ローコードCRMでツールを導入するだけでは成果が出ない理由
ローコードCRMとは、プログラミングコードを最小限に抑えたビジュアルツールでCRMシステムを構築・カスタマイズするプラットフォームです。日本のローコード/ノーコードプラットフォーム市場は、2023年度3,144億円(前年比112.9%)から2024年度3,589億円(同114.2%)へ拡大し、2025年度は4,085億円と予測されています。多くの企業がローコードCRMツールの導入を検討していますが、ツールを導入するだけでは成果が出ないケースが少なくありません。
中堅・中小企業(年商20-50億円帯)ではExcel代替や業務ツール作成が主流ですが、オンプレ/クラウド連携ミスマッチが全体の26%で課題となっています。よくある失敗パターンは、ローコードツールを導入すれば全ての業務が自動化されると考え、MA/SFA連携(マーケティングオートメーション(MA)と営業支援システム(SFA)のデータ統合)設定や業務プロセス設計を後回しにして、結果的にツールが形骸化し、従来のExcel管理に戻ってしまうことです。
ローコードCRMの成功は、ツールを選ぶだけでなく、MA/SFA連携設定と業務プロセス構築、そして必要に応じたフルスクラッチ開発を組み合わせることで実現します——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
この記事で分かること
- ローコード/ノーコードCRMの定義と従来型CRMとの違い
- 主要ローコードCRMツールの比較(Salesforce、HubSpot、Zoho、kintone、Pleasanter等)
- ローコード開発のメリット・デメリットとツール選定のポイント
- MA/SFA連携設定と業務プロセス構築の具体的な方法
- フルスクラッチ開発が必要になる基準と選択ガイド
ローコード/ノーコードCRMとは - 従来型CRMとの違い
ローコード/ノーコードCRMは、従来型CRM(フルスクラッチ開発)と比べて、開発期間とコストを大幅に削減できるプラットフォームです。ローコード/ノーコードCRMの開発期間は従来の10分の1に短縮され、開発コストは市場平均で50-70%削減される実績があります(BtoB企業導入実績)。ただし、この効果は全企業共通ではなく、企業規模や業務内容により大きく異なる点に注意が必要です。
従来型CRM(フルスクラッチ開発)では、プログラミング技術を持つエンジニアが要件定義から設計、実装、テストまで全てを手作業で行う必要がありました。これに対し、ローコード/ノーコードCRMでは、ドラッグ&ドロップによるUI設計やワークフロー自動化機能を活用することで、非エンジニアでも迅速にCRMシステムを構築できます。
ローコードCRMの定義と特徴
ローコードCRMとは、プログラミングコードを最小限に抑えたビジュアルツールでCRMシステムを構築・カスタマイズするプラットフォームです。
主な特徴は以下の通りです:
- ドラッグ&ドロップによるUI設計: コーディング不要で画面レイアウトを作成可能
- ワークフロー自動化: 商談ステータスの変更やメール送信などの業務フローを自動化
- API連携機能: 既存システム(MA/SFA、会計ソフト等)とのデータ連携が可能
- 一部のカスタマイズにはコーディングが必要: 高度な条件分岐や複雑なデータ処理を実装する際は、プログラミングスキルが求められる
ローコードCRMは、既存CRMテンプレートでは要件を満たせないが、フルスクラッチ開発ほどのコストはかけられない企業に適しています。例えば、業種特有の顧客管理項目を追加したい、既存のMA/SFAツールと連携させたいといったニーズに対応できます。
ノーコードCRMの定義と特徴
ノーコードCRMとは、コーディング不要でCRMシステムを構築できるプラットフォームです。非エンジニアでも迅速に顧客データ管理やキャンペーン自動化を実現可能です。
ローコードプラットフォーム単体市場は2023年度2,825億円(前年比110.7%)、ノーコードは319億円(前年比135.7%)で、ノーコードの成長率が高くなっています。CAGR(年平均成長率)(Compound Annual Growth Rateの略。複数年にわたる成長率を年率換算した指標で、市場規模の成長予測に使用)で見ると、ノーコードの成長率がローコードを上回っており、非エンジニアによる開発が加速しています。
主な特徴は以下の通りです:
- テンプレート選択式: あらかじめ用意された業種別・用途別のテンプレートから選択して構築
- 設定画面での操作のみ: 全ての設定を管理画面上で完結でき、コーディングは不要
- エンジニア不要: ビジネス部門の担当者だけで導入から運用までを実施可能
- カスタマイズ範囲は限定的: テンプレートで提供される機能の範囲内でのみ設定が可能
ノーコードCRMは、標準的な顧客管理・商談管理が中心で、高度なカスタマイズが不要な中小企業に適しています。特にスピード重視で、まずは基本的な顧客データベースを整備したい企業にとって有効です。
主要ローコードCRMツールの比較 - Salesforce/HubSpot/Zoho/kintone/Pleasanter
主要なローコードCRMツールには、Salesforce、HubSpot、Zoho、kintone、Pleasanter等があります。ここでは、各ツールの特徴を中立的に比較します。
比較軸:
- 開発難易度: ローコード(一部コーディングが必要)とノーコード(コーディング不要)の区分
- カスタマイズ柔軟性: 業務要件に合わせてどの程度カスタマイズできるか
- 価格帯: 導入コストと月額費用の目安
- MA/SFA連携機能: 既存のマーケティングオートメーション(MA)や営業支援システム(SFA)との連携のしやすさ
- 適用企業規模: 中小企業向けか、大企業向けか
各ツールの詳細な機能比較や導入事例は、公式資料や導入コンサルティングレポートを参照することを推奨します。例えば、kintoneは年商300-500億円の企業層向けに位置づけられており、中堅企業でのシェアが高いと言われています。同規模企業の導入事例を参考にツールを選定することで、自社に適したツールを見つけやすくなります。
ローコード開発のメリット・デメリットとツール選定のポイント
ローコード開発には、開発期間とコストの削減という明確なメリットがある一方で、高度なカスタマイズには限界があるというデメリットも存在します。ツールを選定する際は、自社の要件とローコードで実現できる範囲を見極めることが重要です。
ローコード市場は、2022年709億円から2025年1,000億円超へ拡大する予測で、2022-2027年のCAGRは14.0%です。また、グローバルローコード市場は2024年から2030年のCAGRが22.5%と高成長が予測され、2025年には400億ドル(約6兆円)超の規模になると見込まれています。ただし、グローバル市場の予測値は日本市場の動向とは必ずしも一致しない点に注意が必要です。
業務アプリ実行エンジン型(ローコードプラットフォームの一種で、業務アプリケーションの実行環境を提供し全社展開を容易にするタイプ)は2023年度に120億円規模と堅調に推移し、生成AI連携により全社展開が容易になっています。部門横断のデータ統合を目指す企業にとって、このタイプのプラットフォームは有効な選択肢となります。
ローコード開発のメリット
ローコード開発の具体的なメリットは以下の通りです。
メリット1:開発期間の大幅短縮
ローコード/ノーコードCRMの開発期間は従来の10分の1に短縮される実績があります。これにより、スピード重視のプロジェクト(新規事業立ち上げ、パイロット導入等)で特に有効です。従来は数ヶ月かかっていた開発が、数週間で完了する場合もあります。
メリット2:開発コスト削減
開発コストは市場平均で50-70%削減される実績がありますが、この効果は全企業共通ではなく、企業規模・業務の複雑度・既存システムとの連携要件により大きく異なります。特に、標準的な顧客管理や商談管理が中心で、高度なカスタマイズが不要な場合にコスト削減効果が高くなります。
メリット3:非エンジニアでも開発可能
ノーコードCRMの場合、ビジネス部門が主導してシステムを構築できます。これにより、IT部門のリソースが限られている企業でも、現場の要望を素早くシステムに反映できます。また、業務を最もよく理解している現場担当者が直接システムを設計できるため、業務プロセスとシステムのミスマッチが起きにくくなります。
ローコード開発のデメリット
ローコード開発のデメリットも明確に理解しておく必要があります。
デメリット1:高度なカスタマイズには限界がある
複雑な業務ロジック(多段階の承認フロー、複数の条件分岐等)や高度なデータ処理(リアルタイム分析、機械学習等)が必要な場合、ローコードツールだけでは実現できないケースがあります。この場合、フルスクラッチ開発が必要になります。
デメリット2:ベンダーロックインのリスク
特定のローコードプラットフォームに依存すると、将来的に他のシステムへ移行する際に困難が生じる場合があります。データのエクスポート機能やAPI連携機能が限定的なツールでは、移行コストが高額になる可能性があります。
デメリット3:セキュリティ・ガバナンス管理が難しい
部門ごとに勝手に開発されると、全社的なガバナンスが効かなくなり、データの一元管理やセキュリティポリシーの徹底が困難になります。特に、顧客情報や個人情報を扱うCRMシステムでは、全社的なルール策定と運用管理が不可欠です。
対処法
事前に要件を明確化し、ローコードで実現できる範囲とフルスクラッチが必要な部分を見極めることが重要です。後述するチェックリストや選択基準表を活用して、自社に適した開発アプローチを選択してください。
MA/SFA連携設定と業務プロセス構築、フルスクラッチ開発の選択基準
ローコードCRMツールを導入するだけでは成果が出ません。MA/SFA連携設定と業務プロセス構築、そして必要に応じたフルスクラッチ開発を組み合わせることが成功の鍵となります。
「ローコードツールを導入すれば全ての業務が自動化される」という考え方は誤りです。実際には、既存システム(MA/SFA)とのデータ連携設計、業務プロセスの標準化、高度なカスタマイズが必要な部分の見極めが不可欠です。中堅・中小企業(年商20-50億円帯)ではオンプレ/クラウド連携ミスマッチが全体の26%で課題となっており、既存システムとの連携要件を事前に明確化する必要性が高まっています。
以下に、ローコードCRM実装準備のチェックリストと、ローコード vs フルスクラッチの選択基準表を提示します。
【チェックリスト】ローコードCRM実装準備チェックリスト
ツール選定
- 自社の業務要件を明確化(顧客管理、商談管理、レポート機能等)
- 企業規模と予算に合ったツールを選定
- ローコードとノーコードのどちらが適しているか判断
- カスタマイズ柔軟性と開発難易度のバランスを評価
- ベンダーロックインのリスクを評価(データエクスポート機能、API連携機能)
- 無料トライアルやデモ環境で実際の操作性を確認
- 同業種・同規模企業の導入事例を調査
MA/SFA連携
- 既存システム(MA、SFA、会計ソフト等)の一覧を作成
- どのデータをどのタイミングで同期するか要件を明確化
- オンプレミスシステムとクラウドサービスの連携方式を確認
- API連携機能の有無と仕様を検証
- データ同期の頻度(リアルタイム、バッチ処理等)を決定
- データ形式の変換やマッピングルールを設計
- テスト環境でデータ連携の動作確認を実施
- 連携エラー発生時のアラート・復旧手順を策定
業務プロセス設計
- 現行の業務プロセス(顧客管理、商談管理、レポート作成等)を可視化
- 業務プロセスの標準化と簡素化を検討
- CRMシステム導入後の業務フローを設計
- 部門横断のデータ統合ルールを策定
- 入力項目と必須項目を定義
- 承認フローや権限設定を設計
- 小規模な業務プロセス(問い合わせ対応等)で試験導入
- 試験導入の結果を踏まえて業務プロセスを改善
- 全社展開のスケジュールと推進体制を確立
- 現場担当者向けのトレーニングとマニュアル作成
【比較表】ローコード vs フルスクラッチ選択基準表
| 実現したい機能 | ローコードで可能 | フルスクラッチが必要 | 推奨アプローチ |
|---|---|---|---|
| 顧客情報の基本管理(企業名、担当者、連絡先等) | ○ | - | ローコード |
| 商談管理とステータス追跡 | ○ | - | ローコード |
| 標準的なレポート作成(月次売上、商談進捗等) | ○ | - | ローコード |
| MA/SFAとの基本的なデータ連携 | ○ | - | ローコード |
| ワークフロー自動化(メール送信、タスク作成等) | ○ | - | ローコード |
| 多段階の承認フロー(条件分岐、差し戻し等) | △ | ○ | ハイブリッド |
| 複雑な売上予測(機械学習、統計分析等) | - | ○ | フルスクラッチ |
| リアルタイムデータ分析とダッシュボード | △ | ○ | ハイブリッド |
| レガシーシステム(オンプレミス基幹システム)との密結合 | △ | ○ | ハイブリッド |
| 金融業界等の厳格なセキュリティ要件 | △ | ○ | フルスクラッチ |
| 業種特有の複雑な業務ロジック | △ | ○ | ハイブリッド |
(凡例:○=対応可能、△=一部対応可能、-=対応困難)
MA/SFA連携設定の具体的なステップ
MA/SFA連携設定は、以下のステップで進めることが推奨されます。
ステップ1:既存システムとの連携要件明確化
まず、どのデータをどのタイミングで同期するかを明確にします。例えば、「MAで獲得したリード情報をCRMに同期し、SFAで商談ステータスを更新したらCRMに反映する」といった具体的なシナリオを設計します。
ステップ2:APIやデータ同期機能の検証
オンプレ/クラウド連携ミスマッチが全体の26%で課題となっています。特に、オンプレミスの基幹システムとクラウドのローコードCRMを連携させる場合、ネットワーク構成やセキュリティ要件を事前に確認する必要があります。API連携機能の有無と仕様を検証し、必要に応じてミドルウェアの導入も検討してください。
ステップ3:データ統合とテスト運用
小規模な業務プロセス(顧客管理、問い合わせ対応等)から試験導入し、データ連携が正しく動作するかを確認します。この段階で、データ形式の変換ミスや同期タイミングのズレなどの問題を洗い出し、改善します。
ステップ4:業務プロセス標準化と全社展開
テスト運用の結果を踏まえて、業務プロセスを標準化し、全社展開を進めます。部門横断のデータ統合を実現することで、顧客情報の一元管理や営業活動の可視化が可能になります。
注意点
ローコードツールだけでは高度な連携が困難な場合、フルスクラッチ開発やミドルウェア導入が必要になります。複雑な業務ロジックやリアルタイムデータ処理が必要な場合は、次のセクションで説明するフルスクラッチ開発の選択基準を参考にしてください。
フルスクラッチ開発が必要になる基準と選択ガイド
フルスクラッチ開発が必要になる基準は以下の通りです。
複雑な業務ロジック
多段階の承認フロー、複数の条件分岐、業種特有のビジネスルール等、ローコードツールのテンプレートでは実装できない複雑なロジックが必要な場合は、フルスクラッチ開発が推奨されます。
高度なデータ処理
リアルタイム分析、機械学習を活用した売上予測、大量データの高速処理等が必要な場合、ローコードツールでは性能面や機能面で限界があります。
セキュリティ要件
金融業界や医療業界等の厳格なセキュリティ要件(データ暗号化、アクセス制御、監査ログ等)を満たす必要がある場合、フルスクラッチ開発でセキュリティ仕様を細かく制御する必要があります。
既存システムとの密結合
レガシーシステム(オンプレミスの基幹システム等)との密結合が必要で、標準的なAPI連携では対応できない場合、カスタム開発が必要になります。
選択ガイド:ハイブリッドアプローチ
ローコードで8割を実現し、残り2割をフルスクラッチで補完する「ハイブリッドアプローチ」が推奨されます。例えば、顧客管理・商談管理はローコードCRMで実現し、複雑な売上予測やレポート機能はフルスクラッチで開発する方法が有効です。これにより、開発コストを抑えつつ、高度な機能要件にも対応できます。
まとめ - ローコードCRM成功のために
ローコードCRMの成功は、ツールを選ぶだけでなく、MA/SFA連携設定と業務プロセス構築、そして必要に応じたフルスクラッチ開発を組み合わせることで実現します。
本記事では、以下の内容を解説しました:
- ローコード/ノーコードCRMの定義と従来型CRMとの違い:開発期間は従来の10分の1に短縮され、開発コストは市場平均で50-70%削減される実績がある一方、効果は企業規模や業務内容により大きく異なります。
- 主要ローコードCRMツールの比較:Salesforce、HubSpot、Zoho、kintone、Pleasanter等の特徴を中立的に比較し、自社に適したツールを選定するポイントを提示しました。
- ローコード開発のメリット・デメリット:開発期間とコストの削減というメリットがある一方、高度なカスタマイズには限界があり、ベンダーロックインのリスクも存在します。
- MA/SFA連携設定と業務プロセス構築:既存システムとの連携要件を明確化し、小規模な業務プロセスから試験導入し、段階的に拡大する戦略が有効です。
- フルスクラッチ開発の選択基準:複雑な業務ロジック、高度なデータ処理、厳格なセキュリティ要件が必要な場合は、ハイブリッドアプローチ(ローコード8割、フルスクラッチ2割)が推奨されます。
次のアクション
- チェックリストで準備状況確認:ツール選定・MA/SFA連携・業務プロセス設計の3軸でチェックリストを活用し、準備状況を確認してください。
- ローコード vs フルスクラッチ選択基準表を活用した要件整理:実現したい機能をリストアップし、ローコードで対応できる範囲とフルスクラッチが必要な部分を見極めてください。
- 小規模な業務プロセスから試験導入:顧客管理や問い合わせ対応等の小規模な業務プロセスから試験導入し、全社展開前に問題点を洗い出してください。
適切なツール選定とMA/SFA連携、業務プロセス構築により、自社にぴったり合ったCRMシステムが実現できます。
