目標管理手法、OKRとMBOのどちらを導入すればいい?
人事担当者や事業責任者の多くが、「OKRとMBOの違いが分からない」「自社にはどちらが適しているのか判断できない」「併用は可能なのか」といった疑問を抱えています。OKR(Objectives and Key Results)とMBO(Management by Objectives)は、どちらも目標管理手法ですが、評価サイクル、達成基準、人事評価との連動など、多くの点で異なります。
この記事では、OKRとMBOの基本概念から両者の違い、メリット・デメリット、自社に適した選び方まで実践的に解説します。
この記事のポイント:
- OKRは四半期ごとに見直す目標管理手法で、達成率60〜70%を目標とします
- MBOは半年〜1年の評価サイクルで、達成率100%以上を目指します
- OKRは人事評価と切り離して運用し、MBOは人事評価に連動させます
- OKRはチャレンジ志向の組織に、MBOは安定成長を目指す組織に適しています
- OKRとMBOの併用も可能ですが、運用難易度が高くなります
1. OKRとは:目標(Objectives)と成果指標(Key Results)の基本
OKRは、目標と成果指標を組み合わせた目標管理手法です。
(1) OKRの定義と歴史(Intel・Google)
OKR(Objectives and Key Results)は、1つの目標(Objectives)に対して2〜5個の成果指標(Key Results)を設定する目標管理手法です。
OKRの歴史:
- 1970年代: Intel社のAndy Grove(アンディ・グローブ)が開発
- 1999年: John Doerr(ジョン・ドーア)がGoogleに紹介
- 2000年代以降: GoogleやFacebook(現Meta)など、シリコンバレー企業で広く採用される
Googleが採用したことで、OKRは世界的に注目され、スタートアップから大企業まで幅広く導入されるようになりました(出典: リクルートMS OKR解説)。
(2) OKRの構造(1目標につき2〜5個のKey Results)
OKRは以下の2つの要素で構成されます。
Objectives(目標):
- 定性的で、挑戦的な目標
- チームが共感し、モチベーションを高める表現
- 例: 「国内No.1のカスタマーサクセスチームになる」
Key Results(成果指標):
- 目標達成度を測定する定量的な指標
- 1つの目標に対して2〜5個設定
- 例: 「NPS(顧客推奨度)を60以上にする」「解約率を3%以下に抑える」
OKR設定例:
Objective: 国内No.1のカスタマーサクセスチームになる
├── KR1: NPS(顧客推奨度)を60以上にする
├── KR2: 解約率を3%以下に抑える
└── KR3: 平均対応時間を24時間以内にする
(出典: Asana OKR解説)
(3) OKRの運用サイクル(四半期ごとの見直し)
OKRは短期的なサイクルで評価・見直しを行います。
運用サイクル:
- 設定: 四半期(3ヶ月)ごとにOKRを設定
- 進捗確認: 週次または月次で進捗を確認
- 評価・見直し: 四半期末に達成度を評価し、次の四半期のOKRを設定
達成率の目安:
- 60〜70%達成: 適切なチャレンジングな目標
- 100%達成: 目標が低すぎる可能性
- 50%未満: 目標が高すぎる、または施策が不十分
OKRは「100%達成」ではなく「60〜70%達成」を目指すことで、チャレンジングな目標設定を促します(出典: SmartHR OKR・MBO比較)。
2. MBOとは:目標管理制度の原則と特徴
MBOは、個人目標と企業目標を連携させる目標管理制度です。
(1) MBOの定義とドラッカーの原則
MBO(Management by Objectives)は、経営学者のPeter Drucker(ピーター・ドラッカー)が1950年代に提唱した目標管理制度です。正式には「Management by Objectives and Self Control」と呼ばれ、**Self Control(自主性)**を重視します。
MBOの基本原則:
- 企業の経営目標と従業員個人の目標を連携させる
- 従業員が自ら目標を設定し、自主的に達成に取り組む
- 上司と部下が協力して目標を設定・評価する
- 目標達成度を人事評価・報酬に反映する
※「Management by Objectives」は「目標による管理」と訳されることが多いですが、ドラッカーの原則では「Self Control(自主性)」が重要な要素です(出典: グロービス MBO解説)。
(2) MBOの運用サイクル(半年〜1年)
MBOは中長期的な評価サイクルで運用されます。
運用サイクル:
- 設定: 半年または1年ごとに目標を設定
- 中間レビュー: 期中(3ヶ月または半年)に進捗を確認
- 評価: 期末に達成度を評価し、人事評価・報酬に反映
達成率の目安:
- 100%以上達成: 目標達成として評価
- 80〜99%達成: 概ね達成(評価は企業により異なる)
- 80%未満: 未達成
MBOは「100%達成」を目指すため、達成可能な現実的な目標を設定します。
(3) 日本企業におけるMBOの普及
日本では、1990年代のバブル崩壊後、成果主義の流れでMBOが多くの企業に導入されました。
日本でのMBO普及の背景:
- 年功序列型の人事制度から成果主義への移行
- 目標達成度を定量的に評価し、公平な人事評価を実現
- 個人の目標と企業目標を連携させ、組織全体の生産性向上を目指す
現在でも多くの日本企業がMBOを基本とした人事評価制度を採用しています(出典: リクルートMS MBO解説)。
3. OKRとMBOの6つの違い:評価サイクル・達成基準・人事評価連動
OKRとMBOには、以下の6つの主要な違いがあります。
(1) 評価サイクルの違い(四半期 vs 半年〜1年)
OKR:
- 評価サイクル: 四半期(1〜3ヶ月)
- 見直し頻度: 高い(環境変化に素早く対応)
MBO:
- 評価サイクル: 半年〜1年
- 見直し頻度: 低い(中長期的な目標を重視)
OKRは短期的なサイクルで目標を見直すため、市場環境の変化に素早く対応できます。一方、MBOは中長期的な目標を重視します。
(2) 達成基準の違い(60〜70% vs 100%達成)
OKR:
- 達成基準: 60〜70%達成を目標
- 特徴: チャレンジングな目標設定を促す
MBO:
- 達成基準: 100%以上達成を目標
- 特徴: 達成可能な現実的な目標を設定
OKRは意図的に高い目標を設定し、「失敗を恐れず挑戦する文化」を促します。MBOは100%達成を目指すため、確実に達成できる目標を設定する傾向があります(出典: カオナビ OKR・MBO比較)。
(3) 人事評価との連動(切り離し vs 連動)
OKR:
- 人事評価との連動: 切り離す
- 理由: 人事評価と連動させると、保守的な目標設定になり、挑戦を阻害するため
MBO:
- 人事評価との連動: 連動する
- 理由: 目標達成度を評価・報酬に反映し、モチベーションを高めるため
OKRは「評価と切り離すことで、失敗を恐れずに挑戦できる環境を作る」ことを重視します。MBOは「目標達成度を評価に反映することで、確実な成果を促す」ことを重視します。
(4) 目標共有範囲の違い(全社公開 vs 上司・個人間)
OKR:
- 目標共有範囲: 全社で公開・共有
- 理由: 組織全体の連携を促し、透明性を高めるため
MBO:
- 目標共有範囲: 上司と個人の間で共有
- 理由: 個人目標は人事評価に直結するため、機密性を保つため
OKRでは、CEOから現場メンバーまで全員のOKRが公開され、「誰が何に取り組んでいるか」が可視化されます。これにより、部門間の連携が促進されます。
4. OKRとMBOのメリット・デメリット比較
OKRとMBOには、それぞれメリット・デメリットがあります。
(1) OKRのメリット・デメリット(挑戦促進 vs 運用難易度)
OKRのメリット:
- 挑戦的な目標設定を促す: 60〜70%達成を目指すため、従業員が高い目標に挑戦できる
- 組織の連携を強化: 全社でOKRを共有し、部門を超えた協力が促進される
- 環境変化に素早く対応: 四半期ごとに見直すため、市場変化に柔軟に対応できる
- 透明性が高い: 全員のOKRが公開されるため、誰が何に取り組んでいるかが明確
OKRのデメリット:
- 運用難易度が高い: 四半期ごとの設定・評価が必要で、運用工数が大きい
- 組織の成熟度が必要: 挑戦的な目標設定には、失敗を許容する文化が必要
- 人事評価と切り離すため: 従業員が「OKRと評価の関係が不明確」と感じる可能性
- 短期的な成果重視: 四半期単位のため、中長期的な取り組みが後回しになるリスク
(2) MBOのメリット・デメリット(評価連動 vs 保守的目標)
MBOのメリット:
- 評価・報酬と直結: 目標達成度が評価に反映され、従業員のモチベーションが明確
- 公平な評価: 定量的な目標達成度で評価するため、公平性が高い
- 運用がシンプル: 半年〜1年の評価サイクルで、運用工数が小さい
- 中長期的な目標: 1年単位の目標で、じっくり取り組める
MBOのデメリット:
- 保守的な目標設定: 100%達成を目指すため、確実に達成できる目標を設定しがち
- イノベーションを阻害: 挑戦的な取り組みが評価されにくく、新しいことに挑戦しにくい
- 部門間の連携が弱い: 上司と個人の間で目標を共有するため、部門を超えた協力が生まれにくい
- 環境変化への対応が遅い: 半年〜1年の評価サイクルのため、市場変化に素早く対応できない
(出典: ジンジャー MBO・OKR比較)
5. 自社に適した目標管理手法の選び方
自社の組織風土や成長ステージに応じて、OKRとMBOを選びます。
(1) OKRが向いている組織(チャレンジ志向・スタートアップ)
以下のような組織には、OKRが適しています。
OKRが向いている組織:
- チャレンジ志向の組織: 失敗を許容し、挑戦的な目標に取り組む文化がある
- スタートアップ・成長企業: 環境変化が速く、短期的なサイクルで目標を見直す必要がある
- 組織連携が重要: 部門を超えた協力が必要なプロジェクトが多い
- 透明性を重視: 全員のOKRを公開し、組織全体の方向性を共有したい
導入事例:
- メルカリ: 2015年にOKRを導入、日本のOKR先駆者
- freee: OKR推進チームを社内に設立し、全社展開
- 日立: 一部部門でOKRを試験導入
(出典: Resily OKR導入事例)
(2) MBOが向いている組織(安定成長・成熟企業)
以下のような組織には、MBOが適しています。
MBOが向いている組織:
- 安定成長を目指す組織: 急激な変化は少なく、中長期的な目標を重視する
- 成熟企業: 事業が安定しており、確実な目標達成が求められる
- 評価制度との連携が重要: 目標達成度を人事評価・報酬に明確に反映したい
- 運用工数を抑えたい: 四半期ごとの見直しは運用負荷が高いため、半年〜1年単位で管理したい
MBOが適した業種:
- 製造業、金融業、インフラ業など、安定性が重視される業種
(3) OKRとMBOの併用は可能か
OKRとMBOは併用可能ですが、運用難易度が高くなります。
併用のパターン:
- OKR: 挑戦的な組織目標・部門目標に使用(人事評価と切り離す)
- MBO: 個人目標・評価に使用(人事評価に連動)
併用のメリット:
- OKRで組織連携と挑戦を促しつつ、MBOで個人評価を明確にできる
併用のデメリット:
- 運用が複雑になり、従業員が「どちらを優先すべきか」混乱する可能性
- 運用工数が増加し、人事担当者の負担が大きい
推奨される導入順序: 目標管理の経験が少ない組織は、まずMBOから始めるのが無難です。組織が成熟し、挑戦的な文化が醸成されたら、OKRへの移行や併用を検討します。
6. まとめ:目標管理手法を導入する際のポイント
OKRとMBOは、評価サイクル、達成基準、人事評価との連動など、多くの点で異なる目標管理手法です。OKRは四半期ごとに見直し、60〜70%達成を目指す挑戦的な手法です。一方、MBOは半年〜1年の評価サイクルで、100%達成を目指す堅実な手法です。
次のアクション:
- 自社の組織風土・成長ステージを把握する(チャレンジ志向 vs 安定志向)
- 目標管理の経験が少ない場合は、MBOから始める
- 組織が成熟し、挑戦的な文化が醸成されたら、OKRへの移行を検討
- OKRとMBOを併用する場合は、明確な使い分けルールを設定する
- 専用ツール(Resily、Asana等)または無料のExcel・スプレッドシートで運用を開始
- 四半期または半年ごとに、目標管理手法の効果を評価し、継続的に改善する
目標管理手法は一度導入して終わりではなく、組織の成長に合わせて柔軟に見直すことが重要です。自社に最適な手法を選び、組織全体の生産性向上を実現しましょう。
