クラウドマーケティングツール導入で失敗する企業の共通点
クラウドマーケティングツールの導入後に実際に使いこなすための実装・運用プロセスを把握し、自社での導入判断材料にすることを達成するために必要なのは、導入だけでなくMA/SFA統合と運用定着までの実装プロセスを整備することです。
MA(マーケティングオートメーション) とは、マーケティング活動を自動化し、リード獲得・育成・商談化を効率化するツール・仕組みです。メール配信、スコアリング、行動追跡などが代表機能として挙げられます。
しかし、多くの企業がクラウド型のMAツールを導入しても活用できていない現状があります。国内企業のMAツール導入率は全体で1.5%(9,444社)、上場企業では14.6%(562社)で、企業規模が大きいほど導入率が上昇していますが(Nexal調査、2023年5月、626,003社対象)、導入率の低さは活用の難しさを示唆しています。
よくある失敗パターンは、クラウド型のMAツールを導入すれば自動的にマーケティングが効率化されると期待し、実装・運用体制の整備を後回しにしてしまうことです。その結果、ツールが活用されない状態に陥り、投資対効果が得られません。
この記事で分かること
- クラウドマーケティングツールの基本機能と市場動向
- BtoB企業がクラウドマーケティングツールを活用するメリット
- クラウド型とオンプレミス型の選定基準と料金体系
- MA/SFA統合設定、KPI設計、運用定着化の具体的な実装プロセス
この記事では、従業員50-300名のHR Tech・SaaS・IT企業のマーケティング責任者の方に向けて、クラウドマーケティングツールを現場で使いこなすための実装プロセスを解説します。
クラウドマーケティングツールとは?基本機能と市場動向
クラウドマーケティングツールとは、インターネット経由で提供されるマーケティング自動化ツールのことで、主要な機能として顧客データ統合、メール配信、行動追跡、スコアリングなどがあります。
2021年度の国内クラウドサービス市場規模は3兆5,723億円(前年比24.3%増)で、2026年までにプライベートクラウド市場は4.1兆円に達する見込みです(MM総研調査、2022年8月)。また、国内クラウド市場規模は2021年時点で4兆2,018億円、2026年には10兆9,381億円(約2.6倍)に成長すると予測されており(IDC Japan、2022年6月)、クラウドマーケティングツールが主流になっている背景があります。
国内クラウド市場シェアは米国5社(Microsoft、Amazon、IBM、Salesforce、Google)で約50%を占めており(総務省「令和5年版情報通信白書」2023年)、グローバルベンダーが市場を牽引しています。
国内MAツールシェアでは、BowNow 23.0%(13,000社超)、HubSpot 20.3%、Marketing Cloud 13.4%(1,600社超)がトップ3となっています(DataSign調査、2025年8月)。
Marketing Cloudとは、Salesforceが提供するBtoC向けマーケティングオートメーションツールです。メール、SMS、広告などマルチチャネル配信、AI分析、顧客データ統合が主機能として挙げられます。
Account Engagement(旧Pardot) は、SalesforceのBtoB向けMAツールです。2022年4月にPardotから名称変更され、リードスコアリング、ABM、Sales Cloud連携が強みとなっています。
Sales Cloudとは、Salesforceの営業支援(SFA)ツールで、商談管理、顧客情報管理、売上予測などの機能を提供し、MA(Marketing Cloud/Account Engagement)と連携可能です。
Marketing Cloudの主要機能
Marketing Cloudは、BtoC向けマーケティングオートメーションツールとして、以下の主要機能を提供しています。
メール・SMS・広告のマルチチャネル配信: 顧客の行動やセグメントに応じて、メール、SMS、広告などの複数チャネルで自動配信できます。顧客の好みや反応に基づいて、適切なチャネルを選択することで、エンゲージメント向上が期待できます。
AI分析と顧客データ統合: AIによる行動予測や推奨コンテンツの自動生成機能により、パーソナライズされたマーケティングを実現できます。また、複数のデータソースを統合して顧客の全体像を把握することで、より効果的な施策を設計できます。
Marketing CloudはBtoC向けツールであり、BtoB企業の場合はAccount Engagement(旧Pardot)の検討が推奨されます。
Account Engagement(旧Pardot)とSales Cloudとの連携
Account Engagement(旧Pardot)は、BtoB向けMAツールとして、以下の機能と連携メリットを提供しています。
リードスコアリングとは、見込み顧客の行動(メール開封、資料DL、Webアクセス等)を点数化し、商談化の優先度を判定する仕組みです。BtoB MAの中核機能として、営業効率の向上に貢献します。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、特定の企業(アカウント)を標的に、複数の意思決定者へ一貫したマーケティングを展開する手法です。BtoB企業に適したアプローチとして注目されています。
Account EngagementのROI回収期間は一般的に6ヶ月~1年とされますが、企業のリード数、導入後の運用体制、MA/SFA統合の完成度により大きく変動します。
Sales Cloudとの連携メリット: Account EngagementはSales Cloudとのネイティブ連携が強みであり、既にSalesforce CRMを利用している企業は、MA/SFA統合の実装がスムーズです。リードスコアが高い見込み顧客を自動的にSales Cloudに渡すことで、営業担当者は優先度の高いリードに集中できます。
BtoB企業がクラウドマーケティングツールを活用するメリット
BtoB企業がクラウドマーケティングツールを活用する主なメリットは、リード獲得・育成・商談化を効率化できること、リードスコアリングにより優先度の高いリードを営業に渡せること、MA/SFA統合により部門間連携がスムーズになることです。
リード獲得・育成・商談化の効率化: MAツールを活用することで、手動で行っていたメール配信、セグメント分け、スコアリングなどを自動化でき、マーケティング担当者の工数削減が可能です。また、リードの行動履歴を追跡することで、適切なタイミングで適切なコンテンツを提供できます。
リードスコアリングによる優先度判定: リードの行動(メール開封、資料DL、Webページ閲覧回数)を点数化し、スコアが高いリードを営業に渡すことで、営業効率が向上します。営業担当者は「温度感の高い」リードに集中でき、商談化率の向上が期待できます。
MA/SFA統合による部門間連携: マーケティング部門と営業部門がデータを共有することで、リードの引き継ぎがスムーズになります。営業担当者はリードの過去の行動履歴を確認した上で商談に臨めるため、提案の質が向上します。
国内企業のMAツール導入率は全体で1.5%、上場企業では14.6%(Nexal調査、2023年5月)とまだ普及段階のため、導入により競合優位性を獲得できる余地があると言えます。
クラウド型とオンプレミス型の比較|選定基準と料金体系
クラウド型マーケティングツールとオンプレミス型マーケティングツールは、導入コスト、保守体制、カスタマイズ性などで大きく異なります。自社の企業規模、リード数、既存システムとの連携、セキュリティ要件を考慮して選定することが重要です。
【比較表】クラウド型 vs オンプレミス型 マーケティングツール比較表
| 比較軸 | クラウド型 | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低(0〜数十万円程度) | 高(数百万円〜) |
| 月額費用 | ユーザー数・機能により変動(数万〜数十万円/月) | ライセンス費用+保守費用 |
| 導入期間 | 短期(数週間〜数ヶ月) | 長期(数ヶ月〜半年以上) |
| カスタマイズ性 | 制約あり(ベンダー提供機能の範囲内) | 高い(自社要件に合わせて開発可能) |
| 保守体制 | ベンダー側で自動アップデート | 自社またはSIerで保守対応 |
| データセキュリティ | ベンダーのセキュリティ基準に依存 | 自社管理のためコントロール可能 |
| 拡張性 | 容易(ユーザー数・機能追加が柔軟) | 制約あり(サーバー増強が必要) |
| スモールスタート | 可能(小規模から開始し段階的に拡大) | 困難(初期投資が大きい) |
選定基準:
- 企業規模: 中小企業(従業員50-300名)はクラウド型が推奨されます。初期費用が低く、スモールスタートが可能です。
- リード数: リード数が少ない場合はクラウド型の低価格プランで十分ですが、リード数が増加するとコストが上昇するため、総所有コスト(TCO)を事前に試算することが重要です。
- 既存システムとの連携: 既にSalesforce CRMを利用している企業は、Account EngagementやMarketing Cloudとのネイティブ連携が可能なため、クラウド型の選択がスムーズです。
- セキュリティ要件: 金融・医療など高度なセキュリティが求められる業界では、オンプレミス型の検討が必要な場合もあります。
料金体系は、クラウド型が初期費用低・月額課金が主流、オンプレミス型が初期費用高・保守費用が継続的に発生する構造です。企業規模やリード数により適切なプランが異なるため、見積もりを取って比較することが推奨されます。
クラウドマーケティングツールを現場で使いこなすための実装プロセス
クラウドマーケティングツールを現場で使いこなすためには、MA/SFA統合設定、KPI設計、部門間連携ルール整備、運用定着化施策の実装プロセスが不可欠です。導入だけでツールが活用されるわけではなく、実装プロセスの整備が成果を出す鍵となります。
【チェックリスト】クラウドマーケティングツール導入前チェックリスト
- 導入目的の明確化(リード獲得強化、育成効率化、商談化率向上など)
- リード数の試算(月間リード数、既存リード数の把握)
- 既存システムとの連携設計(Sales Cloud、HubSpot CRM等との連携可否確認)
- KPI設計(MQL数、SQL転換率、商談化率、ROI回収期間など)
- 部門間連携ルール策定(マーケティング→営業のリード引き継ぎ基準)
- 運用担当者の選定(マーケティング側・営業側の責任者決定)
- データソース統合設定(Webフォーム、広告、イベント等のデータ収集経路確認)
- リードスコアリング基準の設計(メール開封、資料DL、Webアクセス等の配点決定)
- セグメント設計(業種、企業規模、購買ステージ等の分類軸決定)
- メール配信テンプレート作成(育成メール、セミナー案内等のコンテンツ準備)
- プライバシーポリシー・GDPR対応確認(オプトイン設計、個人情報保護体制整備)
- 予算確保(初期費用・月額費用・運用人件費の予算承認)
- スモールスタートまたは無料プランでの検証(本格導入前のトライアル実施)
- 現場への説明会・トレーニング計画策定(ツール操作研修、運用ルール共有)
- 定期レビュー会議の設定(週次・月次でのKPIモニタリング体制構築)
リード数が少ない場合はROI回収が困難になるため、導入前にリード数を試算し、スモールスタートまたは無料プランで検証することが推奨されます。
MA/SFA統合設定のポイント
MA/SFA統合設定の具体的なポイントは、データソース統合、リードスコアリング設定、Sales Cloudとの連携設定です。
データソース統合設定: Webフォーム、広告、イベント、ウェビナー等の複数のデータソースからリード情報を統合し、一元管理できる状態を整備します。データが分散していると、リードの全体像を把握できず、適切なスコアリングやセグメント分けができません。
リードスコアリング設定: メール開封(5点)、資料DL(10点)、価格ページ閲覧(15点)など、行動に応じた配点を設定します。スコアが一定値(例: 50点以上)を超えたリードを営業に引き継ぐルールを決めることで、優先度の高いリードに営業リソースを集中できます。
Sales Cloudとの連携設定: Account EngagementはSales Cloudとのネイティブ連携が強みであり、リードスコアが高い見込み顧客を自動的にSales Cloudに同期できます。既にSalesforce CRMを利用している企業は、MA/SFA統合の実装がスムーズです。
既存システムとの連携設計が実装の鍵であり、事前に連携可否を確認することが重要です。
KPI設計と部門間連携ルール
KPI設計と部門間連携ルールの策定は、マーケティングと営業の連携を強化し、ツールの活用を促進するために不可欠です。
マーケティングと営業の連携KPI: MQL(Marketing Qualified Lead)数、SQL(Sales Qualified Lead)転換率、商談化率、受注率などの指標を設定し、マーケティング部門と営業部門が共通の目標を持つことが重要です。例えば、「MQL 100件/月 → SQL 30件/月(転換率30%) → 商談化15件/月(商談化率50%) → 受注5件/月(受注率33%)」といった形で、各段階の目標を明確化します。
部門間でのリード引き継ぎルール: リードスコアが一定値を超えたら営業に引き継ぐ、または特定のアクション(価格ページ閲覧、デモ申込など)があった場合に営業に通知するなど、引き継ぎ基準を明確化します。曖昧な基準だと、営業側が「このリードは温度感が低い」と判断して対応が遅れるリスクがあります。
定期的なレビュー会議の設定: 週次または月次でマーケティング部門と営業部門が集まり、KPIの進捗確認、リード品質のフィードバック、改善施策の検討を行います。運用体制の整備により、ツールの活用が継続します。
導入後の運用定着化施策
導入後にツールを現場で使い続けてもらうための施策として、現場への教育・トレーニング、利用状況のモニタリング、インセンティブ設計が挙げられます。
現場への教育・トレーニング: ツールの操作方法だけでなく、「なぜこのツールを使うのか」「どのようなメリットがあるのか」を説明し、現場の理解を得ることが重要です。導入初期には、マーケティング担当者・営業担当者向けに複数回のトレーニングを実施し、操作に慣れてもらいます。
利用状況のモニタリングとフィードバックループ: ツールの利用状況(ログイン頻度、スコアリング実施率、メール配信実績等)を定期的にモニタリングし、利用が低下している場合は原因を分析してフィードバックします。「使いにくい」「効果が見えない」といった声があれば、設定の見直しや追加トレーニングを実施します。
ツール活用を促進するインセンティブ設計: 営業成績の評価指標にリードスコアや対応スピードを組み込むことで、営業担当者がツールを活用するインセンティブを提供します。例えば、「スコア50点以上のリードに24時間以内に対応した場合は評価ポイント加算」など、具体的なルールを設定します。
形骸化を防ぐための継続的な改善プロセスが、ツール活用の定着に繋がります。
まとめ|クラウドマーケティングツールは実装プロセス整備で成果を出す
この記事では、クラウドマーケティングツールの基本機能、BtoB企業が活用するメリット、クラウド型とオンプレミス型の比較、MA/SFA統合設定、KPI設計、運用定着化の実装プロセスを解説しました。
記事の要点:
- クラウド型MAツールを導入すれば自動的にマーケティングが効率化されるという誤解を避けるべき
- Marketing CloudはBtoC向け、Account Engagement(旧Pardot)はBtoB向けで用途が異なる
- クラウド型とオンプレミス型は初期費用・保守体制・カスタマイズ性で大きく異なり、企業規模やリード数を考慮して選定する
- MA/SFA統合設定、KPI設計、部門間連携ルール整備、運用定着化施策の実装プロセスが成果を出す鍵
- 導入前のリード数試算とスモールスタートでの検証が重要
クラウドサービスのマーケティングツールは、導入だけでなくMA/SFA統合と運用定着までの実装プロセスを整備することで、初めて成果を出せます。
次のアクションとして、まずはこの記事で提供したチェックリストで自社の準備状況を確認し、必要なら実装・運用体制の整備を検討してください。企業規模や業界により適切なアプローチは異なるため、不明点があれば専門家に相談することも有効です。
