HubSpot導入で「活用できない」状態に陥る企業の共通点
HubSpot導入とは何か。HubSpot導入の成否を分けるのは機能選定ではなく、導入前の要件定義と社内体制の整備です。
HubSpotは世界120カ国以上で約114,000社に導入されている(2021年時点)グローバルなCRM/MAプラットフォームです。しかし、日本企業では「導入したが使いこなせていない」「機能が多すぎて何から手をつけていいかわからない」という声が多く聞かれます。
よくある失敗パターンとして、「機能が豊富だから」「無料から始められるから」という理由でHubSpotを導入し、目的・KPI・運用体制を決めないまま利用開始して活用が進まないケースがあります。この考え方は誤りです。
ツールの機能が優れていても、導入前の準備が不足していれば成果にはつながりません。本記事では、HubSpot導入を検討している企業が「使いこなせない」状態に陥らないための準備と体制整備について解説します。
この記事で分かること
- HubSpot導入が失敗する企業に共通する原因
- 各Hubの基本機能と自社に必要な機能の見極め方
- 導入前に決めておくべき要件定義のポイント
- よくある失敗パターンとその回避策
- 導入支援の選択肢と運用定着のポイント
HubSpotの基本機能と各Hubの役割
HubSpotは複数の機能モジュールで構成されており、自社の目的に応じて必要なHubを選択して導入します。全体像を理解することで、自社に必要な機能を判断できるようになります。
Hubとは、HubSpotの機能モジュール単位を指します。Marketing/Sales/Service/CMS/Operations Hubの5つがあり、それぞれ異なる業務領域をカバーしています。
各Hubの役割は以下の通りです。
- Marketing Hub: リード獲得から育成までのマーケティング活動を自動化
- Sales Hub: 営業活動の可視化と効率化を支援
- Service Hub: カスタマーサポート・顧客対応の管理
- CMS Hub: Webサイトの構築・管理
- Operations Hub: データの同期・整理・自動化
自社の課題がどの領域にあるかを明確にした上で、必要なHubから段階的に導入することが成功のポイントです。
Marketing Hub:リード獲得・育成の自動化
Marketing Hubは、リード獲得から育成までのマーケティング活動を自動化するための機能を提供します。
主な機能として、フォーム作成、ランディングページ作成、メールマーケティング、ワークフローによる自動化があります。
ワークフローとは、条件に基づいて自動でアクションを実行するHubSpotの自動化機能です。例えば、「資料をダウンロードしたリードに3日後にフォローメールを送る」といった一連の流れを自動化できます。
マーケティング担当者が手作業で行っていたメール配信やリードの振り分けを自動化することで、工数削減と対応漏れ防止を実現できます。
Sales Hub:営業活動の可視化と効率化
Sales Hubは、営業活動の可視化と効率化を支援する機能を提供します。案件管理から営業活動の自動化まで、営業チームの生産性向上に貢献します。
パイプラインとは、営業案件の進捗状況を可視化する管理画面です。ステージごとに案件を整理し、どの案件がどの段階にあるかを一目で把握できます。
シーケンスとは、Sales Hubの機能で、営業メールとタスクを自動化するステップメール機能です。フォローアップメールの送信やリマインドタスクの作成を自動化し、営業担当者の工数を削減します。
営業現場がメリットを感じやすい機能から導入することで、定着率を高めることができます。
HubSpot導入前に決めておくべき要件定義
導入前の要件定義が、HubSpot活用の成否を大きく左右します。目的が曖昧なまま導入すると、「何をすればいいかわからない」状態に陥りやすくなります。
オブジェクトとは、HubSpotでデータを管理する単位です。コンタクト・会社・取引・チケットが標準オブジェクトとして用意されており、自社の業務に合わせてカスタムオブジェクトを追加することも可能です。
以下のチェックリストを活用して、導入前の準備状況を確認してください。
【チェックリスト】HubSpot導入前の準備チェックリスト
- HubSpot導入の目的が明文化されている
- 導入によって達成したいKPIが具体的に設定されている
- KPIの計測方法と計測タイミングが決まっている
- 導入する Hub(Marketing/Sales/Service等)が決定している
- 各Hubの利用範囲(使う機能・使わない機能)が整理されている
- 既存の顧客データの棚卸しが完了している
- データクレンジング(重複削除・古いデータの整理)の計画がある
- 他システムとの連携要件が整理されている
- 移行対象のデータ項目とマッピングが決まっている
- HubSpot運用の主担当者がアサインされている
- マーケティング部門の役割と担当者が決まっている
- 営業部門の役割と担当者が決まっている
- マーケと営業の連携ルール(MQL定義、引き渡し条件等)が合意されている
- 社内への導入説明・研修の計画がある
- 導入後の効果検証タイミングが決まっている
- 課題発生時のエスカレーションルートが決まっている
- 導入支援の要否と範囲が検討されている
目的・KPI設計:導入で達成したいゴールの明確化
目的・KPI設計は、HubSpot導入の最初のステップであり、最も重要な工程です。「とりあえず入れてみる」では、導入後に「何をすればいいかわからない」状態になりがちです。
事業目標と連動したKPI設定が重要です。例えば、「マーケティング部門でリード獲得数を増やしたい」という漠然とした目的ではなく、「半年後にMQL数を現状から増加させ、商談化率を改善する」といった具体的なゴールを設定します。
KPIは定量的に測定可能なものにし、HubSpotのダッシュボードで追跡できる形にしておくことで、導入効果の検証がしやすくなります。
データ整理:既存データの棚卸しと移行計画
データ移行は、量より質を優先することが重要です。古いデータや重複データをそのまま移行すると、HubSpot上でのデータ活用精度が下がります。
移行前に行うべきことは以下の通りです。
- 既存顧客データの棚卸し(どこに何のデータがあるか)
- 重複データの特定と統合
- 古いデータ(連絡先不明、退職済み等)の削除
- 移行対象項目のHubSpotオブジェクトへのマッピング
「全部移行してから整理する」という考え方は避けるべきです。移行後の整理は工数がかかり、結局放置されることが多いためです。
HubSpot導入が失敗するパターンと回避策
HubSpot導入の失敗には共通するパターンがあります。これらを事前に把握し、回避策を講じることで、導入成功の確率を高めることができます。
「機能が豊富だから」「無料から始められるから」という理由だけでHubSpotを導入し、目的・KPI・運用体制を決めないまま利用開始するのは典型的な失敗パターンです。この考え方では成果は出ません。
【比較表】導入失敗パターンと回避策の対応表
| 失敗パターン | 症状・状態 | 回避策 | 優先度 |
|---|---|---|---|
| 目的なき導入 | 何から始めればいいかわからない | 導入前にKPIと優先機能を明確化 | 最優先 |
| 全機能同時導入 | 設定が複雑化し運用が回らない | 優先度の高いHubから段階的に導入 | 高 |
| データ移行の軽視 | 古い・重複データで活用精度低下 | 移行前にクレンジングを実施 | 高 |
| 営業現場の未巻き込み | 営業が使わず入力されない | 営業メリットのある機能から導入 | 高 |
| 運用体制の未整備 | 誰が何をやるか不明確 | 役割分担と連携ルールを事前に決定 | 高 |
| KPI未設定 | 効果検証ができない | 測定可能なKPIを導入前に設定 | 中 |
失敗パターン:全機能を最初から使おうとする
全機能を最初から使いこなそうとすることは、導入失敗の典型的なパターンです。HubSpotは機能が豊富な分、すべてを同時に設定・運用しようとすると、設定作業が膨大になり、運用が定着する前に挫折するケースが多く見られます。
回避策は、優先度の高いHub/機能から段階的に導入することです。例えば、まずはCRM機能で顧客管理を始め、次にMarketing Hubのメール配信、その後ワークフローによる自動化、といった段階を踏むことで、各機能の定着を確認しながら進められます。
「全部できるようになってから本格運用」ではなく、「使いながら機能を拡張」というアプローチが成功につながります。
失敗パターン:営業現場の運用定着ができない
営業現場がHubSpotを使わない、入力してくれないという問題は、多くの企業で発生しています。マーケティング部門主導で導入したものの、営業部門の協力が得られず、データが蓄積されないケースです。
回避策は、営業が直感的にメリットを感じる自動化機能から導入することです。具体的には以下のような機能が有効です。
- リマインドの自動化(フォローアップ忘れ防止)
- メールテンプレートの活用(同じメールを何度も書かない)
- タスク管理の自動化(次のアクションを自動でリマインド)
営業担当者が「使うと楽になる」と実感できる体験を最初に提供することで、その後の機能拡張への協力も得やすくなります。
導入支援の選択肢と運用定着のポイント
自社だけでHubSpotを導入・運用するか、外部の支援を活用するかは、社内のリソースとノウハウに応じて判断します。どちらにもメリット・デメリットがあり、状況に応じた選択が重要です。
導入企業の事例として、NTTPCコミュニケーションズはHubSpot導入により約2億円の施策コスト削減を実現しています。また、株式会社サカエはHubSpot導入後、リード創出数が約2倍に増加したと報告されています。ただし、これらは個別事例であり、同様の効果を保証するものではありません。効果は企業の準備状況や運用体制に大きく依存します。
自社導入と支援会社活用の比較
自社導入と支援会社活用には、それぞれメリットとデメリットがあります。
自社導入のメリット
- コストを抑えられる
- 社内にノウハウが蓄積される
- 自社のペースで進められる
自社導入のデメリット
- 設計・設定に時間がかかる
- ベストプラクティスがわからない
- 躓いたときに相談先がない
支援会社活用のメリット
- 導入スピードが速い
- ベストプラクティスを活用できる
- 躓きポイントを事前に回避できる
支援会社活用のデメリット
- 外部コストがかかる
- 依存しすぎると社内にノウハウが残らない
社内にMAツールの設計・運用ノウハウがない場合は、要件定義フェーズだけでも外部支援を活用することで、導入スピードと定着率が向上する傾向があります。全工程を依頼する必要はなく、必要な部分だけ活用するという選択肢もあります。
導入後の運用定着に向けた社内体制
運用定着には、社内の体制づくりが欠かせません。導入して終わりではなく、継続的に活用し、改善していくための仕組みが必要です。
特に重要なのは、マーケティング部門と営業部門の連携設計です。以下の点を事前に決めておくことが推奨されます。
- MQL(Marketing Qualified Lead)の定義と判定基準
- MQLから営業への引き渡しルール
- 営業フィードバックの仕組み(リード品質の報告)
- 定期的なレビュー会議の設定
マーケと営業の連携がうまくいかないと、せっかく獲得したリードが放置されたり、営業から「リードの質が悪い」という不満が出たりします。事前にルールを決め、定期的に見直すサイクルを回すことが重要です。
まとめ:HubSpot導入成功の鍵は要件定義と社内体制の整備
本記事では、HubSpot導入で「使いこなせない」状態に陥らないための準備と体制整備について解説しました。
要点の整理
- HubSpotは機能が豊富だが、目的なき導入は失敗しやすい
- 各Hubの役割を理解し、自社に必要な機能から段階的に導入する
- 導入前の要件定義(目的・KPI・データ整理・体制)が成否を左右する
- 営業現場が使いたくなる機能から始めることで定着率が向上する
- 必要に応じて外部支援を活用し、ベストプラクティスを取り入れる
次のステップ
- 本記事のチェックリストで自社の準備状況を確認
- 導入目的とKPIを明文化
- 既存データの棚卸しとクレンジング計画を策定
- 運用体制と役割分担を決定
- 必要に応じて導入支援の活用を検討
HubSpot導入の成否を分けるのは機能選定ではなく、導入前の要件定義と社内体制の整備です。「機能が豊富だから」「無料から始められるから」という理由だけで導入を決めるのではなく、何のために導入するのか、どう運用するのかを事前に設計することが、導入成功への第一歩です。
