ABM事例を見て導入したが成果が出ない企業が多い理由
多くの人が見落としがちですが、ABM導入は、事例を参考にするだけでなく、MA/SFA連携の設計と部門横断のプロセス整備を専門家と共に構築することで、自社に合った形で成果につながります。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、自社にとって重要なターゲット企業を事前に特定し、営業とマーケティングが連携しながら個社単位でアプローチしていく戦略です。近年、BtoB企業の間でABM導入への関心が高まっており、GlobalInfoResearchの報告によると、ABM市場規模は2025年10億3000万米ドルから2030年18億3000万米ドルへCAGR12.1%で成長すると予測されています(グローバル市場予測であり、日本市場特化データではない点に注意)。
しかし、ABM事例を見て「自社でもやってみよう」と始めたものの、期待した成果が出ていない企業も少なくありません。アタラの調査(2024年8月)によると、マーケティング担当者の29.7%がデータ連携を全くできていないと回答しています。MA/SFAの連携設計やターゲットアカウント選定のロジックを整備しないまま始めてしまうと、結局リードジェネと変わらない活動に終わってしまうのです。
この記事で分かること
- ABMとリードジェネの違いと基本的な仕組み
- 具体的なABM導入事例と成果
- ABM導入でよくある失敗パターンと対策
- 自社がABM導入に適しているかの判断基準
- ABM導入前のチェックリスト
ABMとは|リードジェネとの違いと基本的な仕組み
ABMは、従来のリードベースドマーケティング(LBM)とは根本的にアプローチが異なります。LBM(リードベースドマーケティング) とは、リード単位で広くアプローチする従来型のマーケティング手法を指します。
ABMでは、まず「どの企業にアプローチすべきか」を決めてから施策を設計します。一方、LBMでは広くリードを獲得してから、その中から有望なリードを選別します。この違いは、特にエンタープライズ向け高単価商材を扱うBtoB企業にとって重要な意味を持ちます。
ターゲットアカウントとは、ABMにおいて優先的にアプローチすべき企業として選定された顧客候補のことです。ターゲットアカウントの選定は、ABM成功の鍵を握る重要なステップです。
【比較表】ABM vs リードジェネ 施策比較表
| 項目 | ABM | リードジェネ(LBM) |
|---|---|---|
| アプローチ単位 | 企業(アカウント)単位 | リード(個人)単位 |
| 対象の選定 | 事前にターゲット企業を特定 | 広くリードを獲得してから選別 |
| 営業・マーケ連携 | 連携が前提(必須) | 連携は任意 |
| 施策の個別化 | 企業ごとにカスタマイズ | 汎用的なコンテンツ |
| 向いている商材 | 高単価・長期検討商材 | 幅広い価格帯 |
| KPI例 | ターゲット企業からの商談数 | 総リード数・MQL数 |
| リソース配分 | 少数企業に集中投下 | 広く薄く分散 |
| 成果測定 | 企業単位でのLTV・成約率 | リード単位のCV率 |
ABMが注目される背景
ABM市場の成長は、BtoB企業のマーケティング課題を反映しています。GlobalInfoResearchの報告によると、ABM市場規模は2025年10億3000万米ドルから2030年18億3000万米ドルへCAGR12.1%で成長すると予測されています(グローバル市場予測であり、日本市場では異なる可能性がある点に注意)。
日本のBtoB商習慣では、顧客との長期的な関係構築が重視されます。ABMは、このような商習慣と親和性が高く、正しく運用すれば効果が出ることが証明されつつあります。特に、売上の大部分を大手企業が占めるBtoB企業にとって、ABMは有効な戦略となりえます。
ABM導入事例|成果を出した企業の取り組み
ABM導入で成果を出している企業の事例を紹介します。ただし、これらは成功事例であり、成果は企業規模・商材・運用体制により大きく変動する点にご注意ください。自社への適用を検討する際は、PoC(概念実証)から始めることを推奨します。
NECソリューションイノベータは、2023年度からABMを本格導入し、ターゲット企業のリード獲得効率が2.6倍に向上したと報告しています。この事例では、MA/SFAとの連携を前提とした設計が成功要因の一つとされています。
株式会社LIGは、ABMテンプレートを活用することでアポ率10%の安定化を実現し、リスト作成時間を半減させました。ターゲットアカウントの選定基準を明確にし、テンプレート化することで、効率的な運用体制を構築しています。
また、SaaS企業A社(匿名)はABM導入により成約単価が1.6倍に向上したという事例も報告されています。高単価商材を扱うBtoB企業において、ABMが有効に機能した例といえます。
営業効率化を実現した事例
ABMは、営業工数の削減にも効果を発揮します。以下の事例では、ABM関連ツールの導入により大幅な工数削減を実現しています。
株式会社ニトリは、ABM関連ツールの導入で年間約1,300時間の工数削減を実現しました。ターゲット企業の情報収集や管理作業の効率化が主な削減要因です。
日立ソリューションズでは、同様のツール導入により、営業先企業の情報収集作業で年間約375時間、企業登録手続きで年間約1,000時間の削減を達成しています。合計で年間約1,375時間の工数削減となります。
これらの事例は、ABM導入が単なるマーケティング施策にとどまらず、営業部門の業務効率化にも貢献することを示しています。
ABM導入でよくある失敗パターンと対策
ABM導入で失敗する典型的なパターンは、「ABM事例を見て手探りで始めるが、MA/SFAの連携設計やターゲットアカウント選定のロジックを整備せず、結局リードジェネと変わらない活動に終わる」というものです。この考え方は誤りであり、ABMで成果を出すには、事例を参考にするだけでなく、自社の体制整備が不可欠です。
よくある誤解として、「マーケ部門だけでABMを始めれば成果が出る」と考えてしまうケースがあります。しかし、ABMは全社体制での導入が基本であり、部門を超えて多くの工数が必要です。マーケ部門だけで始めても、効果が出にくいのが実態です。
データ連携不備による失敗
ABM導入で最も多い失敗原因の一つが、MA/SFAとのデータ連携不備です。アタラの調査(2024年8月)によると、マーケティング担当者の29.7%がデータ連携を全くできていないと回答しています。
データが散在している企業は、ABM導入前にまずデータ整備が必要です。顧客情報がCRM、名刺管理ツール、Excelなどに分散している状態では、ターゲットアカウントの行動を正確に把握できず、ABMの効果測定も困難になります。
具体的な対策として、以下のステップを踏むことを推奨します。
- 現状のデータ管理状況を棚卸しする
- MA/SFA/CRMのデータ連携設計を行う
- 連携テストを実施し、データの整合性を確認する
- 運用ルールを定め、データ品質を維持する体制を構築する
部門横断の体制不備による失敗
ABMは営業とマーケティングの連携が前提です。営業・マーケがそれぞれ独立して動いている状態では、ABMの効果は限定的になります。
ターゲットアカウントの選定、アプローチ方法の決定、効果測定といった各プロセスで、営業とマーケの意思疎通が必要です。営業・マーケ週次共有でターゲットアカウントの状況を可視化することが重要です。
具体的には、以下の体制整備を検討してください。
- 営業・マーケの定例ミーティング(週次推奨)の設定
- ターゲットアカウントリストの共同管理
- 成果指標(KPI)の共有と合意
- 施策の振り返りと改善サイクルの運用
ABM導入の実践ステップと自社準備度の確認
ABM導入を成功させるには、事前の準備が重要です。以下のチェックリストを活用して、自社がABM導入に適した状態にあるかを確認してください。
ホワイトスペースとは、既存顧客や接点のある企業以外で、まだアプローチできていない潜在顧客領域を指します。ABMでは、このホワイトスペースの中から優先度の高いターゲットアカウントを選定します。
ターゲット20-30社規模で専用のセミナー・提案を展開できる体制が成功要因とされています。少数の企業に集中してリソースを投下できる体制がない場合、ABMよりもリードジェネ型のアプローチが適している可能性があります。
【チェックリスト】ABM導入前 自社準備度チェックリスト
- MA/SFAを導入済みで、基本的な運用ができている
- 顧客データがCRM/SFAに一元管理されている
- MA/SFAとのデータ連携が構築されている(または構築予定がある)
- 営業とマーケティングの定例ミーティングがある
- ターゲットアカウント選定の基準が明確になっている
- 高単価商材(または長期検討商材)を扱っている
- 売上の大部分が特定の大手企業から生まれている
- ターゲット20-30社に対して専用施策を展開できるリソースがある
- ABMの成果指標(KPI)を設定している
- ABM導入の責任者・推進担当者が決まっている
- 営業部門がABM導入に協力的である
- ターゲットアカウントごとの提案資料を作成できる体制がある
- ABM施策の効果測定方法が決まっている
- 外部の専門家支援を活用する検討をしている
- ABM導入のスケジュールとマイルストーンが設定されている
チェック項目のうち、10項目以上が該当する場合は、ABM導入の準備が整いつつあると考えられます。5項目未満の場合は、まずMA/SFA連携やデータ整備から着手することを推奨します。
ABMが向いている企業の条件
ABMは、すべてのBtoB企業に適しているわけではありません。エンタープライズ向け高単価商材を扱うBtoB企業、特に売上の80%を大手企業が占める場合にABMが適しています。
具体的には、以下のような条件を満たす企業にABMが向いています。
- 商材の単価が高く、購買検討期間が長い
- 顧客ターゲットが明確で、絞り込みが可能
- 営業とマーケの連携体制が構築されている(または構築できる)
- MA/SFAの基盤が整っている
上記の条件を満たさない場合でも、ABM導入を検討することは可能ですが、専門家の支援を受けながら段階的に進めることを推奨します。
まとめ|ABM事例を自社に活かすために
本記事では、ABM導入事例から学べるポイントと、導入時の注意点を解説しました。
重要なポイントのおさらい
- ABMはターゲット企業を事前に特定し、個社単位でアプローチする戦略
- NECソリューションイノベータでリード獲得効率2.6倍、LIGでアポ率10%安定化などの事例がある
- 約3割の企業がデータ連携できておらず、導入前の整備が重要
- ABMは営業・マーケ連携が前提であり、部門横断の体制構築が必要
ABM市場は今後も成長が見込まれています。GlobalInfoResearchの報告によると、ABM市場規模は2025年10億3000万米ドルから2030年18億3000万米ドルへCAGR12.1%で成長すると予測されています(グローバル市場予測)。日本国内でも中堅企業やSaaSベンダーを中心にABM導入が広がっています。
ABM導入を検討されている場合は、まず本記事のチェックリストで自社の準備状況を確認してください。準備が不十分な項目があれば、先に整備してから本格導入に進むことを推奨します。必要に応じて、MA/SFA連携やABM設計に精通した専門家の支援を受けることも有効な選択肢です。
繰り返しになりますが、ABM導入は、事例を参考にするだけでなく、MA/SFA連携の設計と部門横断のプロセス整備を専門家と共に構築することで、自社に合った形で成果につながります。
