ツール導入しても定着しない企業に共通する課題
ツールを導入したが現場で使われない、使われていても期待した効果が出ていないという課題を解決したいなら、ツール定着を成功させるには「使い方の浸透」だけでなく、導入目的の明確化・業務プロセスへの組み込み・効果測定の仕組みまで一気通貫で設計することが重要であり、専門家の支援が有効です。
ROI(投資対効果) とは、投資に対してどれだけのリターン(収益)が得られたかを示す指標で、ツール導入の成果測定に使用されます。しかし、多くの企業でツール導入後の効果測定が課題となっています。
Ask One調査(2025年)によると、5つ以上のITツールを導入している企業でも、投資対効果を受注金額まで追えているのは30.2%にとどまります。また、Sponto調査(2025年、800社対象)では、生成AI等のツールを導入している企業42.1%のうち、ROIを適切に測定できている企業は23.7%という結果でした。
これらのデータが示すように、ツールを導入しただけでは成果につながりません。「使われている」と「成果が出ている」は異なる状態であり、後者を実現するためには戦略的なアプローチが必要です。
この記事で分かること
- ツール定着の定義と正しいKPI設計の考え方
- ツールが定着しない主な原因と誤ったアプローチ
- フェーズ別の定着アプローチと具体的な施策
- ツール定着のためのチェックリスト
- 効果測定の仕組みと定期レビューの進め方
ツール定着とは|定着の定義と正しいKPI設計
ツール定着とは、導入したツールが継続的に利用され、かつ業務成果に貢献している状態を指します。単に「ログインしている」「データが入力されている」だけでは、真の定着とは言えません。
ログイン率は、対象ユーザーのうち一定期間内にログインした割合を示す指標で、ツール定着の基本的な測定指標として使用されます。アクティブ率は、ツールのコア操作(商談登録、メール配信等)を実施したユーザーの割合を示し、より実質的な定着度を測る指標です。
MA(マーケティングオートメーション) は、マーケティング業務を自動化・効率化するツールで、リード獲得からナーチャリング、スコアリングまでを支援します。SFA(営業支援システム) は、営業活動の可視化・効率化を支援するシステムで、案件管理、商談進捗、営業実績の一元管理が可能です。
しかし、ITツールを複数導入している企業の70%以上が、マーケ施策の効果測定をExcelやスプレッドシートで行っているという調査結果があります(Ask One調査、2025年)。せっかくツールを導入しても、効果測定の仕組みが整っていなければ、定着が進んでいるのかどうかも判断できません。
ツール定着のKPIは3階層で設計することが推奨されています。第1階層は「利用・定着」で、ログイン率を高い水準に保つことが目標です。第2階層は「業務効率」で、処理時間の削減などを測定します。第3階層は「売上・パイプライン」で、最終的な事業成果への貢献を測ります。
ログイン率が低い水準を切ると「定着不全」のサインとされています。また、部門間でログイン率に大きな差があると、全社定着に失敗しやすい傾向があります。初期段階では必須項目の入力完了率を高い水準に設定し、段階的にKPIを高度化していくアプローチが有効です。
ツールが定着しない主な原因と誤ったアプローチ
ツールが定着しない原因は複合的ですが、最も多いのは「使い方の研修」や「マニュアル整備」だけで定着させようとし、業務プロセスへの組み込みや効果測定を後回しにするケースです。この考え方は誤りであり、研修やマニュアルだけでは「使われているが成果が出ない」状態に陥りやすくなります。
BtoB向けMAツールの導入率は33.9%(ベーシック調査、全国BtoBマーケ担当者330名対象、2025年)ですが、導入企業の半数以上が「運用が難しい」と回答しており、シナリオ設計・スコアリングが最大の課題とされています。ツールを導入しても、適切な運用設計ができていなければ効果は得られません。
また、組織的な課題も定着を阻む大きな要因です。BtoBマーケティングの課題として「人手不足・体制未整備」が34.3%で1位、「予算不足」が26.1%で2位となっています(2025年調査)。ツール定着には、人員体制の整備と適切な予算確保が不可欠です。
よくある誤解と失敗パターン
- ツールを導入すれば自動的に効果が出るという誤解
- 複数ツールを導入すれば高度な活用ができるという誤解
- 研修・マニュアルさえあれば定着するという誤解
- 利用率が上がれば成果も出るという誤解
約7割の企業はツール活用の成果を売上まで結びつけて把握できていないとされています。また、5つ以上のツールを導入しても効果測定はExcelで行っている企業が多い現状があります。ツールの数を増やすことよりも、導入したツールを業務成果に結びつける設計が重要です。
フェーズ別ツール定着アプローチ|導入期・浸透期・活用期
ツール定着は一度で完了するものではなく、段階的に進める必要があります。導入期・浸透期・活用期の3フェーズに分け、それぞれの目標と施策を明確にすることで、計画的な定着を実現できます。
【比較表】ツール定着フェーズ別対策表
| フェーズ | 期間目安 | 目標 | 主な施策 | KPI例 |
|---|---|---|---|---|
| 導入期 | 導入後1-2ヶ月 | 基本操作の習得・データ入力の習慣化 | 初期研修、操作マニュアル整備、ヘルプデスク設置 | 必須項目入力完了率、初回ログイン率 |
| 浸透期 | 導入後3-6ヶ月 | 日常業務への組み込み・利用の習慣化 | 業務フローへの組み込み、定期的なフォローアップ研修、利用状況の可視化 | 週次アクティブ率、機能利用率 |
| 活用期 | 導入後6ヶ月以降 | 業務成果への貢献・高度活用 | データ分析活用、営業連携強化、KPI達成に向けた改善 | 商談化率向上、業務効率化指標、ROI |
導入期では、まず基本操作を全員が習得し、必須データの入力を習慣化することが目標です。この段階では、必須項目の入力完了率を高い水準に保つことを目指します。
浸透期では、ツールが日常業務の一部として自然に使われる状態を目指します。業務フローの中にツール利用を組み込み、「ツールを使わないと業務が進まない」状態を作ることが重要です。
活用期では、ツール活用による業務成果を測定し、継続的な改善を行います。適切に運用された場合、MAツール導入企業の6割超が「営業連携による商談化率向上」を実感しているという調査結果もあります。
ツール定着のためのチェックリストと効果測定
ツール定着を確実に進めるためには、導入前から運用開始後まで、一貫した準備と管理が必要です。以下のチェックリストを活用して、自社の準備状況と運用状況を確認してください。
【チェックリスト】ツール定着チェックリスト
- 導入目的が明文化され、関係者間で共有されている
- 解決すべき業務課題が具体的に定義されている
- 成功を測るKPIが設定されている(利用・効率・成果の3階層)
- 業務プロセスへの組み込み方が設計されている
- 必須入力項目と運用ルールが決まっている
- 初期研修の計画と実施体制が整っている
- マニュアル・ヘルプドキュメントが用意されている
- 問い合わせ対応窓口(ヘルプデスク)が設置されている
- 利用状況をモニタリングする仕組みがある
- 定期レビュー会議の体制が決まっている
- 効果測定の指標と方法が決まっている
- 改善サイクルを回す担当者がアサインされている
- 経営層・マネジメント層のコミットメントが得られている
- 予算(運用費用・追加開発費用)が確保されている
- 外部支援(専門家・ベンダーサポート)の活用が検討されている
5つ以上のITツールを導入している企業でも、投資対効果を受注金額まで追えているのは30.2%にとどまります。効果測定を確実に行うためには、導入前から測定の仕組みを設計しておくことが重要です。
効果測定の仕組みと定期レビュー
効果測定は、KPIの3階層(利用→効率→成果)に沿って行います。第1階層の利用指標が安定してきたら、第2階層の効率指標、そして第3階層の成果指標へと測定範囲を広げていきます。
定期レビューの実施ポイント
- 月次レビュー:利用状況(ログイン率、アクティブ率)の確認、課題の早期発見
- 四半期レビュー:KPI達成状況の評価、改善施策の検討
- 年次レビュー:ROI評価、次年度計画への反映
定期レビューには、ツール管理者だけでなく、利用部門の責任者や経営層も参加することで、全社的なコミットメントを維持できます。また、課題が見つかった場合は、速やかに改善施策を実行し、PDCAサイクルを回すことが定着成功の鍵です。
まとめ|使われるだけでなく成果を出すツール定着の実現
本記事では、ツール導入後の定着を成功させるための方法について、KPI設計からフェーズ別アプローチ、チェックリスト、効果測定まで解説しました。
ポイントの整理
- ツール定着は「使われている」だけでなく「成果が出ている」状態を目指す
- KPIは利用・効率・成果の3階層で設計する
- 研修・マニュアルだけでなく、業務プロセスへの組み込みが不可欠
- 導入期・浸透期・活用期のフェーズ別アプローチで段階的に定着を進める
- チェックリストで準備状況を確認し、定期レビューで改善サイクルを回す
次のステップ
- チェックリストで自社の準備・運用状況を確認
- 不足している項目を洗い出し、優先順位を付ける
- フェーズ別の目標とKPIを設定
- 定期レビュー体制を構築
- 必要に応じて専門家の支援を検討
ツール定着を成功させるには「使い方の浸透」だけでなく、導入目的の明確化・業務プロセスへの組み込み・効果測定の仕組みまで一気通貫で設計することが重要であり、専門家の支援が有効です。自社だけでの対応が難しい場合は、戦略から実装・運用まで一貫して支援できるパートナーの活用も選択肢の一つです。
