事業拡大戦略を立案しても実行で詰まる理由
実はBtoB企業の事業拡大は、アンゾフマトリクスによる方向性の選定と、MA/SFAを活用した実装設計を同時に行うことで成功確率が高まります。
多くのBtoB企業が、事業拡大の戦略を立案したものの、実装フェーズで思うように進まず立ち往生しています。特に従業員50-300名規模のBtoB企業では、MA(マーケティングオートメーション)やSFA(営業支援システム)を導入済みであるにも関わらず、それらのツールを活用しきれず、戦略が絵に描いた餅になってしまうケースが後を絶ちません。
この記事で分かること
- 事業拡大戦略が実行で詰まる根本的な原因
- アンゾフマトリクスを使った戦略選定の方法
- MA/SFAツールを活かした実装設計の進め方
- 実装可能性を高めるチェックリストと成功事例
この記事では、戦略立案と実装設計を同時に進める方法を解説し、実際に動く事業拡大戦略の立て方をお伝えします。
事業拡大戦略の基礎知識とアンゾフマトリクス
事業拡大戦略を考える前に、まず基本となる概念とフレームワークを理解しておく必要があります。
事業拡大とは何か
事業拡大とは、企業が現在の事業領域を超えて成長するための取り組みを指します。具体的には、新しい市場への進出、新製品・サービスの開発、既存市場でのシェア拡大などが含まれます。
BtoB市場では、デジタル化の波が急速に進んでいます。経済産業省の調査によると、2024年のBtoB-EC市場規模は514兆4,069億円(前年比10.6%増)に達し、EC化率は前年から3.1ポイント増の43.1%となっています。このような市場環境の変化により、事業拡大は企業の生き残りに不可欠な戦略となっています。
BtoB-ECとは、企業間電子商取引のことです。企業が他企業に対してオンラインで商品・サービスを販売する取引形態を指します。
EC化率とは、全商取引に占める電子商取引の割合です。デジタル化の進展度を示す重要な指標となります。
事業拡大の主な目的には、以下のようなものがあります。
- 売上・利益の増加
- 事業リスクの分散
- 競争優位性の確保
- 企業価値の向上
アンゾフマトリクスによる戦略分類
アンゾフマトリクスは、市場と製品の新規性で事業拡大の方向性を4象限に分類する戦略フレームワークです。以下の4つの戦略に分けられます。
市場浸透(既存市場×既存製品):現在の市場で既存製品のシェアを拡大する戦略。リスクが最も低く、マーケティング強化や営業体制の拡充により実現します。
新市場開拓(新市場×既存製品):既存製品を新しい市場(地域、業界、顧客層)に展開する戦略。コア市場で成功した製品を隣接市場に展開する際に有効です。
新製品開発(既存市場×新製品):現在の市場に新しい製品・サービスを投入する戦略。既存顧客のニーズを深掘りし、製品ラインナップを拡充します。
多角化(新市場×新製品):新しい市場に新製品を投入する最もリスクの高い戦略。M&Aや事業買収を伴うことが多くなります。
コア市場とは、事業拡大において最初に勝ち切るべき市場です。隣接するモア市場への展開の起点となります。
BtoB企業の事業拡大では、まずコア市場での地位を確立し、そこから段階的にモア市場へ展開する2段構造のアプローチが一般的です。リスクレベルと必要なリソースを考慮し、自社の状況に合った戦略を選択することが重要です。
なぜBtoB企業の事業拡大戦略は絵に描いた餅になるのか
多くのBtoB企業が事業拡大戦略を立案しても実行できない背景には、根本的な問題があります。
戦略と実装を分離する従来のアプローチ
よくある失敗パターンとして、多くの企業が事業拡大戦略を立案する際、「市場調査→戦略立案→実行」という順序で進めてしまいます。このアプローチの問題は、実装手段(既存ツールの活用可能性や業務フロー)を後回しにするため、戦略と実行の間に大きなギャップが生まれることです。
具体的には以下のようなケースが見られます。
- 外部コンサルタントに戦略立案を依頼し、立派な戦略レポートを受け取る
- しかし社内で実装を試みると、既存のMA/SFAツールとの連携方法が分からない
- 現場の営業やマーケティング部門が新しい施策に対応できない
- 結果として、戦略レポートが棚に眠ったまま放置される
MA/SFAツールを導入済みの企業でも、それらのツールが活用されないまま形骸化しているケースは少なくありません。戦略立案時にツールの活用方法まで設計しなかったため、「どうやって実装すればよいか分からない」という状態に陥ってしまうのです。
実装フェーズで発生する問題
実装段階では、以下のような問題が頻繁に発生します。
- ツールの操作スキル不足:MA/SFAツールの機能を十分に理解している担当者がいない
- データ連携の複雑さ:既存の営業管理システムとMAツールの連携設定が困難
- 業務フローとの不一致:戦略で想定した業務フローが現場の実情に合わない
- リソース不足:新しい施策を実行する人員や予算が確保できていない
これらの問題は、戦略立案時に実装手段を具体的に検討していなかったことが原因です。戦略が「何をすべきか」は明確でも、「どうやって実現するか」が不明確なままでは、実行に移すことはできません。
戦略と実装を同時に設計する事業拡大の進め方
事業拡大の成功確率を高めるには、戦略選定と実装設計を並行して進めることが重要です。
アンゾフマトリクスで方向性を選定する
自社に適した事業拡大の方向性を選ぶ際は、以下の基準を考慮します。
- 自社の強み:どの領域で競争優位性があるか
- 保有リソース:人員、予算、技術などのリソースがどれだけ確保できるか
- リスク許容度:どこまでリスクを取れるか
コア市場での地位を確立してからモア市場へ展開する2段構造のアプローチを取ることで、リスクを抑えながら段階的に成長することができます。例えば、IT業界でシェアを持つ企業が、まず金融業界(隣接市場)へ進出し、その後ヘルスケア業界へ展開するといった流れです。
MA/SFAツールを活用した実装設計
既存のマーケティングツールを事業拡大戦略に組み込むことで、実装のハードルを大きく下げることができます。
MAツールでは、リード獲得から育成までのプロセスを自動化できます。SFAでは、商談管理や営業活動の可視化が可能です。これらのツールを戦略に組み込む際のポイントは以下の通りです。
複数チャネルの組み合わせ:SNSを「売上につながるチャネル」と考える企業の割合は約80%に達しています。SNS、オウンドメディア、広告、展示会など複数のチャネルを組み合わせることで、リード獲得の確度を高めます。
LTVを意識した顧客獲得:LTV(Life Time Value、顧客生涯価値)とは、一人の顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益の総額です。LTVを意識した顧客獲得戦略を設計することで、長期的な収益性を高めることができます。
データドリブンな意思決定:MAツールで取得したデータを分析し、どのチャネルが最も効果的かを継続的に検証します。
【比較表】アンゾフマトリクス×実装難易度マップ
以下の比較表は、アンゾフマトリクスの4つの戦略について、実装難易度と必要なツール・施策をまとめたものです。コピペしてご活用ください。
| 戦略 | 市場 | 製品 | 実装難易度 | リスク | 必要なツール・施策 | 成功の鍵 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 市場浸透 | 既存 | 既存 | 低 | 低 | SFA、MA、広告、オウンドメディア | 既存顧客との関係強化、LTV向上 |
| 新市場開拓 | 新規 | 既存 | 中 | 中 | SFA、MA、展示会、提携 | コア市場での実績を活かした展開 |
| 新製品開発 | 既存 | 新規 | 中 | 中 | 顧客フィードバック、プロトタイプ検証 | 既存顧客ニーズの深掘り |
| 多角化 | 新規 | 新規 | 高 | 高 | M&A、事業買収、専門人材採用 | 十分なリソースと時間の確保 |
事業拡大戦略の実践ステップと成功事例
戦略を実際に動かすためには、市場調査から評価までのプロセスを具体的に設計する必要があります。
市場調査と戦略立案のステップ
市場調査では、以下の項目を調べることが重要です。
市場規模の把握:2024年のBtoB-EC市場規模は514兆4,069億円(前年比10.6%増)、EC化率は43.1%となっており、デジタルチャネルを活用した事業拡大の余地が大きいことが分かります。
競合分析:競合企業の戦略、強み・弱み、市場でのポジショニングを分析します。
顧客ニーズ調査:ターゲット顧客が抱える課題やニーズをヒアリングやアンケートで把握します。
自社の強み分析:自社が持つ独自の強みや差別化要素を明確にします。
これらの調査結果をもとに、アンゾフマトリクスで適切な戦略を選定し、同時に実装手段(どのツールを使い、どの施策を実行するか)を具体化します。
実装フェーズでの具体的な施策と成功事例
実装フェーズでは、複数のチャネルを組み合わせた施策が効果的です。以下は実際の成功事例です。
オウンドメディアの活用
オウンドメディアとは、企業が自社で運営するメディアです。ブログ、コラム、動画などを通じて顧客との関係構築を図ります。
- オウンドメディア導入後6ヶ月で検索流入2倍、資料DL2.5倍を達成した事例があります。
- 過去3年でBtoB企業のオウンドメディアで資料DL34倍、受注額9倍という業界平均推定のデータも報告されています。
- 株式会社LGブレイクスルーのオウンドメディアでは、半年でPV約20倍を達成しました。
広告運用
ROAS(Return On Advertising Spend)とは、広告費用対効果を示す指標で、広告費1円あたりの売上を表します。
- BtoB広告運用で半年で平均ROAS約500%を達成した実績があります(2025年日本市場実績)。
- 建設系DX事業では、リスティング広告+LP改善によりリード数3倍を達成しました。
イベント・カンファレンス
- 共催カンファレンスで参加者30%が商談進展し、リード目標150%達成を実現した事例があります(2025年ブルースクレイ・ジャパン事例)。
- あるサービスでは、リード商談化率が他チャネル比3倍、2ヶ月でコンバージョン20%を占めるという成果が報告されています。
注意点:これらの成功事例は支援企業の実績を中心としており、企業規模・業種・運用体制により成果は大きく異なります。自社に合った施策を選定し、PDCAサイクルを回すことが重要です。
【チェックリスト】事業拡大戦略の実装可能性チェックリスト
以下のチェックリストを使って、戦略の実装可能性を事前に確認してください。
- 戦略の目的と期待成果が明確に定義されている
- ターゲット市場・顧客が具体的に特定されている
- 自社の強みと競合との差別化ポイントが明確である
- 必要な予算が確保されている(または確保の見通しがある)
- 実行に必要な人員がアサインされている
- 既存のMA/SFAツールで実装可能な施策になっている
- ツール操作のスキルを持つ担当者がいる(または育成計画がある)
- データ連携の方法が具体的に設計されている
- 現場の業務フローとの整合性が確認されている
- 各施策の責任者と期限が明確になっている
- KPI(重要業績評価指標)が設定されている
- 効果測定の方法とタイミングが決まっている
- リスクと対策が洗い出されている
- 経営層の承認と支援が得られている
- 関連部門(営業、マーケ、IT等)との調整が完了している
- 外部パートナーが必要な場合、候補がリストアップされている
- 顧客への価値提供が具体的にイメージできている
- 競合対策が検討されている
- 中長期的な展開シナリオが描けている
- 撤退基準が設定されている
評価と改善のサイクル
実装後は、効果測定と改善のサイクルを回すことが不可欠です。
KPI(重要業績評価指標)として、以下のような指標を設定します。
- ROAS:広告費1円あたりの売上
- リード獲得数:MAツールで獲得したリード数
- 商談化率:リードから商談に進んだ割合
- 受注率:商談から受注に至った割合
- LTV:顧客生涯価値
これらの指標を定期的に測定し、PDCAサイクルを回すことで成功率が高まります。効果が出ていない施策は改善または停止し、効果の高い施策にリソースを集中させることが重要です。
なお、具体的な投資回収期間や数値的成果は企業規模・業界により大きく異なるため、自社の状況に応じた現実的な目標設定が必要です。
実装可能性を重視した事業拡大戦略で成功確率を高める
事業拡大戦略を成功させるためには、戦略立案と実装設計を分離せず、並行して進めることが重要です。
改めて強調すると、BtoB企業の事業拡大は、アンゾフマトリクスによる方向性の選定と、MA/SFAを活用した実装設計を同時に行うことで成功確率が高まります。
多くの企業が陥る「戦略は立派だが実行できない」という失敗パターンを避けるためには、以下のポイントを押さえてください。
実装手段を戦略立案時に具体化する:既存のMA/SFAツールでどう実現するかを同時に設計します。
チェックリストで実装可能性を確認する:本記事で紹介したチェックリストを活用し、事前に実装のハードルを洗い出します。
複数チャネルを組み合わせる:オウンドメディア、広告、イベントなど、複数の施策を組み合わせてリスクを分散します。
PDCAサイクルを回す:実装後は継続的に効果測定を行い、改善を重ねます。
次のアクションとしては、まず既存のMA/SFAツールの棚卸しから始めることをお勧めします。現在導入しているツールで何ができるのか、どのような機能が活用できていないのかを把握することで、実装可能な戦略の選択肢が見えてきます。
事業拡大は一朝一夕には実現できませんが、実装可能性を重視した戦略設計により、成功の確度を高めることができます。自社の強みとツール資産を最大限に活かし、着実に成長していきましょう。
