO社数は41社で、前年比4割減の12年ぶり低水準となりました。一方で時価総額中央値は過去10年で初の100億円を突破し、7割増となっています(JPX, 2025年データ)。また、赤字上場企業は2024年の12社から2025年の3社に減少(前年比75%減)しており、データ管理体制の強化が寄与していると報告されています(JPX, 2025年データ)。
この記事で分かること
- 上場準備の全体スケジュールとマーケ部門の位置づけ
- 上場審査で求められる内部統制とマーケ業務の関係
- MA/SFA/CRMデータ管理体制の整備方法
- フェーズ別の対応タスクとチェックリスト
上場準備の全体スケジュールとマーケ部門の位置づけ
上場準備には通常3年程度が必要で、マーケティング部門は準備中盤から関与を強化していく必要があります。市場(グロース市場・東京プロマーケットなど)によって準備期間や要件が異なるため、自社の状況に合わせたスケジュール設計が重要です。
N期とは、上場初年度を指します。内部統制評価はN期から開始し、上場審査前1年間の運用実績蓄積が必須となります。
東京プロマーケットは、特定投資家(プロ投資家)向け市場です。一般市場より上場準備期間が短く、約1年半が目安とされています。
上場までの標準的なスケジュール
上場準備には通常3年程度が必要で、直前2期間分の会計監査実施が要件です。内部統制評価は上場初年度(N期)から開始されます(JPX内部統制ハンドブック, 2026年1月版)。
標準的なスケジュールは以下のとおりです。
- N-3期: 上場準備開始、監査法人・主幹事証券の選定、内部管理体制の整備着手
- N-2期: 内部統制の構築、各種規程の策定、会計監査の開始
- N-1期: 内部統制の運用、運用実績の蓄積、上場審査の準備
- N期: 内部統制評価の本格実施、上場審査、上場
東京プロマーケットの場合は、上場準備期間の目安が約1年半です。内部管理体制・コーポレートガバナンス・業績管理・開示体制の整備を進めます。
マーケ部門が関与するタイミング
マーケティング部門は準備中盤(N-2期頃)から関与を強化することが推奨されます。具体的には以下のタイミングで対応が必要です。
- N-2期: 販売管理・与信管理のフロー整備、MA/SFA/CRMのデータ管理体制構築開始
- N-1期: IR資料への顧客獲得戦略の記載準備(ARR/MRRなどSaaS指標の整理)、運用実績の蓄積
- N期: 審査対応、KPI実績の報告体制確立
J-Adviserとは、東京プロマーケットの上場支援専門家です。上場準備の指導・調査・審査を担当する認定機関で、早期の相談が推奨されます。
上場審査で求められる内部統制とマーケ業務の関係
上場審査において、マーケティング部門は内部統制の対象として、販売管理・与信管理・購買管理のフローと規程が確認されます。上場準備企業の70-80%が管理部門再編を実施しており、マーケティング領域では販売/購買/与信管理制度の整備が標準となっています(2026年最新推奨プロセス)。
内部統制とは、企業の業務の有効性・効率性、財務報告の信頼性、法令遵守を確保するための組織的な仕組みです。上場審査の実質基準の中核となります。
マーケ業務における内部統制の対象範囲
マーケティング部門の業務で内部統制の対象となる主な領域は以下のとおりです。
- 販売管理: リード獲得から受注までのデータフロー、売上計上プロセスの整合性
- 与信管理: 取引先の信用調査・与信枠設定のルール、公正取引の牽制機能
- 購買管理: 広告出稿・外注委託などの発注プロセス、関連当事者取引の妥当性確認
これらの領域で、誰が・どのような権限で・どのタイミングで判断・承認するかを規程化し、運用実績を蓄積することが求められます。
よくある失敗パターンと回避策
よくある失敗パターンとして、上場準備はバックオフィス(経理・法務・総務)の仕事だと考え、マーケティング部門が準備を後回しにするケースがあります。この場合、売上データの整合性やKPI管理体制の不備で審査対応が遅れる事態に陥りがちです。
具体的な失敗例としては以下が挙げられます。
- MA/SFA/CRMのデータが連携されておらず、売上のトレーサビリティが証明できない
- KPIの定義が曖昧で、月次報告の整合性が取れていない
- 広告出稿や外注委託の承認フローが規程化されていない
これらを回避するには、N-2期の早い段階からマーケ部門も準備に参加し、データ管理体制とフローの規程化を進めることが重要です。
監査対応に必要なMA/SFA/CRMデータ管理体制
監査対応では、売上データのトレーサビリティとKPIの整合性が確認されます。MA/SFA/CRMを活用している企業は、これらのツール間のデータ連携と整合性確保が特に重要です。
技術承継機構(2025年IPO)はデータ管理体制強化により短期間で時価総額173億円から840億円へ成長しました。DX人材の組織化が成功の鍵だったと報告されています。
売上データの整合性とトレーサビリティ
リード獲得から受注までのデータフローを整備し、各プロセスのデータが追跡可能な状態にすることが求められます。
具体的には以下の対応が必要です。
- MAで獲得したリードがSFAにどのように引き渡されているかの記録
- SFAでの商談進捗からCRMでの受注データへの連携の整合性
- 売上計上のタイミングと根拠となるデータソースの明確化
データの連携が自動化されていない場合は、手動でのデータ移行ルールを規程化し、記録を残すことで監査対応が可能になります。
KPI管理と月次報告体制の構築
マーケティングKPIの定義を明確にし、月次で報告する体制を構築します。これにより、上場審査前1年間の運用実績を蓄積できます。
主要なKPIとしては以下が挙げられます。
- リード獲得数・コンバージョン率
- 顧客獲得コスト(CAC)
- 顧客生涯価値(LTV)
- SaaS企業の場合はARR/MRR
これらのKPIを月次決算と連動させて報告する体制を作ることで、内部監査の1年蓄積で運用実績を証明できます。
フェーズ別マーケ部門の対応とチェックリスト
上場準備のフェーズごとにマーケティング部門が対応すべきタスクを整理します。上場準備には通常3年程度が必要で、直前2期間分の会計監査実施が要件です(JPX内部統制ハンドブック, 2026年1月版)。
上場準備企業の70-80%が管理部門再編を実施しており、計画的な対応が成功の鍵となります。
【比較表】上場準備フェーズ別マーケティング部門対応一覧
| フェーズ | 期間目安 | マーケ部門の主なタスク | 成果物・確認項目 |
|---|---|---|---|
| N-3期 | 準備開始〜1年目 | データ管理体制の現状把握、課題の洗い出し | 現状分析レポート、改善計画 |
| N-2期 | 2年目 | MA/SFA/CRM連携設計、販売管理フローの規程化 | データ連携フロー図、販売管理規程 |
| N-2期 | 2年目 | 与信管理・購買管理ルールの策定 | 与信管理規程、購買管理規程 |
| N-1期 | 3年目前半 | 規程に基づく運用開始、KPI月次報告体制の構築 | KPI報告書テンプレート |
| N-1期 | 3年目前半 | IR資料への顧客獲得戦略の記載準備 | IR資料ドラフト |
| N期 | 上場年度 | 運用実績の蓄積(1年間)、審査対応 | 運用実績報告書、審査対応資料 |
| N期 | 上場年度 | 内部監査への対応、不備の是正 | 監査指摘事項対応報告 |
【チェックリスト】マーケティング部門上場準備チェックリスト
- MA/SFA/CRMのデータ連携状況を把握した
- リード獲得から受注までのデータフローを可視化した
- 売上データのトレーサビリティを確保した
- 販売管理フローを規程化した
- 与信管理ルールを策定した
- 購買管理(広告出稿・外注委託)の承認フローを規程化した
- マーケティングKPIの定義を明確にした
- KPI月次報告体制を構築した
- IR資料に記載する顧客獲得戦略を整理した
- SaaS指標(ARR/MRR)の算出方法を統一した
- データ入力ルールを担当者に周知した
- 運用実績の記録方法を確立した
- 内部監査への対応体制を整備した
- 不備発生時の是正フローを決定した
- 監査法人またはJ-Adviserとの相談を開始した
N-3期からN-1期までの準備タスク
N-3期からN-1期までは、体制整備と規程策定が中心となります。
- N-3期: データ管理の現状把握、課題の洗い出し、改善計画の策定
- N-2期: 販売/購買/与信管理のフロー規程化、MA/SFA/CRMのデータ連携設計
- N-1期: 規程に基づく運用開始、運用実績の蓄積開始、IR資料の準備
特に販売/購買/与信管理のフロー規程化は、内部統制の中核となるため、経理部門や法務部門と連携しながら進めることが重要です。
N期の運用実績蓄積と審査対応
N期は上場初年度で、内部統制評価が本格的に開始されます。上場審査前1年間の運用実績蓄積が必須となるため、N-1期から開始した運用を継続し、記録を残すことが求められます。
審査対応では、以下の点が確認されます。
- 規程どおりに運用されているかの証跡
- KPIの実績値と報告の整合性
- 不備が発生した場合の是正対応
内部監査の1年蓄積要件があるため、N-1期の早い段階から運用を開始し、実績を積み上げることが重要です。
まとめ:マーケ部門から始める計画的な上場準備
本記事では、上場準備においてマーケティング部門が対応すべきタスクを、フェーズ別に解説しました。
重要なポイント
- 上場準備は経理・法務だけでなく、マーケティング部門も内部統制の対象
- 販売管理・与信管理・購買管理のフローを規程化し、運用実績を蓄積する
- MA/SFA/CRMのデータ連携と整合性確保が監査対応の鍵
- N-2期の早い段階から準備に参加し、1年間の運用実績を確保する
上場準備においてマーケティング部門は、MA/SFA/CRMのデータ整備と運用プロセスの標準化を通じて、監査対応と内部統制構築に重要な役割を担います。本記事のチェックリストを活用し、計画的に準備を進めてください。早期の監査法人・J-Adviser相談もあわせて検討することを推奨します。
