ABMとインバウンドを併用しても成果が出ない理由
意外かもしれませんが、ABMとインバウンドマーケティングの併用は、戦略を立てるだけでは機能せず、MA/SFAでターゲットアカウントの行動を可視化し、営業との共通KPIで運用する仕組みを構築することで成果につながります。
マーケティングオートメーション世界市場は2024年に67億9,000万米ドル、2025年には73億9,000万米ドル(CAGR 8.8%)に達し、2029年には103億3,000万米ドルまで拡大すると予測されています。この成長要因の1つにABMの台頭が明記されています(The Business Research Company調査)。
ABM(Account Based Marketing) とは、自社にとって価値の高い特定の取引先企業(アカウント)を絞り込み、個別最適化したアプローチを行うBtoBマーケティング手法です。
インバウンドマーケティングとは、コンテンツ、SEO、SNS等で見込み顧客からの問い合わせ・資料請求を自発的に発生させる手法を指します。
国内MA市場も2021年に600億円(前年比110.3%)に達し、2026年には865.5億円まで成長すると見込まれています(矢野経済研究所データ引用)。しかし、ABMとインバウンドの両方に取り組んでいるにもかかわらず、成果が出ていない企業も少なくありません。
この記事で分かること
- ABMとインバウンドマーケティングの違いと併用の考え方
- 併用を成功させるためのマーケ・営業連携のポイント
- MA/SFAを活用した実装方法と開始前チェックリスト
- 併用が機能しない失敗パターンとその対策
ABMとインバウンドマーケティングの違いと併用の考え方
ABMとインバウンドは二項対立ではなく、インバウンドで母数を獲得しABMで絞り込む「ハイブリッド戦略」が主流です。両者を組み合わせることで、リードの質と量の両方を追求できます。
TAL(Target Account List) とは、ABMにおいてターゲットとする企業リストを指します。営業・マーケ共同で策定することが重要です。
MQL(Marketing Qualified Lead) とは、マーケティング施策で獲得し、一定のスコアリング基準を満たした見込み顧客のことです。
【比較表】ABMとインバウンドの役割分担比較表
| 項目 | ABM | インバウンド |
|---|---|---|
| アプローチ | ターゲット企業を絞り込んで個別に最適化 | 広くコンテンツを発信して問い合わせを待つ |
| リード獲得の特性 | 質重視(狙った企業からのリード) | 量重視(幅広い企業からのリード) |
| 主な施策 | 個別メール、パーソナライズドLP、営業連携 | SEO、ブログ、ホワイトペーパー、ウェビナー |
| KPI例 | ターゲットアカウントからの商談数 | MQL数、リード総数 |
| 適したケース | 大口顧客・エンタープライズ向け | 中小企業・新規市場開拓 |
| 併用時の役割 | インバウンドで獲得したリードから優良アカウントを抽出 | ABM対象外のリードも含め母数を確保 |
インバウンドだけでは不十分な理由
インバウンドマーケティングだけに依存すると、自社にとって価値の高いアカウントからのリードが十分に獲得できないケースがあります。
Webサイトを訪れるユーザーの多くはターゲット外である可能性もあり、インバウンドで獲得したリードの質にばらつきが生じやすいとされています。また、大口顧客や戦略的に獲得したいアカウントは、自発的に問い合わせをしてこないことも多いです。
そのため、インバウンドで母数を確保しつつ、ABMでターゲットアカウントに対して能動的にアプローチする併用戦略が効果的とされています。
ABM×インバウンド併用を成功させる設計ポイント
併用を成功させるには、マーケ・営業・インサイドセールスが共通のターゲット定義とKPIを持つことが重要です。部門間で認識がずれていると、せっかくの併用戦略が機能しません。
ホワイトスペースとは、既存顧客内でまだ取引のない部門・製品領域を指します。ABMで攻略対象となることが多い領域です。
併用設計のポイントは以下の3つです。
- 共通のTAL策定: マーケ・営業・インサイドセールスでターゲットアカウントの定義を共有
- 共通KPIの設定: 部門ごとに異なるKPIではなく、商談化や受注に連動した共通指標を設定
- データの一元管理: MA/SFAでインバウンドとABMの活動データを統合
TAL(ターゲットアカウントリスト)の策定方法
TAL策定は、ABM×インバウンド併用の起点となる重要なプロセスです。既存の大型顧客・優良顧客の共通属性を洗い出し、類似する企業をターゲットとして設定します。
TAL策定のステップ
- 既存顧客分析: 売上貢献度の高い顧客の共通属性(業種、従業員規模、課題など)を洗い出す
- ワークショップ実施: マーケ・営業・インサイドセールスで合同ワークショップを開催し、ターゲット企業の条件を合意
- リスト作成: 条件に合致する企業をリストアップし、優先順位を付ける
- 定期的な見直し: 商談結果や市場変化に応じてTALを更新
MA/SFAを活用した併用運用の実装方法
ABMとインバウンドの併用をMA/SFAで実装することで、戦略を「動く仕組み」として運用できます。ツール導入だけでなく、設定と運用ルールの整備が成果を左右します。
ある事例では、ABMテンプレートを活用することでテレアポの平均アポ率が約10%で安定し、リスト作成時間が約半分に短縮されたという報告があります(ただしこれは個社事例であり、業界平均ではありません)。
また、ある大手IT企業がABM導入により部門横断で顧客管理を一元化した結果、BtoB領域のリード転換率が従来比5倍以上に向上したケースも報告されています(電通デジタル事例。成功事例であり再現性は企業の状況により異なります)。
【チェックリスト】ABM×インバウンド併用 開始前チェックリスト
- マーケ・営業・インサイドセールスでTAL策定ワークショップを実施した
- ターゲットアカウントの定義を文書化し、関係者で共有した
- TAL(ターゲットアカウントリスト)を作成し、優先順位を付けた
- ABMとインバウンドの共通KPIを設定した
- MA/SFAでターゲットアカウントを識別・管理する設定を行った
- インバウンドで獲得したリードからTAL対象を自動抽出する仕組みを構築した
- ターゲットアカウントのWeb行動データを可視化する設定を行った
- マーケからインサイドセールスへのリード引き渡し基準を明確にした
- インサイドセールスから営業へのパス基準を明確にした
- 週次・月次のレビュー会議のスケジュールを設定した
- 共通ダッシュボードを作成し、関係者がアクセスできる状態にした
- ABM専用のコンテンツ(個別メール、パーソナライズドLP等)を準備した
- インバウンド用のコンテンツ(ブログ、ホワイトペーパー等)を整備した
- ホワイトスペース(既存顧客内の未取引領域)を特定した
- 運用開始後の効果測定方法を決定した
インバウンドデータからABM対象を抽出する方法
インバウンドで集まったWeb行動データからABM対象アカウントを抽出し、アウトバウンドに連携する「併用パターン」が効果的とされています。
抽出のポイント
- 企業名の特定: リードの企業名・ドメインからTAL対象かどうかを判定
- 行動スコアの設定: ページ閲覧数、資料ダウンロード、ウェビナー参加などをスコアリング
- 閾値の設定: 一定スコア以上のTAL対象リードをインサイドセールスにパス
- アラート設定: ターゲットアカウントからのアクセスがあった場合に通知
この仕組みにより、インバウンドで「待ち」の姿勢を取りつつ、優良アカウントには能動的にアプローチできます。
併用が機能しない失敗パターンと対策
ABMとインバウンドを「別々の施策」として捉え、それぞれに異なるKPIを設定した結果、マーケと営業の連携が取れず、リードの質と量の両方で中途半端な成果に終わるパターンは典型的な失敗です。
この失敗が起きる原因は以下のとおりです。
- 部門間の分断: マーケはMQL数、営業は受注額と、別々のKPIを追っている
- データの分断: インバウンドとABMで異なるツール・リストを使い、情報が統合されていない
- 定義の不一致: 「良いリード」の定義がマーケと営業で異なる
マーケと営業の分断を防ぐ運用ルール
マーケと営業の連携を機能させるには、以下の運用ルールが効果的です。
週次レビュー会議
- 参加者: マーケ、インサイドセールス、営業の担当者
- 内容: 過去1週間のリード獲得状況、商談化状況、課題の共有
- ポイント: 数値だけでなく、リードの質に関する営業からのフィードバックを収集
共通ダッシュボードの活用
- MA/SFAで全員がアクセスできるダッシュボードを作成
- ターゲットアカウントからのリード数、商談化率、受注率を可視化
- 部門ごとのサイロ化を防ぎ、全員が同じ数字を見て議論できる状態を作る
月次での振り返りと改善
- TALの妥当性を検証(狙ったアカウントから成果が出ているか)
- KPI達成状況の確認と、未達の場合の原因分析
- 必要に応じてTALやスコアリング基準を見直す
まとめ|ABM×インバウンド併用で成果を出すために
本記事では、ABMとインバウンドマーケティングの併用について、基本的な考え方から実装方法、失敗パターンと対策まで解説しました。
ポイントの整理
- ABMとインバウンドは二項対立ではなく、インバウンドで母数を獲得しABMで絞り込む「ハイブリッド戦略」が主流
- 併用を成功させるには、マーケ・営業・インサイドセールスで共通のTALとKPIを持つことが重要
- MA/SFAでターゲットアカウントの行動を可視化し、インバウンドデータからABM対象を抽出する仕組みを構築する
- ABMとインバウンドを「別々の施策」として捉え、異なるKPIを設定すると成果が出ない
本記事で紹介したチェックリストと比較表を活用し、自社のABM×インバウンド併用戦略を点検してみてください。
ABMとインバウンドマーケティングの併用は、戦略を立てるだけでは機能せず、MA/SFAでターゲットアカウントの行動を可視化し、営業との共通KPIで運用する仕組みを構築することで成果につながります。「戦略レポート」ではなく「動く仕組み」として併用運用を実装することが、成功への鍵となります。
